【モバマス】嫌われ日記
プロデューサーである自分に、何人かのアイドルが好意を向けてると気づいたのはいつのことだっただろうか。
彼女らのアプローチが嫌なわけではない、むしろ天にも昇るほど嬉しい。が、これは正しくないことだ。
アイドルである彼女らと、プロデューサーである俺。この関係は絶対に許されるものでは無い。
『アイドルに嫌われよう、そうやって彼女らから身を引いてもらうんだ』
俺はいつからかそう思うようになり、そして明日から実践に移すことに決めた。そうだ、明日から日記をつけていこう。
日記を、俺がアイドル達に嫌われるまでの記録にするんだ。
【一日目】
いつも通りに出勤。仕事部屋に着くと同時に俺は全裸になる。
その後ローファー、ネクタイのみを装着し、頭からバラエティでも今日日見ない白鳥のパンツを被る。
正しくは股間につけるべきの白鳥をヘッドに装着した俺は、鏡を見て爆笑した。
だってあの白鳥がこれでもかってくらいのけぞってんだぜ?笑わないわけがないよ。
(参考画像)
のけぞり白鳥、上裸ネクタイ、素足インローファー。
作戦その一、『アホみたいな格好をして嫌われる』。これは中々にいいかもしれない。
浮き足だった俺は仕事部屋から出る。
「おはよ、プロデュ…」
「おお凛、おはよう」
そこで凛と遭遇した。白鳥を携え、ネクタイとローファーだけしか身にまとっていない、股間丸出しの俺の姿を見て言葉を失う凛。そうだ、それでいい。嫌え。
しかし、ここで想定外の事態が。凛は目にもとまらぬ速さで自らのスマートフォンを取り出し、俺にそれを向け100枚くらい連写する。
「…フフッ」
不敵な笑みを浮かべたまま、凛は走って逃げた。
「待て!凛!!」
俺は凛を追いかけるが、素足にローファーというのは意外に走りにくい。それに頭の白鳥がいい具合に視界を遮る。結局、凛にはまかれてしまった。
「くっそ…どういうことだ…?」
こういう格好をしたら嫌われるんじゃなかったのか?むしり凛のやつ悦んでなかったか?俺の中に想定外の疑問が浮かび上がると同時に、背後の曲がり角から気配を感じた。
「あら、P君おは…」
その気配の主は早苗さんだった。早苗さんと遭遇した、してしまった。まずい。早苗さんはマズい。
彼女は今でも警察と太いパイプを持っている。このままじゃ俺は逮捕されてしまう。アイドルに嫌われる前に、俺の存在が社会から嫌われることになってしまう。
「P君、何その格好…!?」
誤魔化せ。口から出任せでもいい。早苗さんが警察にコールする前に勝負を決めろ。
「…ば、罰ゲームですよ!は、はははは!!」
「え?」
「今度のバラエティの!ええ!罰ゲームなんですはい!そうですそうです罰ゲームです!アイドルにやらせる前に俺がすることになったんですよ!はは!はははははは!」
早苗さんは何が何だかよく分からない顔をした後、何かを悟ったのか、俺をまるで雨に打たれて震える子犬でも見るかのような哀れな目で見て、
「……辛いこととかあったら、いつでも私に相談してね?私はP君よりもお姉さんなんだから…」
とだけ告げ、その場を後にした。
俺はこの後すぐに部屋に戻り、泣きながらいつもの服に袖を通し、白鳥を床にたたきつけた。どうしてか涙が止まらなかった。
泣き顔を洗うためにトイレに向かう途中、やけに満足そうな顔の凛とすれ違った。
「ありがとう」とだけ、そのときぼそりと言われた。
【二日目】
昨日は失敗してしまったが、あれしきのことで諦めてなるものか。
今日は作戦その二を決行しよう。
作戦その二、『でかすぎる態度と高圧的な口調』。
こういう上司は嫌われるだろうと言うところから着想を得た作戦だ。
今日は打ち合わせや資料の確認などで、何人かのアイドルが俺に部屋に訪ねる予定になっている。それを利用してやるのだ。
