ギッチギチの杖に囲まれてこんにちは、おかんです。
ここは京都のとある武器屋。表向きはメジャーな武器を取り扱っていますが、ある合言葉を言うと超怖い顔の店員さんから「……入りな」と言って通される隠し部屋があり、そこにはこのように杖型の強力な武器が所狭しと並べられているのです。
嘘です。
いまや国民総人口の27%が65歳以上の高齢者である日本。高齢者のマストアイテムである杖でガッポガポに儲けているお店が京都にあるのをご存知でしょうか。
その名も「つえ屋」さん。
何度か店舗の前を通りかかったことがあったので「あの店か〜」とFacebookページを覗いたところ……。
「負けた事に負けるな!!」
「私利私欲から公利公欲!!」
休んだら死んでしまう!!
何このパワーワードの連続。
杖の専門店はじめたらえらい皆さんに可愛がっていただいて、よろしおすわぁ〜って感じのはんなりしたお店かなとばかり思っていましたが、どうやら違うみたい。
気になったので取材をしたところ、ビジネス雑誌もかくやという濃密な仕事人としてのお話が盛りだくさんでした。全ての働きマンたちに読んでほしい!
1店舗に何万本の杖?杖だらけの店内
やってきたのは「つえ屋 京都丸太町店」。市内各所や大阪、東京にもお店を構えるつえ屋さんの実質的な本店です。
中に入ると、空間を埋め尽くさんばかりの杖!
メタリックな杖!
真っ赤な杖!
傘になる杖!
こんなに杖って種類があるもんなの!?と入店から驚きの連続です。めっちゃ儲かってるらしいですけど、実際どんなことして儲けているんだー!?
社会貢献からバカ売れショップへ!
取材を受けてくれたのは代表取締役の坂野さん。
「杖の専門店って珍しいですよね。なにがキッカケでお店をはじめたんですか?」
「高齢化で伸びしろのある分野だとは思いましたが、なにより『誰もやっている人がいない』というのがキッカケですね」
「いわゆるブルーオーシャンってやつだ」
「そうそう。でも最初の3年は全然伸びずに不安だらけの日々でした。転機は、難病にかかって目が見えなくなったことですね」
「え、坂野さん、目見えていないんですか」
「そうですね、視力が0.01くらい、近いところ以外は視界がぼやけています。以前は『売れたらいいや』と受け身の体勢でしたが、発病後はもっと頑張らないと!と奮起しました」
「まずは目の見えない人に勇気を持ってもらえるよう、さまざまな種類の杖をそろえることで、ひとつの社会貢献になろうと思いました。そのうち周囲の応援やメディアからの取材が増えて、現在に至ります」
「ただの銭ゲバかと思ってたら、いきなり徳の高い話だった」
「でもしっかり儲けさせていただいてます!」
「昨年の年商は2億円越えでしたから」
「にお……」
ワシなんてこのデニムシャツ、古着屋で1500円やぞ?
「こう言っちゃなんですがエエもん食べてそうですね」
「ははは!食べてますよ!特にワインが好きですね〜」
「清々しくて笑う」
「飛行機も先頭しか座りません」
「あ、そういえばFacebookのあの画像!飛行機のビジネスクラスの席だ!」
このモフッとしたかたまり、座席だった。
「よく気づきましたねえ〜!」
「あ、あの『なるほど語録』って何なんですか?」
「思いついた標語を記録しているんですよ。365個つくっていずれはカレンダーにしたいですね」
「まさかの日めくり。パワーワードにボッコボコにされる予感しかない」
カラフルな杖から1本●●万の杖まで!つえ屋にない杖はない!?
「普通こんな派手な柄の杖ってないですよね?」
「杖のデザインは僕がしているんですが、目が見えないから自然と派手になってしまったんです。それがたまたまウケた。杖は『目が悪い』や『加齢』を象徴するネガティブなもの、というイメージがありましたが、カラフルで華やかな『持ちたくなる杖』を目指してつくりました」
「オシャレな杖だったら持つのも楽しくなりそうですもんね」
「そうなんです。誰かがついている杖を見たことでお客さんが増え、業績も急成長しました。百貨店でもよく催事をしているんですが、本来、杖は介護用品売り場の商品。うちは化粧品売り場と同じフロアで販売するなど、雑貨と同じような感覚で購入してもらえるような戦略をしています」
「なるほど……!ポジティブなイメージを杖に持たせたんですね」
「それにしても、すごい量の杖ですね。ちょっと見てもいいですか」
「どうぞどうぞ、よかったらビニールも外してご覧になってください」
「……これ、螺鈿と漆ですよね。すごくキレイですけど、高そうだなぁ」
「それはねえ、130万円」
!!!
