最大100人が同時通訳付きで会話できる「リアルタイム翻訳」ーーニューラルネットワーク(AI)で刷新したMicrosoft Translatorによる同サービスが、ついに日本語対応しました。
従来の機械翻訳は、ニュアンスは汲み取れても正確な意思疎通には向かない印象がありました。一方、AIを取り入れた新しいMicrosoft Translatorでは、精度を大きく改善したといいます。
米マイクロソフトのオリヴィエ・フォンタナ氏(AIリサーチ グループディレクター 機械翻訳プロダクト戦略担当)はこう語ります。
「これまでの機械翻訳は、テクノロジーの壁に直面していました。改善しても改善しても、ほんのわずかしか改善されないんです」(オリヴィエ氏)
統計的な手法を活用した従来の機械翻訳は、過去10年間にわたり人が作成した膨大な翻訳データベースを活用。それと翻訳にかける元言語の単語の並び順をマッチングさせることで、翻訳を実現していました。
しかしながら、長い文章全体をデータベースにマッチングさせることは困難。そこで、長文を短く切ってから翻訳し、翻訳後に再結合するというプロセスを踏んでいました。これでは文章全体の文脈を捉えることは困難で、これが翻訳の不自然さに繋がっていたといいます。
深層学習でブレークスルーを果たす
このブレークスルーを目指し、マイクロソフトが導入したのが、人間の脳を模したニューラルネットワークによる深層学習(AI)技術です。これを活用することで、文章全体の文脈を捉えた翻訳が可能になるといいます。同技術は、Google翻訳の精度も改善させるなど、機械翻訳のトレンドの1つでもあります。オリヴィエ氏は、ニューラルネットワークによる翻訳を、黎明期にある電気自動車に例えこう語ります。
「(ニューラルネットワークによる翻訳は)まだ不完全かもしれませんが、多くの人々が利用することで、継続的に鍛えられます。我々はSkypeやOffice、Outlook、Edgeなどあらゆる製品に、このニューラルベースの翻訳を統合しており、3〜5年後の精度改善を非常に楽しみにしています。」
これらの手法を取り入れた新しいMicrosoft Translatorは、WEBやスマートフォン(アプリ)、Skypeなどで簡単に試すことができます。
筆者も試してみましたが、機械翻訳特有の不自然さはだいぶ残っています。とはいえ、ニュアンス以上の具体的な意味を汲み取ることができました。
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最終的な翻訳精度は「人間と同等以上」(オリヴィエ氏)を目指しているといい、ニューラルネットワークベースの特徴とされる"継続的な改善"による精度向上にも期待したところです。
発展した機械翻訳は、通訳者の仕事を奪うのか
ニューラルネットワークの採用で、継続的に鍛え上げられていく機械翻訳。最終的に人間の精度を超えた時、通訳の仕事を奪う可能性はあるのでしょうかーーこの問いにオリヴィエ氏は否定的です。「人間を置き換えるということではなくて、今まで実現できなかった、翻訳の新しいユースケースを開拓することに注目しています。例えばヨーロッパに旅行に行く際、わざわざ通訳を率いたりしますか? そんな時に、我々のリアルタイム翻訳のツールを使えば、現地の言葉を知らないと体験できなかった新しい料理を食べられたり、新しい場所に1人で行けるようになります」(オリヴィエ氏)
オリヴィエ氏によると、機械翻訳は、人の通訳の情緒豊かな表現で翻訳する能力を置き換えるものではありません。かといって、人間の通訳のアシストにも留まらないといいます。
「人間には、いろいろな表現や文脈を理解して、プロフェッショナルな言い回しで翻訳する利点が。機械にはスピード、そして複数の翻訳を同時にこなせる利点がある」(オリヴィエ氏)といい、それぞれ長所を活かして共存すると考えているとのこと。しかし、機械翻訳の登場で、これまで敷居の高かった場所にも翻訳を導入できるようになり、翻訳全体の市場は大きく拡大するとの見通しを示しました。