アイドルが来るまでに言う言葉をシュミレーションし、覚悟を決めると共に深呼吸二回。演技だと悟らせてはならない。
数分後、二回のノック音の後、ガチャリ、とドアが開く。同時に俺はシミュレーション通り、これまで上司に浴びせられた言葉を思い返し、一言一句違わず言い放つ。
「ノックしろよ~!三回ノック~!礼儀だろ~!!」
罵倒や罵声と違わない言葉をアイドルに言い放つのは心苦しい。嫌だ、心がもう息苦しい。しかし、これもパパラッチやスキャンダルを避けるためのこと。
心を鬼にしろ。アイドルの為だ、いくらでも心を散らかす勢いでやれ。
「30分前には来とけよ~!これくらい常識だろダメなやつだな~!それだからお前はごめんなさい時子さん全部嘘ですはい私の本意ではありません演技です本当に申し訳ございません許してください」
しかし、俺は前言撤回をする。部屋に来たのは時子さんだった。
マズい、時子さん一言も喋ってない。さっきからまゆ一つ動かさず鞭の準備してる。
俺は覚悟を決め、時子さんの元へスライディング土下座。時子さんは鞭を一度俺の耳元の床にたたきつけ、音でこれからすることを予告する。
俺は今日以降、作戦その二の決行を断念することにする。
だって、後から来たアイドル達がみんな俺の擦り切れた額の皮膚と、背中側がボロボロに裂けたスーツの心配をしてくれたから。
こんないい娘たちに、あの上司と同じことをしてやろうと思ったのがそもそもの間違いだったのかもしれない。
嫌われるにしても、この作戦だけはやめようと、俺は心に誓った。
【三日目】
作戦その三、『仕事をサボる』を決行。
泣きながらゲロを吐くまでちひろさんに怒られたため中止。もう思い出したくもないので今日の日記はここで終わらせてもらう。
【四日目】
もうネタが切れてしまった。俺一人の力ではこれ以上作戦を思いつくことが出来ない。と、言うことで『嫌われる男性 行動』で検索し、インターネットで情報を集め、作戦を練ることにする。
いくつか良さそうなものがあったので今日はここから作戦を組み立てよう。
どうやら、女性は自慢話の多い男のことを嫌うことが多いようだ。だから今日の作戦その四は『自慢話』に決定。
ちょうどありすがいたので自慢話をすることにした。
しかし、俺には自慢できることなんてここ数年ない。仕方がないから、かなり昔まで遡って自慢話をすることにした。
「小三のとき!俺はクラスで一番、給食食べるの早かったからな!」
俺のとっておきの自慢話を聞いたありすは、『だからどうした』としか言いようのない目で俺を見る。その後タブレットで何か調べ物をした後、俺に『いかに早食いがよくないか』を説明しだした。
俺はありすの一言一言に「はい…はい…すいません…」としか言い返すことが出来なかった。
「プロデューサーさんには、いつまでも健康でいてもらわないといけませんからね」
得意そうな顔でありすに言われた。
その日の午後、何を血迷ったのか、外回りから帰った俺に、ありすはいちごを使った満漢全席を用意していた。
「いちごは美味しいだけでなく、ビタミンCやポリフェノールなどが豊富に含まれてます。よく噛んで、ゆっくり味わって食べてください」
得意げで、更に満足そうな顔で俺に料理を差し出すありす。俺は「一人じゃ無理そうだ、それに他の人にも食べてほしい」とありすに告げることで、巴とあと一人を呼ぶことに成功。
その後、巴4、俺4、柚2の割合でイチゴの満漢全席を見事完食。
結果として、ありすと巴に嫌われることの全く真逆のことをしてしまいこの日は終了。一番食べるのが苦しかった料理は、麻婆イチゴかな。
【五日目】
昨日と同じサイトで情報収集。そして作戦を思いついた。
作戦その五、『体臭』。女性は臭い男を嫌うらしい。今日はこのデータを利用させてもらう。
