こんにちは、ジモコロ編集長の柿次郎です。
みなさんは「Dr.コトー診療所」というドラマ(原作はマンガ)をご存知でしょうか。
離島に診療所を開いた医師が、孤軍奮闘しながら、少しずつ島民に愛されていくというお話なんですが……
あれって実際はどうなのでしょうか?
離島といっても医療は絶対必要。でも都会と離島では労働条件がかなり違うハズ。
わざわざ離島に行きたいなんて医療関係者がいるのでしょうか?
住まいはどうすんの?
ぶっちゃけ、給料高いの?
人間関係は?
というわけで今回は、沖縄本島から西におよそ60kmのところにある粟国(あぐに)島で働く薬剤師に、実際のところどうなの!?という本音を聞いてみたいと思います。
ただし、僕には薬剤師の知識はゼロなので、現役の薬学部学生に同行してもらうことにしました。
千葉大学薬学部の学生、寺田さん(左)です。
では、さっそく二人で、離島薬剤師の給料や人間関係など、知りたくてしょうがなかったことを質問しにいきましょう!
離島で働く薬剤師に話を聞いてみた
東京から飛行機とフェリーを乗継ぎ5時間超。美しい海に囲まれた人口700人の小さな島、粟国島に到着しました。
人口700人って、体育館に全員入りきっちゃう人数ですね。
沖縄本島との距離感はこんな感じ
そしてこちらが、2015年8月にオープンしたばかり。粟国島唯一の調剤薬局「あぐに薬局」です!
ここで働いている薬剤師の岡野紘子さんに気になる質問をぶつけてみましょう!
「はじめまして、よろしくお願いします」
「薬学部で勉強している学生として、離島で働くってどんな感じだろうって興味津々です! いろいろ質問させて頂きたいです」
「はい、何でも質問してくださいね」
「ではさっそくですが……離島ってAmazonは届くんですか?」
「そこが一番気になってたんだ!? えーっと、もちろん届きますよ。生活用品含めて、手に入らないものはあまりないですね。Amazonだと注文してから3~4日くらいで届く事が多いかな」
「わー、そうなんですね。良かった…」
「都会にいると『商品を注文した翌日に届く』というのが当たり前になるもんなぁ」
「ちなみに楽天やYahoo! ショッピングはどうでしょうか」
「もちろん注文できます。ただ、海の状態が悪くてフェリーが止まってしまうと、届くまでに1週間以上かかることはよくあります……あれ? 薬剤師のことについての取材でしたよね? ショッピングの取材でしたっけ?」
ちなみに―
離島で働くというと、気になるのが交通の便。台風が近づいてくるとフェリーの運航がない時もあるとか。
そんな時は『ヘリタクシー』という手段も!
最大5名まで搭乗可能で、1フライトの料金は通常10万8000円(税込)が、沖縄県の補助によりなんと80%オフの2万1600円!
沖縄本島↔︎粟国島がフェリーで片道2時間かかるところ、ヘリだとたった30分で移動できるとか。
割り勘すれば安いし、グループで移動するならヘリがいいかも!
離島で働くと稼げるの?
「では、ここからは具体的な話を聞きたいんですが、なぜわざわざ不便そうな離島で働こうと思ったんでしょうか」
「ここに来る前は、沖縄本島の大きめの病院の院内薬局で働いてました。ちょうどタイミングがいろいろ重なってここに配属されたって感じなので、“わざわざ”ってわけではないかな。だから最初はすごく不安でしたよ」
「それでも離島でやってみようと思えたのは、やっぱり稼げるからですか?」
「うーん、離島の調剤薬局はここが初めてなので、お給料の相場は分からないですね。でも、お金が入って来る云々よりも、出ていくところが少ないので結果で言えば、貯まります!」
「おぉぉ!」
「 私が今住んでいる家は借家の2DKの一軒家なんですけど、家賃は会社持ちなので私の負担はゼロなんです。食事も何だかんだおすそ分けを頂けたりするので、かなり抑えられますね」
「都会の薬局で働くのと貯金額だけで比較したら、相当な年収レベルになりそうですね。2〜3年間働くだけで1,000万円以上貯金できるんじゃないですか!?」
「お金の話になった途端、めちゃくちゃテンション上がってますね」
「へき地で働く人って『自然とともに暮らしたい』とか『お金よりも大切なものが、ここにはある』ってモチベーションが多いのかなって思ってたんですが、岡野さんは貯金通帳見てニヤニヤするタイプなんですか?」
「いえ、通帳は全く見ないですね。記帳すらしていなくて『早く記帳してください』っていう手紙が来てます(笑)」
「これは相当貯めてるぞ……」
「お金を稼ぎたい!というモチベーションで、こういった場所に来る人をどう思いますか?」
「全然良いと思いますよ! ちゃんと仕事をこなすのは大前提として、目的が『稼ぎたい』で来るのはありでしょう。実際、私の友達でもお金がたくさんもらえるから田舎で働くよっていう人もいます」
「でも、稼げる反面、島の暮らしって慣れる努力が必要そうに思えるのですが、どうでしょうか?」
「私は幸い島の暮らしに苦労は感じませんでしたが……これは、人それぞれ合う合わないがあると思います。『ちょっとくらい大変でも、待遇がいいから頑張れる!』という人もいると思いますし」
離島の人付き合いってどんな感じ?
