視界不良の海に飛び込み、穴の中へ手を伸ばし、ぬめぬめとしたその相手をなんとか水面まで引っ張りあげる。巨大であればあるほどアドバンテージが高い。
それが1960年頃の太平洋北西部で人気を博した「タコレスリング」なるスポーツだ。
タコレスリングでは、持ち帰ったタコの重さに応じてダイバーに得点が与えられる。酸素ボンベを使用しなかった場合はボーナス点が加算される。
タコのほうは踏んだり蹴ったりだっただろうが、このスポーツは1940年代に始まったと言われている。
スポンサードリンク
ピュージェット湾のタコレスリング
1957年11月24日付のトレド・ブレード紙には、ワシントン州ピュージェット湾で開かれたタコレスリング大会に200人の観衆が集まったと報じられている。
スキンダイバー3名からなる各チームは、シュノーケルか酸素ボンベの使用の別、ならびに海上へ持ち帰ったタコの総重量に応じて獲得できるポイントを競い合った。
優勝したのはオレゴン州ポートランドのチームで、引き上げたタコの総重量は36キロだった。念のため言っておくと、ミズダコはかなり内気で、怒らせない限り攻撃をしかけてくるようはない。だが、仮に怒らせたとしても大抵は逃げられるだけだ。
大盛況を博した「世界タコレスリング選手権」
以降数年に渡り、タコレスリングはピュージェット湾での人気アクティビティとなり、1963年にタイトロウビーチで開催された世界タコレスリング選手権には5,000人の観衆が訪れた。主催者がテレビ局と契約を交わしていたこともあり、単調さを防ぐために、ビーチにはタコが仕掛けられ、選手たちのドラマが演出された。
レスリングとは言うものの、タコレスリングは格闘技とは違う。中がどうなっているか分からない穴の中に手を突っ込み、捕まるまいと岩にへばりつくタコを引っ張り出すのだ。ダイバーたちは海中の岩場の穴に腕を突っ込んでは、タコの膨らんだ頭がないかどうか調べて回る。
タコがいたら、触手の吸盤を引き剥がし、海上まで持ち帰る。ダイバーの1人は、タコとの格闘が終わりに近づくとポンッという音が鳴ると述べている。岩から触手を引き剥がしてしまえば、海上に持ち帰るのはたやすい。
選手権には111名の選手が参加し、20匹以上のタコが捕まえられた。捕まえられたタコの重さは1.8キロから25キロで、それほどの大物はいなかった。捕まえられたタコは数匹が選手たちの胃袋に収まり、残りはピュージェット湾に放されるか、地元の水族館に引き取られた。
タコレスリングの起源は?
1949年4月のメカニクス・イラストレイテッド誌に、「タコレスリングが僕の趣味」という記事が掲載された。これはその記事の著者、ウィルモン・メナードが自宅のあるタヒチの海でタコを引き剥がすことが好きであると綴ったものだ。
タコレスリングと題されているが、著者が行なっていたのはフルートでタコを誘き寄せ、モリで殺す血なまぐさいタコ漁だった。
著者によると、モリで刺されたタコは人間のようなうめき声を上げるのだという。タヒチの村人の手を借りて、7.6メートルもの触手を持つタコを仕留める場面は、この記事のハイライトである。
記事はドラマチックな調子で次のように締めくくられている。そして、これが50年代、60年代に行われたタコレスリングの起源だとされている。
タコと格闘したくなっただろうか? 不愉快なスポーツだと思われただろうが、哀れで無害な生物を狩るよりはずっと良いものだ(西洋ではタコは悪魔の化身と言われ忌み嫌われていた)
タコと格闘し、トドメを刺したなら、海の世界から危険な敵を排除したことになる。だが、足下にも注意したほうがいい。うっかり者のタコハンターなどありえない。注意を怠れば、死あるのみだ。
現在は違法となったタコレスリング
タコレスリングは現在のワシントン州では違法である。だが、アメリカ以外では、テレビ局の企画などで一部似たようなことが行われているようだ。
カラパイアの読者なら知っていると思うがタコは大変知能の高い生き物である。タコのゲノムは人間とほぼ同じ大きさで、しかもタンパク質遺伝子は33000個とヒトの25000個よりも多いのだ。
擬態能力に高く道具を使いこなし、柔軟な体で狭い隙間にも入っていく。人類はこれ以上タコのことを怒らせない方がよさそうだ。
The Lost Sport of Octopus Wrestling
via:amusingplanet / seattletimes / viceなど/ translated by hiroching / edited by parumo
あわせて読みたい
ただものじゃない。タコのハイスペックさがわかる22の事実
タコってやっぱ頭いいわ。ちょうどいいサイズの貝殻を集めて身を守る道具として使うタコの高画質動画
賢いぞ!ニュージーランドのタコ、オッジーさんが瓶の蓋を素早く開ける記録を樹立。10秒以内でポンッ!
パターン白に変更します!うっかり釣れちゃったタコの擬態っぷりが凄い!
全長4メートル。深海に住む超巨大タコ「カンテンダコ」は食後のクラゲの触手を武器として利用している可能性
この記事が気に入ったら
いいね!しよう
いいね!しよう
カラパイアの最新記事をお届けします
「知る」カテゴリの最新記事
「歴史・文化」カテゴリの最新記事
この記事をシェア :
人気記事
最新週間ランキング
1位 11071 points | はじまっちゃった?人工知能(AI)が人間に理解できない独自の言語を生み出し会話を始めた(米研究) | |
2位 2603 points | あまりにも辛すぎる鳥生を送っていた鳥に、やっと幸運が訪れた。大親友を得てこれからという時に、ああなのに・・・ | |
3位 2344 points | 究極の癒やし効果と称された「432Hz」音楽にまつわる9つの嘘と真実 | |
4位 1767 points | 同じニャーでも意味が違うんだからおまえら覚えておくように。猫の11種の鳴き方とその意味、対処法。 | |
5位 1739 points | 美しいお尻を探せ!中国で開催された「美尻コンテスト」、ナチュラルな美尻で19歳の女性が優勝 |
スポンサードリンク
コメント
1. 匿名処理班
端から端まで読んでも考えがまとまらず「・・・(^ω^ )」ってなる
2. 匿名処理班
見たことある!
女の人が触手と格闘してるやつでしょ?
3. 匿名処理班
読んでるとたこ焼きが食べたくなってくる
4. 匿名処理班
うむ、タコは怒らせないほうがいい。なにせはるか昔に火星からやってきた火星人で、地球人との交配実験なども行なっていた連中だからな。日本には、地球人と連中の交配実験の証拠である、目撃者による版画も残ってるし。
ww
5. 匿名処理班
ナイトスクープでタコと戦いたいのでタコに襲われてみたい依頼人なら見た覚えが…吸盤が滅茶苦茶痛いとかなんとか
6. 匿名処理班
タコと和解せよ
7. 匿名処理班
パルモとタコの浮世絵的絡みショットを所望する。
8. 匿名処理班
いっぽう日本ではタコと海女が(以下自主規制)