地球上の生物の感覚の中で重要なものの一つに聴覚がある。空気中の振動を拾い上げ、それを音に変える感覚だ。聴覚があるゆえに、音楽を楽しんだり、会話を交わし、危険を知らせる音を感じることができる。
空気の振動を音に変換する仕組みは、控えめに言っても驚異的だ。だが非常に心地良い音があるのに対して、中には神経を逆なでするような音もある。
これらの音は人類が苦手とする10のものである。もちろん人によっては許容範囲内なものも含まれているが、一般的に耐えがたいとされているものだ。ミソフォニアの人にとっては嫌悪感で気が狂わんばかりのものもあるかもしれない。
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10. 黒板を爪で引っ掻く音
ASMR scratching with my long natural nails on chalkboard
これをワースト1に挙げたい人もいるだろう。なぜ、これほどまでに不快なのだろうか?
この音は2,000Hzから5,000Hzの中程度の周波数に属している。この周波数は、その形状ゆえに人間の耳によって増幅される。
これについては進化が関連しているという説もある。事実、霊長類の警告音もこの周波数にあり、それがおそらく他の音よりも大きく聞こえる理由かもしれない。
だからといって、その不快さまでは説明しない。2011年の研究によれば、文脈が重要な役割を果たしているという。
実験では、被験者の心拍数・皮膚電位・発汗を計測しながら、不快な音を聞かせ、それぞれの不快度を評価してもらった。このとき半数には音源を伝え、もう半数にはコンテンポラリー音楽の一部だと伝えてあった。すると生理的な反応はまったく同じであるのに、前者の方が不快であると評価する傾向にあった。
つまり、その音自体が嫌だというよりは、心がそれを不快だと感じさせているのである。
9. くちゃくちゃとものを食べる咀嚼音
Human Noisy Chewing Sound Effect
くちゃくちゃ食べている人が近くにいると、それだけで食欲がなくなるという人もいる。ミソフォニアという咀嚼音を聞いて、怒りのあまりその人を殴りたくなるような病気まであるくらいだ。
これは2000年初頭に耳鳴りを調査する研究者によって作られた造語だ。ミソフォニアの人は咀嚼音以外にも、呼吸音、指なり、あくび、いびき、口笛など、繰り返す音を特に嫌がるそうだ。
ミソフォニアの症状が中程度の人は、こうした音に晒されると不安感・嫌悪感・不快感を感じて、その場から立ち去りたくなる。重度になると怒り・憎しみ・パニック、さらには殺意や自殺衝動まで覚えることだってある。
当然、こうした人は社会生活に支障をきたす。人との出会いを避け、食事は独りで摂る。完全に家に引きこもってしまう人もいる。その原因はあまり理解されていないが、軽度のミソフォニアならかなり多くの人が患っていると推測され、不安症・鬱・強迫性障害との関連も指摘されている。
通常9〜13歳頃にその兆候が見られ、女の子に多いらしい。独立した病気なのか、他の病気の副作用なのかもよく分かっていない。
8. イアワーム(頭から離れない音楽)
Queen - Bohemian Rhapsody (Official Video)
壊れたレコードのように頭の中で何度も何度も同じ曲を繰り返してしまったことはあるだろうか? 最悪なのは、曲全体ではなく、ごく一部だけが延々と繰り返されてしまう場合だ。それがイアワームだ。
その原因はストレス・変性感情状態・上の空・言語記憶の連想などが複雑に関与している。それらのせいで『ボヘミアン・ラプソディ』の冒頭の「ママァ〜♪」が脳内で何度もリピートされるのだ。
どうだろう、あなたは今『ボヘミアン・ラプソディ』が耳から離れなくなっているのではなかろうか?