作戦実行のため、俺は自分の仕事部屋で、ある缶詰の用意をする。
その缶詰は、『シュールストレミング』。ニシンという魚を使った、世界で一番臭いとされる発酵食品だ。数値で言えば、くさやの6倍以上の臭さ。この匂いを俺が出すことで、アイドルから嫌われようという算段だ。
早速俺はその缶詰を自らの頭上で開封し、中の液体からニシンの切り身まで一つ残らずその身に浴びた。
悪臭に目がちかちかし、泣くを通り越して失神まで行きそうだがなんとかこらえ、その状態で俺は外に出る。匂いをばらまくための闊歩を始めるのだ。
しかし、ここで想定外の事態が。地獄の生ゴミのような悪臭を発している俺に二人のアイドルが近寄ってきたのだ。
一人はみちる、もう一人は七海。
「そのニシン食べていいれすか?」
「パンに挟むのがそれの一般的な食べ方と聞きました!」
二人はうずうずとしながら俺に尋ねる。俺は悪臭のせいでもう喋る気力もなかったため、ただ頭を縦に下ろす。
二人は俺の頭や肩に乗ったニシンを掴んではパンに挟み、モグモグフゴフゴと食べる。
あまりにも二人が美味しそうに食べるので、俺も右耳にかかっていたニシンの切り身をつかみ、口に含んだ。
このとき、俺は匂いで精神がまいっていて、正常な判断が下せなかったのだと思う。
一度咀嚼した後からに記憶は吹っ飛んでおり、気がついたときには病院のベッドの上だった。
聞いた話によると、シュールストレミングのにおいはすさまじく、衣服についた場合は諦めるしかないという。
俺は「まあでもあのスーツは背中が鞭で裂けてたしいいか」、と極めてポジティブな発想をすることで精神の安定に成功。この涙は、決してスーツがダメになったことに対してではなく、匂いのせいだと言うことにしておこう。
【六日目】
昨日の案は悪くなかったと思う。限度というものを一切考慮に入れていなかっただけだ。昨日の俺は、自分の悪臭で死ぬカメムシと同じだったのだろう。
なので今日は作戦その六、『体臭・改』を決行することにした。
出勤前にジョギングをし、軽く汗を出してから事務所へ。あのサイトによると、汗臭い匂いは女性が嫌う原因の一つらしい。このにおいで、アイドル達に嫌われてやる。
しかし、汗臭いはずの俺にアイドル達は、いつも以上にどんどん近づいてくる。凛を始め様々なアイドルが俺の体臭を嗅ぎに来る。志希なんかは露骨に首元を嗅ぎに来た。
「あのサイト…まさか俺を騙してるのか?」
そう考えた俺は事務所においてある予備のスーツ一式に着替える。すると、アイドル達は匂いを嗅ぎには来なくなった。これでようやく普通の状態に戻ることが出来たのだ。
しかし、帰宅する前にロッカーにしまっておいた脱いだ汗臭スーツがどこかへ行ってしまったことに気がついた。
ロッカーの鍵は変な風に外されていたし、道中は女性の長い髪の毛が落ちていた。
考えたくはないが、誰かが俺のスーツを盗んだのだろう。
しかし、犯人を絞るにも容疑者が50人近く居るし、共犯の可能性も滅茶苦茶高いし、何よりなんか怖いので神隠しと言うことにしよう。
二日間で、新たに2着のスーツを買うハメになった。今日は涙が零れないように上を向いて歩いて帰った。
出勤すると、新品のスーツ一式がロッカーの中にあった。
『ありがとう』、とだけ女性の文字で書かれたピンクのメモ翌用紙もあった。
出来れば礼を言いたいが、真実を知るのは何か怖いから神様からの贈り物と言うことにしておこう。
話は変わって、あのサイトのこと。あのサイトの情報は、信憑性がかなり低いのかもしれない。何をやってもアイドル達から嫌われない。
しかし、俺はとうに嫌われるためのネタは切れている。あのサイトの情報を信用するしかないだろう。
