レベルデザイナーとは、ゲームのレベル(ステージ)を設計する人のこと。一般にはアイテムやプレーヤーのスタート位置なども含み、特にマルチプレーヤーの作品ではゲーム自体の面白さを大きく左右する重要な仕事です。
ステージやマップの制作はゲームそのものの歴史と同じくらい古い仕事ですが、特に FPS (一人称視点シューティング)の世界では、始祖となる DOOM や QUAKE といった作品が手軽にレベルの追加・改造を許していたことから、ひとつのFPSゲームに多くのマップ・アイテム・ルールを足して遊ぶMOD (Modificaiton, 改造)文化が育ちました。
人気 MOD は独立して次の世代のヒット作を生み、アマチュアのMOD制作者やレベル制作者が実力しだいでプロになれる道を開いたことで次世代のゲーム開発者を育て、FPSに留まらない3D PCゲームジャンルそのものの発展を招いた歴史があります。レベルデザインも、こうした流れのなかで独立した重要な仕事とみなされるようになりました。
歴史はさておき任天堂の求人を見てみると、具体的な業務内容は:
能力や適性に応じて、以下の業務を担当していただきます。
●『スプラトゥーン2』のステージ、ブキ、ルールの調整
- 既存ステージの改修
- 各ルールの配置オブジェクト調整
- ブキのパラメーター調整
など
●『スプラトゥーン2』のプレイチェック
- 対戦バランスのチェック
とされています。
要は新規のステージをいきなり作れる経験技術才能を要求しているわけではなく(それはそれで歓迎されると思いますが)、スプラトゥーン2をプレーヤーとして遊び評価調整できる能力が求められているようです。職種は「テストプレイヤー」ではなくあくまでレベルデザイナー。
雇用形態は「プロジェクト契約社員」。3か月の試用期間ののち、最長でプロジェクトの完了まで契約更新する一時契約です。
そのほか勤務地(京都本社)、給与などの条件は任天堂のサイトで。
任天堂の『スプラトゥーン2』レベルデザイナー求人の「適性」欄には、問題抽出と分析、改善策提案や共同作業能力といった内容が並びますが、感嘆符つき太字の一行目は
「ゲーム開発経験は不問!」。 現在はゲーム制作そのものが大規模化したことでレベルデザインの範囲も広がり、高度に専門化したアートでありサイエンスになりましたが、実際に遊ぶプレーヤーの感覚を理解できることが重要なのは今も昔も変わりません。
余談ながら、プレーヤー目線のゲームデザインといえば、各所のゲーム賞で今年の「ゲーム・オブ・ザ・イヤー」マルチプレーヤー部門を『スプラトゥーン2』と争った大人気バトルロイヤルゲーム『PUBG』も、もとは既存ゲームを「こうすればもっと面白いのに」と改造するMODから生まれた作品です。
オリジナルの作者であり、現在のPUBGのクリエイティブ・ディレクターである PlayerUnknown ことブレンダン・グリーン氏も、ほんの数年前まではただのプレーヤー。ゲーム開発の専門教育を受けたこともなければゲーム会社で働いたこともなく、そもそもゲーム開発者を志したこともなく、ついでにいえばゼルダのような「必修」ゲームを遊んだことすらなかったと語っています。
開発途上版にもかかわらず9か月で2500万本売れた怪物級ゲームPUBGが生まれたきっかけも、フリーのカメラマンやウェブデザイナーをしていた30代なかば、当時唯一遊んでいたミリタリー系FPSゲームをもっと自分好みに遊ぶため、他のMODをお手本に調整改造して同好の士に公開したことから。
スプラトゥーン2には素人のMODはなく、今回のレベルデザイナー募集は正式な任天堂のスタッフとしての立場ですが、無経験で応募したスプラトゥーン2チューニングをきっかけにさらに次世代の人気作が生まれるかもしれません。
蛇足。PlayerUnknown ことグリーン氏が MODに手を出したきっかけは上記のとおりですが、膨大な労力を注いでPUBGの原型制作と改良に打ち込んだ理由は、恋人を追って南米に移住したものの短期間で別れてしまい、家族も友人もいない土地で失意の日々を過ごすうち、ときたま入る仕事以外はずっと
ゲームとゲームMOD制作に没頭していたから。ま、塞翁が馬ということで。