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スーパーマリオの左右論(3) 物語としてのロジック
 

スーパーマリオの左右論(3) 物語としてのロジック


 なぜ『スーパーマリオ』は左から右へ進むのか。第3回目は「物語としてのロジック」について考察してみたい。

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●舞台の下手上手説 

 これはスーパーマリオの世界を舞台に見立てた説である。演劇などが行われる舞台は客席から見て左(←)が下手(しもて)、右(→)が上手(かみて)であり、それぞれ「下」、「上」という漢字があてられていることからもわかる通り、そこには上下の概念が存在する。

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 たとえば式典行事の場合、司会者や主催者側の人間は下手側(←)に位置し、ゲストや来賓などのお偉いさんは上手側(→)に座っていることが多い。吉本新喜劇の場合、下手側(←)に必ず玄関があり、上手側(→)が建物の奥、つまり上座となる。したがって主人公は必ず上手側(→)から登場し、旅立つときは下手側(←)へ向かうので、物語の進行方向はマリオと逆の←となる。

 この点について、「クッパはマリオよりも強力な敵なので→に位置する」とか「マリオはピーチ姫より身分が低いので←に位置する」とか、想像力豊かな解釈がされているが、「何とでも言える」がこの説の長所でもあり短所でもあるのだろう。

 


●漫画・アニメの進行方向についての考察 

 なぜ舞台の進行方向は←なのか。その理由について、ガンダムの監督・富野由悠季氏はその著書『映像の原則』の中で「人間の心臓が左に位置するため」という独自の理論を展開しているが、正直、意味不明である。
 
映像の原則 改訂版 (キネマ旬報ムック)

 おそらく漫画でイメージした方がわかりやすい。日本の漫画はセリフが縦書きになっているため、コマ割りもその法則に従っており、進行方向が←となる。したがって漫画と関係の深いアニメの世界も進行方向は←となる。

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 のび太は家を出てると必ず←へ向かう。カツオも家を出てると必ず←へ向かう。帰り道の描写は必ず→の方向である。物語自体の進行方向と整合性を取るためだ。これが物語のロジックというやつである。

 もし、ただの偶然だと思うならば、今すぐGoogleで「宇宙戦艦ヤマト」を画像検索してみてほしい。

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 ご覧のように、設定資料のような画像以外、見事にすべての戦艦が←向きである。同作品は、地球を救うため宇宙の彼方の星「イスカンダル」へ向かうという物語だ。漫画のロジックに従えば、進行方向は←であるため、目的地も←に設定されている。したがって宇宙戦艦も常に←向きなのである。

 


●顔や動物を描くと←向きになってしまう謎 

 少々夢のない話をしよう。漫画・アニメの進行方向が←である理由が、もうひとつあるとすれば、それは“制作側の事情”ってやつだ。

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 たとえば漫画家の間で半ば常識化している経験則がある。それは「右顔のほうが歪みやすい」という教訓だ。その理由は左顔のほうが右手で、鼻やあごのラインが描きやすいためだと考えられている。ここでもまた、第1章で述べた「体は内向きの動きが得意の法則」が成り立つ。(この法則、意外とキーポイントかもしれない)

 どうしてもイメージしにくいなら人気番組「アメトーク」に登場する絵心ない芸人が描いた動物の絵を思い出せしてもらいたい。

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 ※引用:アメトーーク! 絵心ない芸人Tシャツ 【ブルー・S】

 彼らの描く動物は見事に全員←を向いているのだ。プロの漫画家だろうがズブの素人だろうが事情は変わらないのである。おそらくこの動物たちは←の方向へ進むであろう。したがって物語の進行方向も自ずと←となるのである。

 以上をふまえて、ファミコン版『スーパーマリオブラザーズ』のパッケージイラストに目を向けると、マリオは実際のゲームの進行方向とは逆の←向きである。これも、おそらく←向きのほうが描きやすいのが原因であろう。ただし、ピーチ姫が捕えられているクッパ城は→に位置するため、ゲームの進行方向とは整合性がとれているように思える。

