639479

エリカ
6-4

1: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/08/19(金) 12:45:56.00 ID:nW4YtPdDO

負けた。

今年も、彼女に。

私が憧れていた西住まほ隊長は既に黒森峰を卒業し、私が隊長を引き継いだ。

そして全国大会、私達黒森峰は決勝まで勝ち進んだ。

決勝の相手は大洗、隊長は西住まほの妹、西住みほ。

黒森峰は去年も彼女が率いる大洗に敗北し、今度こそ勝つといどんだが、敵わなかった。

私は、彼女を見つめる。悔しさをこめながら。だが、その時だった。

彼女が、今にも飛び立たんとする黒い鳥に見えたのだった。

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2: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/08/19(金) 12:55:04.34 ID:nW4YtPdDO
「!?」

私はハッとなって目を擦り、もう一度彼女を見る。そこには知っている彼女の姿があった。

私は、疲れていたが故に見た幻覚だと思った。

そう、その時までは。

6: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/08/19(金) 18:55:03.79 ID:Lkpt1TiW0
その数日後、黒森峰で紅白戦があった。

この紅白戦は3年生の送別を込めた試合でもある。

試合は意外にも2年生が有利に進めていた。だが、簡単に負ける訳にはいかない。私達は彼女らの壁とならなければならないのだ。

途中から3年が力を見せつけ、状況は互角となる。

最終局面で相手の隊長と一騎討ちとなる。激しい撃ち合いの末、勝ったのは相手だった。私は、はぁ、と一息つく。しかしそのあとだった。

激しい撃ち合いの結果、相手の戦車から燃料が漏れているのを見つける。しかも、戦車の位置は私の戦車の後部にくっついた状態で、私の戦車からは小さな火が見える。そしてその火は燃料に引火する。

7: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/08/19(金) 19:21:47.74 ID:2Qv6GHMS0
燃料は燃えにくいもののはず、しかし火は燃える。おそらく他の油と混ざってしまったのだろう。火は戦車の中へと走っていく。

叫んだ。だが届かなかった。

バン!と音がした。戦車のエンジンが爆発した。ありえないぐらいに。

今すぐ脱出しろ、と叫んだが、相手のチームはパニックになっていた。一人の服に火がついたらしい。

私は自分の戦車から燃える戦車に移り、相手チームを助けようとする。だが、私の行動を妨げたものがいた。

二度目の爆発。

その爆発は私を戦車から強引に引きずり下ろし、私を頭から地面に叩きつけた。叩きつけられた私は意識を失いかける。

薄れていく私の視界に入ったのは、弾薬に引火してハッチや砲口から火を吹く戦車と、いつの間にかいた黒い鳥だった。

8: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/08/19(金) 20:46:39.49 ID:hC9N5+aU0

ー神様は人間を救いたいと思っていたー


ーだから、手を差し伸べたー


ーだがそのたびに、人間の中から邪魔者が現れたー


ー神様の作る秩序を、壊してしまう者ー


ー神様は困惑したー


ー人間は救われることを望んでいないのかってー


ーでも神様は人間を救ってあげたかったー


ーだからー


ー先に邪魔者を見つけ出して[ピーーー]ことにしたー


ーそいつは「黒い鳥」って呼ばれたらしいわ ー


ー何もかもを黒く焼き尽くすー


ー死を告げる鳥 ー


12: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/08/19(金) 21:15:03.16 ID:nP+v8YNN0
「!!!」

私は跳ねるように起き上がる。 口で荒く呼吸をした後、周りを見る。見たところ、病院の一室のようで、口には人口呼吸器がつけられていた。

一瞬、何故こんなところにいるのかと思ったが、ハッと思い出した。あの時、私は戦車から落ちたのだと。

そのあと、やってきた看護師に大丈夫ですかと声をかけられたり、医師に自分の状態を言われた。あと一週間近く入院らしい。

私は、眠っていた時のあの言葉を覚えていなかった。

13: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/08/20(土) 09:00:49.50 ID:P4wGnJZA0
次の日の朝、私が目覚めたのを聞いた訪問者が現れる。

赤星小梅。黒森峰の元副隊長だった。

小梅は、私が無事だったことに安堵の表情を浮かべる。だが私のことはどうでもいい。私はあの時の事故について聞く、小梅は、やはり聞いてきたか、とでも言いそうな顔をした。そして彼女は語り始めた。

