何かを怖がるという感覚は、身を守る防衛本能として備わったものである。だが極端に、ある特定のものを怖がり、異常なまでの恐怖心を抱いてしまい、不快感やめまい、吐き気といった症状を催したり、パニック発作をきたすようなことがあれば、それは「恐怖症」だ。
人によって恐怖の対象は様々で、「え?なんでそれが?」と他の人には思うようなものがどうにも耐えられない恐怖になる人もいる。
多かれ少なかれ、誰にでも怖いものはあるのだが、恐怖症の域に達してしまうと日常生活が困難となる。
ここでは無限や永遠のものに恐怖心を描く、ペイロフォビア(無限恐怖症)について掘り下げて見ていこう。
スポンサードリンク
永遠の命、無限に続くものが怖い「アペイロフォビア」という病
たいていの人にとって、永遠の命を得るための秘訣を発見すること、あるいは死後も喜びに満ちた天国で永遠に暮らすことが究極の目的だろう。
しかし、終わりのない命や、無限に続くという概念にとてつもない恐怖を感じ、普通の生活ができなくなってしまうほどになってしまう人もいる。これはアペイロフォビアと呼ばれているれっきとした恐怖症なのだ。
彼らは死後も、永遠に「死」という世界の中で生き続けなければならないことを恐れているのだ。
アペイロフォビアを説明するのは難しい
ネット上でも、アペイロフォビアに関しての科学的、医学的情報を多くは出てこない。しかし、事例証言となると、この恐怖症に苦しむ人たちの投稿は多く見られる。体験談をシェアすることで、不安や不眠、うつなどの症状に対処しようとしている患者がどれだけ多いかがわかる。
ほかの恐怖症と違って、アペイロフォビアはうまく説明するのがとても難しいため、患者のほとんどは口をつぐんでしまう。
死の恐怖はよく理解できて、自分の恐怖として結びつけることができても、無限や永遠に対する恐怖は理解するのがとても難しい。
特に永遠の命つまり来世に対する恐怖のこととなると、アペイロフォビアに苦しむ人たちの話はかなり説得力がある。
この世であろうが、あの世であろうが、自分の存在が永遠に終わらないと考えることが恐しいのだ。
来世がどんなに楽しくすばらしいものであろうと、そこから逃げる手段がほとんどないことは、この恐怖症の人たちをぞっとさせ、考えただけで不安やパニック発作からうつまで、さまざまな症状を引き起こす可能性がある。
アペイロフォビアの人たちの体験談
自分のアペイロフォビア体験を、閉所恐怖症や、時間にとらわれてがんじがらめになっている感覚だと表現する人もいる。
いつまでも終わらない永遠の中で、あらゆることを体験し、学び、行い、あらゆる人に会い尽くして、ついに自分が存在すること自体にうんざりする状態にはまり込むのが怖い。でも、どれほど望んでも逃げ場がないんだ
アペイロフォビアに苦しむポールはこう表現している。
そこまで達するにはとてつもなく長い時間がかかるだろうけれど、ぼくのこの予想はついに現実のものになって、永遠のまっただ中にずっといる状態が、一瞬のように思えるようになるのだろう。時間は長さの知覚にすぎないからだ。だから、ぼくたちはこの概念で日にちやその他もろもろのものを作ってきた
「多くのクリスチャンにとって、来世という考えはとても心強いものなのはわかっているが、ぼくにとっては・・・とても向き合えそうにない」というのはトムだ。
ベッドに横になって、来世なるものについて考え始めると錯乱状態になってしまう。妻はぼくがどうかしていると思っただろう。仕事でも成功し、結婚や家族も申し分ない。こんな人生はすばらしいはずなのに、永遠という恐怖がぼくをむしばんでいた
しかし、来世への恐怖は、問題の一面にすぎない。永遠に生きるという考えは受け入れられるが、無限には怯えるというアペイロフォビアの人もいる。
「わたしたち人間は皆、宇宙の広大さに比べたら、ちっぽけなつまらない存在だと思うの」ジェイン・アドキンスはこうフェイスブックに投稿した。
わたしたちがいる太陽系を越えたずっと先のことを考え始めると、知らず知らずのうちに思考が止まって、パニック発作にならないよう守りに入るような感じになるわ。ブラックホールのことなんて、何日も悪夢をみるでしょうね。銀河系の距離のことを考えるなんて耐えられない
その治療法はあるのか?
