男「死なせてくれ」 幼女「あたしもしぬ」
- 2017年02月03日 18:10
- SS、神話・民話・不思議な話
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男「会社をリストラされ、女房に愛想を尽かされ──」
男「夢はついえ、残るのは悪夢ばかり……」
男「生きる気力もなくなった……」
男「せめて、この故郷の山で死のう」
枝にかかったロープの輪に、首を通そうとする。
幼女「だめよ、おじちゃん!」
男「!?」
幼女「だめだよ!」
男(な、なんだこの子は……)
幼女「あたし、いつもこの山であそぶの」
男(くそっ、けっこう奥深くまで入ったつもりだったが……まさか子供とは)
男「おじちゃんはね、これから大事な用があるんだ。だから、向こうに──」
幼女「しぬ気でしょ?」
男「!」
幼女「だめだよ、しんじゃ」
幼女「しんじゃったら、おわりじゃない」
男「おじさんはね、疲れちゃったんだ。生きるのにね」
幼女「ぜ~~ったいダメ!」
男(なんてデカイ声だ……! 大人が来るとまずいな)
男「頼むよ、死なせてくれ。おじさんのことを思うなら」
幼女「どうしても、しぬつもり?」
男「ああ」
幼女「じゃあ、あたしもしぬ」
男「!?」
男「君は死ぬ必要はないだろう。見たところ、楽しそうだ」
幼女「え~……でもじさつをとめられなかったから、むねがくるしい」
幼女「だから、いっしょにしにます」
男「た、頼むから……ほっといてくれよ!」
男「せめて死ぬ時はだれにも迷惑かけずに、ほっとかれて死にたいんだ」
男「君みたいな子供を巻きぞえにしたら、あの世でも苦しみそうだ」
幼女「──そう」
幼女「そこまでいうのなら」
男(気配が変わった……!)
男(あの構え──まさか仏滅拳!?)
<仏滅拳(ブツメツケン)>
いしにえの時代より伝わる、半ば伝説化した拳法。
予測不能の軌道を描く拳に、釈迦すらも恐れを抱いたという──
男「どうやら、子供だからといって手加減をしていては──」
男「おじさんの命が危ういようだ!」ス…
幼女(このおじちゃん……。さいやくけん、のつかい手!?)
<災厄拳(サイヤクケン)>
開祖は妖怪変化ともいわれる暗殺拳。
時の権力者の中には、この拳で命を絶たれた者も多い──
男「来い!」
幼女「えいっ!」回し蹴り。
男(おいおいこの子、パンツ黒かよ!?)
男「!?」
ゴッ!
回し蹴りから変化したカカト落としが、男の肩にめり込む。
男(つっ、右肩が……)
幼女「まだまだぁっ!」
幼女「あわわっ!」スタッ
なんとか着地。
男(ほう、いい身のこなしだ)
男「今度はこっちから攻めるぞ!」
眼球、頸動脈、心臓、股間。
迷いなく急所を的確に狙う突きの嵐は、まさに災厄。
幼女「わっ、あぶっ、わっ!」
男「(体勢が崩れた!)もらった!」
男「チェックメイト」
男「……ふぅ、だいぶ腕を上げたな」
幼女「えへへ、すごいでしょ!」
男「だが、防御がお粗末すぎる。あれじゃ一流どころには勝てん」
幼女「ごめんなさい……」
男(攻撃力は満点だがな。ヘタすると右肩、ヒビ入ってるかも……)
男「一年前、老師に二人そろって破門されて以来だな」
幼女「なつかしいねぇ」
幼女「もういないよ」
男「いない……!?」
幼女「うんっ♪」
男「亡くなられたってことか!?」
幼女「うんっ♪」
男「な、なぜ!? ご病気かなにかか!?」
幼女「ううん」
男「──ということは、まさか!」
幼女「うふふ。しょーこもないのに、いいがかりやめてよね」
男「証拠なら、あるよ」
幼女「なんですって?」
男「あの日、老師はぐっすり眠っていた」
男「おまえは寝ている老師に近づき、凶器でガツンと殴った!」
幼女「きょーき? きょーきってなんですかー」
男「これだよ」
ガサッ
男はカバンから、血痕がついた広辞苑を出した。
男「老師を殺した君は、あろうことか凶器である広辞苑を──」
男「ブックオフに売った!」
幼女「!」
男「凶器は処分できる。金も手に入る。一石二鳥の作戦のつもりだったんだろうが──」
男「それがかえって君の首を絞めることとなった」
幼女「ど、どういうことよっ!」
男「店員はちゃんと覚えていたよ。血まみれの広辞苑を売りにきた君をね!」
幼女(しまったーっ!)
