イギリス、ヘレフォードシア州キルペックにある聖母マリアと聖デイヴィッド教区教会(別名キルペック教会)は、のたうつヘビや謎めいた獣などの北欧風彫刻で有名だ。だがその中でももっとも異様なものはシーラ・ナ・ギグだろう。
シーラ・ナ・ギグは、女性が足を広げて娘フラワーを露出している中世の石像である。彼女は両手を使って足を広げ、自分の娘フラワーを誇らしげに見せびらかしている。
戸惑いを隠せないのは、厳粛な場にはそぐわないように思えるこうした像が、おもに教会や修道院など、中世の宗教関係の建物に刻み込まれている点だ。
大部分は城、聖なる井戸、橋、暗渠、柱などに見られる。その背景とは、なんの結びつきも見つからない。その起源や意味は謎のままだ。
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あまりにも奇妙すぎて、なかなか研究の対象にならなかった
この奇妙な彫刻が初めて科学的に注目されたのは、2世紀ほど前のこと。だが、真面目な研究するにはあまりにも悪趣味で、嫌悪感をもよおす造形をしており、当惑した聖職者たちは、教会の壁から無理やり取り除こうとした。
考古学者は素通りし、博物館は大衆に見せないよう隠そうとした。学者たちがこの奇妙な彫刻に本腰を入れて関心を向け始めたのは、この数十年のことだ。
キルペックの聖母マリアと聖デイヴィッド教区教会にあるシーラ・ナ・ギグ
image credit:Poliphilo/Wikimedia
いったい何のために?豊穣か?肉欲の戒めか?魔除けか?
シーラ・ナ・ギグはいったい何のために作られたのか?豊穣、あるいは肉欲への戒めを表わす異教徒のシンボルという可能性もあるという。
また、建物の出入り口の上にあることが多いため、厄除けの意味もあったのかもしれない。古い時代、ケルト人は、戸口を守る役割の呪術として「女陰」に似た形の物を戸口や門の所に打ち付けておく風習があったと言われている。
巡礼地ルートにある教会の建物には、女性だけでなく男性の露出像もあり、信者たちに肉欲の罪を犯す危険を警告していたのかもしれない。
中世のロマネスク芸術時代では、肉欲はよくヘビやヒキガエルが裸の女性の胸や性器を食べているシーンとして描かれた。
たいてい性器が不自然なほど大きく強調されている。こうしたロマネスクの女性露出像が、シーラ・ナ・ギグを生み出したのかもしれない。
イングランド、ロムジーのロムジー修道院のシーラ・ナ・ギグ
image credit: Jim Champion/Flickr
その名の由来も謎
シーラ・ナ・ギグの名前の由来も謎だ。シーラ・ナ・ギグを初めてまじめにとりあげた、『The Witch on the Wall』(1977年)の著者ヨルゲン・アンダーセンによると、シーラ・ナ・ギグという名前はアイルランド語で老婆の胸を意味する Sighle NAgCiochからきているというが、胸を見せているシーラ・ナ・ギグはほとんどないため、これに結びつけるのは疑問だと言う学者もいる。
学者のバーバラ・フライタークは、ギグは女性器を意味する北イングランドのスラングであることを発見した。
イングランド、ロイストンの洞窟にあるシーラ・ナ・ギグ
image credit:picturetalk321/Flickr
アイルランドに多く残るシーラ・ナ・ギグ
シーラ・ナ・ギグは、西ヨーロッパや中央ヨーロッパのいたるところで見つかるが、アイルランドでは101体、イギリスでは45体ほど発見されている。
(左)アイルランド、ティペレアリー郡フェサードの町中にあるシーラ・ナ・ギグ、(右)博物館のシーラ・ナ・ギグ
image credit: Mairead/Flickr・Bart Maguire/Flickr
スコットランド、ロデルにあるシーラ・ナ・ギグ
image credit:theilr/Flickr
via:wikipedia / britannicaなど/ translated by konohazuku / edited by parumo
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コメント
1. 匿名処理班
うっかり助平さんがいたんじゃないかな
戒律の厳しい時代に辛抱たまらん的な
2. 匿名処理班
まぁ、宗教って本来こう言うもんだからね。
3. 匿名処理班
娘フラワーというパワーワードがまたここに
4. 匿名処理班
娘フラワーに全てを持っていかれて記事の内容があまり頭に入ってこなかったww
しかし最初の写真以外は娘フラワっているようには見えないんだが…
5. 匿名処理班
日本の道祖神なんかも結構丸出しだぜ
6. 匿名処理班
こういうのはアトリビュート(持物)でキャラクターが分かる
のだが、何も持ってないね。レダやワイズウーマンらしき
表現はあるようだが。日本で言うとウズメですかね。
7. 匿名処理班
聖なるポーズ かな
8.
