思考とは不思議なものだ。会社に向かいながらふと、頭の中にコモドドラゴンが湧いてきたり、買い物中に「ここWIFI飛んでるなぁ〜」などと、お笑い芸人のネタを思い出したりする。 こうして時折、予想もしない考えに見舞われながらも、その考えはすっと消えていき、日常はいつも通りに続いてゆく。
だがこれこそが正常な脳の働きなのである。そうでないのが強迫性障害(きょうはくせいしょうがい:OCD)の人々だ。
強迫性障害は精神疾患の一種で、ある考えにとり憑かれ最後、その考えが頭から離れなくなる。無駄だとわかっていても何度も同じ行為を繰り返してしまう。その為、神経質とか完璧主義者などと言われることも。
では、その患者は単なる神経質な完璧主義者なのだろうか?
強迫性障害に関して詳しく紹介していた海外サイトがあったので見ていくことにしよう。
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日常の生活に支障をきたす場合には強迫性障害の可能性が
精神疾患としての強迫性障害と診断されるのは、その人が強迫観念や衝動強迫のために日常生活に支障をきたすような場合のみだ。
強迫観念(きょうはくかんねん)とは、本人が不合理であると自覚しているが、取り除けない侵入性の思考や心配のことだ。また衝動強迫(しょうどうきょうはく)とはどうしても止められない儀式(心理学でいう病的に繰り返される行為のこと)のことだ。
強迫性障害だった発明家、ニコラ・テスラ
期待されるようなイメージは大げさで、奇抜なものだが、実際の症状は少々退屈かもしれない。強迫性障害のエキセントリックなイメージが出来上がったのは、19世紀の発明家ニコラ・テスラのせいではなかろうか。
彼は細菌、髪の毛、丸いものに強迫的な恐怖を感じていた。また建物に入る前にブロックの周りを3回回ったり、3の倍数のものを受け取ったりと、3に関連する奇抜な儀式を行っていた。誰もが特定の数字にこだわるわけではないが、細菌への恐怖から生皮が出るほど手を洗うなどの儀式は、強迫性障害の患者によく見られるものだ。
外からはわかりづらい純粋強迫性障害
病気の象徴のようにも思われるこうした儀式だが、外からはなかなか分からないものもある。これは純粋強迫性障害と呼ばれ、一見して分かる儀式は行わない。しかし、これは最も重度な症状の1つで、患者は一般に自分のアイデンティティについて暗い心配や疑いを抱いている。
例えば、赤信号で車を停止した人が、道路を渡る歩行者を見て、「アクセルを踏んだらどうなるだろうか?」と考える。普通の人ならふと浮かんだ考えに肩をすぼめて終わらせるだろうが、純粋強迫観念を持つ人は、自分がサイコパスなのではないかと疑い始める。
患者は強迫衝動的に心の状態を”チェック”するために、似たような考えがまた浮かばないかとドライブに出たり、自分がシリアルキラーに共感するのではないかとホラー映画を見たりする。
実際は、そうした妄想は患者の性格や行動とは真逆なのだが、本人は自分がサイコパスではないと確信を持つことができない。また人を傷つけようとする強迫観念が本心であると誤解されることを恐れ、病院に行くことができない。
自分の思考を自分のものと思えない
神経科学の博士号を持つベストセラー作家サム・ハリスは、私たちは自分の思考の作家ではないと強調する。
思考しているとき、紙に記述するか、新しい言葉を学んでいるのでもない限り、私たちは心に浮かぶ単語やイメージを意識的に選びはしない。
そんなことをしていたら時間がかかって仕方がない。また思考や単語が心に浮かんだ理由も理解できない。それなのに人は自分の思考は自分のものだと感じている。では、強迫性障害の患者が思考を自分のものと思えない原因は何だろうか?