あの事故は、不幸が重なりあって起こったものだと。

カーボンに亀裂が走っていたこと。

不燃製の燃料が他の油と混ざってしまい、化学反応で燃えるようになってしまったこと。

エンジンに無理をさせすぎて、限界が来ていたこと。

そして小梅は最後にこう言った。

戦車に乗っていたチームは、全員死亡したと。

14: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/08/21(日) 07:04:10.96 ID:yMLGDKa2O
全員死亡した。

そう聞いた私は、絶望した。

小梅は、あなたは悪くないと言ったが、目の前で彼女を助けることができなかった。そしてその結果、彼女達は死んでしまった。その事実が私の罪悪感を呼び起こし、私の眼から涙を流させた。

小梅は私を慰めてくれたが、それでも涙は止まらなかった。



ー夜ー

私は天井を見つめていた。

涙も止まり、小梅も去った。今の私には隊長として、彼女達を助けられなかったという事実しかなかった。

あの子は、西住みほは助けることができたのに。

その時の私は、それだけを思うことしかできなかった。


15: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/08/21(日) 07:47:41.23 ID:yMLGDKa2O
次の日、病室を移すことになった。

新しい病室のベッドで横になっていると、隣のベッドから音楽が聞こえてくる。

何故だろう、気になる。

私はカーテンを開け、隣のベッドを見る。

そこには、ベッドから上半身を起こしている、左腕にギブスを巻いている女の子と、小太りの少し老いた男性がいた。私は少女と目が合った。

16: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/08/21(日) 12:22:17.47 ID:yMLGDKa2O
少女「…何」

ほんの少しの沈黙の後、少女は聞く。

私も、自分からカーテンを開けたというのに戸惑い、言葉がでない。ほんの少しのあと、ようやく言葉が出る。

エリカ「あ、いや…ちょっと音が気になったから…」

そう言うと、男が気づく。

男「あっ、すいません。マギー、このお姉さんがうるさいってさ。」

少女「あっ、ご、ごめんなさい。」

マギーと呼ばれた少女は音楽を止める。だか、私は気になっただけでうるさいとは思っていない。

エリカ「ああ、いや、曲が気になっただけだからそこまでしなくてもいいから。その、ごめんね。」

そう言うと、彼女は少し食いついたように聞く。

マギー「気になったの?」

エリカ「そう、どんな曲かなぁって。」

ともかく、私は不機嫌な感じに思われないように話した。それがわかったのか、彼女も穏やかな表情を浮かべる。

マギー「これはね、Day After Dayって言うんだよ。」











19: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/08/22(月) 00:38:08.30 ID:41CPmP670
私はその曲を知らなかった。まあ、もともと私は音楽に疎いから当たり前だろう。

彼女は、その曲を最初から再生させる。二つのベッドがある病室に音楽がながれる。

全て英語の歌詞であったが、何か心に響いた。

エリカ「いい曲ね。」

私がそう答えたら、マギーは、でしょ?と言った。その後、私は自分の名前を言っていなかったことを思い出した。

エリカ「私は逸見エリカって言うの。あなたは?」

マギー「マグノリアって言うの、みんなからマギーって言われてるの。この人は私のおじいちゃん。」

男「どうも、孫が心配で来たんですよ。」

男は、孫思いの優しい人であった。


20: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/08/22(月) 06:04:59.52 ID:afqR1/uv0
それから私とマギーは話しをした。

彼女は事故にあって、左腕を骨折したものの、明日には退院するらしい。

それから、家族のこと、 将来のこと、好きなもののこと、いろいろなことを話した。

お互い、楽しい時間を過ごした。

だが、その中で私は、戦車道についての話をすることはなかった。

21: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/08/22(月) 21:38:05.67 ID:mwuLqgSv0
次の日、マギーは退院することになった。

