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ハルヒ「スティール・ボール・ラン?」【前半】|エレファント速報:SSまとめブログ

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ハルヒ「スティール・ボール・ラン?」【前半】

1: ◆2oxvcbSfnDfA 2017/05/26(金) 16:28:38.652 ID:uV5vYudV0.net

始めに言っておくがアホみたいに長いから今日一日じゃ終わらなそう
暇でハルヒ好きでジョジョ好きなやつ向け



5: ◆2oxvcbSfnDfA 2017/05/26(金) 16:31:06.206 ID:uV5vYudV0.net

 俺が自転車に乗れるようになったのは、周りよりだいぶ遅く、小学四年生になったころだった。
 初めて通った塾が隣町にあったので、否応なしに足が必要となり、二週間ほどかけて練習したのを覚えている。
 それまでは徒歩圏内にとどまっていた生活は、自転車に乗れるようになったことでずいぶんと広がり、当時の俺は少しばかり興奮状態にあったよ。
 何しろ、友人と二人で隣の県まで出かけたこともあったくらいだ。
 そのちょっとした冒険の帰り道、土手の上から見た夕日がやたら綺麗で、ハルヒと出会ってからの出来事でだいぶ埋め尽くされちまっている俺の脳内メモリーの中でも、上位に食い込むほど印象的な光景と言っていい。
 多分俺は、一生自転車に乗り続けるのだろうと思っていた。なので、十六になってすぐ、ハルヒが俺に免許を取れと言い出すまで、バイクなんてものは俺の人生に全く関係のないものだと思っていた。

「ゆくゆくは自動車の免許も取ってもらうけど、とりあえずバイクね」

 ま、ハルヒが自分の思い付きや直感に任せてものを言うのは今に始まったことじゃない。俺はむしろ、ハルヒも年相応に、運転免許に憧れたりもするものなのかということを少し意外にさえ思ったが、何故そこで、自分でなく俺に矛先が向くんだかがわからない。

「運転は下々の者の仕事なのよ。自分から馬車馬にまたがるお姫様がいる?」

 ついにお姫様になっちまったのか、お前は。ハルヒはそんなこと言いながら、視線をバイクのカタログから、俺の顔面へと移し、

「私が後ろに乗ってあげるんだから感謝しなさい。雑用から、運転手への格上げよ」

 ハルヒの目論見を理解し、俺はため息をついた。以前、自転車の後ろに乗せたことで、味を占めちまったのかね。しかし、バイクの二人乗りと自転車の二人乗りでは全く訳が違う。
 詳しく知っているわけじゃないが、傘を差しながら自転車を漕ぐことにさえ罰則がある今時分、そもそもそんなの、許されるのか?

「原付は二種ならタンデムも可能ですよ。ただ、取得後一年経過が条件ですね」

 ああ、なんとなく、コイツはこういうことに詳しそうだと思っていた。古泉の発言に、ハルヒはつまらなそうに顔をしかめ、

「知ってるわよ。今すぐに乗せろとは言ってないわ。でも、免許を取るのは一秒でも早いほうがいいじゃない」

 そう言いながら、カタログを机の上に置き、代わりに教材と思われる、分厚い冊子を取り出し、俺に突きつけるようにして差し出してきた。

「いい? 必ず一回で合格しなさい」

 こいつが何かを思いつく度、俺のため息は深くなる。現時点で、東京湾くらいはあるんじゃないだろうか。



7: ◆2oxvcbSfnDfA 2017/05/26(金) 16:32:38.196ID:uV5vYudV0.net

 救いだったのは、ハルヒが費用は俺持ちと言い切らなかったことか。俺たちSOS団は、夏休みに集中的にアルバイトを行い、受験費用を稼いだ。
 そうして臨んだ普通二輪試験、どうせならキッパリと不合格になりたかったが、どういうわけか、試験は俺にとって簡単だった。もしかして、ハルヒのトンデモパワーによって、試験問題が書き換えられていたんじゃないだろうな。
 結局、ハルヒの言った通り、俺は一発で試験を合格し、普通二輪免許を手に入れた。これが学校の試験のほうでもそうできたら、喜ばしいことこの上ないんだが、現実はそう上手くはいかないわけで。
 古泉のツテのおかげで、バイク自体も格安で買うことができたし、ハルヒの目論見にまんまとハマってしまった形ではあれど、なんだかんだ、この機会がやってきたのは悪いことではないと、俺は思っていた。
 あの日までは。