大脳基底核の不具合
強迫性障害とよく関連づけられるのは大脳基底核(だいのうきていかく)という部分だ。これは大脳皮質の下に隠れており、それが間違いを犯さない限り、私たちはその存在に気づくこともない。
大脳基底核は不随意運動を起こすような運動障害の文脈で最もよく理解されている。例えば、片側バリスムス(片側バリスム)という病気では、体の片側に激しく手足などを投げ出すような症状が現れる。このとき大脳基底核は視床という部分とうまく連携できていない。視床は随意運動を制御する運動皮質に信号を送り、大脳基底核、視床、大脳皮質のループを完了させる。しかし大脳基底核がうまく機能しない場合、随意運動を適切に開始し、停止することができなくなる。
実は大脳基底核と視床は、運動皮質の他にも前頭前皮質ともループを形成する。前頭前皮質は計画・思考・意識に関連している。ということは、大脳基底核が望ましい思考を促進し、望ましくない思考は抑制するという役割を果たしているのかもしれない。
こう考えると、強迫性障害は認知における片側バリスムスと言えるだろう。
この説の証拠として、皮質の脳活動と大脳基底核の活動との相関は、強迫性障害患者と健康な人とでは違うことが挙げられる。さらに強迫性障害の症状は、視床下核という大脳基底核の一部を刺激することで改善する。重症度と刺激による改善のどちらも、視床下核における神経の発火に関連している。
神経撮像で強迫性障害の患者と強迫性パーソナリティ障害の患者の大脳基底核を比較しても、この仮説の裏付けが得られる。どちらも強迫観念と衝動強迫があるが、後者の場合は侵入性の思考や儀式はなく、それが性格の一環として現れる。このことは大脳基底核がそれぞれの症状において異なる役割を果たしていることを示唆している。
我々が思考を制御しているのか?思考が我々を制御しているのか?
私たちは考えや行動の手綱を自分できちんと握っていると考えたがるが、その黒幕は脳の中にいる。サム・ハリスは私たちが思考を制御できないことを挙げて、自由意志などないのだと論じている。
脳が生物コンピューターであると見れば、ハリスは正しい。一方、哲学者で認知学者のダニエル・デネットは、自由意志を「欲しがる価値がある」と評する。つまり、思考や行動が自身のアイデンティティや主体性に一致したときの心地よさだというのだ。強迫性障害の患者はこの一致感を自力で味わえないということだ。
via:What is Obsessive Compulsive Disorder?/ translated hiroching / edited by parumo
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コメント
1.
2. 匿名処理班
そりゃそうだろ
心が無意識に反応してしまうもは止められない
抑えこむより何故そうなってしまうのかを理解することから始めないとな
3. 匿名処理班
かっちゃいるけどじゃなくて分かっているからやめられないんだ本当にやめたいのならやめてるはず
4. 匿名処理班
世界のナベアツやな
5. 匿名処理班
危険な物を扱う仕事をする人(研究者など)だと確認することが多いのが原因なのか
強迫性障害の人の割合が(自分が見てきた中で)多いような気がする。
そういう自分も研究職で安全の為に確認する事が多い関係上、
おかしいと思って精神科行ったら強迫性障害になるかならないかの状態だった。
チャックリストや写真を撮ることは(安全面では重要)不安を解消するどころか
逆に悪化させることに繋がる(事故防止では重要)こともあると言われ
これ以上悪化しないために、一つの事で確認する回数は3回まで、大丈夫かどうかを
考えれば考える程不安になるから考えないことを言われた。
6. 匿名処理班
サラリーマン時代の上司がそうだった様な感じがしますね。
製作中の部下のデスク上に飲み物が置いてあるだけで、
「それが倒れてマシンに掛かったらどうする!」と怒鳴り、
統合テストの前日にはイライラが絶頂に達し、
「今日は全員会社に泊まれ!」と無茶苦茶な事を平気で言い出し、近くのホテルに宿泊した部下には一時間おきに
「明日は本当に大丈夫なんだろな?」と電話。
それでもって、自身が頼まれたデータベース処理は部下に任し、それを後回しにしよう物なら「俺だったら20分で出来る。この給料泥棒が!」と怒鳴り散らす最悪な人でした。
見ていて可哀想なほどエキセントリカルな言動が多かったのは、やはり心の病だったのかな?若くして亡くなったと聞いたのはその企業を自主退社してから2年後でしたが、その間に辞めた部下の数は30人は下らなかったそうです。
死因は誰も語りたがりません。あの会社に何が有ったんだろうか…
7. 匿名処理班
かれこれ10年以上、この病気
洗浄強迫ってやつで手洗いまくる症状
日常生活もまともに出来ないから辛いよ
8. 匿名処理班
本のカバーやページの痛みが気になって結局同じ本を何冊も買ってしまう
これもどうやら強迫性障害らしい
昔は買う度に罪悪感を覚えてたけど、精神安定の為の薬代だと考えるようになってからは買うのがやや平気になった
最近は敢えて雑に扱ったりして本をもう一冊買わなくても我慢できるように習慣付けてはいる。まあ、それでも買っちゃうけどね
9. 匿名処理班
外出時、玄関の鍵がきちんと閉まっているか気になって引き返してしまう
他にも、寝る時は目覚まし時計と携帯のアラームの2つをセットするのだけど、うとうとしてても両方がちゃんとセットされてるかふと不安になって、わざわざ電気をつけて確認してしまう
鍵をかけたor目覚ましをセットした時点で既に一度は確認した記憶&自覚がしっかりあるのに、それでも「もしかしたら」と考えてしまうんだよね
おかしいよね
10.