と言うことで、今日の作戦その七は『年齢を聞きまくる』にする。あのサイトにあったことが元の作戦だが、女性は年齢を聞かれるのを嫌がるというのは俺でも知っている。
『流石にこの作戦なら行けるだろう』と思った俺は、事務所に顔を出していたアイドルに対して、作戦を実行に移す。
「美波、今何歳だっけ?」
「はい?19歳ですけど…」
「そうか。文香は?」
「同じく、19歳ですが…」
「うん、そうだよな」
知ってるわこれくらい。何がしたいんだよ俺は。やっぱあのサイト信用できねぇ。
「あの、プロデューサーさん?どうしたんですか?」
「いや、ただの調査だよ」
「?」
二人とも不思議そうな顔をしている。そりゃあそうだ、アイドルなんだから年齢なんて公表してて当たり前だろう。訊かれても失礼なんて思わないのかもしれない。
あのサイトは、もしかしたら時代遅れの知識を、もしかしたらアイドル向けではない情報を垂れ流してるのかもしれない。もうあのサイトに頼るのはやめだ。いや、もうインターネットの情報を鵜呑みにすることを控えよう。他のサイトも同じ可能性がある。
作戦その七、『年齢をしつこく聞く』はここで終了。もう二度と決行なんかするものか。
「ただのインターネットリテラシーの調査だよ」
俺は適当に美波と文香の二人を誤魔化す。しかし二人はそこから会話を発展させていった。インターネット上での自分たちの評価が少々気になるらしい。
「あんまり気にしない方がいいよ。ネット上は心にもない発言や信用出来ない情報も多いから」
と、俺は自らの体験した教訓を二人に教えた。二人には、いや、事務所の皆にはネット上のデマに踊らされるなんてことは経験させたくない。
そんなことを思っていると、菜々さんがラジオ収録から帰ってきた。
「三人とも、何のお話をしていたんですか?」
「インターネットの話ですよ」
菜々さんの質問に俺は答える。すると菜々さんもその話に加わり出した。どうやら菜々さんも、インターネット上で言われもないデマを現在進行形で流されているらしい。
やはり、ネット上の情報は鵜呑みにするものじゃないな、と自戒するように思った。
何か重大な部分を見落としている気がするが、思い出せないと言うことはそこまで重要なことでもないのだろう。そんなことよりも明日以降の作戦の方が俺は気がかりだ。
【八日目】
ネタ切れしていたが、なんとか作戦をひねり出すことに成功。
作戦その八、『遅刻』。時間にルーズな社会人は嫌われるだろうという考えから決行した作戦だ。
しかし、これまでの人生を全否定されるくらい、ちひろさんに怒られたため断念。思い出すのも苦痛なので、ここで今日の分の日記は終わらせてもらう。
ネタがないといったが、『嫌われる』、と言うことに重点を置いていたことがそもそもの失敗の原因だったのかもしれない。
発想の転換。嫌われることは諦め、彼女らから嫌われずに俺への感情を喪失させるということに注目して作戦を組み立てよう。
そのための作戦に、俺は『自分がホモである』と虚偽の情報を流す作戦を思いついた。恋愛感情を持った相手の同性愛者宣言はなかなかに心苦しいものだろう。
作戦その二よりも心は痛まないし、早速作戦その九、『ホモアピール』の開始だ。
近くに居た智絵里を応接室に呼び、対面するようにソファーに座らせ、「大事な話があるんだ」と神妙な面持ちで告げる。
智絵里も俺の真剣な雰囲気を感じ取ったのか、少々緊張したような面持ちになる。これから何か重要なことを言われると理解したのだろう。
「言わなくちゃいけないことがあるんだ…よく聞いてくれ、実はな…俺は…ホ」がちゃり、と応接室のドアの開く音。誰かがこの空間に足を踏み入れたようだ。
背後からは「Je…?Jee…?」という聞き慣れた声がする。こいつまさか、俺が発していたかすかなベーコンレタスの匂いをかぎつけこの応接室に来たというのか?
