新田美波「だから私は、志希ちゃんが嫌い」
・独自設定、独自解釈を多大に含みます
・百合ではありません
・一人称地の文メイン
よろしくお願いします
私と志希ちゃんでユニットを組むようにプロデューサーさんが指示を出した、ごくシンプルで合理的な理由。
プロデューサーさんが「勝手についてきた」と紹介してくれた新人の子、一ノ瀬志希ちゃん。
私からすれば志希ちゃんはまるで宇宙人のような存在で、時間は守らないし、目を離したら居なくなるし、振り付けは勝手にアレンジするし。
まあ、またそれがセンスがあって様になっているのだけど。
プロデューサーさんは上手くやれているらしいけれど、以前から「こんな子どこで見つけてくるんだろう」って子ばかりをスカウトしてくる人なのだから今更驚くことでもないかなとも思う。
歌や振り付けも、私が歌詞を読み込み、デモ音源を何回も聞いてイメージトレーニングを行うところを、志希ちゃんは歌詞は目を通す程度で、振り付けは一回手本を見せれば覚えていた。
でも今は能力に体がついていかず、レッスンではすぐに貧血になっちゃう。
体力がないのは、今まで研究ばかりでまともに運動をしてこなかったからだという。
あんまり表には出さないけど、正直に言ってしまえば、私は志希ちゃんに対して苦手意識を持っていた。
まるで価値観が違う。
今まで私は私のやり方でアイドルとして結果を出してきた。
できないことをできるようにする方法は、現状を把握すること、目標を決めて計画を立てること、手間と時間をかけるのを惜しまないこと。
その努力を、挑戦を、成功を、大げさに言ってしまえば、自分の歩んできた人生を嘲笑うかのように感じてしまった。
そしてそれは同時に、志希ちゃんへの嫉妬でもあったと思う。
「キミ、おもしろそーな匂いをしてるね!」
第一印象からして明らかに普通じゃない、可愛さと綺麗さを両立した只者らしからぬオーラを纏っていて。
さらには初対面で匂いを嗅がれた上にそんなことを言われたから、ちょっと変な子だなと思っていた。
「わかりそうで、わからない……薄皮を何枚か重ねた上から嗅いでいるような匂い……」
それからはしばらく付きまとわれた。
「美波ちゃんは、とってもキョーミ深いね!」
ありすちゃんやアーニャちゃんぐらいの年齢の子が多いこの事務所では、私はみんなよりちょっとだけお姉さんで、まとめ役を任されることも多かった。
その流れで、プロデューサーから半分お世話係のような形でユニットを組むことになった。
この事務所としては珍しく、オトナ路線となる予定。
ユニット名は『ヴィーナス・ブレス』。
女神の吐息、あるいは女神の祝福。
ギフテッドとは神様からの贈り物、神から祝福された存在、らしい。
だから、女神でもない、私のようなただのちっぽけな人間が敵うはずがなかった。
「志希ちゃん、もっとちゃんとレッスンしたほうがいいんじゃない? 本番でもたないよ?」
ダンスレッスン後、レッスン室で大の字になっている志希ちゃんに声をかける。
「いやー、体育会系の人と比べられちゃったらねぇ。体力が違うよ」
「できないことをできるようにするのは、楽しいよ?」
「ふーん。じゃあ、今の美波ちゃんの匂いはー? ハスハス~」
「あっ! ちょっと! 志希ちゃん、まだそれだけ動けるんじゃない!」
「んん~『いい汗かいた!』って感じがする、イイ匂い~」
「もう! 止めてったら~」
そんなこんなで、なんとか志希ちゃんをコントロールしたりできなかったりしながら、迎えたミニライブの当日。
志希ちゃんは現場から失踪した。
結果から言えば、志希ちゃんは事務所に(勝手に)作ったラボにいた。
私は控え室に残っていて、プロデューサーさんが志希ちゃんを連れ戻し、予定にはなんとか間に合った。
「プロデューサーさん、すみません! 私が目を離してしまったから」
私は責任を感じていたけれど、プロデューサーさんはいつもの飄々とした態度でさらりと流し、「ちゃっちゃと用意よろしく」「直前に失踪はやめろよなー」と軽い物言いしかせずに控え室から出て行ってしまったのが心底気に入らなかった。
プロデューサーさんはそれでいいんですか。
最終的に色々なところに頭を下げに行くのはプロデューサーさんになってしまうんですよ?
