クジラが浜辺に乗り上げ、自力で泳いで脱出できない状態になることがある。単体の時もあれば、数百頭ものクジラの群れが大量死していることもある。
ずっと昔からこの現象は確認されていたのだが、その理由は謎のままだった。だが、最近の研究によると、クジラの座礁は太陽と関係があるようなのだ。
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マッコウクジラは世界最大のハクジラである。シロナガスクジラには敵わないが、それでもゾウ4頭分の大きさである。
深い海で主にイカを食べて暮らし、ときにタコやエイ、さらにはサメも口にする。人前に現れるのは珍しいが、アイスランド、ノルウェイ西部、アゾレス諸島のような、海岸の近くで大陸棚が急激に沈む場所では、その泳ぐ姿がときおり人間に目撃されることもある。
ヨーロッパで次々と起きたマッコウクジラの座礁
2016日1月の午後、ハイデルベルク大学の生物学ディルク=ヘンネル・ランケノー(Dirk-Henner Lankenau)は、ドイツ・ヴァンガーオーゲ島に出現した2つの暗い物体を遠くからしげしげと眺めていた。
そばに接近したランケノーは、それが夜の間に打ち上げられて死んだクジラであることを知った。それから4日後、付近の島で2頭のマッコウクジラの死体が浮かんでいるのが発見された。
同日、さらに5頭がオランダのテセルで見つかり、すぐに別の2頭が打ち上げられた。翌週にはイギリスでも死体があがり、結局北海に面する海岸では数週間のうちに30頭のマッコウクジラの死体が発見されるという事態になった。
イギリス東部、スケグネスの浜辺に打ち上げられた2匹のマッコウクジラ(2016年)
image credit:KNS News
いずれも比較的若いオスで、ノルウェー海でイカを食べていた若いオスクジラの群れに属する仲間だったと思われる。
マッコウクジラは方向感覚に優れ、極地から赤道の海まで移動するが、このグループは何らかの理由で水深が浅く、イカがあまりいない北海に紛れ込んでしまったようだ。
北海にとらわれ戻れなくなったクジラの事例はこれが初めてなわけではない。
海岸に打ち上げられたクジラの死体についてはずっと前から記録が残されてきた。だが特に派手なのは1577年、1723年、1726年、1994年の事例だろう。
1577年のオランダの書物に描かれた座礁クジラ
image credit:Public Domain
こうしたクジラの大量死の原因はずっと謎のままだった。
死体の健康状態は良好な傾向があり、病気や栄養失調の兆候は見られなかった。また死因を臭わせるような特定のパターンも見受けられなかった。ずっと昔からこうした現象があることを考えると、それを人間のせいにするのも難しい。
が、もしかしたら太陽のせいにはできるかもしれない。
座礁クジラの原因は太陽嵐?
8月に『International Journal of Astrobiology』に掲載されたクラウス・ハインリヒ・バンセロウ(Klaus Heinrich Vanselow)らによる論文によると、北海で打ち上げられるクジラの死体は太陽嵐が原因であるそうだ。
太陽が吐き出すエネルギーと粒子は地球の磁場を混乱させる。それが地球に命中し、磁気が乱れるとクジラは方向を見失い、最悪の運命を辿ることになるのだそだ。
オランダのノールドワイクの浜辺に打ち上げられたマッコウクジラ(17世紀)
image credit:Public Domain
オスのクジラだけ座礁する理由
北海で打ち上げられるマッコウクジラは必ずオスだが、その理由はオスとメスの生態の違いだ。
マッコウクジラは赤道の海で繁殖し、子供は母親と数年はそこで暮らす。やがて母親の許を離れたオスはグループを形成し、生まれ故郷の海から遠く離れ、イカを求めて北上する。
クジラが北海で迷子になるのは南へと戻る途中だ。通常、オスグループはスコットランドとアイルランドの辺りを通過して大西洋へと戻るのだが、南下するのが早すぎたり、急に曲がりすぎたりすると北海へと進入してしまう。ここは砂が堆積した入江があり、潮汐も激しい。つまり深い海で暮らすマッコウクジラにはまったく適した場所ではないのだ。
北海の地図(1906年)
image credit:Public Domain
北海に迷い込んでパニックに陥ったクジラが目撃されている。それはジタバタして、完全に間違った方向へと進んでしまう。混乱のあまり浜辺に乗り上げると、もはや逃げることは叶わない。人がハイキングに出かけて、遭難し、山の中で命を落とすようなものだ。
かつて考えられていたクジラが浜に打ち上げられる原因
クジラが浜に打ち上げられてしまう原因については、これまで諸説提唱されてきた。人間による汚染や騒音との関連が指摘されたこともある。
2007年の研究では、暖かい時期と打ち上げ現象との相関が発見された。