マギー「ありがとうエリカお姉ちゃん」

エリカ「ええ、一日中だけだけど、楽しかったわ。」

マギー「うん、お姉ちゃんも早く退院できるといいね。」

エリカ「ええ」

マギー「バイバイ、お姉ちゃん」

エリカ「バイバイ」

そう言って、マギーは手を振りながら両親と病院を去って言った。

私は最後まで戦車道の話をしなかった。なぜなら、

「隊長!助けてください!」

「い…痛い…痛い…」

「死にたくない!」

「熱い!!熱い!!!」

「ああああアァ!!!!」

私の脳裏に、彼女達の最期の生の叫びがこびりついていたからだ。




22: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/08/22(月) 22:23:30.12 ID:CsrGIYd90
私が入院している間、色んな人が訪れた。

皆、心配してくれていた。彼女も、西住みほも来てくれた。

彼女は気弱だけど、優しく、仲間思いだったのは、黒森峰にいても、大洗に行ったときでも変わらなかった。

その優しい彼女に、あの黒い鳥の姿は見当たらなかった。

いろいろな人が来た。いろいろな人が私を励ました。

でも、あの時の記憶の苦しさはどうしても消えなかった。

だから私は、戦車道から去ることにした。あの時にできた左腕の傷を連れて。

28: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/08/24(水) 06:05:12.53 ID:GVsf9np20
それから私は、卒業したあと、大学に行かずに故郷を離れ、東京の企業に就職した。

戦車道をやめたことに関しては、皆残念がってはいたが、私はそう決めたんだ。周りが何と言おうと、変える気はない。今のところは。

会社での仕事ぶりは、優秀だと言われている。私は言われたことをやっただけなのに、過大評価だ。

この会社は、実は社会人の戦車道のチームがあるのだけども、私はそうなんですかと興味がないように振りまく。誘われてもそれらしい理由をつけて断った。

もうあの戦場に戻る気はない。そう思っていた。

32: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/08/24(水) 22:15:28.43 ID:hs7N8CCt0
ある休日のこと、私はたまたま戦車道の試合に遭遇した。まさかこんなところで試合をしているとは。

大きなモニターに映っていたのは、西住みほだった。彼女は大学で仲間と戦車道をやっているらしい。彼女の戦い方はやはりすごいの一言だ。今の私には関係ないが、やはり見てしまう。だがその時だった。

彼女が、黒い鳥に見えた。

私は驚いた。そして、胸が、心臓が、ドクンドクンと強く動いていた。

その後、試合は終わり、みほは勝った。試合が終わり、胸の激しい鼓動は落ち着いて言った。

33: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/08/25(木) 06:25:56.65 ID:X9KnfZKk0
次の試合は、同僚に誘われてからだった。基本、こういう時は断っていたのに、なぜか断らなかった。

この試合もみほが出ている。少し不利の状態のようだ。だが私はなぜかわかっていた。

黒い鳥の彼女は、己の状況を逆転させ、勝っていった。

そして、私の胸も高鳴っていた。

本当に私はどうしたのだろう。私はもう、辞めたというのに。

35: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/08/25(木) 23:16:42.26 ID:MCfB1lf+0
それから何度も、私は彼女の試合を見ることになった。まるで何かが呼んでいるかのように。運命というやつが予定し、実行させているかのように。

彼女はありとあらゆる戦車を屠っていった。まるで、何もかもを焼き尽くすかのように。

何もかもを焼き尽くす黒い鳥。

それを見ている私の胸はいつものように高鳴りをあげていく。
その高鳴りは、いつしか私の奥底の魂が叫んでいるかのようだった。

挑みたい、あの黒い鳥に挑みたい。

私は抑えつける。もう辞めたんだと、無理なんだと、無理矢理に。

36: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/08/25(木) 23:34:48.73 ID:oycjUK+T0
ようやく胸の高鳴りを抑えつけたあと、私は帰路についた。

私は、どうすればいいのかわからない。

あの高鳴りを抑えつけると、苦しくなってくる。その苦しみは前より酷くなっていく。どうにかしなければ。

そう考えていると、花屋の前を通りかかる。その花屋の花の中に、一際目立つ花を見つけた。

青い、木蓮の花。

その木蓮の花は決して青ざめたものではなく、むしろ、青く光り輝く宝石に見えた。

その花に見とれていると、エプロンをかけた男の人が声をかけた。花屋の人だろう。

37: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/08/26(金) 00:11:46.17 ID:WqOJP+I+0
店員「何か、気になった花でもありましたか?」

