男「・・・・・・」

ゴリラ「ウホゥホ　ホヴフ」

男「・・・・・・」

ゴリラ「ブシュル・・・ゴア」



　　　　　　ゴキン



.

彡(ﾟ)(ﾟ)　「」「・・・・・・」

ゴリラ「ウホゥホ　ホヴフ」

彡(ﾟ)(ﾟ)「・・・・・・」

ゴリラ「ブシュル・・・ゴア」



　　　　　　ゴキン


.

いつも、ゴリラに殺されるところで目が覚める。





.

ﾁｭﾝﾁｭﾝ ﾑｸｯ

彡(ﾟ)(ﾟ)「・・・・・・」 PCﾎﾟﾁｰ

彡(ﾟ)(ﾟ)「あー」


顔を洗い、身支度を整え、会社へいく。

この夢を見る様になったのがいつ頃なのか、覚えていない。
何十年も遠い昔の事のように感じる。

夢の中で、ゴリラと一つの大きな部屋にいる。
そうしてワイはゴリラに殺される。
時には殴られ、時には絞められ、齧られ。

殺される事で目が覚める。

ゴリラの暴力の生々しい記憶を帯びて、ワイは朝を迎えるんや。

しかし、これが果たして夢なのかという事もワイには判断がつかないのだ。

夢とも思えぬ、超現実的感覚が伴っているからや。
あまつさえ痛みの感覚すらも残して起きる事もある。

小さい頃、初めてこの夢をみた時は、ただただ怯えた。
成す術もなく嬲り殺され・・・いや、今でも成す術はないんやが。

起きた時には頬が涙で濡れていた。


それから、毎日同じ夢をみるようになった。

通常夢というのは虚ろな感覚のままに過ぎるものやという。

だがゴリラと共にいるときのワイの意識や感覚は至極はっきりしている。
視界も、痛みも、時間の経過を感じる感覚も、現実のそれとなんら変わりはしない。

ただこれは夢だと理解していて、そうしてワイはゴリラに殺される。


初めは抵抗もした。殺されない為の努力を。
だがその部屋に逃げ場はなく、野生の力の前に抗える力もワイにはない。
いつからか、冷めた感覚のまま諦めていた。

殺されたところで、ワイは現実に目覚めるからや。何も問題は無い。

広い、真っ白な部屋の中。
ワイとゴリラ。

いつ殺されるかは解らない。それはゴリラの気分だ。

一度、一週間近く放置された事もあった。
飢餓状態で死にそうになっている時に、頭を叩き割られた。

起き抜けに妙に腹が空いていたので、思い切り食べた。

夢の中で起こった事もはっきりと記憶に残る。
明確な思考も可能や。
なので体感的には、ワイは実際の年齢よりもかなり年をとっとる。

この事は他の人間にはあまり言っていない。
変な人間だと思われるからや。

幼少の頃、病院で医者に見てもらったが、何ら解決はしなかった。


依然ワイは、ゴリラに殺され続けているんや。

(o'ω'n)「おはよーだおん」

彡(ﾟ)(ﾟ)「おはよう、おんちゃん」

(o'ω'n)「どしたの？首いたいの？寝違えたおん？」

彡(ﾟ)(ﾟ)「ん・・・ちょっとゴリラに首を捻られてな」

(o'ω'n)「ああ・・・そうかおん」


彼女は、ワイの夢ゴリラの話を知っている数少ない人間の一人。
いわゆる幼馴染みという奴や。
ワイの荒唐無稽な夢の話も信じてくれる。
一緒にいて気が楽な存在や。

ワイは自分の内側にゴリラを飼っている。
いったい、なぜこんな夢を見るようになったのかは自分でも解らない。

そうして一日が終われば、またワイは寝床に就く。


ゴリラに殺される為に。

ところである日、ふと思いついた。

ワイは夢の世界では、基本的に服を着ている。
それは前日の自分の服装が反映されるようやった。

ならば、前日に何かゴリラに対抗する“何か”を身につけていれば、
それをゴリラ側の世界に持ち込めるのではないか。


もしかして、武装する事も可能ちゃうんか？

好奇心が芽生えた。

早速ワイは、ナイフを懐に抱いたまま一日を過ごしてみる。


そうすると、夢の世界のワイは、ナイフを握っとった。
これは新しい発見だった。なんと夢に物を持ち込む事が可能なんや。
この驚愕の事実は、ワイを少なからず驚嘆させた。

