北極から約800キロ離れた先、カナダ北部の準州ヌナブトのエルズミア島に「アラート」というコミュニティがある。永住人口がある場所としては世界最北だ。
最も近い人口集中地域は南に540キロほどいったグリーンランド。カナダ国内となると、2000キロも離れている。アラートは北極にとても近く、軌道が地平線の下に隠れてしまうため、通信衛星に接続できないという。
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image credit:Johannes Zielcke/Flickr
4か月間太陽は沈まない。10か月間は雪で覆われている。
アラートでは気候も過酷だ。4ヶ月間は暗闇に包まれ、4ヶ月間は太陽が沈まない。太陽が沈まないと言っても、正午でも地平線より30度以上高く登ることはなく、土地は常に凍っていて、1年のうち10ヶ月は雪で覆われている。もちろん、冬は極寒で気温は常に氷点下30度。夏のピーク時でも、気温は数度にしかならない。
氷と雪に覆われた遠隔地だが、一年を通してここで暮らしている人たちがいる。
とは言え一般市民ではない。ここにいるのは、カナダ軍基地の無線諜報の通信傍受施設を維持するためのカナダ陸軍と、カナダ環境省の気象観測所と全球大気監視(計画)の2つの研究所で働く科学者たちだ。彼らのようにこの土地で暮らす人たちは通称「選ばれし凍える者」と呼ばれている。
アラートのウェルカムサインの前に立つ米国大使のジェイコブソン氏。image credit:US Embassy Canada/Flickr
アラートの歴史
アラートという名前はHMS(国王/女王陛下の船)「アラート」に由来している。1875年から76年にかけてこのイギリス船はアラート付近で野営をした。
船長のジョージ・ネアズと船の乗組員はエルズミア島の北端に到着した史上初の人類であるという記録が残っている。
1950年になると、アラートに気象観測所が設立、その8年後には軍の駐屯地として選ばれた。冷戦時、北アメリカ内でソビエトの北西部に最も近かった、唯一の場所がアラートだった。
ヌナブト、アラートのデンマークの犬ぞり警備隊。image credit:US Embassy Canada/Flickr
事実、アラートからモスクワまでの距離は4,000キロメートルで、カナダの首都であるオタワまでは4,150キロメートルである。このことからも、アラートは戦略的にとても重要な位置にあった。
ソビエトに近接していることにより、「五つの目」として知られる米国、英国、カナダ、オーストラリア、ニュージーランドの諜報機関で構成される国際諜報同盟が、ロシアの通信網を盗聴することができた。この施設はその後、米国が人工衛星を使って各国の通信情報を傍受しているとされる世界規模情報盗聴システム「エシュロン」ネットワークの大切なカギとなったのだ。
ヌナブト、アラート近くのトレーニングキャンプ image credit: US Embassy Canada/Flickr
アラートでの活動が最も活発であった時期には、1度に配置される要員も215人を超えていた。しかし、1990年代に予算が削られると縮小され、最大で74人となっている。それでも、夏の間の人口は100人を超える。
アラートでの暮らし
2004年11月14日発行の新聞記事に、アラートでの生活の様子が記載されていた。
兵士たち(多くはボランティア)は6ヶ月間駐在し、任務を行う。任期の間には3週間の休暇がある。今日のご飯はこれまでで一番美味しかった。いろんな部屋にあるテレビでは、ライブ放送のチャンネルが4つあり、ステーションにある4,500個のビデオやDVDが流れているテレビが4つある。
基地のCHAR-FM 105.9 ラジオのクイズ番組も人気だ。また、ステーションにはレクリエーションがたくさん用意されている。ジムは2つあり、暗室、ボーリング場や映画館もある。
夕方になると、マルチプレイのゲーム、木工、備後、トランプ、クイズなど、たくさんのプログラムが開催されている。たいていの要因は自らここに来ることを志願する。潜水艦内のクルーみたいに、隔離された特異性のあるアラートでは人々は自然と仲良くなる。そして、50年の歴史を持つ「選ばれし凍える者」というニックネームも獲得できる。
ここでは輸送は空輸に頼るしかない。毎年、カナダ空軍は約225回のヘリコプター輸送を行う。運ぶのは200万リットルの燃料と300トンの貨物。さらに、毎週物資が運ばれ、年に2回は一番近くにある深水港、グリーンランドのチューレからの大規模な輸送がある。
しかし、空輸には問題もある。再供給フライトは日常的に24時間の遅延が発生し、輸送がキャンセルされてしまうこともある。大抵のケースで、カナダのハーキュリーズ(大型輸送機)C-130航空機が機械系統の問題で運航停止となったり、軍内の優先順位により別の場所に回されたりするのだ。
軍医によると、多くの人はここに到着してから体重が増加するという。隔離に耐えきれない人たちも、この地を踏む前に予め排除される。
2004年に基地の准尉であるセルジュ・ウレット氏はアラートでの生活について、こう述べている。
「ここは素晴らしい場所です。でも、絶えず何かをして忙しくしている必要があります。また、隊員には任務外の時間でも周りの人たちと交流を取るように勧めています」
ヌナブト、アラートの雪上車
image credit:US Embassy Canada/Flickr
1950年の飛行機事故で亡くなった人たちへの追悼台
image credit:jasonbelliveau/Flickr
1950年の飛行機事故で亡くなった乗組員のお墓。
遺体はアラートに埋められた。
image credit:JEROME LESSARD/Flickr
飛行機の残骸。アラートでは3回の墜落事故が起きている。
この写真はどの事故のものかは分からない。
image credit: Andrew Johnson/Flickr
氷の結晶
image credit:Andrew Johnson/Flickr
霜の花
image credit: Johannes Zielcke/Flickr
アラートに生息する植物
image credit:Johannes Zielcke/Flickr
午前2時の日の出
image credit:jasonbelliveau/Flickr
image credit:google map
via:Alert: The Most Northern Settlement in The World
前回世界で最も寒い定住地としてロシアのオイミャコン村を見ていただいたが、こちらは一般市民が定住しているわけではなく、あくまでも軍事と研究拠点として利用されているようだ。「選ばれし凍える者」という称号がかっこいいので希望者が多いというのもうなずける。居住環境もそこまで悪くなさそうだしね。
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コメント
1. 匿名処理班
選ばれし凍える者だったのに!
2. 匿名処理班
選ばれし凍える者…かっこいいな…
でも大変そうだなぁ
3. 匿名処理班
炎の英雄 シャープには選ばれし者と言われる精鋭ライフル部隊が
活躍するけど、こちらは氷の世界での選ばれし者
もしリアルでシャープ中尉いたりしたらびびるな