少女「パパもママも、どうせもう、帰って来ないもの」神父「……」
少女「!」トトト
ガラッ
少女「なんだ……神父さんか」
神父「きょっ、今日は、少女ちゃん、誕生日だったね! おめでとう!」
少女「……覚えててくれたんだ」
神父「その……少女ちゃん、前に話した、教会に住み込みで働くって話……どうかな。その……少女ちゃんのお父さんとお母さんは、帰ってくるまでもう少し時間が掛かるんじゃないかなって……」
少女「……わかってる。パパもママも、どうせもう、帰って来ないもの」
神父「…………」
少女「でも……もう少しこの家にいたいの」
神父(最近、ここの村で邪教徒の儀式の跡らしきものが見つかったって噂になってるし……女の子一人は危ないんだけどな……)
少女「……ありがとうございます、神父さん」
神父(……今日のところは、諦めるか)
神父「それから……はい、お菓子」
少女「えっ……」
神父「少女ちゃん、誕生日だから……誕生日プレゼントだよ」
少女「……ぐすっ」
神父「しょっ、少女ちゃん!?」アタフタ
少女「……もう、一生誕生日プレゼントなんて、もらえないと思ってたから」ポロポロ
神父「…………少女ちゃん」
神父(彼女の父親は……狩りに出かけて、帰らなくなった。恐らく、盗賊にでも遭ったんだ。きっともう、生きてはいない……)
神父(彼女の母親は、昔の友人だという男が訪ねて来てから姿を消してしまったという。こんなことは、考えたくないけど……)
少女「ありがとう……ありがとう、神父さん」
神父「そ、その衣服は……王都の……」
神官「今回は異端審問官として来た。村人達にも事情聴衆を兼ねて挨拶に回っているところでな」
神父「ああ、邪教の儀式の痕跡が見つかった件ですね。でも……おひとりだけで大丈夫ですか?」
神官「ははは、任せておいてくれ。何せ俺は、王都で修行を積んだ、上位魔法詠唱の許可を持ってる教会魔術師だからな。邪教にかぶれたいい加減な魔術師に、遅れなど取るものか」
神父「私も一応魔法に心得はありますし、お手伝いできることがあれば……」
神官「いんや、結構。田舎の司祭さんには荷が重かろう。事情だけ話してくれ」ハンッ
神父(よかった……王都の教会から一流の魔術師が来てくれたのなら、もう解決したも同然だな)
ガタンッ
神官「うおっと……なんだ、この家からか」
神官「あれ、この家……夫が死んで嫁が他所の街で再婚して、誰も使っていないはずなのに、物音……?」
神官「これは怪しいな……調べてみるか」
――
神父「……急な用事で街まで用事で出かけていたから、少女ちゃんにパンを持っていけなかったな」
神父「さすがにもう寝てるとは思うけど……急に来なくなったから驚いてるかもしれないし……灯りが消えてるかどうかだけでも確認しに行こうかな……」
少女(……当たり前、かな。毎日私のところ来てくれるほど、暇じゃないもの)
少女(神父さんがずっと教会に住むよう提案してくれてるのに、私の我が儘で断っちゃってたし……愛想尽かされちゃったのかなぁ……)
少女(…………)
ガタッ
少女「!」
少女(神父さんだ! そうだ……灯り、つけなさなきゃ……あ)
少女(どうせだから……ちょっと驚かせてあげちゃおうかな)クスッ
少女(神父さん、いつもすまし顔だもの)
神官「うわぁっ! や、やはり邪教徒の隠れ家だったか!」
神官「死ね邪教徒め! ファイアボール!」
少女「えっ……」
ボオオッ!