「志希ちゃん! 何してるの!?」
「ナニって、ステージ用の香水作ってたの」
「そんなことより優先することがあるでしょう!?」
「ふむふむ、ハスハス……あ、やっぱり」
志希ちゃんは見るのが腹立たしくなるくらいに口を歪めた。
「わかってきたよ、美波ちゃんの匂い」
「……? 何を言ってるの……?」
「美波ちゃん。新田美波。優しくて、頼れる、みんなのお姉さん」
志希ちゃんの口から言葉が紡がれ、香水のように、毒のように、私の体に少しずつ染み込んでいく。
こんなやりとりをしている状況ではないのに。
志希ちゃんの言葉から耳を離せない。
「キミの本質は? 本当の匂いは?」
志希ちゃんの意図に気付いた瞬間、爪が食い込むほどに拳を握り締めていた。
「もしかして、そんなことを知るのために失踪したの!?」
「そうだよ」
さも当然のように、志希ちゃんはケラケラと笑いながら返事をした。
憤りを感じていた。
常識外れの行動に対して。
世間一般的に言えば『真面目に』行動してきた自分を否定する事象に対して。
能力があるから?
そういう性質だから?
自由奔放な振る舞いが許されるというの?
「そんな個人的な理由で、みんなに……プロデューサーさんやスタッフさんに迷惑をかけてるんだよ!?」
「んー。それもそっかー。ごめんね」
感情がごちゃ混ぜになって掛ける言葉が見付からず、最終的にはプロデューサーさんが私達を呼びに来たので、その場は一応は収めることになった。
プロデューサーさんからは「あれが志希だから、あんまり気にすんな」とは言われた。
今のコンディションは良いとは言いがたい。
とはいえ、気持ちを切り替える位の余裕は戻ってきた。
決して大きくはないデパートの屋上でのミニライブ。
薄暗い舞台袖からでもお客さんがそこそこ来てくれているのがわかる。
私は既にソロデビューは果たしているけど、志希ちゃんは今回が初の歌の御披露目。
「ふっふ~。アイドル志希ちゃんデビュー! まだ誰も見たことないアイドルの才能、そのエッセンスを見せてあげよー!」
口調こそいつも通りだけど、その雰囲気には違和感があった。
眉の動きの、口角の、肩の力の入り具合を。
嫌というほど見させられて、どうにか越えられないかとする、現実の象徴。
だから、違いには気付いた。
「えっ」
「震えてるね。それに、すごく冷たい」
「……ホントは、ちょっと怖い、かも」
「大丈夫?」
「へーきへーき。大勢の前で何か披露するなんて、学会で慣れてるから」
「嗅ぐ? 私の匂い」
咄嗟に頭の中で言葉が弾けて、いつの間にか口から出ていた。
さっきから自分自身に驚かされてばかり。
志希ちゃんと居ると、なんだか調子が狂うみたい。
「美波ちゃんが言うならしょうがないな~、ハスハス~」
勢いよく胸に飛び込まれた。
志希ちゃんの吐息を感じる。
匂いの好みはDNAによるものらしい、なんてことを思い出して。
だからなのか、嗅がれるというのは、魂の奥底まで覗かれたような気恥ずかしさと、どこか背徳的なゾクゾク感があった。
「ふっふ~。爽やかな香りで、トリップしちゃう~」
才能に溢れ、それなのに、どこか不安定な子。
特に理由はなのだけれど、なんとなくそうしないといけないような気がして、私は志希ちゃんを優しく抱きしめていた。
こんなに腹立たしい相手なのに。
その肩は思っていたより細くて、震えていて、力を込めたら折れてしまいそうだった。
その後、志希ちゃんはいつもの調子を取り戻し、ミニライブは成功となった。
ライブが終わった後、志希ちゃんは片付けの現場を眺めていた。
ぽつんと立ち尽くした後ろ姿は、どこか浮き足立っているようで、風が吹いたら倒れてしまいそう。
「志希ちゃん、どうしたの?」
「なにこれ……?」
志希ちゃんの艶のある唇から、言葉は零れ落ちて。
「なんなのこれ……アイドル……」
うわごとのようなそれは、夕焼けの空気に流れていってしまうのだけど、たしかに熱を持っていた。
その熱の理由を、私はきっと知っている。
「アイドル……わかんない……理解できない
コメント一覧
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- 2017年01月21日 22:27
- しきみなみもっと増えて欲しい
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- 2017年01月21日 22:31
- いや~、百合はいいね!
これでPとかいうカスがいなければ文句なし☆5個だった
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- 2017年01月21日 22:35
- この組み合わせいいね
もっとドロドロでもいいくらい
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- 2017年01月21日 22:51
- とときんとのやつ書いた人か〜
もっと書いてくれてもいいのよ
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- 2017年01月21日 23:16
- お前の方が嫌い
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ランダム再生でみなみんの亜麻色のカバーが急に流れてきたのもあるかもしれません…