翠星石と温かい雨
- § 主な登場人形の紹介
真紅 : 世界を照らす太陽のような圧倒的存在感と美を体現している第5ドール。まさに圧倒的。
雛苺 : 失禁しまくる第6ドール。失禁の成分が庭師の如雨露水と酷似しているとの研究成果が出た。
翠星石 : とりあえず『行けたら行くです』を連呼する第3ドール。
蒼星石 : 誠実な第4ドール。彼女の『行けたら行く』は9割がた、本当に来る。
金糸雀 : 鉄の女サッチャーよりも普通にみっちゃんが好き。
珪孔雀 : 企画物の第8ドール。純真無垢だが、男の子同士も悪くないという趣味を持つ。
水銀燈 : 飼育しているナマズに生餌を与える時だけが人生の楽しみな第1ドール。自称最凶。
雪華綺晶 : 水銀燈のナマズのために虫とかザリガニをせっせと採取している第7ドール。
薔薇水晶 : 最近、暇なので、効果的なバントの角度を研究している槐ドール。
- § 桜田ジュンの部屋
雛苺「むぅ~……」
翠星石「ん? どうしたですチビチビ? いつにも増して、へちゃむくれな面をしてぇ?」
雛苺「見てなのよ、これぇ! 今日も雨が降ってるの! 夏なのに全然、お外で遊べないの!」
翠星石「ははーん、それで不機嫌だったのですか。お子ちゃまには長雨は辛いのも仕方ないですぅ」
雛苺「みょわわっ!? ヒナはお子ちゃまじゃないの!」
翠星石「お子ちゃまですぅ! 雨ごときに文句を言ってるのがその証拠です!」
雛苺「じゃあ翠星石は雨が降っていて外で遊べなくても平気なのよ!?」
翠星石「ま、多少の長雨はですね。恵みの雨とも言うですし、しょうがないですよ」
雛苺「うにゅにゅにゅ…」
翠星石「それに、雨には雨の良さがあるのです。フーリューですよ、ワオ…、ゼンですぅ」
雛苺「…?」
翠星石「そして、今日みたいにシトシト降る雨を見ていると、蒼星石とのあの日の思い出が蘇ってもくるのです」
雛苺「蒼星石とのあの日のホモビデ?」
翠星石「思い出! なんちゅう聞き間違いをするですか、お馬鹿苺」
雛苺「ごめんなさいなの。それで、その思い出ってどんななのよ? ヒナ、聞きたいなの!」
翠星石「ふっ、いいですとも。聞かせてやるですよ。語るも涙、聞くも涙の庭師の双子の切ないストーリーを…」
雛苺「わくわく…」
翠星石「あれはいつの時代でしたか、いつの場所でしたか、それはもう覚えていないのですが…とにかく夏のある日」
雛苺「アリスゲームの合間の時期なのよね?」
翠星石「ですぅ。しかし、翠星石と蒼星石は契約すべきマスターも見つからず、汚い路地裏を彷徨っていたです」
雛苺「……」
翠星石「投げ捨てられた空き缶のように、隅で肩を寄せ合い、うずくまる二人。折から降る雨から身を防ぐすべもなく」
雛苺「あわわわわ…、かわいそうなの! 二人ともかわいそすぎるなの~!」ポロポロジョパパァーン
翠星石「ちょっ!? おまっ…、チビチビィ! こんな導入部で号泣&失禁とか! 涙腺と膀胱が緩すぎですよ!」
雛苺「ご、ごめんなの」
翠星石「まったく、24時間テレビのトクさんでも、そこまでは泣いたり漏らしたりせんですぅ」
雛苺「てへへ、それほでもないの」
翠星石「褒めてねーですってば。まあ、ともかく、そんなこんなで身も心も疲弊しきった二人だったわけです」
雛苺「それから? それからどうなったの?」
翠星石「それからはですね…」
- § 翠星石の回想
翠星石『もう翠星石はダメですぅ。何もかもに疲れたですよ』
蒼星石『そうだね翠星石。でも、あとちょっと我慢してみよう。雨も止んで夏の晴れ間が見えるはずだ』
翠星石『ですね、蒼星石の言う事はいつも正しいです。でも、雨はまた降るです…』
蒼星石『翠星石…』
翠星石『晴れ間を信じて、アリスゲームという嵐の中を何度も何度も進んで来たです』
蒼星石『……』
翠星石『確かに、他の姉妹とのぶつかり合いの中でも、戦い以外の正解という晴れ間が見えたこともあったです』
蒼星石『うん。そうだね、皆が皆、戦いたがっているわけじゃあない。水銀燈でさえも…』