エリカ「あの、この木蓮の花…」

私は、この花について聞いた。どうしても、気になった。

店員「ああ、その花ですか?実は最近、品種改良で偶然できた花で、綺麗だから出荷することになったそうなんですよ。私もこの花を見た時、即決で入荷することにしましたよ。私の娘も見とれてました。」

エリカ「へぇ…」

花屋の男は、この花について説明した。そして私はこの花を買うことにした。

エリカ「この花、一本ください。」

青い木蓮の花を一本買って、自宅へと帰っていった。

名前は、ブルー・マグノリアだそうだ。

38: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/08/27(土) 14:15:02.11 ID:fv+IT3/3O
自宅に着き、さっき買った青い木蓮の花を適当に花瓶に入れ、テーブルに置く。私は、テーブルの前に座り、今日のことを考える。

みほを見た時のあの胸の高鳴り、だんだんと強くなっていく衝動。挑みたいという、魂の叫びのような何か。

どうすれば、どうすればいいのか。

私は、5人の人間を救えなかったのに。

5人の人間を苦しめ、死なせてしまった罪があるのに。

戦車道をやめたのに。

エリカ「どうすればいいの…」

私には分からなかった。でも、その時だった。

ーエリカお姉ちゃんー

エリカ「…マギー?」

聞こえたのは、入院した時に楽しく話した女の子の声だった。




40: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/08/30(火) 09:17:43.18 ID:Nk68tYcyO
もちろん彼女は目の前にはいない。幻聴だ。だがその声はなぜか、安心して聞ける声だった。そしていつの間にか私はその声に悩みを打ち明けていた。

エリカ「マギー、私、どうしたらいいかわからないの。辛くて、苦しくて…」

マギーは答えを出した。

ー自分の感情に、素直になればいいよー

エリカ「素直…」

ーお姉ちゃんは、無理に抑えつけて苦しんでる。だから、素直になればいいんだよ。ー

エリカ「…駄目よ、私は、あの時あの子たちを死なせたの…きっと、恨んでる。」

ー大丈夫。きっと大丈夫ー

エリカ「大丈夫って…」

ーあなたは、乗り越えられるー

そこで、目が覚めた、いつの間にか眠っていたようだ。

その時目に入っていたのは、漏れた光に照らされ輝く青い木蓮の花。その時耳に入っていたのは、あの時あの子と一緒に聞いた、Day After Dayだった。

青い木蓮の花を見つめながら、マギーの言葉に従うことにした。






42: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/08/30(火) 18:24:45.83 ID:Nk68tYcyO
それから私は、会社の戦車道チームに入った。

その時、皆は驚いていた。いつも断っていた私が入ると言うから、そこは思っていた通りの反応だった。

次の日、初めての練習に参加する。経験者で、なおかつ強豪の出身だということで、腕を見せてもらう、ということになった。

あてがわれた戦車はアメリカのシャーマンで、黒森峰が使うような戦車ではなく、一緒に搭乗するチームメイトは、経験はあるものの、ほぼ弱小と言ってもいい学校の出身であり、ブランクのある私は、これは大した結果は出ないだろうと思っていた。だが、それは違った。

ドォン!!!!

パヒュ!

エリカ「…」

私のチームは、社会人の中でも強い部類に入るチームの全員に勝利した。それは、私でも考えられなかった結果だった。


43: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/08/30(火) 21:33:35.58 ID:1dszrHXl0
練習後、私はチームの皆に歓迎された。

とんでもない新人が現れた。そう言って皆、大喜びしていた。

自分がここまでできたとは、そう思いながらチームの空気を受け入れることにした。



帰る前、私は自分が乗っていた戦車を見つめていた。

また、やることになってしまった。

後ろを振り向く。そこには人の形ではない、人の影が5つ見えた。

あのとき死んだ、彼女達。私はその彼女達に叫ぶ。

エリカ「ごめんなさい!でも、どうしても、どうしてもやりたいの!今以上に恨んでもいい!今以上に呪ってもいい!だから!もう一度、

44: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/08/30(火) 21:36:15.73 ID:1dszrHXl0
もう一度チャンスをちょうだい!お願い!」

5つの影は、消えていった。

私の目には、懇願の涙がたまっていた。

45: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/08/30(火) 21:40:24.07 ID:1dszrHXl0
わたしはたまった涙を袖で拭い、その場を後にした。

もう後には戻れない。戻らない。

あの黒い鳥を墜とす為に。

48: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/09/01(木) 22:25:22.02 ID:7G4tYii/0
ー半年後ー

相手チーム隊員「くそ!相手にヤバいのがいる!援護!」

ドォン!