もしそうだとしたら、俺の視界の外にいる今のこいつはアイドルでも、ましてや人間でもない。ただの飢えた獣だ。
言質を取られたら最後、どんな手段を取ろうと、俺はガチのホモにされるだろう。
それだけは避けたい。俺の貞操は俺が守る。幸い、まだ核心部分に至るまで発言はしていない。ここから発言を歪めて修正を謀る。
「ホ…ホ…干し芋が…す、好きなんだな…!!」
某裸の大将のように干し芋好きを智絵里に告白した俺。智絵里は今世紀最大級と言っても過言でないくらいのきょとん顔をする。
「…気のせいだったじぇ」
しかし、そのおかげで猛獣を退けることには成功した。俺の背後の由里子はドアを閉め、応接室から出て行った。
「プロデューサーさん?干し芋って…」
「いや違うんだ、本当に言いたいことはそれじゃなくてだな…」
もうこの部屋にモンスターは居ない。智絵里を騙せ、事務所を騙せ。作戦その九、改めて実行だ。
「本当のことを言おう…智絵里、実は俺はホ」
「やっぱりだじぇ!」
由里子はまた勢いよくドアを開け応接室に侵入する。こいつはなんでここまでかすかな匂いでやってくるんだ。血の臭いに対する海の中のサメかよ。
「干し芋ォオオオ!!!オオオオオオオ!!!オオオオオ!!!」
「プ、プロデューサーさん!?」
「干し芋ォオオオオオオォォォォオオォオォオォオォオオォオオォオ!!!!」
俺は由里子の追跡に耐えきれなくなり、智絵里を背に駆けだし、『干し芋』と叫びながら事務所中を走り回った。
午後には、ウワサを聞きつけたアイドル達が、俺にかわいそうな目を向けながら干し芋を渡してきた。
輝子には、干しシイタケを渡された。
どれも美味しかった。
【十日目】
これまでの敗因は、ターゲットを絞らなかったことだろう。偶然近くに居たアイドルをターゲットにするのではなく、あらかじめある適度ターゲットを絞り、その標的に見合った作戦をとるべきだったのだ。
まずは、手強いアイドル達を避け、比較的嫌われやすいと思われる年少組のアイドル達を標的にして作戦を組み立てよう。
作戦はシンプルイズベスト、『全裸』だ。一回りも年齢の離れた男の全裸は、嫌われるにうってつけだろう。
あとは実行する日だ。凛と早苗さんの両名が居ない日が好ましい。凛にはまた写真を撮られ、早苗さんにはまた心配されるかもしれないからだ。遭遇する確率が一つもない日が実行のXデーだ。
その日が来るまでは猫を被り、いつも通りの振る舞いを心がけよう。
焦らずとも、必ず嫌われるために今はツメを研ぐべき時だ。その日が来るまで、俺は待つ。
【十七日目】
あの日から一週間、ついにこの日が来た。凛は実家の花屋の手伝い、早苗さんは二日酔いで休み。千載一遇のチャンスだ。今日を逃したら、今度はいつ実行できる日が来るか分からない。
迷わず衣服を脱ぎ、俺は全裸になった。
脱いだ衣服を入れるためにロッカーを開けると、その中にはいつぞやの白鳥が。「頑張れ」と言われるような気がした。俺は「たたきつけてごめんな、頑張るよ」とだけ言ってロッカーの鍵をかける。
よし、と部屋を出て、年少組が大勢いる休憩室へと歩みを進める。さあ、今日が俺の嫌われ生活始まりの日だ。
勢いよく休憩室のドアを開ける。目論見通り、多くの年少組がテレビを見ていた。みんなが俺の方を向く。
「Pちゃま…!?」
一番最初に反応したのは桃華だった。俺の事を恐れるような目で見てる。よし、いいぞ。嫌え嫌え。
しかし、また作戦は失敗に終わることになる。
「一体どうしたのですの…その無数の切り傷は!」
「え?…あ」
桃華に、想定とは全く違った指摘をされ、そこで俺は思い出した。
つい昨日、俺はほたると移動中に、テ口リストと遭遇したんだった。なんとか俺一人が人質になることで、ほたるの安全は確保できたけど、そのときテ口リストにナイフでめった刺しにされたんだった。
ほっといたら血が止まったから気にしてなかった。全く気づいていなかった。どうして忘れていた。
今日しか作戦を実行出来ないと思い込んでいて、頭からすっぽり抜けていたのか?どんな大馬鹿野郎だよ。
「Pちゃま!」
桃華は心配そうな顔で俺に詰め寄る。他の子も少し遅れて同じように詰め寄ってきた。
「せんせぇ!どうしたの!?」「P…」「プロデューサー!」「大けがだよ!」「だいじょうぶ!?」
みんな泣きそうな顔だ。心の底からこんなバカな俺の事を慮っているのだろう。
今は嫌われるよりも先に、この心配を解消させなければと思った。
「お…追いはぎだよ…」
結果から言おう。俺は警察署に行くことになった。
どうやら偶然にも、近所で同じような事件が最近発生しているようだ。俺はその事件の一被害者として警察署に連行された。
「あなたの為にも、犯人は我々が必ず捕まえます!しかしそのためには、あなたの協力が欠かせません!お願いします!」
警察の人は、俺がどんな風に服をはぎ取られたのか、財布はもって行かれたか、その中にはいくらほど入っていたか、ナイフの刃渡りなどいろいろな質問をしてきた。
