ハーバード大学の工学・応用科学部(SEAS : School of Engineering and Applied Science)が、二酸化チタンのナノ構造体を並べた極薄平面レンズを開発しました。このレンズは光の屈折を利用するガラスレンズとは全く異なる薄さ・大きさ・構造ながら非常に効率的に光を集束できる特徴を備えています。
SEASが昨年発表していた2016年版のフラットレンズでは、一度に特定の狭い色域の光しか集束させることができないのが難点でした。しかし今回SEASが発表したのは、その色域の問題を一部解決した進化版です。1年前はほぼ単色しか集束できなかったのに対し、ナノピラーの形状、幅、距離、および高さを特定のパターンで配置し直すことで青から緑まで、波長にして490~550nmまでの連続した色域を色収差なく扱えるようになりました。
通常のガラスレンズを単独で使用した場合、光の波長、つまり色によって収束する位置が異なります。これが色収差(色ズレ)として現れ、画像がぼやける一因となります。このためカメラレンズなどでは何枚かのレンズを重ねることで色収差を補正し解像感ある画像を得ています。
SEASの平面レンズの場合は、構造的に1枚だけで対応するすべての色域を色収差なく集束可能なので、レンズ部分を非常に軽量コンパクトにまとめることができます。
もちろんフラットレンズで可視光全体を扱うには、対応する波長を390~700nm前後にまで広げる必要があるため、現状ではまだカメラレンズなどへ応用できる段階にたどり着いていません。しかしひとたびそれが実現したならば、例えばスマートフォンに内蔵するような小型のカメラでも(少なくともレンズに関しては)一眼レフのような解像感が得られるようになるとのことです。さらには大型の望遠レンズや天体望遠鏡など、あらゆる光学系デバイスは考えられないほど小さく高性能なものに置き換えられていくことになるかもしれません。
なお、SEASの平面レンズの製造方法は、ナノインプリントリソグラフィの技術と互換性があり、まるで半導体プロセッサーを作るように大量生産が可能とのこと。ハーバード大学は、このフラットレンズ技術の特許を出願するとともに、専門のベンチャー企業設立のための準備を進めています。