9. 匿名処理班
娘フラワーって何のことかと思った
こういう記事だったら普通に女性器って書けばいいのに
スラング使う方が逆に変な感じがする
10. 匿名処理班
子宝祈願の土着信仰じゃないの?
11. 匿名処理班
なんか最近豪速球をなげてくるね
12. 匿名処理班
息子スティックとか娘フラワーとかネーミングセンスありすぎて笑うw
でも何なんでしょうねコレ。
13. 匿名処理班
彫刻するにしたって、もっと、こう丁寧にというか、なんというか
もうちょっと、頑張れよ、もう!
ああ、もう!!
14. 匿名処理班
教会に奇妙な石像を彫ったのではなく、
奇妙な石像がある場所をキリスト教的に清めるために教会を建てたのでは?
15. 匿名処理班
性交-妊娠-出産のメカニズムが判明していない頃
完全に神秘的な出来事として扱われていた時代の
大地母神信仰の名残なんじゃないでしょうかね
南米やアジアにもあったような気がしますが
元々は豊穣を祈るものであったのが
→(めでたいことだから)魔除け
→(異教のものだからキリスト教的に解釈して)肉欲の戒め
として残ったものじゃないかと愚考します
16. 匿名処理班
やっぱ出産に対する神秘性があるのかな。
17.
18. 匿名処理班
ホールじゃなくてフラワーなのねw
「お花摘みに行って参ります。オホホ。」
19. 匿名処理班
キートン先生出番です
20. 匿名処理班
単なる土着の豊穣や繁栄の女神がこっそりそのまま残されてただけなのでは……
21. 匿名処理班
娘フラワー....
22. 匿名処理班
これホント謎
23. 匿名処理班
久しぶりの娘フラワーというワード
24. 匿名処理班
息子スティック並にインパクトのある新語がw
デザインとかモチーフを考えるとキリスト教以前のもしかするとさらに古いデザインが
元になっているように見えるなあ。
25. 匿名処理班
教会の入り口の意匠と女性器との関係についてはダ・ヴィンチ・コードにも出てたな
26. 匿名処理班
邪悪な感じはしないよね。
27. 匿名処理班
土木建築技術の慣例として受け継がれたんじゃないかと
代々続く石工職人か棟梁(みたいな人)が土着宗教の頃からの慣例として、
施主(教会)に黙って目立たないところに勝手につけたんじゃない?w
28. 匿名処理班
春画も誇張されてるから
そんな感じ?
29. 匿名処理班
ひらめ...かなかった。
30. 匿名処理班
当時の出産って今のすっぽんとは程遠く、穴の開いた椅子に
妊婦を縛り付け、腹を棒を持った集団で叩くという恐怖の
行為あったので半端でなく妊婦の死産多かった
それを踏まえると出産に関して恐怖の意味もあったかも
と思うのだが野郎のぽんぽこりんは説明できないな
31. 匿名処理班
でも、こういうのが呪術や民俗の始まりなんだという気がする
32. 匿名処理班
豊穣の地母神なんだろうな。フランスにおける黒マリアとか。ユダヤ教自体も古代エジプトや古代バビロニアの土着宗教の影響を受けているわけだし
キリスト教においては聖母マリアが地母神信仰の代用になっているわけだしな
女陰が創生のシンボルなのはよくある話だし
33.
