妖狐姫「わらわの座椅子となるのじゃ」
- 2017年03月14日 22:10
- SS、神話・民話・不思議な話
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いや、具体的には俺が勝手に終わらせたと言う方が正しいか。
高校卒業後『ただただ働きたくない』『社会が怖い』という理由から地元の適当なFラン大学へ入学。
しかしだ、Fラン大学へ入学したということは察しがいい奴ならもう分かっているだろうが俺は勉強も嫌いだ。
ロクに大学に行かず、バイトをするわけでもなく実家暮らしでゴロゴロゴロゴロとニート同然の暮らしをしていた。
親からは呆れられ、大学をやめてなんでもいいから手に職をつけろと毎日のように言われている。
日に日に親と会話するのも辛くなり、だからと言って大学の教諭と顔を合わすのはもっと辛い…
そんな俺を責めもせず癒してくれるのは二次元の女の子と飼い猫だけだった…。
俺の存在価値は飼い猫の座椅子役だけとなっていた。
しかしその飼い猫もとうとう一週間前に老衰で死んでしまった。
俺は唯一の存在価値を失った。
天気のいい日は家にいても死にたくなるだけなのでこれにつきる。
男「…あれ?」
だが外に出て30分…公園のブランコに座っていると、空はまだ太陽が顔をだしているというのに雨がぽつぽつと降り始めた。
男「んー…」
空をぼーっと眺めているとなんだかその天候は今の自分の人生を表しているようにも見えた。
ニートをしているから基本的にはストレスフリーなお天気だが、未来やゴミ屑な自分に目をこらすと毎日たえず雨も降っている。
そんな感じだ。
肩や頭に降り注ぐ一滴一滴が己への罪なんだと考え自己満足も良いところだが全部浴びて帰ることにした。
濡れたアスファルトを見つめながら水たまりを踏まないように歩く。
男(おっとこんなところにも…あぶねーあぶねー…靴濡れると面倒だし気持ち悪いしな)
男「ん?」
しかし横を通りかかったトラックが水たまりを思いっきり踏み俺の足元に水をぶちまけた。
男「うわっ!」
男(…最悪だ)
男(もしかして俺の人生ってこの先真面目に生きたってこんなことばっかになるんじゃね?)
何か努力しても、別の何かがその努力をなかったものにしてしまうのではないか…
トラックがかけた水はただでさえ病んでいた心に思わぬ追い打ちとなった。
男「はぁ…」
また一段と死にたくなった。
前から2台目の車の音がする。
男(このまま飛び出して…死のうか…)
そう思った5秒後、その車は何事もなく俺の横を過ぎて行った。
俺はただ歩道に立ちつくしたまんまだった。
男(死ぬ勇気もないのか俺は)
ならいっそのこと犯罪に手を染めて暴れるというのはどうだろう。
あの、よくあるあれだ『ムシャクシャしてやった』というやつだ。
昔はよく『ムシャクシャして』ってなんだよ(笑)
とも思ったものだが今なら彼らの気持ちもなんとなくだが分かる。
男(さて何をしてやろうか)
キョロキョロと周りを見渡すと前から小さな女の子が走ってくるのが見えた。
だがその女の子…どうも普通じゃない。この国にいるのは不自然なほどの鮮やかな黄金色の髪、だが服装は和風な巫女風装束だ。
男(小学生コスプレイヤーとか…?マジ?)
コスプレイヤー以外は信じられないほど顔も可愛らしく、まるで二次元からそのまま飛び出したかのような女の子だった。
男(ああいう子を襲って捕まるなら…アリか)
どうせもうすでにクズなら極限までクズになろう。
そう決心した俺は前から来るその金髪少女にゆらりゆらりと近づいて行った。
不審者の挙動コンテスト1位不可避の完璧ムーブだ。
…そんなものはないが。
「…ひゃっ!?」
俺が目の前まで近づいたその瞬間、女の子は濡れた地面に足を滑らせて前から倒れかけた。
男「うおっと!」
思わず前に一歩踏み出して倒れかけた金髪少女を抱きしめて受け止める。
「なふっ!」
男(うおー!やわらけー!女の子やわらけー!…じゃなくて!)
男「だ、大丈夫か…?」
「う、うむ…」
彼女は暫く驚いた顔でこちらをじっと見ていた。
男(で?ここからどうすんだよ)
思わぬ形で合法的に女の子に触れることに成功したものも逆にどうしたらいいのか分からなくなった。
ってか最初から計画なんてなかった。
男(どうすんのこれ?どうすればいいのこれ!?教えて悪い人!)
