パイロット「信じてくれ、マジで機内にライオンがいる」
Credit: 1966年7月16日 毎日新聞
まずは海外の話ではあるが、
「操縦席にライオンだ!輸送機が緊急着陸」というタイトルで、1966年(昭和41年)7月16日の毎日新聞(夕刊)で報じられたニュースだ。チューリッヒからロンドンへ向かう貨物機のなかで、
ライオンが3匹逃げ出して大パニックになった出来事を報じている。動物絡みゆえか、文体もどこか『トムとジェリー』のようなドタバタ風のファニーなニュース記事となっているのが興味深い。
記事によると、機内にライオンを見つけパニックになった貨物機のパイロットが、「ライオンが現れた!」と管制塔に緊急SOSで訴えた。しかし「ジョーク」と思われ笑って信じてもらえなかった。そこで怒ったパイロットは、身の危険を顧みずわざわざライオンの鼻にマイクを近づけ、唸り声を放送。ライオンのけたたましい叫び声を聞いて管制塔もようやく信じることができたという。幸いにもパイロットには怪我はなかったが、ライオンが現れた衝撃で4千2百メートルを飛んでいた飛行機は一気に150mまで急降下を行い、かなり危険な状況だったという。なお、その2週間後の1966年(昭和41年)7月30日、こんどは日本でカンガルーが逃げ出し街を疾走するという事件が発生している。
よく訓練されたボクサーカンガルー、通行人に喧嘩を売る
Credit: 1966年7月30日 毎日新聞
7月30日の深夜0時頃、東京都文京区の後楽園アイスパレス(今の東京ドームシティ内にあった)で某サーカス団体に飼われていたカンガルーの「フジくん」が、出し物であるボクシングの練習中にオリを飛び越え街中へ飛び出すという事件が発生。脱走したフジくんは、サーカス団員25名が後を追ったが足が早くて捕まえられず、警察も多数出動。警察も事態を重く見て本庁からパトカーが3台がかけつける「大捕物」に発展。この時の警察のコメントが、「相手はカンガルーといえども訓練を積んできたボクシング選手。野放しにはできない」というのもなかなか凄いセリフである。その後、麹町署が飯田橋駅付近で走るフジくんを目撃するも捕まえることができず、フジくんは後楽園から約2キロ離れた新宿区まで爆走を続ける。結果、神楽坂署近くで偶然通りがかったという若い男性4名がフジくんを発見し見事に御用。フジくんは捕まえようとした若者にお得意のパンチで応戦したが、脱走時にボクシングの練習中だったこともありグローブをはめていたため、若者に怪我はなくかすり傷程度で済んだという。ちなみにフジくんを逃がしてしまったサーカスの調教師は、毎日新聞の取材に対し「フジくんはまだ東京に来て日が浅い。東京の蒸し暑さにたまりかねイライラしていたフジくんが、私のパンチを嫌って逃げたんでしょう」と騒動の元凶とは思えない凄く居直ったようなコメントを残している。これらの事件は、動物絡みのニュースで怪我人がいなかったためか、文体が他の記事に比べジョークも多くポップで明るい印象となっており、結果ひとつの読み物として面白い内容となっている。もっとも動物の脱走は人間の迷惑以上に動物の命にも関わる重大事件なので、動物園やサーカスの関係者はくれぐれも気をつけていただきたいものだ。参考:毎日新聞(1966年7月16日、7月30日)
Text by 穂積昭雪(昭和ロマンライター)