相手チーム隊員「こっちもやられた!」

ドォン!

相手チーム隊長「ここまでか…」

ドォン!

私が入ってからというもの、私のチームは連戦連勝した。大半は私が敵を倒したからだった。

チームの皆からはエースと呼ばれ、私の戦車はシャーマンからパーシングに変わった。

戦車が変わっても、相手を倒すだけだ。


51: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/09/02(金) 21:21:49.83 ID:B5zUM15t0
ーその半年後ー

相手チーム隊員「来たわ…」

相手チーム隊員2「ええ…あれが…あの戦車が…」

相手チーム隊長「ブルーマグノリア…」

全体を黒く塗り、その黒の中に少し青いラインが入っているパーシング、そのパーシングのエンブレムは青い木蓮の花のもの。

西住流にも島田流にもとらわれない圧倒的な戦い方。

いつしか私には異名がついていた。

ブルーマグノリア。前、花屋で買ったあの木蓮の花と同じ異名である。

そして今日も勝った。圧倒的な力で。


52: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/09/04(日) 17:26:37.64 ID:BkevhKLo0
私は強さを手に入れた。どんな相手でも撃ち砕ける圧倒的な力を。

みほは、あの黒い鳥は今の私の姿を見ているのだろうか?見ていてもいなくても、見せつけてやる。私の存在を、強さを。

いつしか私が所属しているチームは、社会人チームの中で最強の存在となった。

そしてある知らせが届いた。

大学選抜チームとの試合。

ついに、この日が来た。

54: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/09/06(火) 21:40:39.39 ID:+Qllp1qO0
試合の日は数日後、その日までは練習の日々だった。

私は、あの黒い鳥の彼女のことをずっと考えていた。やっと、やっとあの黒い鳥と戦える。西住みほと。

私はいつも以上に力が入っていた。あの黒い鳥に挑み、勝つために。

帰り道、私は偶然知っている人に会った。

まほ「…久しぶりだな、エリカ。」

エリカ「…久しぶりです。隊長、いや、まほさん。」

私、再会を喜ぶわけでも、ましてや見下すわけでもなく、淡々と話した。

まほ「おまえが戦車道をまたやるとは思わなかった。」

エリカ「ええ、倒したい相手ができたんです。あなたの妹の西住みほを。」

まほ「みほを?」

私は、彼女の姉に話す。

55: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/09/08(木) 21:39:19.08 ID:TGRCB8C40
エリカ「そうです。彼女は、西住みほは倒したい相手なんです。どうしても、戦車道に戻ってでも。」

まほ「…みほを恨んでいるのか?」

エリカ「違います。私には彼女が黒い鳥に見えるんです。」

まほ「黒い鳥?」

目の前の彼女は、よくわからない、という表情をしている。

エリカ「わからないかもしれませんが、私にはそう見えるんです。全てを焼き尽くし、私を再び戦場へと誘った黒い鳥に。」

まほ「…」

私は続けて話す。

エリカ「だから…私はみほと貴方達大学選抜に挑みます。あの時の逸見エリカではなく…ブルーマグノリアとして。」

まほ「そうか…」

目の前のまほは、私の変わりようを感じていた。そしてこう言った。

まほ「エリカ…お前は変わってしまったな…」

エリカ「はい…」

そして、私と彼女は去った。今度は、敵同士で会うために。

56: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/09/13(火) 06:18:15.45 ID:xNA0t5w/O
試合二日前。

今日は作戦会議だった。大学選抜のチームメンバーに目を通す。

皆、知っている。あのとき一緒に戦い、相手になった人達だった。だからこそ、対策を立てやすい。

私は次々と意見を出す。その意見には、みほと私を戦わせるという思惑もあった。

会議が終わり、あとは二日後の試合に備えるだけだ。

58: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/09/17(土) 10:04:11.04 ID:VBR34GXFO
前日。

