発明家「わざわざ未来から宿題を届けに来てやったぞ」
発明家「お、やっと来たか被検体。遅いぞ全く」
発明家「新型のゲーム機を作ったから、家に遊びに来い」
発明家「確かにそれは俺の女性用下着だ。拾ってくれて感謝する」
発明家「洗脳マシーンを作ったから、ちょっと実験に付き合ってくれ」
登場人物
山田賢太郎 ……高校生の天才発明家。
呉羽夕子 ……隣に住んでいる山田の幼馴染。いつも発明品の被害に遭う人。
呉羽コタロー……夕子の弟。小学1年生。
西島はるか ……夕子の友人。
木下りつこ ……夕子の友人。
――――――
12月23日
夕子「♪じんぐっべえ! じんぐっべえ! すっずがーなるっ!」ウキウキ クネクネ
母「どうしたの夕子? 随分とご機嫌じゃない。変な踊りまで踊っちゃって」
夕子「これが踊らずにいられますか! 今日から待ちに待った冬休み! クリスマスイブにはご馳走食べて、朝、目覚めたら枕元にサンタさんからのプレゼント! ///」
母「あー……。でも高校生だから、もう寝てる間にサンタさんは来ないかもね。代わりにお母さんが買ってあげるから、何か欲しいものない?」
夕子「その点は大丈夫! 高校生って言ってもまだ未成年だし、それにもうサンタさんに欲しいものを書いた手紙送ったもんね!」フフフ
母「そ、そう……。ならいいんだけど……」ハハハ
夕子「しかも楽しみなのはクリスマスだけじゃあないんです! スキーに行って、温泉入って、コタツでテレビ見て、おせち食べて、お年玉貰って……。あー楽しみ! ///」フリフリ
母「楽しみなのはいいんだけど、遊んでばかりいちゃだめよ? 宿題もどっさり出たんでしょ?」
夕子「それがなぜか、今年の冬休みは滅茶苦茶に宿題が少なかったんだよね! 昨日家に帰ってから、ソッコーで全部終わらせちゃった!」ヘヘヘ
***
その晩
父「へえ、夕子はもう宿題終わらせちゃったのか」エライゾ
母「高校の宿題が半日で終わるような量ってのも問題だと思うけど……」
コタロー「僕なんて書き初めとか、漢字練習とか、色々あるのに!」
夕子「今日は1日中ゲームしてた。幸せ……///」
父「まあ今年は夕子も色々大変だったから、それ位いいんじゃないか?」
母「化け猫になって、誘拐されて、ゲーム世界に閉じ込められて、アンドロイドに殺されそうになって、洗脳されて、教祖の女にされそうになったものね」
夕子「しかもそれ、ここ数か月のダイジェストだから。ほんと隣の馬鹿と関わるとろくなことがない」
コタロー「今年の1月は何があったっけ?」
夕子「全自動ソリの試乗に付き合わされて、1週間遭難した」
父「2月は?」
夕子「心に鬼を飼っている人間に、自動で発射される豆まき砲でしょ? ヤクザのベンツに穴開けて大変だったんだから」
母「3月は?」
夕子「3月は確か心に鬼を飼っている人間に、自動で発射されるひなあられ砲。修理したばかりのベンツに穴開けちゃって可哀想だった」
夕子「ううん。4月はエイプリルフールにしょうもない嘘つかれただけ。『語尾にザマスをつけると胸が大きくなる』だったかな」
父「本当にしょうもないな……」
コタロー「それでしばらくザマスザマス言ってたんだ……」
夕子「エイプリルフールだったから延髄斬りで許してやったけど、『今度こんなしょうもない嘘をついたら尻の穴に爆竹詰めるぞ』って脅しておいた。そしたら『来年はためになるような嘘をつく』ってさ」
母「あと5月から7月にかけての怒涛の発明ラッシュも凄かったわね」
父「週一ペースで法に触れそうな物ばかり作ってたからな。特に『アリバイ作成機~アリババ~』がいいお金になったとか言ってたぞ」ハハハ