自分の体験をシェアしている人たちの多くは、アペイロフォビアを治療する方法を探している。しかし、医学的な治療や行動療法が効く人もいる一方で、ほとんどの人にはただひとつの解決法しか残されていない。
それは、永遠や無限のことを頭から追い出して考えないようにするために、「常に気をそらし続ける」ことだ。永遠の命が怖いなら、命に関することを考えないようにし、無限の宇宙が怖いなら、宇宙について考えないようにするしかない。
アペイロフォビアの原因
アペイロフォビアの原因はまだはっきりわかっていないが、永遠や無限のような概念を処理する脳の仕組みに関係があるのかもしれない。
アメリカ、ジョージ・メイソン大学の認知・行動神経科学(認知神経科学、時間知覚、空間知覚)の助教授マーティン・ウィーナーは、長期計画をコントロールするとされる脳の部位、前頭葉は体の年とともに成熟するのがもっとも遅い部位のひとつだという。
思春期には、いずれ自分は大人になるのだと気づく時に起こる”悟りの夜明け”のようなものがある。アペイロフォビアの人は、死後も永遠に生きる(もしこれを信じるなら)と思い込み、心の中でその状態を妄想する。だが、永遠を未来へ投影する手立てがないとわかると、それが本質的な不安を引き起こす。このような不安の感覚は、成長する恐怖、年をとる恐怖、死の恐怖とそれほど変わらないのかもしれない
とウィーナーは言う。
via:Phobia of Eternity Discussed - Apeirophobia・Apeirophobia – The Fear of Eternal Life and Infinityなど/ translated konohazuku / edited by parumo
▼あわせて読みたい
想像を絶する耐えがたい10の恐怖症
奇妙なものを怖がる、10の特異な恐怖症
奇妙な恐怖症をヴィンテージ写真を使いフォトコラージュで再現したホラーアート(※恐怖注意)
ぶつぶつが怖い。穴が密集している状態を極端に恐れる「トライポフォビア」の正体とは?(英研究)※閲覧注意
こんなものまでが恐怖対象に。身近にある10の恐怖症。
この記事が気に入ったら
いいね!しよう
いいね!しよう
カラパイアの最新記事をお届けします
「知る」カテゴリの最新記事
「料理・健康・暮らし」カテゴリの最新記事
この記事をシェア :
人気記事
最新週間ランキング
1位 6986 points | 通話している時の声が一切外に漏れない画期的なマスクデバイス「Hushme」が登場。しかも声色とか変えられるし。 | |
2位 4169 points | ウサギじみてる多肉植物!ウサ耳がぐんぐん伸びてく「モニラリア・オブコニカ」 | |
3位 2726 points | 使用者をゾンビのようにしてしまう危険なドラッグ「スパイス」中毒者がイギリス・マンチェスターの町をさまよい歩く。 | |
4位 2509 points | 無茶ぶりOK。お題にあわせてどんな画像でも魔改造してくれる、すご腕のコラ職人がTwitter上でリクエスト受付中 | |
5位 2218 points | こうてもろた。ぬいぐるみを買ってもらって大喜びの犬。自分より大きいぬいぐるみを車まで持ち運ぶ |
スポンサードリンク
コメント
1. 匿名処理班
記憶が何があってもリセットされず永遠に…と言うならそれは確かに苦痛だろう。
2. 匿名処理班
ゴールド・エクスペリエンス・レクイエムの攻撃をくらったのでは
3. 匿名処理班
その恐怖症の人に5億年ボタンの漫画みせたらどうなるんだろう
4. 匿名処理班
そのうちカーズは 考えるのをやめた
5. 匿名処理班
火の鳥を読んだあと、永遠の命とか転生が怖くなった。
6. 匿名処理班
∞
7. 匿名処理班
普通は前世の記憶なんて無いんだし、来世も同じ自我だなんて先ず無いんだよね。合理的に考えると。
8. 匿名処理班
永遠なんてどこにもないと分かっていてもそういう感覚に陥っちゃうんだよね
9. 匿名処理班
グーグルアースの海の部分が怖い
マップの海は平気
10.