「ビニール外せるかい!!」
「こっちのこれは190万円、あれは210万円……」
「そんな高い杖、買う人いるんですか!?」
「いらっしゃいますよ、高級指向のお客さんは。まだ売り上げが少なかった頃、とあるお客さんに『●●の木はあるか?』と尋ねられたんですが、当時はそんな杖なかったんです。『専門店なのに大した事ないな』と返されて悔しい思いをしました。それからどんどん色々な種類の杖をつくっていったんですよ」
「ほげー。どこの世界にも玄人はいるんだなあ」
持ち手を左右に開くと一脚のイスになったりする杖や、
持ち手が犬になっている杖、
どこかの民族が持っていそうな杖に、室内でも杖がつける、杖に履かせる靴下のようなアイデアグッズまで。
「種類豊富すぎ……」
「1万円以下のリーズナブルなものや、コンパクトに折り畳める杖もあります。アルミ、カーボンファイバー、木……。値段や素材、あらゆる種類の杖を網羅するようにしていますね」
「だいたいどれくらいの本数があるんですか?」
「全店舗合わせて9000種類ほど、約15万本の在庫があります」
「なるほど、多すぎてわからん!」
「杖の専門店である以上、どんな杖もなくてはいけないと思っています。先述の高級な杖もそうですが、ライトがついている杖、ベルがついていて音が鳴る杖、『こんな杖がほしい』という要望があれば、なんでも作ってきました。買い付けるものもありますが、基本的には自社オリジナルの製品です」
「9000種類をオリジナルで生み出すなんて、もはや神の領域」
杖業界のプラダやルイ・ヴィトンになれ
「それだけの数を自社でつくるのは大変じゃないんですか?」
「ユニクロさんと一緒ですよ。海外で製造小売して、うちでつけた値段が、業界の値段になっているんです。杖の専門店はうちだけだから」
「競合他社がいないから、市場価格を自分たちで設定できるんだ」
「人の物を売っていたらいつまでたってもその値段ですから、生きていけないです。買うか買わないかはお客さん次第ですが、買ってもらえるようなブランドづくりをすればいいんですよ」
「な、なるほろ……」
「プラダやルイ・ヴィトンだって、そのブランドだから買うんです。『つえ屋の杖だから買いたい』というブランドづくりをしてきたからこそ、今日の発展があると思いますね。だからいま、他社が入っても絶対に勝てないですよ」
「もしつえ屋さんの隣に同様の専門店ができても?」
「はい。社会貢献から幅広いニーズへの対応、独自ブランドのしての戦略。他社の追随はないですね」
「ちなみに、うちは家電のように保証をつけているんです。杖に保証をつけるなんて他にないでしょう。値段が高いことについて『ブランドです』と言うだけではいけませんから、サービス面の充実もしっかりしています」
「今日ってマジでジモコロの取材?カンブリア宮殿とかプレジデントじゃなくて?」
店舗は倉庫!在庫をぎっしり抱えて売る戦略
そんなつえ屋さんですが、お店のなか、なんぼなんでも商品を詰め込み過ぎてるような……。
「それはですね、うちは倉庫を兼ねて店舗展開をしているんです」
「お店が倉庫になっている……?」
「在庫が膨大なので、店舗と倉庫が別だとコストがかかります。だから店舗使いできる倉庫で販売しているんですよ」
「だから在庫を抱えていても売り上げを伸ばせるのかー!」
「そうです。現在、京都市内に7店舗ありますが、年中無休の店舗もあれば予約がないと開けない店舗もあります。どのお店もガラス張りなので店内の杖が視認できるため、閉めていてもつえ屋の看板になるんです」
「たしかに杖がギッシリ詰まった空間があれば超目につくわ……!」
「そして閉店後でも深夜2時までライトをつけています。夜、暗くなった街につえ屋がパアッと目立って……。これ以上のアピールはないでしょう」
「店舗・倉庫・看板……ひとつの空間の活用術がすごすぎる」
「その店舗も、近い距離同士で展開しているんです。靴屋の『ABCマート』さんと同じようなやり方ですね。同じものを複数のお店に置かずに散らす。もしA店で在庫がなくても、近くのB店にある在庫を取って来れるでしょ」
「ひとつの店舗じゃ在庫すべてを抱えきれないしなぁ。基本的に在庫ってマイナスイメージじゃないですか。でも、つえ屋さんにとって在庫が儲かるカギなんだ」
沖縄にも出店!海外も行くぞ!つえ屋は今日も休まない
「今後はもっと店舗を増やしていくんですか」
「そうですね。3月に大阪、4月に京都でもう1店舗がオープン。北海道はすでに店舗があり、もうすぐ沖縄にも出店します。海外はヨーロッパから展開していきたいと思っています」
「ワールドワイド『TSUEYA』の予感!」
「海外での展示会は何度もしていますし、最低でも月に1回は海外出張があります。近いうちに海外でオープンするのは間違いないですね」
「すごい……!そんなに早歩きで仕事して疲れませんか……?」
「うちの経営理念は『経営革新と日々成長し続けること』、『日本の新しい文化を創造する』という2本の柱で成り立っています。 基本的に杖は持ちたくないネガティブな商品ですからね。だからこそ杖を持ちたいものにするという革新を続け、明るい健康的な社会をつくることがミッションです。そしていずれは杖という文化そのものをポジティブなものに変えていきたい。休んでいる暇はありません」
おわりに
ガッツある経営理念、がつがつ儲ける気概にあやかりたいショット〜!
難病発症、社会貢献、種類豊富な杖の数々、ユニークなお店の作り方……モリモリの取材でお腹いっぱいだ〜!京都にこんな面白い会社があるなんて全然知らなかった。
みなさん、杖をつくおじいちゃんおばあちゃんの見かけたら、その杖にぜひ注目してみてください。ひょっとしなくても、つえ屋さんの杖かも。
「私も仕事を一生懸命頑張ろうって気になりました!坂野さんのお話、超影響力ある〜!」
「ありがとうございます。杖が必要な際はぜひ、つえ屋にお越しください」
「ちなみに、この縁起が良さそうな金色の杖はおいくらですか?」
「60万円です」
「……」
頑張ろう、60万の杖が買えるその日まで……
書いた人・平山(通称:おかん)
京都の編プロ、合同会社バンクトゥの編集/ライター。兵庫県出身。大学のあだ名「おかん」がそのまま通称に。しかし実態は色々とおっさんに近い。酒場と酒を愛し、将来の夢はスナックのママ。
個人ブログ:おかんの人生飲んだくれ日記/Twitter:@hirayama_okan/所属:合同会社バンクトゥ