明日だ。明日彼女達と戦うことになる。

あの西住みほに、黒い鳥に。

必ず、あの黒い鳥を堕としてやる。

そう考えている中、一羽の黒い鳥が降り立つ。私はその黒い鳥を睨む。

明日、必ずお前を倒すと呟きながら。



そして、その日は来た。

59: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/09/20(火) 00:18:08.83 ID:blgBMx7sO
私はエースではあったが、隊長でも副隊長でもない。

隊長と副隊長が礼をした後、試合は始まった。

ようやく、彼女と戦うときが来た。

一度戦車道から身を引いた私に、あの胸の高鳴りを与え、また戦車道へと誘った彼女に。

彼女は仲間と共に私達を焼き尽くしに来る。だが、今の私はそう簡単にはいかない。逆に倒してやる。

行くわよ、黒い鳥。

エリカ「前進…!」

私は戦車を走らせる。あの胸の高鳴りと共に。

60: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/09/20(火) 00:36:15.65 ID:blgBMx7sO
試合中盤、ありとあらゆる場所で鳴り続ける砲撃という咆哮と、爆発という断末魔は、一層激しくなっている。

私は今までに4輌撃破した。それがチームの士気を上げたのか、
大学選抜と互角以上の激闘を繰り広げている。

私は今、瓦礫が多い地点にいる。あのときの胸の高鳴りが激しくなっているからだ。

私は確信していた。

彼女が、西住みほがここに来ると。

そして一輌の戦車が現れた。その戦車のキューポラから彼女が現れる。

みほ「…エリカさん。」

エリカ「久しぶりね、みほ。」

彼女が、黒い鳥に見えている。


61: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/09/26(月) 22:52:44.69 ID:BdDILJFP0
みほ「お姉ちゃんから聞いたよ。私を倒したいって…」

そうだ、私はお前を倒す為にいる。

私は、気を失っていた時の言葉をいつの間にか話していた。

エリカ「あるおとぎ話をしてあげる。その世界は、破滅に向かっていた…」

皆、私の話を聞いていた。

エリカ「神様は人間を救いたいと思っていた。だから手を差し伸べた。」

皆は、私に恐ろしいものを感じたのだろうか。

エリカ「だけどその度に、人間の中から邪魔者が現れた。神様が作る秩序を、壊してしまうもの。」

皆は、私に何も言わない。

エリカ「神様は困惑した。人間は救われることを望んでいないのかって…」

私は、話し続ける。

エリカ「だから、先に邪魔者を見つけ出して殺すことにした。」

私は、こんな、訳のわからない話を。

エリカ「そいつは、黒い鳥と呼ばれたらしいわ。何もかもを焼き尽くす。死を告げる鳥。」

私は、躊躇わず。最後まで話した。

62: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/09/26(月) 23:09:50.17 ID:cFAcZzjl0
話が終わった後、みほは言う。

みほ「…あなたは、それになりたかったの?」

エリカ「…違う…私は…」

私は、答えを出す。

エリカ「…もう負けたくないだけ。私以外の他の、誰にも。」

あの高鳴り、私の奥底の魂が、そう叫んでいたのかもしれない。ここに来て、ようやくわかった気がする。そして、

エリカ「始めましょう、倒すわ、貴方を…」

その後、二つの叫びが響く。

みほ「前進!」

エリカ「前進!」

二つの戦車が突き進む。

63: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/10/01(土) 14:29:02.58 ID:svISyWPrO
エリカ「撃て!!!」

私の戦車が砲弾を吐き出す。だが、その砲弾は彼女の戦車には当たらない。

ガキィン!

エリカ「くっ…」

彼女の戦車の砲弾が私の戦車の表面を擦る。だがやられた訳じゃない。私は怯まず彼女の戦車に突き進ませる。

今度こそ…!!

エリカ「撃て!!!」

ドォン!

エリカ(当たった!)

放った砲弾が当たる。しかし、ほんの少し、それでも私達では敵わない相手じゃないことがわかった。

エリカ「今のでいいわ!落ち着いて、当てることだけを考えて!!」

私は砲手にそう言った。



64: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/10/01(土) 15:04:35.37 ID:svISyWPrO
二輌の戦車が、瓦礫まみれのフィールドを駆け回り、砲口から咆哮を上げ続ける。

その砲弾は当たるべき戦車に躱され、そのまま飛んで行ったり、地面に激突したりしている。瓦礫とその破片が何度も何度も跳ね上がった。

このままでは、ラチがあかない。

そう思った瞬間、砲口がこちらを向いている。

エリカ(まずい…!)

