鉄道模型に潜む情熱:情熱のミーム 清水亮
全国高等学校鉄道模型コンテストで見た、高校生たちの情熱
去る8月5日、6日の二日間、東京ビッグサイトでは全国高等学校鉄道模型コンテストが開催された。
もともとは同所で開催されていたメーカーズフェア東京(MFT)に来たのだが、面白そうなのでこちらも寄ってみたところ、予想を遥かに上回る面白さに舌を巻いた。
このコンテストでは、全国の高等学校に散在する鉄道研究部や模型クラブなどが、一畳レイアウト部門などで競う形式。それぞれが創意工夫にあふれていて非常に面白い。
筆者の地元、新潟県中越地方の北越急行ほくほく線をテーマにしたレイアウト。雪国情緒だっぷりだが、作ったのは県外の高校。たぶん見知らぬ土地へのあこがれ、のようなものがあったのではないか。
一畳レイアウト部門でも注目を集めていたのは「高さ」に拘ったこの作品。
写真だとわからないが、登坂鉄道らしくゆっくりと登っていくところが実に楽しい。
しかもなんとペーパージオラマとのこと。
ファンタジーなど、ユニークな世界観のものも数多くあった。上写真は映画シュガー・ラッシュの世界観を踏襲したもの。
こうして作られた町並みをひとつひとつ丁寧に眺めていくだけで大きな感動がある。細かい道路のマーキングをなんとか再現しようとされた工夫が素晴らしい。
もはやそのまま一昔前の特撮映画に使えるのではと思うほど精巧かつ大胆な作品。この部門では真ん中にレールがあればあとは何をしてもいいため、高架との交差を表現する学校が多数あった。
近未来的な雰囲気のチューブにノーチラス号と大ダコを表現。こういう遊び心が感じられるのも、高校生のコンテストならではか。
「千と千尋の神隠し」に登場する「油屋」も忠実に再現されている。見ていて思わず楽しくなってしまう工夫に満ちあふれた作品。
かと思えば、今はなき蒸気機関車の車庫をイメージした渋い作品も。さすがに指導する先生ももはや知らない情景だろうから、今の高校生が遠く過去をイメージしながら作ったと考えると面白い。
これもアイデアの光る作品。密閉式になっていて、上部が外れて山の中にレールを走らせている。内部が三重ループになっているのは高低差を出すためと、「時折列車が走ってくる」というタイムラグを演出するため。意外と僕はこういうアイデアに弱い。
この会場にあるのはまさしく若き情熱の塊である。
表現物が持つ抗いがたい魅力を敢えて言葉にするのは野暮に過ぎるかもしれないが、それでもこうした情熱を発露できる場が用意されているというのは実に素晴らしいことだと思う。
メーカーズフェア東京も大人の情熱が炸裂した場であるが、この鉄道模型コンテストは少年少女たちのこだわりが全力でぶつけられていて、まさしく青春という感じがする。
細部へのこだわり、フェティシズムというのは、まさしく人がなぜか情熱を傾ける場所である。
思えば、なぜかコンピュータ業界には鉄道マニアが多い。もともとハッカーという言葉がうまれたのも、マサチューセッツ工科大学(MIT)の鉄道模型クラブが由来だし、マイクロソフト株式会社(現、株式会社日本マイクロソフト)の初代会長だった古川享さんに至っては、鉄道マニアが高じてアメリカに実際の鉄道を買ってしまったほどだ。
筆者も子供の頃にはNゲージのジオラマ作りに没頭した経験があり、なぜか鉄道模型は人を惹き付ける魔力のようなものがあるのだ。
そもそもが、現実の鉄道へのあこがれが手元にやってくる、というのが鉄道模型を含めた模型全般の魅力であり、さらに鉄道模型は、列車そのものだけではなく、それが走る環境といった「世界全体」をまるごと縮小し、再構成するという魅力も兼ね備えている。
ここで育った少年少女たちは、将来どんな世界を作るのか。