しかしナイフ一本程度では、ゴリラの強力な暴力には到底及ばない。
瞬殺や。


次の日、バナナを持ってゴリラを懐柔する作戦にでてみた。
ゴリラは美味しそうにバナナを食べた。
食後にワイは殺された。

まず武器をもってゴリラを制すという考え方自体はいいやろう。
問題は、ただの一般人であるワイがどれほど強力な武器を持ち得るか、という事や。


せいぜい用意できるのは、ナイフやバットくらいの物でしかない。
缶スプレーを持ち込み、簡易火炎放射も試してみたが、駄目やな。ゴリラ強い。
作戦練らなきゃアカン。

だがそういう事を考えるのは、とても楽しかった。
一つの趣味ができたようや。


だが同時に、一つの疑問が沸き起こる。

夢の世界では、ゴリラに殺される事が覚醒のアクションや。

ならば、自分を殺すゴリラがいなくなれば。

ワイがゴリラに殺されなくなったとしたら。


一体ワイはどうなるのか？




.

彡(ﾟ)(ﾟ)「おんちゃんは、どう思う？」

(o'ω'n)「うーん・・・どうだろうかおん」


会社での昼休み。ワイはおんちゃんと休憩室で弁当を食う。

(o'ω'n)「それはおんちゃんに聞かれても・・・って感じだおん」

彡(ﾟ)(ﾟ)「そうか」

(o'ω'n)「うん」

彡(ﾟ)(ﾟ)「でもゴリラを倒すって指標ができたのは凄い事やで」

(o'ω'n)「それで、今日も濃硫酸入りの瓶もってご昼食なのかおん？」

彡(ﾟ)(ﾟ)「ああ。化学教師やっとる知人にちょいとな」

(o'ω'n)「物騒だおん！」

(o'ω'n)「別に疑う訳じゃないけど・・・なんか突拍子もない話だおん？」

(o'ω'n)「ゴリラの夢の話は昔から聞いてるけど、なんだかねえ」

彡(ﾟ)(ﾟ)「うん」

(o'ω'n)「まぁ、やきうの好きにするんだおん。ゴリラ退治がんばるおん」

彡(ﾟ)(ﾟ)「ああ」



そうしてワイは、日常をやり過ごしながらまたゴリラと対峙する。

しかし、どうやってもゴリラには勝てんのや。
所詮付け焼き刃の武装では歯が立たないんか？

そこでトレーニングを始めてみた。
まずワイ本体が虚弱過ぎるっちゅー話や。

基本的に夢の世界のワイのスペックは、現実のワイとリンクする。
なので、少しでも基礎能力を上げておけば、多少はもつかもしれんしな。

毎日ランニングと、腕立て腹筋。
それに通信空手も始めて見た。

しばらく続けたが、人とゴリラの差はやはり埋められそうもない事に気付いて、やめたわアホくさ

やはり、強力な武器が必要やった。
少なくともそこら辺で買って用意できるようなレベルのものでは駄目や。

銃火器が要る。

拳銃なんかがあれば、あのゴリラも殺せるかもしれないなぁ。
それに近接用にスタンガンなんかも欲しいわ。


欲しい。





.

そうしてワイは、ネットを利用し、非合法な方法で銃を手に入れる事にした。

非合法なのでもちろんバレれば社会的にマズい。
慎重に事を進めるんや。

アングラな取引に必要な金の高は、自分が思っていたより随分と安かった。
安月給とはいえゴリラ退治以外に趣味も無いようなワイには、その金額を用意する事は十分可能だった。

そうして、ワイは銃を手に入れる。

黒光りする銃身。手にずっしりとくる重量。弾丸。
心を踊らせた。それを身につけて過ごす一日は、スリルに満ちている。

彡(ﾟ)(ﾟ)「・・・・・・」

ゴリラ「ウホ　ゴフッホホホ！」



　　　　　　ドン



.

ドン
　　
　　　　　　　　　　ドン
　　　　　　　　　　　　ドン


　　　　　　ズドン


.

彡(ﾟ)(ﾟ)「・・・・・・」


ゴリラ




.

ワイは、ゴリラを殺した。





.

彡(ﾟ)(ﾟ)　

彡(ﾟ)(ﾟ)　

彡(ﾟ)(ﾟ)「・・・」

彡(ﾟ)(ﾟ)「・・・・・・」

彡(ﾟ)(ﾟ)　

静寂。

硝煙の臭い。

ゴリラだったものから流れる血液。



彡(ﾟ)(ﾟ)　

彡(ﾟ)(ﾟ)　

彡(ﾟ)(ﾟ)　


彡(ﾟ)(ﾟ)　

何も起きない。






.