「これは私専用のメットよ」

 アルバイトと受験で、ほとんど休んだ気がしなかった夏休みが明け、九月になった初めの日。
 ハルヒは何やら丸っこい荷物を抱えて教室に現れ、満面の笑みでその包みを開けて見せた。中に入っていたのは、淡いブルーの、原付用のヘルメット。

「お前、まだ一年もあるってのに」

 俺が苦笑すると、ハルヒは一本指を俺に向けて突き出し、

「『まだ』じゃない、『もう』一年しかないのよ。あんた、それまでに事故ったり免停になったりしたら縛り首だからね。あんたの後部座席は、私……と、SOS団員専用なんだからね」

 と、遠足前日の小学生のような笑顔を浮かべた。そんなにバイク移動が楽しみなら、回りくどいことをせずに、自分も免許取れっての。

「ねえ、今日が納車日だったわよね? 私も一緒に行くわ」

「はあ? 何でだよ」

「あんたのバイクは、私たちSOS団の労苦の結晶なのよ。団長として、きちんと迎えてあげる必要があるわ」

 駄目だこりゃ、もはやこいつは、頭の中がバイクのことでいっぱいらしい。もしさっき言ったような、免停だの、事故だのということになったら、本当に縛り首にされかねないな。



8: ◆2oxvcbSfnDfA 2017/05/26(金) 16:34:03.656ID:uV5vYudV0.net

「それと喜びなさい、あんたのバイクの名前は、私が考えてあげたわ。名付けて、『シックス・センス・アドベンチャー』よ」

 子供かっつーの。
 その名前は、どこかで聞いたことがある。何かの曲のタイトルだったか。ハルヒがその曲を知っていて言っているのかどうかは知らんがね。
 つーかな、俺についてくるのは勝手だが、バイク屋から駅まで結構あるぞ。お前、あわよくばもうタンデムしようと思ってないか。

「馬鹿ね、バレたら減点じゃない」

 と言いつつ、唇を尖らせて、いかにも残念そうな表情を作るハルヒ。

「どうせ来るなっつっても来るんだろ。勝手にしろ」

「うん、勝手にする!」

 メットをかぶって上機嫌なハルヒは、始業式までの間中、俺にバイクについての話題を振り続け、その後の式とHRが終わると同時に、部室へと全速力で駆けていった。

「微笑ましいですねぇ」

 荷物をまとめ、廊下へ出た俺を待っていたのは、古泉だった。返答するのも面倒なので、俺は代わりに一つため息をつく。

「彼女が何かに夢中になるのは、良いことだと思いませんか? 世界の安寧のためにも。事実、彼女は夏休みの中頃から、閉鎖空間を発生させていません。それに、今回の件は、あなたにも悪いことばかりではなかったでしょう?」

 まあ、楽しみにしている気持ちがゼロだとは言わないけどさ。しかしつくづく思う。そんなにバイクに興味があるなら、自分で免許を取れ、とばいい、と。



9: ◆2oxvcbSfnDfA 2017/05/26(金) 16:35:03.814ID:uV5vYudV0.net

「ふふ、それでは意味がないのでしょうね。あなたの後部座席に乗る、というのが肝心なんですよ。分かっているでしょう?」

「知らん。何をだよ」

「まあ、いいでしょう」

 古泉は勝手な熱を吹きながら、ひとしきりニヤついた後、

「今日の団活は欠席させてほしいと、涼宮さんに伝えておいてください」

 と、俺に缶コーヒーを差し出しながら言った。

「バイトか?」

「いえ、いつものではありませんよ。涼宮さんと無関係ではありませんがね。さっきも言いましたが、涼宮さんは今、この上なく上機嫌ですから」

 んなこた、見ればわかるけどさ。

「では、僕は失礼します。くれぐれも、彼女の機嫌を損ねないようにお願いしますよ」

 古泉は一瞬、俺から視線を外した後、手を一振りし、九組のある方角へと去っていった。俺がその背中を見送った後、部室に向かうべく振り返ると、

「な、長門か」

 いつの間にか、学生鞄を右手にぶら下げた、長門が立っていた。古泉と俺の会話が終わるのを待っていたらしい。古泉がさっき一瞬視線をそらしたのは、長門に気づいたからだったのか。