コーラスは特に記憶に残り、不快なイアワームとなる。それを停止させる方法は不明であり、ゆえにコーラス部分だけが何度も何度も繰り返され、できもしないのにどうにか止めようと苦しむことになる。
それはある意味、不随意的な聴覚上の空想と言えるだろう。ごくありふれた現象だが、休んでいる脳が作り出す単なる副産物なのか、それとも何らかの重要な役割があるのかどうかは分かっていない。
分かっていることは、小説に夢中になるなど、言語タスクに没頭すると消える傾向にあるということだ。また作業が複雑すぎないことも大切だ。さもないと、あなたは再び上の空になってしまうからだ。
7. 赤ちゃんの泣き声
Baby Crying Sound Effect
私たちは、赤ちゃんの泣き声に他の何よりもすぐに注意が向くようにできている。ある研究によると、赤ちゃんの泣き声は直ちに脳内に激しい反応を引き起こすという。
特に感情処理・会話・闘争逃走反応を担う領域や様々な感覚の報酬中枢において顕著である。早すぎて、最初は脳がその重要性すら認識しないほどだ。
この研究の被験者は、大人や動物の泣き声も含めた、一連の音に晒された。だが、どれも赤ちゃんの泣き声ほどの反応は起こらなかった。
しかも被験者の中に子供がいる者や育児経験のある者はいなかった。つまり親であるかに関係なく、誰もがこの音に対して反応してしまうということだ。
面白いのは、赤ちゃんの泣き声を聞いた後、身体的パフォーマンスや反射速度が上昇することである。つまり飛行機内で赤ちゃんの泣き声を聞いてしまえば、あなたは図らずも警戒モードに入ってしまうということだ。が、その子の親ではないあなたには何もできない。これがフラストレーションの元になるそうだ。
6. ブブゼラ
Vuvuzela, The most annoying sound in the world
ブブゼラは1910年、南アフリカのナザレ・バプティスト・チャーチの創始者アイザイア・シェンブによって発明された。もともとは藤で作られ、教会の儀式の最中にアフリカドラムと一緒に演奏するものだった。
しかし1980年代に南アフリカで開催されるサッカーの試合に登場。90年代になるとプラスチック製のものが大量生産され、同国のサッカーには欠かせないものとなる。そして、ついに2010年のワールドカップで世界各国へと飛び火した。
外国人には物珍しさもあり、すぐに他のスポーツにも持ち込まれるようになった。だが、その人気は儚いものだった。
プロのトランペット奏者が試したこともあった。大勢のサッカーファンがスタジアムで吹き鳴らしたこともあった。
しかし、怒れるスズメバチの大群の羽音の如きあまりの音量のために、一時的な難聴になる者まで現れた。その音はテレビの視聴者の神経まで逆なでする。FIFAはブラジルワールドカップではブブゼラの使用を禁止した。
5. 嘔吐の音
Vomit sounds
もらいゲロという言葉がある。他人がえずいている姿を見て、自分も気分が悪くなってしまうのだ。まさに私のことである。
ゲロをもらいがちな人は脳がそういう風できており、変えることはできない。だが良い知らせもある。もらいゲロをする人は他人の気持ちが分かる人物なのだそうだ。
ゲロをもらいがちな人の脳は”ミラーニューロン”が発達しているそうで、これが他人の気持ちをコピーしてしまうのだという。
人が自分を進化した人間だと感じられるのは、このミラーニューロンのおかげだ。他人の吐き気を感じ取る能力とは嫌なものに思えるかもしれないが、これがいつの日かあなたの命を救うかもしれない。
実はここには進化上の理由がある。まだ人類が数十人程度のごく少数のコミュニティで暮らしていた先史時代、誰かが嘔吐すれば、それはその人が何か腐ったものでも食べてしまった可能性があり、他の仲間も同じものを口にしていた可能性が高いということだった。そこでミラーニューロンは予防線を張るために、それを見た者にも吐かせようとしたのである。
4. 他人の口論
I Married the Wrong Twin // Jerry Springer
先のアメリカ大統領選挙では、多くの人々が意見を二分し、そこかしこで議論を戦わせていた。テレビの中の出演者の口論を聞いている分にはまだいいが、家族やルームメイトたちが、「皿洗いの当番は誰か」だの、「トイレの蓋は下げてくれ」だの言い始めたら、耳障りなことこの上ない。場合によっては同意まで求めてくることがあるのだからたまらない。
内輪もめがうっとうしい理由は、子供時代、親がどう口論を扱っていたかに起因する。子供は10代になっても、親の喧嘩に非常に敏感だ。
問題は実は口論自体ではなく、その結果だ。
家族の口喧嘩が子供に与える影響を研究した心理学者によると、それは生産的にもなるのだという。子供は、口論を通じて以前より良い結果を導き出す両親の姿を見る必要がある。そうすることで、争いを解決する方法・受容・妥協の意味を学ぶことができる。しかし、それを見ないで育った場合、争いへの恐怖から可能な限り避けるようになる。
3. 電話から漏れてくる声
CELL PHONE CRASHING at the AIRPORT!