スーパーマリオブラザーズ

 このパッケージイラストについては、社長が訊く小田部羊一さんと『うごくメモ帳』編において、作者の宮本氏が以下のように語っていた。

宮本:
『スーパーマリオブラザーズ』を出すときにプロのマンガ家や著名イラストレーターにお願いするようなことも考えたんですけど時間切れになってしまったので、自分でパッケージイラストの原画を描くことにしたんです。


 なるほど。時間がなかったのか……





●西洋映画における進行方向についての考察 

 ただし話はここで終わらない。近年の日本映画(アニメを含む)や西洋映画の物語の進行は→が主流になっており、冨野氏の主張とは真逆になっていると指摘する声もあるのだ。

 そもそも映画の始まり無声映画である。音声が無いため、画面にはしばしば英語の字幕が表示されたという。英語は→方向へ読むため、観客の視線の動きも→となる。したがって物語の進行方向もそれにあわせて→となったのだ。

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 映画のスクリーンには「常に→向きの風が吹いている」とイメージしてみよう。たとえば登場人物が→向きのときは追い風であり、ポジティブな行動や心理を表している。逆に、登場人物が←向きのときは向かい風であり、ネガティブな行動や心理を表している。進行方向が→ということは当然、映画にとっての目的地(フィナーレ)も→側に設定される。したがって主人公の行く手を阻む敵(障害物)は←向きで現れる。

 マリオの場合、アイテムを取り逃して←方向へ戻ってるときのネガティブ感ときたら尋常じゃないものがあるだろう。

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 実際に、有名どころの映画をいくつかピックアップしてみよう。あの『タイタニック』(1997年)の有名なシーンは→向きだ。『バック・トゥ・ザ・フューチャー2』(1985年)のタイトルロゴ「BACK←」は過去を表し、「FUTURE→」は未来を表している。『E.T.』(1982年)の有名な月のシーンも→に向かって飛んでる。

 このような概念は前章でも紹介した「脳は→向きを好む説」にも通じるものがあるのかもしれない。

 ただし、すべての西洋映画がこの物語のロジックに従っているわけではなさそうだ。ひとつだけ確実なことが言えるとしたら、←にせよ→にせよ、世界中のあらゆる物語は「方向性を意識してつくられている」ということだ。したがって『スーパーマリオ』の方向性にも必ず意図があるはずである。
 いや、明確な意図はなくとも「源流」のようなものは、きっとあるはずだ。




●神武東征説と後半に氷ステージが多い理由 

 日本人がつくった『スーパーマリオブラザーズ』の物語の方向性を、日本人の心の源流に求める行為は不毛だろうか。私は日本神話「神武東征」を重ね合わせてみようと思うのだ。

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 ご存じのとおり「神武東征」は、神武天皇が古代日本を征圧していく際に、東を目指したというお話である。ステージをクリアしたときクッパの城に自らの旗を立てている行為からもわかる通り、スーパーマリオも征服の物語である。しかも進行方向が一致しているのだ。もちろん、それはあくまでも北を上にした地図上の話ではあるが『スーパーマリオブラザーズ』自体が後世の作品であるため、神武東征の方向性を→とイメージしても、なんら不思議ではない。

 時代は下るが平安時代に坂上田村麻呂が東北地方を討伐した話は歴史の授業でも教わった。このように日本人は基本的に、南から北を目指したという歴史がある(南方系)。日本人の心を歌う「演歌(※)」に「北」というワードが多いのもそのためだ。

 ※演歌は比較的新しい音楽ジャンルだが、北志向なのには変わりない。

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 『マリオ3』をはじめ、後半に「氷のステージ」が登場するゲームは多い。その理由もこの日本人のDNAに刻まれた「北志向」に求めることができる。日本人にとって「北国=最終局面の象徴」な

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