「人口が少ない離島だと、人付き合いとかどんな感じなんでしょう」
「この島に来てから1年以上経ちましたが、友達は島民以外にも、外から移住してきた方や、地域おこし協力隊という活動をしている人たちなど、色んな方と友達になることができましたよ」
「この島に初めて来た時は、知っている人が誰もいなかったんですよね?」
「いませんでした。よそ者が受け入れられるのかな?という不安は、正直ありました」
「住んでみて実際はどうでした?」
「来てみたらそんなことは全然ありませんでした! みんな気軽に話しかけてくれるし、家に帰ったら玄関に果物や野菜とかが置いてあったりもして。私がお返しにと、故郷の桃をおすそ分けしたら、桃がメロンになって返ってきたこともありました」
「素敵な繋がり方ですね~。とはいえ、コミュニティが狭いと、噂とかもすぐ広まりそう。恋愛とかも難しいのでは? みんな知り合いだから浮いた話があるとすぐ広まっちゃうので、好きな人がいても一歩踏み込めないとか」
「たしかに噂は良いことも悪いこともすぐ広まりますね。話にいっぱい尾ひれがつくことも…(笑)。人と人との距離がとても近いので、プライベートをしっかり確保したい人は、ちょっと大変かもしれないです」
「都会育ちの希薄な人間関係が当たり前と思ってたら、戸惑いそうですね」
「それは人や場所によると思いますが……私は、住むんだったら楽しく地域の人と仲良くしたいし、島のみんなに住まわせてもらってるんだなっていつも感謝しています」
「愛が強い人だなぁ……」
あぐに薬局ができた理由
「この薬局は昨年オープンしたんですよね? 以前は診療所で薬が処方されていたのに、今は薬局で処方されるとなると、患者さん的には手間になってしまうと思うのですが、この薬局の役目って何かあるんですか?」
「たしかに患者さんからしたら『今までは診療所でもらえてたのに!』となりますよね。ここに調剤薬局が出来て薬剤師がいるメリットは、患者さんに対して細かいケアができるというのがあります」
「ケアってどういうことをするんですか?」
「患者さんがわざわざ病院や診療所まで行かなくても、気軽に体の不調や悩みなどの相談ができたり、薬の飲み方などの指導が受けられたりします。必要だったら薬局から診療所の先生に連絡もしますね」
「なるほど。病院や診療所が混んでいて、なかなかお医者さんに相談できないってこともありますもんね」
「また、この島で私が薬剤師として働くやりがいにも繋がっているのですが、お年寄りの薬の飲み忘れ対策もケアの一つです。例えば、ご自宅までお邪魔して生活環境を見せていただいたり、実際にどれだけ薬が残っているのかなどを見て、患者さんの生活背景まで分かった上で、一人一人に合った対応をすることができます」
「たしかに、お年寄りが多い地域はそういったアドバイスは大切ですね!」
「そしてもう一つのメリット。これはここの薬局に限らず、全国に薬局があることの利点になりますが、処方の間違いを防げるという点です」
「えっ!お医者さんや看護師さんが薬を間違えることなんてあるんですか!?」
「私もいま薬局でバイトしているんですけど、以前、『子供の患者さんなのに大人の量の薬が出ている』といった処方量のミスがありました」
「先生も看護師さんも人間ですから、
「僕、薬剤師さんの存在意義がよく分かりませんでしたが、そういうことだったんですね。医者の先生や看護師さんがまさか『薬を間違える』とは思ってませんでした……」
「このあぐに薬局には1日にどれくらいの患者さんが訪れるんですか?」
「一日平均20人くらいですかね。基本的に全て一人でやっています」
「ひとりだとやることが多くて忙しそうですね…! 残業とか結構ありそう!」
「全く忙しくないと言ったらウソになりますが、そこまで大変ではないですよ。基本の業務時間は9時から18時で、たまに残業するくらいです。その時でも遅くても20時くらいには帰っています」
「そうなんですね。もっと忙しいと思ってました」
「薬剤師としては、以前よりも患者さんひとりひとりにかける時間が増えたのが幸せですね! 離島だと島民みんなの顔がわかるし、処方されている薬が変わったなとか、体調が今どうなのかというのも分かりますから」
「なるほど。顔が見える医療……羨ましい!」
「それと先日、事務として働いてくれる島の方が見つかったので、今後は今よりも残業や負担が減ると思います!」
「へぇー、島の雇用にも一役買ってるんですね」
島ならではの良さって?
