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ばいきんまん「『必要悪』って、知ってるか?」|エレファント速報:SSまとめブログ

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ばいきんまん「『必要悪』って、知ってるか?」

1:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/04/01(土) 19:47:55.74 ID:4bm9at7d0

アンパンマン「追い詰めたぞ!ばいきんまん!」

ばいきんまん「ぐぬぬ……おのれ、アンパンマンめぇ!」

それは、いつものようにばいきんまんが悪さをして、いつも通り退治される、いつもの光景。
その戦いの間に何度か攻守が逆転して、アンパンマンが1度顔を取り替えるのもまた、いつものことであり、言うまでもないことだ。

あとワンパンでケリがつく。
それも、いつものこと。

渾身の力を込め、必殺の『アンパンチ』をぶち込めば、いつも通り「バイバイき~ん」と彼方の星になる……

かに、思われたのだが。

そんな、『いつも』通り窮地に立たされた、ばいきんまん紡いだ次の一言は……

ばいきんまん「『必要悪』って、知ってるか?」

『いつも』とは違っていた。



2:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/04/01(土) 19:50:20.94 ID:4bm9at7d0

アンパンマン「いきなり何を……?」

その問いに、アンパンマンは思わず鼻白む。

血反吐を吐きつつ、ボロボロの身体となったばいきんまんだったが、その両の目から力は失われておらず、口角は不敵に釣り上がっている。

ばいきんまん「ギャハッ……ギャハハッ……!」

息も絶え絶えな掠れた笑い声。
彼は酷く弱っている。それは間違いない。

しかし、それでも……
嘲るような響きが、どうにも鼻につく。

ばいきんまんの強さの真髄が、そこに含まれていた。

アンパンマン「自分が、その『必要悪』だとでも、言うつもりか……?」

堪らず問い返すアンパンマンを、ばいきんまんはニヤニヤ見つめ……

ばいきんまん「ギャハッ!……すぐに、わかる。俺様が、どんな存在か。そして、『必要悪』とは……『悪』とは、何なのかをな……ギャハッ!ギャハハッ!!」



4:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/04/01(土) 19:52:34.93 ID:4bm9at7d0

アンパンマン「……もう、黙れ」

この悪党に問答など不要だ。
あからさまな嘲笑に耐えかね、アンパンマンは拳に込めた力を解放する。

アンパンマン「アァァァァンッッ!!」

空間を歪める程のエネルギーが、眩い光の奔流となり、荒れ狂う。
それを掛け声に伴い、収束。

悪を討ち亡ぼす、正義の鉄槌の完成だ。

アンパンマン「パァァアアアンチッ!!!!」

ばいきんまん「ギャ……ギャボッ!?!!?」

ばいきんまんの腹部に突き刺さった拳を、前方に突き出すように振り切る。
メキメキと、骨が軋む振動が伝わり、ばいきんまんの足が地面から離れた。

ばいきんまん「バァッ!?バァイバァイき……」

空の彼方へと高速で射出されたばいきんまんの捨て台詞は、「バイバイき」までしか聞き取れず、辺りを静寂が包み込んだ。

一拍の間を置き、歓声が上がる。
アンパンマンが救った者たちが、一斉にヒーローの元へと駆け寄ってくる。

今日もまた、正義が勝ったのだ。



5:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/04/01(土) 19:54:28.32 ID:4bm9at7d0

メロンパンナ「ありがとうアンパンマン!」

カレーパンマン「やっぱお前にゃ敵わねぇや」

しょくぱんまん「流石ですね!」

共に肩を並べて闘った仲間達も、口々にアンパンマンを賞賛する。
気恥ずかしい気持ちになりながらも、アンパンマンは周囲をぐるりと見渡し、自分の救った人々の笑顔を目に焼き付けた。

皆一様に嬉しそうで、優しげな笑みだ。
こんな素晴らしい世界に『必要悪』が入り込める隙間なんてある筈がない。
やはり、最後のばいきんまんの言葉は戯言だったのだ。

と、確信したその時。

メロンパンナ「きゃあああああああ!?」

メロンパンナの悲鳴が響き渡った。



6:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/04/01(土) 19:56:56.23 ID:4bm9at7d0

カバオくん「ぐふっ!ぐふふっ!今日はめでたいんだな!こんな日は、無礼講なんだな!」

メロンパンナ「きゃあああ!?やめて!離してカバオくん!?」

あらあら大変!
カバオくんったら、メロンパンナちゃんを押し倒して、粗相を働くつもりみたい!