ドォン!

砲弾が戦車の一番装甲の厚い部分に当たり、それまで瓦礫の上にいた戦車を引きずり落とす。

私は戦車の周りを見る。白旗は上がっていない。

私は他の乗員に声をかける。




65: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/10/01(土) 15:14:20.91 ID:svISyWPrO
エリカ「大丈夫!?」

装填手「こっちは大丈夫!」

通信手「問題ないわ!」

砲手「こっちもまだ撃てる!」

操縦手「こっちもいけるわ!」

みほはこっちを見て、砲口をこちらへ向けている。

だが、まだだ。まだ負けてはない。

66: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/10/01(土) 15:18:05.98 ID:svISyWPrO
ーまだよ、まだ戦えるー


ーここがー


ーこの戦場がー



ー私の魂の場所よ!!!ー



また、私の戦車は息を吹き返し、黒い鳥に挑む。

67: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/10/09(日) 23:40:54.68 ID:h2zizKDZ0
また、戦車の咆哮が始まる。 だが、その時だった。

あの時、助けられなかった、呪っていると思っていた声が聞こえてくる。

ー負けないで、隊長ー

ー私達がついてますー

ー隊長ならやれますー

ー頑張ってー

ー諦めないでー

それは、私の背中を優しく、強く押すものだった。

私の身体に力がこもる。そして、違いの戦車の砲口が向き合い、

68: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/10/09(日) 23:47:09.21 ID:GO+jyPG20






ー撃て!!!!ー






咆哮が重なり、その直後の爆発も重なる。



二つの戦車は、互いが互いの命を奪い、奪われたかのように沈黙する。

そして、白旗が上がる。それは、互いの戦いを褒め称えているかのように見えた。

69: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/10/10(月) 00:07:27.14 ID:JFqRKjdx0
相打ちだった。

私は、全身の力が抜けた。

私は、あの黒い鳥を討った。だが、勝ったとは思えなかった。

溜息をつき、ボソボソと呟く。

エリカ「…ごめんなさい…勝てなかったわ…」

その時、また声が聞こえる。

ーいいんです。こっちこそ、ごめんなさいー

ー心配だったんです。隊長のことー

ー私達のせいで、隊長が苦しんでー

ーでも、隊長が戻ってよかったー

ー私達は、もういきますねー

彼女達は、昇っていった。私はそれを見るために、天を見つめた。

みほ「エリカさん!」

みほの声が聞こえる。

70: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/10/10(月) 00:27:46.59 ID:8n4Q/xAH0
エリカ「みほ…」

みほ「大丈夫ですか?」

エリカ「…」

彼女は、私にこう言った。

みほ「…私は心配だった。エリカさんが戦車道をやめてしまったから…でもまた戦車道を始めた時はよかったと思った。けど…あなたから恐ろしいものを感じたから…」

エリカ「そう…」

思い出した。彼女はこんなに優しかったんだ。

エリカ「ごめんなさい…」

みほ「そんな!謝ることないよ。」

私は彼女を見た。彼女についていた黒い鳥はまるで、飛び去っていくかのように消えていった。

黒い鳥は焼き尽くしていった。あの時の悲しい記憶を、その記憶からの苦しみを。

そして、私達のチームは敗北した。






73: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/10/10(月) 13:57:13.87 ID:u9jOo6KgO
あれから数年。

エリカ「ふぅ…」

やっと泣き止んだ。自分も昔こうだったのかと思うと、母や父の苦労が身に染みてわかる。

私は結婚して、女の子を授かり、母親となった。

この子が戦車道をやるのかどうかはわからない。

もし、この子が戦車道をやるというなら、私はあの女の子と青い木蓮と黒い鳥の話をしよう。私の苦しみを焼き尽くした話を。

私はそう思った。娘の温もりと言う幸せを感じながら。


テレビのニュースキャスター「昨日、中東の〇〇の地中深くで、ロボットのような物体が発掘されました。物体の大きさは6、7メートルで、現地の専門家も驚きを隠せず、世界中から注目が集まっています…」








74: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/10/10(月) 13:59:17.23 ID:u9jOo6KgO
これで終わりです。

最後のニュースはいらないかもしれませんが、発掘された物体はACです。