34. 匿名処理班
娘フラワー・・・俺の魂に刻まれたワードがまた一つ
35. 匿名処理班
キリスト教化された時“ここにはこういうもの絶対置かなきゃならないから”とか言う理由で教会にできたとかそういうのじゃないかな
36. 匿名処理班
普通に女性崇拝だよね。
これを「謎」と呼ぶのは、西洋人は無意識化にキリスト教の概念が刻み込まれすぎてて、自分たちの思考がキリスト教的であることすら気が付かないからなんだよ。
ケルトにしろ古代ギリシャにしろ、古代神話の原型は普遍的に母系で女陰は死と再生をを表す重要なシンボルであるとともに、神話そのもの根幹をなす。
しかしユダヤ=キリスト教は当時の異端とも言える父系神話で、女性を介在させずに人間が生まれるという革新的な発想で神話が構築された。
これはユダヤ人の過酷な歴史が背景にある極めて作為的な創作だったが、ローマ帝国の強権によってそれがあまりにも定着しすぎて、土着神話の原型が失われ、本来人類が普遍的に持っている女性崇拝の概念が聖母マリア信仰という歪な形で表出してしまった。
要するに、これはマリア信仰の元ネタです。
でも、それを彼らは認めたくないんで、「謎」ということにしておきたいだけ。
37.
38. 匿名処理班
性器に呪力を認めるのは洋の東西に共通の習俗。悪魔を模したガーゴイルが建物の魔除けになっているぐらいだし、性器を強調した魔除けがキリスト教建築に取り入れられてもおかしくはない。これらの教会が建てられた当時は日本の鬼瓦みたいに付けて当然の装飾だったのかもしれない。
39. 匿名処理班
女性器が広がる行為って考えたら出産ってなるので、その中は魂が作られる場所になる。もしかしたら教えによる生まれなおすってことかもね。
40. 匿名処理班
古代日本では女陰(ほと)は生命を生み出す穴なのだからすごいパワーの元とらえられていたとかなんとか。だからアマノウズメが天岩戸の前でストリップショーやったとか。そういうのと同じような発想じゃないのかなぁ。
41.
42. 匿名処理班
子宝願う以外に何の意味があるんだよと
43.
44. 匿名処理班
胸が無いばかりか、あばらが浮いてるようなのもある意味はなんだろう?
45. 匿名処理班
※40
少なくとも有名どころの縄文土偶は全て女性。
鎌倉時代途中までは婿入婚が通例だったように母権的社会だっただろうね。
豊穣という意味では他の神が役目を継いだけれど天照大神は生産を指導する立場にもあったし何より太陽神、名残は残っている。
46.
47. 匿名処理班
※15
同意します。
太った女性とか娘フラワーは世界中で豊穣の女神の象徴だよね。
ケルト人、もしくはそれ以前にアイルランドにいた民族は女神信仰をしていた痕跡が多々あるし…
キリスト教徒として育てられた研究者には直感的に理解しづらい文化かもしれないね。
日本人なら子宝の神が息子スティックな御神体ってのは目にしたことがあると思う。
これと思想的には同じようなもんだ。
48. 匿名処理班
日本にも道祖神とか性にまつわる石像は多いね。
あるいは布袋、観音の像とか、それを模してるものも。
やはり子供が生まれるってことは神秘なんだよ、そこにエネルギーを感じるのはわかる気がする。
僕自身は目のやり場に困るが、当時はもう少し大らかだったのだろう。
49.
50. 匿名処理班
キリスト教も大昔は寛容的だったみたいな話も聞くし
キリスト教と女性崇拝の土着信仰みたいなのが共存してた可能性とかもあるのかな