1880年、マーク・トウェインは『A Telephonic Conversation(電話の会話)』というエッセイを執筆した。これはグラハム・ベルが電話を発明した4年後のことだ。
トウェインはエッセイで、1人の声しか聞こえない電話の会話が第三者にどのように聞こえるのか風刺している。その苛立ちは現代人にも分かるだろう。実は人間の脳は状況を予測するようにできている。
そのため意識しているか無意識であるかを問わず、私たちは他人の会話を聞き、そこに参加しなくても、相手の反応を予測している。
これは”心の理論”に関連する。この理論は、私たちは内観によって自分の心にアクセスし、その類推や比較から他人に共感すると説明するものだ。そして私たちはそれが非常に得意である。中には他人が話している速度とほぼ同じ速さで、その話者の話す内容を繰り返す人すらいる。
しかし無作為な言葉に遮られ、会話の展開が読めなくなると、脳は予測に苦労するようになる。これが大きなストレスとなる。だからこそ、一方の声しか聞こえない電話の会話はイライラするのである。
2. ツバを吐き出す音、咳、鼻すすり、おなら
Bad coughing and spitting
いずれも非常に不快な音であるが、そこには社会的な要因がある。例えば、おそらくイギリス出身の人は南アメリカ出身の人よりも強い不快感を示すだろう。それは文化的な違いのためである。
同様に、年配の人の方が不快感を示すかもしれないが、それは彼らの方が公共の場でそうした音を鳴らすべきではないと躾けられてきたことをほのめかしている。また彼らの性的欲求がいくぶん低下したことも原因として考えられるかもしれない。専門家はこれについて今も議論を交わしている最中だ。
別の理由として、それが分泌や排泄を表す音であるということも考えられる。これはしばしば病気を連想させるため、こうした音を聞いた人が思わず後ずさる理由を説明するかもしれない。
ある研究によると、年齢を問わず、男性よりも女性の方が強く不快感を示すという。それは伝統的に女性が自分自身と子供の2人を守らねばならなかったことと関連するかもしれない。無論、社会的立場が影響している可能性もある。
1. 悪名高いブラウンノート
The Brown Noise
この低周波は5〜9Hzで、人間の可聴域よりも低い。しかし十分にボリュームが大きければ、振動が体感できるだろう。
実はこのノイズは人に脱糞させるのだ。実にイラつかせてくれる話だ。ブラウンノートについては、1955年のXF-84H”サンダースクリーチ”戦闘機にまつわる逸話がある。
これはターボプロップエンジンと超音速プロペラを搭載した試作機であるが、このプロペラのせいで酷い騒音を立てた。これが原因で、周囲のスタッフに悪心や酷い頭痛を与えた他、肛門まで動かしてしまったのだ。
結局、衝撃波によって数人の怪我人が出たことでプロジェクトは中止された。おそらく史上最もうるさい飛行機である。その騒音は40キロ先まで響き渡ったという。
via:10 Most Annoying Sounds in the World/ translated hiroching / edited by parumo
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コメント
1. 匿名処理班
自分は発泡スチロール同士をこすり合わせる音が駄目だわ
2. 匿名処理班
俺、マジックテープ剥がす音が我慢ならないほど嫌いなんよ
あの音嫌いって人、他にもおらんもんかな
3. 匿名処理班
イアワームと言えば鋼鉄ジーグ
うっかり聞くとババンバンが止まらなくなる
4. 匿名処理班
やめろおぉーーーーーーーーっ!!
5. 匿名処理班
統合失調症で引きこもりの俺には外から聞こえる音全てが恐怖だわ
6. 匿名処理班
音っていうより、それを発している行為自体にも嫌悪感を感じる
7. 匿名処理班
このページに無かったんだけど、発泡スチロールがこすれ合うあのキュルキュル音が、もうダメなんだよな〜
黒板とかブラウンノートとか今試した限りだと結構平気なのに、、、、
8. 匿名処理班
今回の動画、音をちゃんと出して再生した勇者はいるのかな。僕は小心者なので恐れ多くて読むだけにしたけど
9. 匿名処理班
義務教育に取り入れてくれればいいんだよ
「クチャラーは人前で飯を食うべからず」
ってさ。
あと、砂場に置いてある猫避けの音が出るやつ、あれもきつい
10. 匿名処理班
毛糸というか繊維をむしる音が苦手な奴いないか
自分だけか
11. 匿名処理班
段ボールとかに油性マジックで書いた時の音
12. 匿名処理班
夏の蚊やハエなどの害虫の音
どうせ鳴らすならお邪魔します〜とかオペラでも
歌いながら飛んでくれよ。でもそれはそれで嫌だ
13. 匿名処理班
ブラウンノート
…便秘で苦しいときに試してみたい気もする…
14. 匿名処理班
舌打ちがムリ
15. 匿名処理班
便秘症なので最後の奴だけ活用させて頂きます
16. 匿名処理班
俺はあれが駄目、インクの切れかけたマジックで紙に字を書く音。
黒板の音は、学生だった頃はダメだったけど、年食って聴覚が衰えたせいか、今は平気だね。
17.
