地中海に浮かぶマルタ島。その南東部にあるゼイトゥン市には、聖カタリナの名を冠するカトリック教会が2つある。ひとつは、市街地の中心に、1692年に創立された教会だ。マルタ・バロック様式の聖堂は1778年に完成している。
もうひとつの「古い」方の教会は、市街地の南西の外れにある小さな教会だ。地元の人々は、こちらの教会のことを「聖グレゴリオ教会」と呼ぶ。
さて、半世紀ほど前、1969年のこと。この聖グレゴリオ教会に隠し通路があることが発見されたのだ。そこから見つかったのは大量の人骨であった。
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imege credit: Kolaa3/Wikimedia Commons [CC BY-SA 4.0]
聖グレゴリオ教会の歴史
聖グレゴリオ教会は、聖カタリナと共にローマ教皇グレゴリウス一世にも奉げられており、毎年、復活祭(イースター)後の最初の水曜日にはパレードが行われる。これが「聖グレゴリオ教会」という呼び名の由来である。
教会前の教皇グレゴリウス一世像
imege credit: Kolaa3/Wikimedia Commons [CC BY-SA 4.0]
教会の創立に関しては、9世紀のアラブ人の侵攻に関連付けるもの、イムディーナの聖パウロ大聖堂における音楽の振興のための歳入源として創立されたとするもの、など諸説ある。
しかし、いずれの説を採るとしても、14世紀までにはマルタ島南東部の小さな教会が聖カタリナに奉げられている。史料に初めて登場するのは1436年のことだ。
中世の聖堂の面影は、今はほとんど残っていない。現在の「新しい」聖堂は16世紀に建てられたものだ。ゴシック様式とロマネスク様式が融合しており、マルタにおける最も古い屋根のひとつに数えられる。
聖グレゴリオ教会内部
imege credit: :Reuv1/Wikimedia Commons [CC BY-SA 3.0]
そして、聖堂の周囲には隠し通路があるのだ。
隠し通路の人骨
キリスト教会は、原則的に、上から見ると十字の形となるよう建てられる。立地条件にもよるが、入り口(長い部分)が西になる。したがって、南北には袖廊(翼廊ともいう)が張り出すことになる。
聖グレゴリオ教会の隠し通路は、南側の袖廊にある。壁の中につくられたU字型の通路だ。そしてこの通路には大量の人骨が積まれていたのである。
imege credit: Reuv1/Wikimedia Commons [CC BY-SA 3.0]
その他に発見されたものは、ビザンチン様式の木製の十字架、イコンと思われる木製のフレーム、16〜17世紀の陶器のかけら、銅貨2枚と金貨1枚、鎖帷子の一部分などだ。
地元の伝説では、この人骨は1614年のオスマン・トルコによる侵攻の際に、生き埋めにされた人々のものだとされている。
1978年〜1980年に行われた調査では、これらの人骨は墓地から掘り出され、この場所へ移された可能性が高い、という結論が出た。つまり、生き埋めにされたわけではなく、隠し通路が納骨堂として使われていた可能性もある。
ただし、これらの人骨の持ち主が死亡したのは、ほとんど同じ時期であるらしい。「生き埋め」ではなくとも、オスマン・トルコによる侵攻の被害者と考えるのが妥当だろう。
軍事的な意味もあった教会
そもそも聖グレゴリオ教会の隠し通路は何のためにつくられたのか。これは、「新しい」聖堂が建てられた16世紀当時の状況と関係している。当時はヨーロッパの神聖ローマ帝国とオスマン・トルコとが地中海の覇権を争っていたのだ。
マルタ島は地中海中央付近に位置する要所である。マルタ島を領有していたマルタ騎士団とは、かつて十字軍の一部であった聖ヨハネ騎士団だ。つまりオスマン・トルコの攻撃を受けるだろうと予想される条件がそろっていたのある。
聖グレゴリオ教会は付近で一番高い土地に建てられている。また、南側の袖廊には隠し通路がつくられただけではなく、袖廊自体が聖堂の他の部分に比べて約3分の1高い。
そのため、袖廊上部の通路に嵌め込まれた窓からは、東〜南東にあるいくつかの湾が一望できるのである。特に、マルサシロク港の聖ルシアン砦、マルサスカラ湾の聖トマス塔が視界に入ることは重要であった。
imege credit: Maximilian Dorrbecker (Chumwa) (own work, using Fgura-map.svg by William Shewring)/Wikimedia Commons [GFDL or CC BY-SA 3.0]
オスマン・トルコ軍がこの付近に現れれば、これらの砦に発見され、狼煙が上がる。そしてその警告は、聖グレゴリオ教会に詰める見張りを経由して、当時の首都イムディーナに届いたのだ。
バレッタにおけるマルタ包囲戦の様子
via: Atlas Obscura / Wikipedia など / translated by K.Y.K. / edited by parumo
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