（アカン）

あっ…

達成感に満ちたのは、ほんの一瞬だけやった。

そうして代わりに、じわじわとある感情が去来してきた。


ゴリラに殺される事が引き金となり目覚める。


では、ゴリラに殺されなければ。





ゴリラに殺されなければ。

ﾋｪｯ…

彡(ﾟ)(ﾟ)　

彡(ﾟ)(ﾟ)「あ」


彡(ﾟ)(ﾟ)「あああ」

ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ
あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ
あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ
あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ
あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ
ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ
ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ
あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ
ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ
あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ
あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ
ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ
あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ
あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ

ワイはすぐに後悔した。

ゲームか何かだと思っていたんや。

ゴリラを殺せば、“何か”があると。
勝手にそう、思い込んでいた。

しかし何も起こりはしない。
まさかワイはずっとこのまま。

自分の潜在意識下に、閉じ込められたままなんやろうか。

この、真っ白で無機質な空間に、永久に閉じ込められるんか？

いや、待て。
そもそもの前提が間違っている可能性があるで。

“ゴリラに殺されて目覚める”のではなく、
“自分が死ぬ事”によって覚醒するのかもしれない。


弾倉には弾があと一発。



.

そうや。これは夢なんや。

この一発を自分に撃てば。

死ねば。

きっとまた、同じ朝を迎える事ができるんやろ。

この悪夢から、解放されるんや。

そうに違いない。

そうや。

そう。

あっ

銃を、自分のこめかみにあてる。



彡(ﾟ)(ﾟ)　




そうして、引き金を引いた。

・・・・・・


・・・・・・・・・

気がつくと、目の前にワイがいた。




.

相も変わらず真っ白なこの部屋で。

目の前にワイがいる。いや、これは昔のワイや。

幼少の頃のワイやないか。

なんやこれは。

現実に帰れたんやないんか。

すぐに違和感に気付いた。
自分の体の。

自分の肌の手触り。ざらざらするような。
筋肉の、固い感触。

この部屋に鏡は存在しない。
だが、ワイは今自分がどんな姿になっているのか
それは朧げながら確信ができた。

子供のワイは、ワイをみて恐怖したのか泣いている。
そうやろう、怖いやろうなぁ。それはよく覚えている。

そして、今自分が何をすべきか。
理解した。


そうしてワイは、ワイの首の骨を折る。
有り余る力で。溢れ出す野生の力で。

そうすると、ワイの死体はふうっと消えた。
忽然と消えた。

それから、何十時間が経過する。


そうすると、またふうっとワイが現れた。
幼いワイが。

自分で自分を殺す。
それは背徳感か罪悪感なのか解らないが、複雑な心境やで。

だけどワイが殺してやらないと、こいつは現実に、“向こう側”に帰れない。
永遠にこの部屋に居る事になるやろうな。

だから、殺す。

恐らく、ワイは気が遠くなるほどの時間を、この部屋で過ごすんやろう。
目の前のこいつが、ワイを殺せる様になるまで。
成長し、好奇心でワイを殺せるようになるまで。

ワイがワイに殺された後、自分がどうなるかはわからん。
またもとの世界に目覚めるのか。
それとも本当に死んでしまって終わるのか。

ただはっきりしているのは、この醒めない悪夢を終わらせるにはその方法しかないってことや。

ああ、なんだか、意識がぼやけてきたで。
“ワイ”としての自我が失われていくのが解る。

ワイはこれから、本当のゴリラになるんや。
記憶も正気も失って。
そういう予感がする。

まぁ、しばらく待つしかないやろな。

ワイが殺されるまで・・・この退屈な“現実”を過ごしていくしかないようやな。



ときどきワイが、バナナのお土産でももってくるのを期待して。






.

ｵﾜﾘ

乙

なんか胸糞やな

ええやん 面白かったでイッチ

これは久々の傑作

イッチ乙
ワイに殺されたらまたおんちゃんのいる現実に戻れたらいいンゴねぇ…

世にも奇妙なっぽい

銃もってきたとこまできたときに
発砲を止められたらもどれるやろか...
そもそも止められるやろか

面白かったけど怖かったやで　今夜夢見たくないンゴ
イッチ才能あるんやないか

星新一っぽいな

正気失って完全にゴリラになったらなんでゴリラは男を殺すねん
ゴリラはこっちから攻撃しなければ相手を攻撃しない優しい生物なんやぞ

フォルダの中から昔書いた奴が出てきたんで貼ってみたわ
すまんな

>>73
ええんやで

面白かったわ