79: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/07/12(金) NY:AN:NY.AN ID:VlS5yhwX0
バイトから帰宅すると、父が「一緒に飲まないか」と話しかけてきた。
滅多に飲むことがない父にしては珍しいな。いや、そもそもこんな早く帰宅することが珍しいぞ。
不思議に思いながらも、父の手に握られた一升瓶の「越乃寒梅」のラベルを見て、つきあうことにした。

この越乃寒梅は頂き物だが、父が大事にしまっていた貴重品だ。
それを開けるというのだから、なにかよほどいいことでもあったのだろう。
コップを持ってきて、父の前に置き、なみなみと越乃寒梅を注いでやった。
そして自分のコップに注ぎ、手に取り、父と乾杯をしようとした。

ところが父は、コップの中央を見つめたまま、微動だにしなかった。
俺は、父さんどうしたの、と、声をかけようと思ったが、言葉がでなかった。
父が、泣いていたからだ。
見てはいけないものを見てしまった。

しばらくは息を吸うことも吐くこともできなかった俺だが、意を決し、
精いっぱいおどけて「いただきまーす!」と言い、目の前のコップの酒を一気に飲み干した。

「やっべ、マジうめー!父さんも飲みなよ!」俺は無理やり、父にコップを持たせた。
父はぎこちなくつかむと、静かによどみなく、酒を飲み干した。
父は、泣き笑いのような奇妙な表情で、旨い酒だなぁ。と言った。
そして、顔をふせると、再び肩を震わせ、泣きだした。

「父さん…なにがあったんだよ。俺でよかったら言ってくれよ」俺は言った。
父はしばらく泣いていたが、やがて静かに口を開いた。

「紺野が…こんこんがモーニング娘。を辞めるって…大学受験だって……」
すべてを理解するのには、時間がかかった。いや、それは一瞬のことだったのかもしれない。
しかし俺には、永遠のように感じられた