もちろん、そんな狼藉は彼が許す筈もなく……

アンパンマン「やめるんだ!カバオくん!!」

即座にアンパンマンが止めに入る。
しかし、パワー系のカバオくんの馬鹿力はアンパンマンの膂力を上回っていた。

カバオくん「離せぇぇえええええ!!」

アンパンマン「くっ……駄目だ!カバオくんの力が強すぎて止められない!!」

羽交い締めにしようと背後に回るものの、暴れるカバオくんに振りほどかれてしまう。

メロンパンナ「やめっ……乱暴しないでっ!きゃあああああ!?」

カバオくん「ぐふふふっ!はあはあ……可愛いよ、メロンパンナたん」

カバオくんの巨体に組み敷かれたメロンパンナも、その重みで窒息しないようにするだけで精一杯だ。
舌舐めずりしながら迫る暴漢に、抵抗する余力などなかった。



7:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/04/01(土) 19:59:16.24 ID:4bm9at7d0

アンパンマン「くそっ……どうすれば……!」

このままでは不味い。
なんとかしてカバオくんを無力化しなければ、取り返しのつかないことになる。

アンパンマンは決断を迫られていた。

カバオくんを無力化する方法はある。
ばいきんまんを吹き飛ばした『アンパンチ』を使えば、星の彼方までぶっ飛ばせるだろう。

その右ストレートが、アンパンマンの膂力以上の破壊力を発揮出来るのは、ひとえに『愛と勇気』の恩恵だ。

悪を討伐する為、彼に与えられた力。

だからこそ、今この状況でその力を振るうのには、躊躇いを覚えた。
この必殺技は、世界の平和と人々の笑顔を守るべく生み出されたものなのだ。

それを、仮にも守るべき対象であるカバオくんに使うなんて……

カバオ「ぐふっ。ぺろぺろ……甘い!?ぐふふふふっ!甘い!甘いよ、メロンパンナたん!」

メロンパンナ「舐めないでっ!?そんなところダメェェェェエエエエ!!?!?」

決心のつかないアンパンマンの目の前で、今まさにメロンパンナが蹂躙されようとしている。
もはや一刻の猶予もない。

決断の刻が、差し迫っていた。



8:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/04/01(土) 20:01:09.02 ID:4bm9at7d0

メロンパンナ「ア、アンパンマン! お願い……助けて……!」

アンパンマン「ッ……カバオくん、ごめんよ」

狼狽するアンパンマンに、救いを求めるかのようにメロンパンナの手が伸びる。
悲痛な叫びが、ヒーローの心を傾けさせた。

アンパンマン「アァァアアンッ……!」

腰だめに拳を構えながらエネルギーを込める、アンパンマンの目からは涙が流れている。
血の涙だ。

どうして!
どうしてこんなことに!?

自問しても返ってくる答えはない。
それでも、彼は拳に力を込め続ける。

それが『ヒーロー』の、役割だから。



9:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/04/01(土) 20:03:11.34 ID:4bm9at7d0

