自宅に、虫がよく出る。

 

諸事情あって1年以上前から自宅を郊外に移して片道2時間の田舎暮らしをしているのだが、山と山に挟まれた空間に建っているだけあって、蟲(むし)のたまり場になっている。

 

具体的な例を挙げると、まず玄関で大量のダンゴムシが組織的な大量虐殺が行われたかのように仰向けで死んでいて、2〜3日に一度、その骸を箒で掃いて土に還すことが日課になった。他にも、玄関前を灯すライトには蛾が無数に群がるし、草むらからはバッタが飛び出し、網戸には蝉が張り付き命を削って鳴き叫ぶ。少し前にはドアの前に蜘蛛の糸が一本だけ真横に張られており、通った際に気づいてさながらマラソンのゴールテープみたいになっていたこともあった。確かに長い道のりと時間をかけて家にたどり着いてゴールみたいになったけど、そんな虫からの粋な計らいはいらない。

 

とはいえ、良いこともある。初夏には家から徒歩2秒の川辺に、大量の蛍が飛び交うのだ。緩やかな光をたたえてふわふわと浮かぶ儚げな光景を見て深い感動を味わう。これぞ田舎暮らしの醍醐味ではないだろうか。

 

蛍はまあ人間に害を与えないから置いといて、総合的に見てやはり虫はその独特な造形から嫌悪感を抱きがちである。中でも家に侵入してくるような豪傑な虫は圧倒的な恐怖の対象となる。そのような時に少しでも恐怖が和らぐように、最近あることをするようになった。

 

「大げさに驚く」。これである。

 

例えば、10cmぐらいの蜘蛛が家に入ってきた時は「ちょ、超巨大殺人猛毒タランチュラだ〜!」と叫ぶ。小指の爪の半分程度の名も無き虫を見かけた時も「ヒエ〜〜!超巨大殺戮悪蟲だ〜!」、小バエに対しても「うわ〜〜〜!!猛狂魔幻殀魄毒蟲(もうきょうまげん・ようはくどくむし)だ〜〜〜!!!」といった具合だ。最後のは完全に今考えたものの、こうすることで少しでも虫との対峙にエンタメ性を持たせられる。しばらく続けた結果、RPGの勇者にでもなったかのように、勇敢に立ち向かうことが出来るようになった。昔は虐殺ルートしか取らなかったが、最近は「逃がす」という選択肢もとる余裕も持てるようになった。

 

そして今では、逆にそれが言いたくて、虫が入ってきて欲しいとすら思うようになった。今まで培ってきた語彙を活かして、小虫をどれほどまでに大げさに表現してやろうか。

 

虫よ、入ってきてくれ…。

 

そう思う今日この頃。皆様も試してみてはいかがだろうか。

 

そんな余裕も見せながらこの前トイレに入っておしっこをしようとしたら最強の害虫ゴキブリが普通に足元に迫ってきたので、チンチン丸出しで上の話を全無視するかの如く「うわ〜〜〜〜〜〜!!!!」と叫びました。虫きめえ〜。

 

敬具

 

 

 

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