翠星石『でも雨が降るです。雨は皆の心を曇らせ、判断を惑わせ、争いへと目を向けさせたです』
蒼星石『雨…、マスターとの情や絆のことを言ってるのかい? 確かにそうかもしれないね』
翠星石『……』
蒼星石『雨も降らない箱庭から出たことで、僕達は雨を…人との絆や繋がりを知った。それは悪いことだったかな?』
翠星石『いんにゃ、楽しいことだったと翠星石は思っているです。それに大切なことだと思うです』
蒼星石『うん。お父様も、この作り物でもない本物の『雨』を、大切なものを知ってほしくて、アリスゲームを…』
翠星石『大切なものができてしまえば…っ! 姉妹でも戦いあうことは避けられないのですか!?』
蒼星石『……』
翠星石『ごめんです。蒼星石はいつも、翠星石のことをアリスゲームの嵐からも守ってくれているのに』
蒼星石『そんなこと。僕だって、君がいるからこそ…』
翠星石『いいんですよ蒼星石。もう翠星石との相合傘にも疲れたなら、翠星石を置いていってくれても…』
蒼星石『…ッ!』
翠星石『…温かい? どうやら翠星石の感覚も馬鹿になってきたみたいですね。雨粒が温かいです』
蒼星石『…卑怯…だよっ、翠星石! そん…なの』ポロポロ
翠星石『蒼星石? 泣いているですか? どうして…?』
蒼星石『僕は君の前で【疲れた】だなんて言ったことないのに…っ。どうして今みたいなことを…言うのさ』ポロポロ
翠星石『そうですね。ごめんなさいですぅ。いつも【疲れた】って言ってるのは翠星石の方でした』
蒼星石『…そう…だよ』
翠星石『でも、たまには蒼星石も翠星石に【疲れた】って愚痴ってくれてもいいんですよ…』
蒼星石『翠星石…』ポロポロ
翠星石『意外とよく泣くですね蒼星石。…不思議ですぅ』
蒼星石『不思議じゃあないさ。僕だって悲しければ泣くんだよ』
翠星石『そうじゃあないです。さっきも言ったですけど…』
蒼星石『…?』
翠星石『人形でも…涙は温かいんですね』
蒼星石『…うん、そうだね』
翠星石『蒼星石…。翠星石は、まだ相合傘で頑張ってみるですよ』
蒼星石『翠星石…! あっ、ほら見て! 雨が止んできたよ!』
翠星石『おおっ! 本当ですぅ! けど、もう真っ暗ですね。いつの間にか夜です』
蒼星石『太陽の光は見えないけど、でも、雨は止んだんだ』
翠星石『ええ、雨は止んだんですね』
ドッパァーーーンッ
翠星石『ブハッ!? 何です! 何の音です!? テッポーですか、ギャングの抗争ですか!』
蒼星石『いや、違うよ翠星石。花火だ。見てごらん夜空に花火が上がっている』
ズパパーーーンッ
翠星石『打ち上げ花火…、花火大会ですか』
蒼星石『僕達だけじゃあなかったんだ。雨が止むのを待っていた人達は…』
- § 桜田ジュンの部屋
翠星石「…というわけで、裏路地で見た花火大会の思い出は、今でも翠星石の胸に深く刻まれているわけですよチビ苺」
真紅「シリアスで良いお話をしているところ悪いけど、雛苺なら寝てるわよ」
翠星石「真紅ッ!?」
真紅「ほら…」
雛苺「くかー、すぴぴー」ショワワワー
真紅「あらあら、寝てるそばからオネショしちゃって。雛苺ったら、ウフフ」
翠星石「うぬぬぬぬぬぬっ…! テメェから聞きたいと言っておきながら寝オチするとは!」
真紅「代わりに私が興味深く聞かせてもらったわ。あなたと蒼星石にそんなセピアなエピソードがあったなんて」
翠星石「真紅…」
真紅「『裏スジ切れたアナル大破のホモビデ』だっけ?」
翠星石「裏路地で見た花火大会の思い出ーーッ! 耳が腐ってやがるですか真紅!!」
真紅「冗談よ。暇を持て余した貞淑な乙女のメイデンジョークよ」
翠星石「貞淑な乙女は裏スジとかホモビデとか言わねーと思うんですが。大体、アナル大破って何ですか、おっかねぇ」
真紅「ともあれ、外は雨ばっかりで私も退屈だから雛苺と並んで昼寝しようと思ってるんだけど、あなたも一緒する?」
翠星石「昼寝…? チビ苺と並んで?」チラリ
雛苺「…zzZ。まだまだ食べられるのよ」ショワワワァ~
翠星石「流石にオネショ放流中の妹の隣で添い寝する勇気は翠星石にはないですぅ」