1980年代に提唱されたある興味深い学説は、太陽の活動に着目している。クジラは反響定位で自分の位置を把握するが、広範囲を移動する多くのほかの動物と同じく、航海には磁場も利用している。しかし地磁気の経路は自然の揺らぎがあるために完全に信頼できるものではない。加えて、強烈な太陽嵐が地球に命中すると少々調子っぱずれなことになる。
巨大イカを食べるマッコウクジラ(1873年)
image credit:Internet Archive/ Public Domain
クジラと伝書鳩の関連性に着目
キール大学のバンセロウは、マッコウクジラの大量死に関心を抱き、過去数世紀分の太陽活動のチャートと照らし合わせてみた。そして、そのカーブと打ち上げられた死体数のカーブは一致しているらしいことに気がついた。彼はその関係について調べ始め、ハトに思い至る。
ハトレースは古いスポーツだが、現代的な姿になったのは19世紀のことだ。訓練した伝書鳩を同じスタート地点からゴールへ向けて離す。その道中の大半、ハトは磁場を利用しているのだが、1970年代の研究によって、太陽嵐が発生していると、伝書鳩が家にたどり着く確率が下がることが明らかにされた。
レース用のハトは非常に高価であるため、愛好家はハトを飛ばすかどうか決める上で太陽嵐の予報を確認するのだが、緯度が北へ向かうほどその影響が強いことが知られている。
これを知ったバンセロウは2005年にクジラの打ち上げと太陽サイクルの相関を指摘する論文を発表。2009年の続編では、グローバル地磁気インデックスという別の太陽活動の指標を取り上げ、打ち上げられるマッコウクジラと太陽サイクルが概ね一致していることを示した。
クジラの死と磁場の変化
今回の最新の論文では、2016年1月と2月に打ち上げられたクジラの死因を探るため、バンセロウらはノルウェー、ソルンドで北海周辺の地磁気状態を計測した。すると1月の少し前に北部区域で磁場が変化していたことが確認された。
クジラが浜に打ち上げられる現象は北海以外でも発生している。大量死は一般的な現象でありマッコウクジラ以外のクジラでも同樣の現象が見られる。
例えば、アメリカのケープコッドでは満月になると数キロにわたり海水が引いてしまうため、大量死が毎年発生している。またニュージーランドでも同じような頻度で発生しており、浅い海とシルト質の海水が反響定位を難しくすることが知られている。
ケープコッドの海岸に打ち上げられたゴンドウクジラ(1902年)年に数回起こる。
image credit:Public Domain
他の研究でもクジラの死因と太陽の関係性が示唆される
クジラの死因として太陽に着目したのはバンセロウだけではない。インターナショナル・ファンド・フォー・アニマル・ウェルフェアのケイティ・ムーア(Katie Moore)は、米海洋エネルギー管理局と協力してそれに関するデータを収集した。
その結果はまだ発表されていないが、太陽嵐だけが唯一の原因であるというよりは、複雑な絵図があることを示しそうである。
確かに太陽嵐がクジラの打ち上げに関与している可能性はあるが、その関連を証明するにはさらに確たる証拠が必要であるということだ。
だがどの事例も複数の要因が絡んでいるのだとしても、少なくとも一部の事例では太陽嵐が主要な要因である可能性はある。
バンセロウの最新の研究は、昨年12月に起きた磁気の乱れはクジラの方向感覚を失わせるには十分な大きさだったことを示唆している。それは状況証拠でしかないが、一般論以上の説得力がある。
バンセロウによると、地磁気の変化が原因で迷子になってしまったクジラは、まずいタイミングでまずい場所にいたに違いないという。
そこは海の交差点のような場所で、行き先を間違えると死が待ち構えている。こうした不運なマッコウクジラは、1億4,960万キロ先にある燃え盛る火球のゲップによって運命が決められてしまった。
via:The Mysterious Connection Between Solar Storms and Stranded Whales - Atlas Obscura/ translated by hiroching / edited by parumo
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コメント
1. 匿名処理班
磁場の狂いが迷走させるのはわかる、ただそれだけと決めるには証拠が少ないな。
それに「他の要素を排除する」ことは可能かな?
否定するんじゃないんだ、個人的には有力な説だと思っている。
ただ他にも化学物質やら軍用ソナー、我々の使う電波などなどを排除してくれるには弱いね、
ぜひ若豌豆の活動を押さえつけるようなデータを揃えてくれ、期待してるよ。
2. 匿名処理班
米軍の大音量のソナーが原因とも言われるよね