18.
19. 匿名処理班
最後の動画が音が小さいもんだから音量上げて耳元に持って行って聞いてたら、急にでっかい音に変わってビビってめっちゃ跳ねた!
20. 匿名処理班
※2
あの音嫌いだわ。なんか舌にくるんだよね
10.黒板を爪で引っ掻く音は音より爪の方が気になってしょうがない
21. 匿名処理班
耳の穴にちいちゃな蛾が入ったトキの羽ばたきは最悪
(ピンセットでつまみ出して食べ...逃がしました。)
22. 匿名処理班
※2
これは多分自分だけだろうが、あの音聞くとアゴの辺りに嫌な感覚が走る
幼い頃にそういう靴で転んでアゴ擦ったのが原因ぽい
それでなくても純粋に不快な音だと思う
23. 匿名処理班
以前お会いしたイギリス退役軍人さんの一人はシュトゥーカ急降下爆撃機の音が今でも耳に残っている、と言っていました。
「あれが急降下して来る音を聞く度に何度も死を覚悟したよ」と締めくくり、
更に「P38ライトニングとスピットファイア、P47が来るまで、あれほど熱心にイエスの名を呼んだ事も無いね。」と語ってくれました。
24. 匿名処理班
磨りガラスを引っ掻いたりアルミホイルをかじったり
25. 匿名処理班
蛍光ペンとかで紙に書くときのキュッって音がだめ
図書館で隣の人が使ってたから耐えられなくて席を離れた
昔はそうでもなかった気がするんだけど
26. 匿名処理班
ブブゼラとかまた懐かしいものをwしかしブラウンノイズっていうからてっきりブッチッパ的な音かと思ったけどそうでもなかった。
27. 匿名処理班
※1
発泡スチロールわかるわ
考えただけでもしかめっ面になる
28. 匿名処理班
※1
すげーわかる
子供の頃からSF本体とかゲーム機を取り出すのが地味に苦痛
音もそうだけど感触も苦痛
29. 匿名処理班
ブブゼラはなんだかんだいい思い出だわ
30. 匿名処理班
ジジイの独り言だな。
入院したときの体験だが。
口から出てくる単語それ自体には意味があるから、聞いた自分が繋がってきた意味を考えてしまい、イラつく。
イモビライザーの誤作動(外来駐車場の真上だた)は、単にうるさいだけで音に意味はないから耐えられた。
31. 匿名処理班
黒板とかガラス引っ掻くのは平気だけど、
風船こすったりアルミが擦れあったりする音は
体の奥からぞわぞわして我慢できない
32. 匿名処理班
爪で黒板をひっかく音は大丈夫なのに、金属製のフォークで皿をひっかく音はどうしても耐えられない
この差はなんなんだろう
33. 匿名処理班
最後の何故いきなり飛行機の話?と思って元の記事読んでみたらXF-84Hっていう飛行機の話だった
34. 匿名処理班
赤ちゃんの泣き声は産まれたてに近いほど
愛しい感じもするのが不思議
35. 匿名処理班
8. のイアワーム、「ママ〜」ではなくて「失礼、松っちゃんですか?」が繰り返される
36. 匿名処理班
布団に入ってから聴こえる、台所の水のポタ…ポタ…ポタ…
37. 匿名処理班
>>1
昔乾物屋で働いていたとき、魚の開きとか入っていた発泡スチロールの入れ物を洗わされてあの音で頭がおかしくなるかと思ったわ
38. 匿名処理班
金属製の鍋とおたまでカシャカシャ擦れる音が駄目だわ
同様に金属製の食器とスプーンの重なる音も駄目
古い喫茶店とかにあるカレー皿とか見ただけで鳥肌立つ