少女「きゃあぁっ!」
神官「な……た、ただのガキ!?」
少女「あ……あ……熱い……痛い……目、開かない……」
神官「く、くそ! 紛らわしいことを!」ガシガシ
少女「熱い……痛い……熱い……」
神官「もう長くないな……どうせ孤児なら、犯人を無理して捜すことはないか。幸い今は、邪教徒騒動の真っ只中……適当に儀式の痕跡だけ残しておけば、誤魔化せる……?」
神官「俺は呪術の知識も邪教対策で聞きかじった分はあるし……いける。いけるぞ……これなら……。これをこうして、それらしい術式を描いておけば……。よし、後はこのガキを殺すだけだ」
少女「あ、あああ……」ガクガク
神官「へ、へへへ……悪く思うな、お前が悪いんだぞクソガキめ」
神父「そっ、そこの貴様! 何をしている!」
神官「!?」
神官「違う! そうだ、このガキが例の邪教徒で……」
神父「この外道が!」ザスッ
神官「ぐああぁっ! あ、ああ……」バタッ
神父「はぁ……はぁ……少女ちゃん! 少女ちゃん!」
少女「よかった……神父さん。ママみたいに、私のこと見捨てたわけじゃなかったんだ……」
神父「し、しっかりしろ! おい!」
少女「ねぇ神父さん……なんだか、寒いの……手……握って……」バタッ
神父「う、嘘だろ……またいつもの冗談……お願いだから、少女ちゃん……目を……」
神父「あ、ああ、あ……」ガクッ
神官「」
神父「こ、こいつ……異端審問で王都から来た神官……!」
村人「なんだ、凄い音がしたぞ!」
村人「神父様が血塗れじゃ!」
村人「い、いや違う……少女ちゃんの血だ! あれは!」
神父「み、みなさん……少女ちゃんが、少女ちゃんが……」
村人「あ! 王都の神官様も魔法で殺されている!」
村人「あれは……邪教の儀式の準備じゃ……」
神父「え……あ、ちが……」
村人「し、神父様が邪教徒だったのか! それで神官様を殺したんだぁ!」
神父「わわ、私では……私では……私は、私は……」ダッ
村人「に、逃げたぞ!」
村人「追うな! 殺されるぞ! 神官様の二の舞じゃ!」
神父「そうか……あれから、七年経ったのか」
神父(動揺して逃げて……死に場所を求めて彷徨っていたのに……無様に生き延びてしまったのだな、私は)
神父(神よ……あなたはなぜ、あのような幼い子供にあんな仕打ちを……)
少女『神父さん』
神父「少女ちゃん!」バッ
女「あ……と、急に声を掛けて申し訳ありません。神父さんの一人旅などあまり見かけないものでして、つい気になって……」
神父「こちらこそ、申し訳ございません……寝ぼけていたもので、知り合いと勘違いしてしまいまして……」
神父(よく見れば、全然違うな……。しかし、あの子が死んでいなければ……このくらいの歳か)ウルッ
女「し、神父さん?」
神父「え、ええ……なんとか」
女「そんなに似てるんですか?」
神父「え?」
女「その……少女ちゃんって子と」
神父「…………」
女「あ、あまり聞いてはいけないことでしたか?」アセアセ
神父「……そうやって慌てる仕草は、確かに似てるかもしれませんね」ニコッ
女「……実は、復讐しなければならない相手がいまして。仇を追って、旅をしています」
神父「…………」
女「神父さんに話す話じゃ……ありませんでしたね。でも、止めないでください」
神父「……いえ、大切な人を殺された傷も痛みも……そうそう癒えるものではありませんから」
女「……神父さんにも、そのような過去が? そのとき……神父さんは、殺してやろうって……思いましたか?」
神父「…………」
神父「さぁ、どうでしょうね」
女「すいません、変なことを聞いてしまい。では、自分はこれで……」
神父「待ってください」
女「え?」
神父「一人旅は何かと大変でしょう。私に……お手伝いさせてもらえませんか?」
女「えっ……ええっ!?」
酒場の店主「さぁ……オレは聞いたことねぇなぁ」
女「……そう、ですか」
神父(女さんの仇は、邪教徒ですか……)
神父(…………)
神父(……嫌なことを、思い出しましたね)
女「今回もまた、成果なし……か」ハァ
神父「他に特徴は、何かないのですか?」
女「ありません……けど、これで充分ですよ」
神父「それはなぜ?」
女「奴が、殺人を何とも思わない異常者だからです……。絶対に、奴が通った後には血の道が残っているはずなんです」
女「まさか、ここまで何の手掛かりもないなんて……」
神父「…………」
女「神父さんには、これ以上付き合わせられませんよ」
神父「あなたも……復讐以外の道を、捜してみては?」
女「っ! そんなこと……できませんよ……。親の死を忘れて、のうのうと生きるなんて……そんなの私は……!」
女「それに今も! アイツは色んな人を殺してるに決まってる!」
神父(親の仇だったのか……)
女「アイツを殺して……それから、それからようやく自分の人生が始まるんです!」
女「私はそう決心して生きて来て、もう七年になります……。今更、曲げるつもりはありません。例え、神父さんの言葉であろうと……」
神父(…………?)
女「神父さん?」
神父「なな、ねん……?」
コメント一覧
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- 2017年01月29日 21:23
- 冗談抜きに最後の?さえ無ければまあまあの良作だったのに・・・
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- 2017年01月29日 21:49
- 最後の?は余計に後味悪くするな
むしろ?出したければ邪教の神の方にすればひねくれた感じが出てよかったのに
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- 2017年01月29日 23:08
- 最後まで読んだ方は、アグネス募金宜しく
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