真紅「あっ、そう。じゃあ、私と雛苺だけで昼寝するわ。よっこいショットガン」ごろん
翠星石「翠星石は薔薇屋敷に遊びに行ってくるですぅ。今、雨が小降りになっているですし」
真紅「小降りなのは今だけよ? どうせ、すぐにまた本降りに戻るのだわ」
翠星石「いいんです、いいんですぅ。何だか急に蒼星石の顔を見たくなってきたんです!」トテテテ
真紅「傘を忘れずに。あと、車には気を付けなさいよぉ~…zzZ」
翠星石「へいへ~ぃ、ですぅ」
- § 薔薇屋敷の蒼星石専用の部屋
蒼星石「…で、本当に僕の顔を見るためだけに来た…と」キュキュキュキュキュキュ
翠星石「てへへへへ、そうなんですぅ。と言うですか、何やってるです蒼星石? キュキュキュって」
蒼星石「雨の日は庭師道具の整備日和だからね。庭師の鋏を磨いているのさ」キュッキュッ
翠星石「ほぉお~。庭師の鋏の殺傷力の高さの秘密は、日頃の密なお手入れにあったですか」
蒼星石「殺傷力て…。ともかく、何なら翠星石も如雨露のお手入れをしたらどうだい。メンテ用の錬金石鹸もあるよ」
翠星石「んー、翠星石はいいですぅ。そんな事より、鋏のお手入れしている蒼星石を眺める方が大切ですよ!」
蒼星石「何か見つめられてると恥ずかしいんだけど…」キュッキュッ
翠星石「気にすんなですぅ。鋏をお手入れする蒼星石の手指の淀みない美しさ…! ため息が出るですぅ」ホフゥ
蒼星石「だから、恥ずかしいってば」
翠星石「照れんな照れんなです。自信を持つです。吉良吉影なら最高に勃起モンの手指ですよぉ蒼星石は」
蒼星石「褒め言葉なのかな、それって」
翠星石「それはそうと、今日はおじじや二葉(幽霊)はいないんですか?」
蒼星石「マスター(旧)なら、最近の長雨で増水した用水路が心配だから見に行ってるよ」
翠星石「え? 何ですか、それ? 自殺志願者ですか? どうして老人は雨が降ると用水路を見たがるですか」
蒼星石「大丈夫。二葉さんも憑いている…いや、付いているからさ」
翠星石「霊が一緒だとか、余計に心配ですよ。連れてかれるんじゃぁねえです? あの世とかに」
蒼星石「死んでも大丈夫。薔薇乙女に噛まれた人(※)は、nフィーで霊として生き返れる可能性が高い」
※蒼星石の独自用語。薔薇乙女のマスターとなり、生命を吸われたことがある人という意味。
翠星石「そんなドラゴンボールで生き返れるみたいに言われても。というか霊になるなら生き返ってないですよ」
蒼星石「そうかい?
- 関連記事
-
- :-:2017/08/28(月) 19:56:01
- ほっこり。SLPYの描く双子は良い。相変わらず冒頭の紹介冴えてる。出てこないドールのファンもこれで満足出来るくらい。
- :-:2017/08/28(月) 20:00:50
- アナル大破がどうとか言ってた気もするけど近年のSLPYSSでは稀にみる綺麗な話だった気がする。
シリアヌス展開への布石な気もする。
- :-:2017/08/28(月) 20:15:51
- >キュキュキュキュキュキュ
ついに今回から、キン肉マン的な笑い声が各ドールに支給開始されたのかと
真紅「ダワダワダワー」
雛苺「ジョワジョワ」
- :-:2017/08/28(月) 21:29:39
- 残暑らしい湿っていても爽やかで綺麗な話なのに、いつからslpyはSSからホモを切り離せなくなったのだろうか?(歓喜)
- :-:2017/08/28(月) 21:31:03
- 久しぶりにシリアスな話が来ていつジュンが生暖かい尿を飲まされるのかと冷や冷やしたわ
というかレッドゴリラじゃない真紅さんを見たのも久しぶりな気がする
- :-:2017/08/28(月) 21:49:31
- そういや今年はまだ百物語読んでないな。
ケツだけ見ておくか。
- :-:2017/08/28(月) 23:11:27
- 未来のSLPYに設定投げたな…果たして拾われるのかどうか
相変わらず金糸雀がドール扱いをされていない
これはドールではなくアリスになったと考えていいんですね!(前向き)