<たまごっちの教訓> 任天堂スイッチの品薄状態を嘆く声があがると、必ず引き合いに出されるのが
「たまごっちの教訓」です。なんでも任天堂は、たまごっちの二の舞になるのがイヤで、増産には慎重なのだという……
いったい、どういうことなのでしょうか?
ということで今回は「たまごっちの教訓」についてWikipediaに載ってない情報を中心に、詳しく調べてみました。
たまごっちが発売されたのは1996年11月23日。
小型電子ゲームの部類の
「キーチェーンゲーム」と呼ばれる一種です。定価1980円は当時の類似商品の中では割高のほうでした。当初、メインターゲットは女子高生であり、それ故、売り方もティーン向け雑誌に特集を組んでもらい、あとは
口コミに頼るという戦略を取りました。
バンダイの当初の売上目標は30万個で、通常この手の商品の初期生産が6万個前後だったことを考えると、これは異例の数字でした。同社は何か売れる確信をつかんでいたのかもしれません……
<誰も指摘しない下世話な要因> 狙い通り、初代たまごっちは発売されるや否や、女子高生の間で噂が広がり、
わずか1週間で品切れ状態になるほどの人気を博しました。文献によっては「徐々に口コミで広がった」となっていますが、本当はすぐに品切れ状態になったのです。
中でも、白いタイプのたまごっちは希少種であり、10万円以上のプレミアがつくこともありました。あまりにも下世話過ぎて誰も指摘しないのですが、それ欲しさに
「やらせてくれる」女の子がいるという噂が一気に広がったのが、このブームの陰の立役者じゃなかったかなと、私は冷静に分析します。
なぜなら当時、学生だった私も必死に「たまごっち」を探しまわっていた一人だったからです。やっとの思いで海外版をゲットし、とある女の子に貸してあげたのですが、違う男とくっついた挙句、
借りパクされるという、なんともかっこ悪い過去が甦ります。若気の至りってやつですね(笑)
いずれにしても、メインターゲットである女子高生の枠を飛び越えて、そういったブームに乗りたい一般層にまで需要が波及したことで、たまごっち争奪戦は一気に過熱化。発売から40日間で、目標の30万個を優に突破し、追加増産された15万個も瞬く間に売り切れてしまいました。
※余談ですが、セガとの合併話が破談になったのは、このたまごっちブームのおかげで、バンダイの経営が改善に向かったからだと言われています。<結局は大赤字> そう考えるとバンダイは、これでも
かなり無理して増産していたことがわかります。にも拘わらず、依然として解消されない品薄状態に、消費者の不満が爆発。「バンダイは人気を煽るために、
わざと品薄状態にしてる」と批判されるようになりました。ピーク時には苦情の電話が1日5000件かかってきたそうです。
このあたりの構図は現在の任天堂スイッチをとりまく状況とそっくりですね。
消費者の声にこたえようと、バンダイが必死に増産体制に入ったことは言うまでもありません。同社はまず中国の工場をフル稼働させ、さらにタイやマレーシアにも生産拠点を確保。1997年7月になってやっと月産300万個の体制を整えましたが、それでもまだ需要に追い付かず、拡大路線へ突き進みました。
しかし1998年に入るとブームは一気に沈静化しており、あとの祭り状態。残ったのは大量の不良在庫のみでした。結局、1999年3月、同社はやむを得ず250万個を廃棄処分するハメになります。
結果的に、初代たまごっちは全世界で4000万個を売り上げる空前の大ヒット商品となりましたが、無謀とも言える拡大路線で、生産ライン確保にかかったコストや莫大な人件費によって、最終的に
45億円もの赤字を叩き出し、幕を閉じました。
<知ってて当然という風潮> さて、ここまで調べてきて、ひとつ気になったことがありました。それは「たまごっちの教訓」を叫ぶひとたちが、スイッチ品薄を嘆くひとたちを妙に
バカにしてるところです。そんなことも知らないのか。これだからニワカはみたいな……
それに伴って「発売日に買わなかったヤツが悪い」みたいな結論に落ち着くのがパターンとなっています。
実はこのような人たちはどこにでもいます。誰かが「これは問題だ」と声をあげると、必ず現れる
「そんな問題、昔からあった」という謎の事情通のひとたちです。彼らは、ただ自分の事情通ぶりを披露したいだけで、そこから建設的議論へ発展することはめったにありません。むしろ不要な対立を煽ってしまっているのです。
だいたい「たまごっちの教訓」よりも、どちらかというと
「レーザークレーの教訓」によって、当時の山内社長がファブレス経営を強化していったという背景が任天堂にはあると思うのですが、そこまで言及してるひとは誰一人として見当たりません……
今、正直「へえ、そうなんだ……」って微妙な表情になりましたよね(笑)
つまりそういうことですよ。そんな歴史だの背景だの語るよりも、同じゲーム機を遊ぼうっていう仲間なんだから、もっと仲良くしようぜっていう話をしたほうが、よっぽど楽しいと思うのですが、いかがでしょうか。
参考文献:
横井 昭裕
ベストセラーズ
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ただゲーム機本体と比べるのは違うと思うけどね