「粟国島のいいところってどんなところでしょうか」
「まずは美しい自然ですね。海は本当に綺麗です。あと、見たことがないくらい星がよく見えます。こんなところで生活できて、本当に幸せだなぁ……と心から感動する瞬間ですね」
粟国島の夜空 撮影:四方 正良さん(粟国村観光協会)
「島に来たばかりの頃は、自宅から薬局まで歩いて『空が青いなぁ、海が綺麗だなぁ、夕日が美しいなぁ』と毎日感動してました」
「うわぁ、本当に素敵!」
「まあ、慣れてくると『今日は暑いから車で行こう』ってなっちゃうんですけどね(笑)」
「実際住んでたら当たり前になっちゃうのか」
「ちなみに粟国島には娯楽施設みたいなのはありませんよね。休日は何をして過ごしてますか?」
「私は海が大好きなんです。夏の休日はスキューバダイビングとシュノーケリングをして過ごしていますね!」
「最近までは『ギンガメアジのトルネード』というのが凄い時期で、毎週これを見るために潜ってました。ダイバーには有名なスポットで、これ目的に来島する観光客の方も沢山いました」
「スキューバダイビング好きには最高の島なんですね」
「他にはどんな過ごし方がありますか?」
「島の人が魚捕りに連れて行ってくれたりするので、モリとか網とか追い込み漁させてもらったりしてます」
「自分で獲った魚っておいしいんだろうなぁ。じゃあ、食事の面では言うことなしですか」
「この島では魚も捕れるし、野菜ももらえるし、大抵のものはおいしいです。ただ、豚や牛などの生肉が売っていないんですよね。不満といえばそれが一番の不満かな。冷凍のものはあるんですけどねぇ……」
ちなみにヤギ肉を食べるという文化はあるんですが、岡野さんは独特の臭いが苦手なんだそう
薬剤師の仕事で大事なこと
「薬学部の学生として聞きたいんですが、薬剤師の仕事で大事なことって何なんでしょうか」
「患者さんから言葉を引き出す質問をすることではないでしょうか」
「言葉を引き出す質問……?」
「ちょっとした雑談の中でさりげなく探る質問をするんです。そこで『あ、さてはお薬を飲んでないな?』と気付けたり、逆に、お薬が必要無いのに何か飲まないと気が済まない患者さんは適切にアドバイスしたりして」
「あぁ…『わざわざ来たのに薬の一つも出さねぇのか!』って怒る人いそう!」
「そういう時は『胃腸が弱っているならアロエを食べるといいですよ』という感じで、患者さんの気分を損ねないように上手く話を持って行くとかね。人として柔軟に接することができなければ、ロボットでもいいわけですから」
「相手とコミュニケーションをしながら、その人を理解したうえで適切な対応をするってことですね」
「患者さんのことを理解してあげることが薬剤師の役割だと考えています。私は、『わからないことがあったら、あそこの薬剤師に聞きに行こう』と言われる存在になりたいんです」
「患者さんの顔を見ることができるこの島では、仕事にとってもやりがいを感じることができます。薬剤師としては本当に幸せなことだと思います」
「はぁ、立派な人だわ…。今日はいい話聞けました。寺田さんどうです?」
「そうですね、今回お話を聞いて、『離島は稼げそう』から、『離島は稼げる!』へと変わりました」
「そこかい!」
「お金以外にも、自分が将来どのような薬剤師になりたいかというビジョンが見えてきた気がします! 今日はありがとうございました!」
「こちらこそ、ありがとうございました!」
「あっ、最後にひとつだけ質問いいですか?」
「店内にお薬色々ありますけど、岡野さんが個人的に一番好きな薬って何ですか?」
「知って何になるの?」
「えーっと、あっこれです!」
「あるんだ」
「葉酸錠。パッケージが好きなんですよ。かわいいですよね」
「ありがとうございます。満足しました」
ゆっくり流れる時間の中で、美しい自然と優しい住民に囲まれて、お金もいっぱい稼げる離島薬剤師の仕事はとても魅力的ですね。
これから薬剤師を目指す学生の皆さんや、現役薬剤師の方も是非、離島やへき地で働く薬剤師を目指してみてはいかがでしょうか!
最後に今回の取材のダイジェストムービーをどうぞ!
さて、本記事の依頼主である株式会社梟屋(ふくろうや)では、今後も離島薬剤師の現場を取材をしていくそうで、今回の岡野さんのような取材を引き受けてくれる離島の薬剤師さんや、離島の病院、薬局を募集しています。
離島の医療について広く知ってもらいたい、興味がある、という方は問い合わせフォーム(https://fukurouya.co.jp/contact/)から気軽に連絡してみてください!
※ この記事は2016年10月に公開された 「絶景の離島で『薬剤師』をやると高待遇で働けるって知ってた?」を再編集したものです
<広告主>
株式会社梟屋
徳谷 柿次郎
株式会社Huuuu代表取締役。ジモコロ編集長として全国47都道府県を取材したり、ローカル領域で編集してます。趣味→ヒップホップ / 温泉 / カレー / コーヒー / 民俗学など Twitter:@kakijiro / Facebook:kakijiro916 Mail: kakijiro(a)gmail.com