騎士団長殺し 第2部 遷ろうメタファー編 [ 村上 春樹 ] |
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24日、人気作家・村上春樹氏の長編小説『騎士団長殺し』(新潮社/以下、本作)が発売された。村上氏の4年振りの長編小説となり、すでに発売前から累積部数が130万部に達するなど、ファンの期待の高さがうかがえるが、その内容について早くも賛否両論の意見が飛び交っているようだ。
「村上氏の作品としては、『1Q84』(同/2009〜10年)や『世界の終わりとハードボイルド・ワンダーランド』(同/1985年)と比べると、正直に言って“駄作”という印象です。『1Q84』は主人公が三人称で、複数の物語が同時に進行する“平行世界=パラレルワールド”が柱になっており、文体が浮遊している不思議な感覚を読者に与えます。一方、本作の主人公は一人称で語られる『私』で、文体も突飛ではなく落ち着いています。主人公は画家で、絵画をモチーフとした“絵画小説”といえますが、同じジャンルの名作として、村上氏も影響を受けたと公言している作家、夏目漱石の『草枕』が挙げられます。実際に本作のなかでも、随所に『草枕』を思い起こさせる部分が散見されます」(出版業界関係者・A氏)
また、同じ絵画小説として、仏小説家ミシェル・ウエルベックの『地図と領土』を喚起されられたとA氏は言う。
「『地図と領土』内では、作中にミシェル本人が登場して、主人公に自身の肖像画を制作するよう依頼するが、完成前にミシェルが殺されるという場面があります。『騎士団長殺し』のなかでは、『私』が絵画から飛び出してきた“イデアとしての騎士団長”を殺すシーンが出てきますが、『地図と領土』とは非常に対照的だと感じました」
別の出版業界関係者・B氏は、本作をこう評価する。
「正統的な古典文学という色合いが強く、逆に言うと真新しい表現や世界観、衝撃は感じられませんでした。自分が持っている素材や世界文学の潮流を、職人技でうまくまとめたという印象です」
そしてB氏は、本作のテーマは「子ども」ではないかと推察する。
「『免色さん』の過去の女性が生んだ子どもを、『免色さん』が自身の子どもかもしれないと思い接触したり、『私』の妻が別の男性との間にできた子どもを、離婚せずに『私』と妻の子どもとして育てていくことを選択したりと、『子ども』という要素が物語全体を通じて重要な役割を果たしています。
そしてもう一つのテーマは、本作の副題が『第1部 顕れるイデア編』『第2部 遷ろうメタファー編』となっているとおり、『イデア(理想)』と『メタファー(暗喩)』ではないか。たとえば、『私』は長い間、妻と肉体関係はないが、夢の中では妻と行為を行ってきたため、妻が別の男性との間でつくった子どもを『メタファーとしての子ども』と理解して受け入れる決断をしたとも読めます。また、『私』が、絵画から飛び出てきた騎士団長から『自分は要するにイデアなのだ』『さあ、私を断固殺すのだ』と言われ実際に殺す場面は、『私』が新たな人生を迎えるためには、これまで自分を縛ってきた“自分のイデア=理想”を自分で殺さなければならない、ということのメタファーではないでしょうか」
●“静謐な作業”
このほかにも別の出版業界関係者・C氏は本作をこう評価する。
「村上氏はかつて、小説を書くときは自分の中にある“物語のたまり”に降りていって、そこから物語を拾いながら無意識の内に作品を執筆していると語っていますが、まさに本作では村上氏のそうした“静謐な作業”を感じました。オリジナリティというより、村上氏の中にたまった膨大な情報や過去の作品を参照しながら執筆されたという印象です。『1Q84』は、冒頭の一文にオーラを感じるほどの衝撃がありましたが、本作は一貫して“静”が漂っている点も特徴といえるでしょう」
C氏よれば、村上ファンの間でも本作への評価は分かれるのではないかという。
「大雑把に言えば、村上氏の作品は『ノルウェイの森』(講談社)、『女のいない男たち』(文藝春秋)、『色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年』(同)のようなリアリスティックなものと、『1Q84』や『世界の終わりとハードボイルド・ワンダーランド』のようなファンタジー色の強いものの2つに分類されます。本作はどちらかといえば後者の系譜につらなるものなので、前者が好きなファンにとっては、少し物足りなさを感じるかもしれません」
ファンの間でも、さまざまな評価や感想が出ているのかもしれない。
https://gunosy.com/articles/alPcP
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