11. 匿名処理班
ハリス氏は元も子もないこと言ってるね。言うのは勝手だけど、病人増やすようなアイデンティティ否定するようなこと言ってどうする(笑)
12. 匿名処理班
今はレキソタンあるでしょ。あほみたいにきいて眠気がこない
13. 匿名処理班
子供の頃に嫌いな習い事を無理矢理やらされてから手洗いが止められなくなり現在に続いている
14. 匿名処理班
目の前で貧乏揺すりされたら少しイラッとしませんか?
仕事してたら、ペンわカチカチ鳴らしながら後ろに立たれたらイラッとしませんか?
僕の場合は、わさとされている事を嫌がらせと認識してますねん。
まあ、最近はキレませんけどね。
いつまでも収まらない。 しつこいんですよね。
15. 匿名処理班
今はそこまで問題ないけど一時期は相当やばかったな
家の鍵閉めたか不安で何度も行き来するのは当然だったけど、電気も心配で外出の際は冷蔵庫含む全てのプラグ抜いて更にブレーカーも落とした。
他にも色々あるけど、一番不味いと思ったのは一人で車運転してる時か。
信号渡って当然青だったんだけど、「本当に青だったか?」と不安にかられて家の鍵に同然に確認に戻りたくなる。
まぁ戻ったところで自分が渡ったときに青だったかなんて分かりようも無いんだが…。
横断歩道とかを横切った後も「あそこで人轢いてないよな?」とか不安でしょうがなかった。
自分一人でなく助手席に寝てようが何してようが誰かいれば問題なかったんだけどね。
16. 匿名処理班
電気を消したか気になって大袈裟じゃなく1日200回は確認してたわ。
17. 匿名処理班
俺も手洗いで1日ヘトヘトになったり駅のホームで悪戯に人を線路に落とすんじゃないかと怯えたりする。
そんでこれが障害だと知ってから色々な精神的対策を練って来たんだけど、1番効果的だったのが瞑想(延々と湧き上がる思考を眺め続ける)だった。
慣れるまでは何度も思考に惑わされるけど、慣れてくると頭に静寂を作れる様になる。
悩んでる人は是非やってみて欲しい。
18. 匿名処理班
とある数字やひらがなを、メールのとき極力使わないようにして、どうしても使う場合は打ち消すための行動をする。この他にも意味のないマイルールが多すぎてたまに苦痛に感じるけれど、これってもしかして強迫性障害?それともこれくらいの強迫観念だったらみんな持ってる?
19. 匿名処理班
>患者は強迫衝動的に心の状態を”チェック”するために、似たような考えがまた浮かばないかとドライブに出たり、自分がシリアルキラーに共感するのではないかとホラー映画を見たりする。
うわあああこの通りではないにしても似たようなことにめっちゃ心当たりがあるううううううう
20. 匿名処理班
祖父からの虐待で不潔恐怖になった
祖父が寝たきりになってからは若干マシになったけど
一生治ることはないと思う
21. 匿名処理班
この時期だと暖房だったり 鍵だったり・・・
外出時は一回もどっちゃうしなあ
病院に行くべきかな