男「これでもまだシラを切るつもりか?」
幼女「うぅ……」
幼女「うっ、く」
幼女「うわぁ~~ん!」
事件の取り返しのつかなさを象徴するような、冷たい風が吹く。
男(弟子が師を殺すとは……なんという悲しい事件だ……)
幼女「ごめんなさい……自しゅします」
男「いや、君を警察に突き出すつもりはない」
幼女「えっ?」
幼女「どーいうこと?」
男「老師ほどの達人を殺害した君と、それを暴いたおじさんの頭脳」
男「二つがあれば、怖いものなしだ」
男「極端な話、日本を牛耳ることも可能……!」
幼女「うーん、おじちゃん。それはどうかしらね」
男「どういうことだ?」
幼女「さすがのあたしも、自えいたいにはかてないわ」
幼女「うまくいったとしても、すぐクーデターされるのがオチよ」
幼女「きじょうの空ろんだわ」
男「なんだとぉー! おじさんをバカにするな!」グググ…
幼女「や、やめ……く、くるし……!」
男「いっつも無能どもはそうやって!」
男「もっともらしい逃げ口上を並べ!」
男「挑戦から遠ざかる!」
幼女「うぅぅ……」
男「おじさんを学会から追放した奴らもそうだった!」
男「空想だ、机上の空論だ、とおじさんの研究を認めなかった!」
幼女「ぅ、うげ……」
男「ちっ、つい力が入っちまった」
男「だが、ついにおじさんの研究は完成した──」
幼女「え?」
男「人型殺戮兵器(ヒューマンウェポン)の第一号、が君なのさ」
幼女「うそでしょ……」
男「本当だとも。実はね、君の両親は両親でもなんでもない」
男「おじさんの部下なんだよ」
幼女「うそよ……」
幼女「うそよォッ!」
男「嘘じゃないよ~! だってゼロから作られた君に親なんていないんだから!」
幼女「あああ~~~~~っ!」
男「ハッハッハ……!」
男「!」
幼女「あたしが、ひゅーまんなんちゃらの一ごうなら……」
幼女「おじちゃんが、あたしのぎせいしゃ、だい一ごうよ!」
男「なっ──よ、よせっ!」
幼女は怪力で、男を顔面から地面に叩きつけた。
ドゴッ!
男「ゴボォッ!」
幼女「どう、おじちゃん、いたい? あたしの心はもっと、いたいけどね!」
男「く、くく……」
男「すばらしい……すばらしいよ」
男は土をむさぼり始めた。
幼女「ど、どうしたの? おじちゃん」
男「いいから君も食べてみろ!」
幼女「うっ……こ、これは!」
二人は号泣した。
男「うまい、うますぎる! 土を掘る手が止まらない!」
幼女「これまでたべたどんなごはんよりも、おいしいわ!」
男「大地に含まれる“歴史”がそのまま“味”となったような、なんと濃厚な!」
幼女「ああ、もうあたし、ほかのものたべられないかも……」
男「ふぅ~食った食った。胃がはち切れそうだ」
幼女「ごちそうさま~♪」
男「腹ごなしに、少し走るか」
幼女「うんっ」
タッタッタッ
男(速い…まったく息切れせずついてくる)
男「なぁ、君」
幼女「ん?」
コメント一覧
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- 2017年02月03日 18:17
- 本田が紙ね
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- 2017年02月03日 19:08
- ※1が死ぬんやで彡(^)(^)
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- 2017年02月03日 19:40
- みおちゃんは神です 紙ではありません
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- 2017年02月03日 20:28
- ミツボシ教爆誕
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- 2017年02月03日 21:11
- ハイセンス過ぎる。是非とも筆者の頭を開いて見てみたい