ソニー・ミュージックエンタテインメントが、所有する録音スタジオにアナログレコードのカッティングマシンを導入すると発表しました。近年盛り上がりを見せるアナログレコードの再興にともない、レーベルの垣根を超えてアナログ盤の制作にも対応をはかっていくとのこと。
DJ人気の盛り上がりから、大物アーティストがバックアップするレコードストア・デイの開催、さらにハイレゾ音源の普及とともにその音質も再評価されているアナログレコードは、ここ数年着実に売上を回復しています。特に英国では2016年のレコード販売が25年ぶりの高水準となり、アナログレコードの売上が音楽ダウンロード販売を上回るという信じられないようなニュースも流れました。
一方、レコードの再興とともに新たな問題として浮かび上がっているのが、世界的なプレス工場の不足です。アナログレコードを製造するにはプレスマシンが必要ですが、現代ではマシンそのものが老朽化して故障が増え、せっかくの需要に対して供給も収益も性も追いつかないという事情もあったりします(日本でも現存するプレス工場は1社のみ)。
しかし、音楽ファンのアナログ人気はまだまだ衰え知らずで、最近ではApple Musicなどのストリーミングで「試聴」してからアナログ盤を買うマニアも増えているのだとか。とすれば、音楽スタジオとしてもカリカリのデジタル制作だけでなく、より高音質なアナログ・レコード制作体制を整えるというのは方向性として正しそうです。
ソニー・ミュージックエンタテインメントがソニー・ミュージックスタジオに導入するのはプレスマシンではなく、その前段階に必要となるカッティングマシン。アナログ盤プレス用のカッティングマスターを作るための機械で、のっぺらぼうな状態の金属盤に音の情報を刻み込んで、原盤とするのがその役割です。
プレス工場ではなくスタジオにカッティングマシンを置く利点は、ミックスしたての音源をののままカッティングしてマスター化できるところ。スタジオ側ではすでにエンジニアがマスタリング技術を習得済みで、デジタル音源の制作技術との融合により「進化したアナログ音源の制作」に対応可能とのことです。
アナログレコードには収録された音を聞くだけでなく、その回転する様子や、オブジェとしてのジャケットといった、ストリーミングやダウンロードにはない楽しみもあります。スタジオへの高性能なカッティングマシンの導入はいろいろと特殊仕様なレコードの制作も期待できるかもしれません。
[Images: Sony Music Entertainment, Jules Annan / Barcroft Media via Getty Images]