「……バイクを引き取りに?」

 長門は、どこか眠たそうな瞳でそう訊ねかけてきた。その発言が、脳に染み渡るのに少し時間がかかる。



11: ◆2oxvcbSfnDfA 2017/05/26(金) 16:36:15.112ID:uV5vYudV0.net

「ああ、団長様が同行してくれるってよ」

「…………」

 俺がため息交じりに返答すると、長門はすこし溜める様に、俺の顔面を凝視した後、

「気を付けて」

 と、短く口にした。
 背筋に、さっと、嫌な冷たさが走る。

「気を付けるって……まさか、何か、起きてるのか?」

「そうではない」

 俺が、脳裏に走った、嫌な予感を言葉にすると、長門は意外にもあっさりと、それを否定し、

「ただ……気を付けて行ってきて」

 母親かっつーの。
 無駄に焦っちまった俺は、ワイシャツのボタンを一つ外し、一つ息をついた。ああ、わかった。ありがとうな。
 と、そこで長門は一瞬、視線を足元に落として、思い出したかのように、

「私も今日は欠席する」

「お前も?」

「少し、調査が必要」



12: ◆2oxvcbSfnDfA 2017/05/26(金) 16:37:10.352ID:uV5vYudV0.net

 調査。長門の口から、引っかかる単語が飛び出す。長門が調査すべきこと、ということは、やはりハルヒや、この世界についての事なのだろうか。先ほど長門は、何かが起きているわけではないと言ったが……

「説明は難しい。けれど、少し……奇妙」

「奇妙? ……何が、だ?」

「引力」

 発言だけを聞くと、俺が電波ちゃんとしゃべっているように見えるかもしれないが、そうではない。長門の発言には必ず意味があるのだ。

「多分、大丈夫」

 最後にそう言った後、長門は音もなく俺に背を向けて、古泉が去っていったのとは逆の方向へと歩いて行った。

「引力……?」

 一人残された俺は、長門が残したその単語を口にし、首を捻った。





 古泉、長門と会話していたのはほんの数分の事だったと思うが、その間に、周囲は帰宅する生徒や、部活動へ向かう生徒たちで溢れかえっていた。
 どこか狐につままれたような違和感を抱えたまま、俺は部室でハルヒと合流した。ハルヒはまだメットを被ったまま、団長席にふんぞり返っていて、俺が、長門と古泉の欠席を伝えると、

「あら、みくるちゃんもなのよ。みんな、休みボケしてるんじゃないでしょうね」

 と、口をへの字に結んだ。
 長門は何か困惑しているような様子だったし、古泉もハルヒに関係する何らかの理由で欠席するらしい。もしかして、朝比奈さんも何か―――長門の言うところの、『奇妙なこと』に関する理由で欠席しているのだろうか。
 いや、考えすぎだろう。朝比奈さんはもう三年なのだから、忙しいだけなのだと思う。



14: ◆2oxvcbSfnDfA 2017/05/26(金) 16:38:24.061ID:uV5vYudV0.net

「二人でいても仕方がないわね」

 と、ハルヒは椅子から腰を上げ、キラッキラの瞳で俺を見た。

「だったら、今日はもう終わり。バイクの引き取り、行きましょ!」

 やれやれ、今日のハルヒには、何を言っても無駄なようだ。思わず苦笑がこぼれる。古泉の言う微笑ましさってのが、俺にも少しだけ分かったような気がしたぜ。しかし、まだ時間は昼前だ。引取りの予約時間まで、結構あるぞ。

「お昼も兼ねて、いつもの喫茶店で時間を潰せばいいじゃない」

 二人で喫茶店か。どうせまた俺が奢ることになるんだろうな。
 ふと、前にもそんなシチュエーションがあった様な気がして、俺は記憶を探る。そう、あれは去年、俺がハルヒと出会って、そう時間の経たない頃、古泉、長門、朝比奈さんが不思議探索を欠席した時の事だったっけな。
 あの時は、あの三人が何を思ってか、俺とハルヒを二人だけにする為に共謀したらしいが、もしかして今回も……

「ほら、さっさとする!」

 ハルヒはいつの間にか俺の隣をすり抜け、出入り口のドアに手をかけながら、俺が後に続くのを待ち構えていた。再び苦笑を漏らしながら、俺がハルヒに続き、廊下に出ると、ハルヒはいそいそとドアに施錠をし、昇降口に向けて大股で歩き始めた。
 置いて行かれないようにするのに少し骨が折れたさ。





 しばらくして。俺のもとに無事、初代愛車がやってきた。後部座席とタンデムステップのついた新車で、淡い水色の車体に、黒のステッカーで『SOS』の三文字。もちろん貼ったのはハルヒだ。店で引取りの手続きをしている間に購入したらしい。
 本当なら慣らしを兼ねて、家まで乗って帰る予定だったんだが、さすがにハルヒを一人残して俺が帰ってしまうのは気が引けたので、駅まで送り届けることにし、俺たちは新車を見せびらかすような思いで、のんびりと市街地を闊歩していた。んー、いい気分。