カバオくん「んあ?……ひ、ひぃいい!?ア、アンパンマンが、オラを殺そうとしてるだ!?」

ようやく殺気に気づいたカバオくんが、喚く。
しかしメロンパンナの上から退く気配はない。

パワー系のフリをして、カバオくんは狡猾だ。
こうして泣き叫べば、アンパンマンが何も出来ないと知っているのだ。

しかし、正義の化身と化した今のアンパンマンには、カバオの悪意がはっきりと感知できた。

ドス黒い醜悪なオーラを纏ったカバオは、宿敵たるばいきんまんをも霞ませるほど、唾棄すべき存在へと、なり果てていた。

もはやカバオは、アンパンマンの知るカバオではない。
そう思うと自然に、躊躇いは消えていた。

そうだ。
どちらにせよ、こいつを野放しには出来ない。
ならば、痛みを感じる間も無く、意識を刈り取り、『処分』するのが適切であろう。

さようなら、カバオくん。

その別れの言葉は、胸中に留めて……
アンパンマンは、決断した。

アンパンマン「パァアアアアンチッ!!!!」

カバオくん「ひゃああああぁあ!?」

大気を切り裂く拳圧が、まるで唸り声のように周囲に響き渡り、それに含まれた圧倒的な殺意に、カバオは漏らし、メロンパンナを汚した。

けれど、それにメロンパンナは気づかない。
彼女もまた、アンパンマンに畏怖を抱いていたからだ。

瞬きを一度。
次の瞬間には、カバオは自分の上から消え失せているだろう。

彼女はそれで救われる。
それは喜ぶべきことで、感謝すべきことだ。

しかし……それが怖い。

堪らずぎゅっと目を瞑ったカバオの糞尿塗れのメロンパンナは、この日初めて、アンパンマンに恐怖を覚えた。



10:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/04/01(土) 20:05:18.55 ID:4bm9at7d0

メロンパンナ「……えっ?」

固く目を瞑り、息を殺して嵐が過ぎるのを待つメロンパンナだったが、待てども待てども嵐は訪れない。

おかしい。
そう思い、恐る恐る目を開けると……

アンパンマン「……なんのつもりだ?」

カレーパンマン「へへっ。悪いな」

しょくぱんまん「ここは冷静になるべきかと」

目の前には見知った仲間の姿。
彼らは、カバオとアンパンマンの間に割って入り、必殺の『アンパンチ』を防いでいた。

無論、無傷とはいかない。
彼らは全身傷だらけで、それぞれのカラーに染まった白と黄のマントはボロボロだ。
ぷすぷすと、端から煙が立ち上っている。

そんな有様になっても、カバオくんを庇う彼らの意図がわからず、アンパンマンは再度問う。

アンパンマン「何故庇う。理由を言え」



11:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/04/01(土) 20:07:46.91 ID:4bm9at7d0

普段の口調よりも数段低いその声音が、アンパンマンの機嫌の悪さを示していて、たじろぐ。
だが、引くわけにはいかない。

カレーパンマン「おいおい、おっかねぇな」

しょくぱんまん「やれやれ、です」

余裕を演出しつつ、事態が収まるのを待つ。
だが、目の前の正義の化身には通用しない。
理由を述べるつもりがないのなら、尋ねるだけ無駄であると、アンパンマンは判断した。

アンパンマン「そこをどいてくれ」

静かな口調。
しかし、迸る怒気は隠しきれない。
相対する2人の汗腺が開き、冷や汗が滲む。
だが、引くわけには、いかないのだ。

カレーパンマン「落ち着けよ、兄弟」

しょくぱんまん「ええ、頭を冷やして、どうか冷静に」

冷静に?
またその台詞か。馬鹿馬鹿しい。
そんな悠長なことを言ってたら、メロンパンナが凌辱される。
そんなこともわからないのか?

アンパンマン「どけ、と……言ってるんだ」

仲間達が纏う悪の気配。
見過ごすわけには、いかなかった。



12:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/04/01(土) 20:09:29.76 ID:4bm9at7d0

カレーパンマン「どけって言われてもなぁ」

しょくぱんまん「退くわけにはいきませんね」

ひりついた空気を和ませるべく、軽い口調で返答したのだろうが、全くの逆効果だ。
疑念は確信に変わり、かつての仲間の2人を、アンパンマンは『敵』と見なした。

アンパンマン「邪魔だぁぁああぁあ!!」

カレーパンマン「おっと!やれやれ……大将はせっかちだな」

しょくぱんまん「仕方ありませんね。カバオくんを失うわけにはいきませんから」

戦闘が始まった。

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