「うにゅよ…」
男(え?俺のこと…?)
男「はい…?」
「わらわと籍を入れるのじゃ」
男「…ん?」
5秒ほど思考が止まった。
男(え?籍を入れるって…アレだよな…つまり結婚しようってこと…だよな…)
男(なんで…?どうして…?)
「おい!姫君だ!いたぞー!」
「こっちだー!」
俺の思考が追いつかないうちに目の前から五人ほどこれまた着物を着た男たちが走ってきた。
「くっ!見つかってしもうたか!」
「おい!うにゅよ!わらわをおぶって走るのじゃあ!」
男「え?え?」
「はよう!はよう!」
「なんだあの男は!?」
「付き人か!?」
男「うわああああ!!!」
30メートル前からすごい形相でこちらへ走ってくる男たちを前によく分からないが恐怖を抱いた。
特に先頭を走る髭の濃い色黒のおっさんがヤバイ。
コスプレ企画にしても顔がマジすぎる。
自分も捕まればただじゃすまない。
そんな気がした。
男「どっ、何処行けばいいんだ!?」
「なるべく人間がおらん場所へ出るのじゃ!」
「どうする!?」
「妖術を使うか」
「いや目立つ行動はできん」
走りに走った。
体力のないニートにはキツ過ぎる。
道行く人、すれ違う人の視線が痛い。
そりゃあそうだ。平日の真昼間に金髪和服の少女を背負って必死に走る男を見れば誰だって不思議がる。
男(冷静にこんな子を誘拐しようとしても目立ちまくって即通報だったな)
今さら気がついた。
「ここらでよいか」
なんとか男たちを巻き、人通りの少ない場所へ出たところで背中の少女はぶつぶつと呪文のような何かを唱え始めた。
男(なんだなんだ!?今度はどうした!?)
「ひらけっ!」
彼女が叫ぶと俺たちの目の前に巨大な赤い鳥居が出現した。
男「うわあっ!?」
「そのままそこに突っ込むのじゃ!」
巨大な鳥居の向こう側はその先の景色を写さず歪んだ空間を俺に見せていた。
男(は!?あ!?え!?)
全力疾走で止まるに止まれず目をギュッと閉じた状態で鳥居をくぐり抜けた。
人混みが騒つく声で目を開けた。
一人で落ち着く自室に籠もっていると、どうもこういう騒がしいのは苦手だ…。
男(せっかく一目の少ないところに行ったのに結局人通りの多いところに来たのか…)
まだ視界がチカチカしてはっきりしない中そんなことを考えながら瞬きを繰り返した。
「ふぅ…もうよいぞ…降ろせ」
男「あーはいはい」
背中の金髪少女を降ろし、改めて目の前の景色を見た。
まず、どう見ても自分の知っている場所ではない。
高校の教科書でしか見たことないような古い雰囲気の漂う市場で沢山の人達が衣類や果物を買っている。
買い物をしている人達の殆どは今隣にいる金髪少女やさっき追ってきた男たちのような和服姿だ。
中には民族衣装のような格好の人達もいる。
ここまではまだいい。
全然現実味がある…
問題はだ…
男(人間に狐の耳と尻尾が生えてる…)
「ふぅ…やっと楽になったのじゃ…」
男「なぁ、ここは一体何処なんだ…?」
今自分が置かれている状況を整理するために俺は金髪少女に問いかけた。
男「って!うわぁ!」
「なんじゃさっきから騒がしいのぅ…まぁ無理もないか…」
俺が少女の方を向くと彼女はさっきまでは無かったはずの狐耳と尻尾をぴょこぴょこと動かしていた。
「ここは妖狐の国…」
「数ある世界の一つじゃよ」
男(妖狐の国…?)
もしかして…
男(べ、別世界に飛ばされた…?)
「主様!ここにおられたでごじゃるか!」
突然の出来事の連続は俺に冷静になる暇を与えてはくれない。
市場の奥からこれまた狐耳狐尻尾の黒髪ポニーテールのお姉さんと銀髪ショートの女の子が走ってきた。
銀髪の子の方はくノ一の様な格好をしている…生の忍者装束なんて初めて見た。
歳は見た目からして黒髪のお姉さんの方は俺と同じくらいだろうか…銀髪の方は金髪少女より少しだけ上…といった感じか…?
「む…おい貴様…何者だ!」
「耳と尻尾が無いでごじゃるよ!怪
割と楽しめた