俺は当然と言えば当然だが、一切分からないので口から出任せばかりで誤魔化した。ところどころつっかえてしまったが、警察の人が『俺が精神的なダメージを負っている』と解釈してくれたためなんとか事なきを得た。むしろ心配されたので申し訳なかった。
事務所に戻り、ロッカーの開けようとするがまた鍵が壊されていることに気がついた。
中には脱いだものと全く同じ新品のスーツ一式と、首に赤いリボンがくくりつけられていた白鳥、『ごちそうさまでした』と書かれたメモ用紙があった。
「また神様の仕業か…」
俺は一人そう呟きながら、白鳥を17日ぶりに頭に装着した。この前と違って、リボンがいいアクセントになっている。
なぜだか分からないけど、涙が止まらなかった。
【十八日目】
もう俺は嫌われると言うことを諦めなければならないのだろうか。
いや、まだ方法はあるはずだ。絶対に諦めてなるものか。
最終手段、『ちひろさんに相談』を使わせてもらおう。
「ちひろさん、アイドルに嫌われたいんですけどどうしたらいいですかね?」
俺はちひろさんに質問を投げかける。
「馬鹿なこという前に手を動かせ」
低く、ドスのきいた声で俺の質問を一刀両断するちひろさん。俺は恐怖の余り、涙と小水を流してしまった。
ああ、やっぱりだめなのか?いや、まだ方法はあるはずだ。
「ん?」
不意に、誰かが忘れていったのか、ソファーの上に携帯が忘れられているのが見えた。悪いと思いつつも、持ち主を特定するために中を覗かせてもらう。
待ち受けには、初日の俺の姿が映っていた。白鳥がのけぞっているのももはや懐かしい。
これはアイドルの誰かが忘れていったものだ。その待ち受けにどうして俺が映っている。どうして誰か分からないところまで俺のわんぱくな姿が出回っている?
「拡散してんじゃねぇか…」
俺が嫌われるよりも先に、この事務所のアイドルをどうにかするのか先のような気もする。
そうだ、今度からその作戦を軸にして行動しよう。そう俺は決心した。
ちひろさんから、「真面目に仕事しろ」と、先ほど以上にすごまれた。俺は泣きながら机に戻った。
テ口リストと追い剥ぎ犯はこの後無事に逮捕されたので安心してください。
鷹富士茄子「幸せを運んで」
時間とお暇があれば
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【モバマス】嫌われ日記
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コメント一覧
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- 2017年08月17日 23:19
- 追い剥ぎとかは捕まっても肝心のスーツ泥棒が見つかってないんだよなぁ
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- 2017年08月17日 23:19
- ちひろさん怖い…ま、いつも通りなんですけどね、課金言わんだけマシ
>>アイドルの為だ、いくらでも心を散らかす勢いでやれ。
しゅがは(26)「初めてだから、優しくしろよ☆」ドキドキ
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- 2017年08月17日 23:33
- ちっひとはぴはぴすうぅして結婚すればいい
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- 2017年08月17日 23:36
- 訳が分からない(褒め言葉)
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- 2017年08月17日 23:36
- さくさく読めて面白い。
途中のホ…干し芋が良かった。ユリユリは生モノには興味ない、と思いきや最近ライブ会場で男性どうしが密着してる様子に興奮してたからこれもうわかんねぇな。
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- 2017年08月17日 23:37
- 臭い系は相手のことを正しく把握してないと逆効果になるからな
このPにはまず痘痕も笑窪、蓼食う虫も好き好きという昔から伝わる言葉を贈ろう
-
- 2017年08月17日 23:42
- モバPはガチャを回す生き物だからな。
Sex:必要なし
-
- 2017年08月17日 23:45
- ※7
性別は大事じゃね? 男女でアイドルの趣味も違うと……いや、Pは男しか居ないか…ごめん、最近頭が痛くて意識が朦朧とするんだ、寝るよ
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