15: ◆2oxvcbSfnDfA 2017/05/26(金) 16:39:23.876ID:uV5vYudV0.net

 ハルヒはご満悦の表情を浮かべ、スキップ寸前といった足取りで俺の左隣を歩いていた。相変わらず例のメットを被ったままで。見れば、メットのほうにも車体とおそろいのステッカーが貼られている。

「そのステッカー、俺にもくれよ」

 俺がそう口にすると、ハルヒは一瞬キョトンとした後、霧が晴れるかのように明るい表情を作り、

「もちろんよ」

 と、学生鞄と一緒に手にぶら下げていた、バイク屋のロゴの入ったビニール袋の中身を手で探り始めた。
 オプションでついてきた俺のメットは、車体同様ちょうどハルヒが被っているものと似た色合いの水色の無地のもので、何かしら目を引くワンポイントを足したいと思っていたところだった。
 車体のほうにも、でかでかとSOSと貼られているのだから、この際統一しておこうと思ったんだ。他意はないさ。
 見れば、ハルヒの被っているメットのほうにも、やはり同じものが貼られている。これじゃまるでペアルックだな、なんて考えて、俺は勝手に顔を熱くした。何考えてんだ、俺。

「はい、これ―――」

 ビニール袋から数枚のステッカーを取り出し、俺に差し出すハルヒ。その時、俺に向けられようとしていた視線が、不意に逸れ、俺の背後の何かに向けられ、

「キョン! 後ろ!」

 直後、ハルヒの表情が一瞬で青ざめ、竦みあがった。まるで熊にでも遭遇したかのようなその反応の意味が分かったのは、ハルヒの視線の先を追い、俺が背後を振り返った時だった。
 俺とハルヒの目の前に、視界を覆うほどに巨大な鉄の塊が存在した。それが、巨大な荷台を備えた重量級のトラックであることを理解するのに、数秒ほどの時間を要したよ。
 その空間は、さっきまで俺とハルヒが、愛車を転がしながら通り過ぎてきたはずの空間であり、トラックなど影も形もなかったはずだ。もし高速で走り寄ってきたというのなら、何かしらの物音がするはず―――
 音もなく現れたその巨大な車体は、荷台の側面にこれまた巨大な、『星条旗』が描かれていて―――あろうことか、その星条旗が、俺たちに向かって倒れこもうとして来ていたんだからただ事じゃない。

「ハルヒ、逃げろ!」

 口をついて出たのはそんな言葉だった。目の前に迫りくる星条旗から視線が外せない―――おそらくあと三秒もかからないうちに、俺たちはこれに押し潰される。



16: ◆2oxvcbSfnDfA 2017/05/26(金) 16:40:38.730ID:uV5vYudV0.net

 周囲に人通りというものはなく、誰もいない市街地のはずれに、俺とハルヒ、そして、まだ一度としてエンジンを掛けたことすらない俺の初代愛車。眼前に、横転寸前の巨大トラック。

「キョ―――」

 すぐそばにいるってのに、ハルヒの声がやけに遠く感じられた。その声が、たった三文字の俺の通称を呼び終える前に―――視界が闇へと変わった。





 轟音が鳴り響くかと思いきや、俺が体に圧迫感を覚えた瞬間、音らしい音は何も聞こえなかった。ただ、ハルヒの声が何かにかき消され、次の瞬間、俺の体は奇妙な浮遊感に包まれた。
 もしかしてあれか、霊体が体から抜けちまって、俺の魂は早くも空へと昇ろうとしているのか? なんて考えたが、その感覚はほんの一秒か二秒ほどで消え、その後、重力というものが、再び俺の体にのしかかり始めた。
 体に痛みらしい痛みはない。いつの間にか固く閉じていた瞼を、恐る恐る開くと―――眼前に、気が遠くなるほど高く、鮮明な星空が広がっていた。

「……何、だ……これ」

 わずかに唇を動かすと同時に、体に平常どおりの感覚というものが戻ってきた。九月の午後にしては冷えた空気。背中や尻に、ごわついた大地の感触がある。
 上体を起こそうとしてみると、特に違和感なく起き上がることができて、突如現れた謎の星空から、視線を周囲の空間に移すと、まったく見覚えのない、砂漠らしき景色が広がっていた。
 砂漠、なんて光景を実際に目にしたのは、いつだかカマドウマ
ハルヒ「スティール・ボール・ラン?」【後半】
元スレ
ハルヒ「スティール・ボール・ラン?」
http://vipper.2ch.sc/test/read.cgi/news4vip/1495783718/
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