11. 匿名処理班
色鉛筆ウニからの派生記事w
小学生低学年の頃は「永遠」や「宇宙」の無限連続について考えるだけで怖くて眠れなかったな。
今は宇宙の永遠の営みの中で繰り広げる、限りある一瞬の人生が愛しく感じる。
生まれて消える繰り返しの中で成長する永遠の命に喜びすら覚えるわ(ドヤァ)
12. 匿名処理班
「我ら友情永久不滅なり ! 」
「やめてぇええええええええ」
こんな感じなのか ?
13. 匿名処理班
仮に来世に行くときは現世の記憶は完全にリセットされるから問題ないと考えてた
14. 匿名処理班
宇宙のことを考えると凄い恐怖。果てがなくて永久的な空間とかどういう事だよ!って思う。文字通りの無限空間だからそりゃ地球みたいな惑星が数個あるだろうが、遠すぎてお互い見つけられんだろう。いやなんか考えてきたら気分悪くなってきた。。
15. 匿名処理班
ただし、永遠の美と永遠のお金は怖くない
16. 匿名処理班
子供の頃は
地球がなくなって人類が消滅するのが怖かったな
その先は永遠に無になるんだなと
17. 匿名処理班
「永遠なのか本当か時の流れは続くのか、何時まで経っても変わらないそんな物在るだろうか」という歌詞があったなあ、確かに考えると分からない。ゼノンのパラドクスをはじめ無限論の多くはナンセンスとされている様だけど。
18. 匿名処理班
死・永遠の魂が錯乱するほど恐い時がある
夜中にこの考えに捕らわれてスイッチが入ると、自分でおかしいと解っているのに、鼓動と呼吸がどんどん速くなって指先が冷たくなっていく
止まらないし、止めようと思えば思うほど酷くなって、平静を保てなくなって着の身着のまま外へ飛び出して落ち着くまで歩いたり待ったり…
この記事を見て大分、いやかなり救われた
似た症状に悩む人が少なからず居る事を知れた…
19. 匿名処理班
永遠の命欲しいけどなあ
永遠を満喫したい
20. 匿名処理班
『えいえんは、あるよ』
21. 匿名処理班
老いの実感が湧かない、自分に時間的な変化を見つけ難い若い人に多そうだな
命が永遠だなんて錯覚以外の何物でもないのに…
錯覚に対する恐怖症となるとホントに対処難しそうだ
22. 匿名処理班
三面鏡の会わせ鏡を覗かせたら発狂するんかな?
23. 匿名処理班
永遠なんて存在しない
いつかは終わる
宇宙も無限ではない
なぜ無限にあると思えるのか
24.
25. 匿名処理班
なんとなく分かる。勤続40年って単語だけで震えがくるわ。
26. 匿名処理班
フォビアまではいってないはずだけど、確かに考え始めるとすごくこわい。
いいことも悪いこともずーっとそのまま続いて区切りも終わりもないなんて。
宇宙もこわい。
もしそういう無限の中に放り込まれたら、なるようになるさって割り切るか発狂するか某カーズ氏みたいに一切考えるのをやめるしかないよなあ。
27. 匿名処理班
これと似たような悪夢を感じてたことがある。
私が感じてたのは、頭の中に「無限の白い闇」と「無限の隙間」が存在していて、どちらも「その先がずっと無限に広がっている、続いている」とてつもなく巨大で理解の範疇を超えていて、思い出すたびに狂おしい程の混乱と本能的な恐怖を感じる、というもの。
今はむしろその恐怖を楽しんでる感はあるけど、嵌り込まないように注意してる。