夕子「笑いごとじゃないって。あたし本当にあいつは人の皮を被った悪魔だと思うの」
コタロー「でも夏休み中は南の島に連れてってくれたりしたじゃん」
夕子「どうせならハワイとかグアムに連れてってほしかった。何でブラジルのケイマーダ島でサバイバルグッズのテストに付き合わなきゃなんないのよ」
父「ああ……あの毒蛇だらけの無人島……」
母「よく生きて帰ってこれたものだわ」
夕子「でも幸い、あいつもこの冬休み中はカリフォルニアで家族と過ごすって言ってたし! やっと平穏で楽しい毎日を送れる!」ウキウキ
コタロー「ひっ?!」ビクッ
父「け、ケンちゃんが突然現れたぞ……?!」
母「い、いらっしゃい……」
山田「お邪魔します」
夕子「あ、あんた一体どこから入ってきた! そもそも今はカリフォルニアにいるはずじゃ……!」
山田「色々訊きたいことはあるだろうが、とりあえずこれを見ろ」ドンッ
夕子「な、なんだこのドリルの山は……?」
山田「冬休みの宿題だ」
夕子「……は?」
山田「終業式後、すぐに家に帰ってしまったお前は気づかなかったんだろうが、実は大量の宿題が追加で課されたのだ。このままでは始業式の日に地獄を見ることになる。だからお前のために、わざわざ未来から宿題を届けに来てやったぞ」
夕子「み、未来……?」
山田「そうだ。来年の4月にタイムマシンを完成させた俺は、お前を救うためにタイムトラベルしてきた。今から死ぬ気でやればギリギリ間に合う」
山田「なら俺がタイムトラベルしてきた証拠を見せてやろう。おじさん、為替取引をやったことはありますか?」
父「う、うん。でももう50万近く損してるんだ……」
母「は?」
山田「画面を開いてグラフを見てください。もしここでドルを大量に購入すると……」
父「うん」カチカチッ
山田「5秒後に大損をぶっこきます」
父「へ? うわああああああああああああああああああああああああ?!」
母「……おい、今いくら買ったんだ」
父「夕子……本物だ……! ケンちゃんは本物のタイムトラベラーだ……!」ゾオオオオ
母「今いくら損したんだおい」
山田「なら窓の外を見てみろ。今からちょうど10秒後に霙が降る」
夕子「ちょ、ちょうど10秒後って……」
夕子「?!」ザアアアアアアアアアアアアアアアアアア
山田「それからその30秒後に消防車が通る」
消防士「どけどけどけどけええええええええええええええええええええええ!」ウー カンカンカンカン
夕子「まじかオイ!」
山田「どれも俺の家の前についている監視カメラで確認してきたことだ。これで納得してもらえたか?」
父「ケンちゃん……他にもタイムトラベルの証拠あるんなら為替のくだりは要らなかったんじゃ……」ショボン
山田「すいません……。グラフを見るだけかと思ってたもので、まさか買うとは……」
母「ケンちゃんは全然悪くないわ。むしろ今の負けよりもそれ以前の50万のくだりが気になるから、ちょっとこっち来いお前」グイッ
父「あ」ズルズル
山田「わざわざタイムパラドックスを引き起こす危険を冒してまで、俺がそんなくだらない嘘をつくと思うか? 残念ながらこれが現実だ」
夕子「うううううう……。で、でももしかしたら『宿題が出たことを知りませんでした』で何とかなるかもしれないし……」シクシクシクシク
山田「冬休み明けのお前は同じ言い訳をしていた。しかし宿題をやってなかったという事実は変わらない。その後確認テストが行われ、お前は初の全教科0点という偉業を成し遂げた」
夕子「ぜ、全教科0点……!」
山田「それからの数か月は見るに堪えないものだった。担任からは『野比』と呼ばれ、小遣いを減らされ、あげくの果てには部活を辞めて塾通い。日に日にやせ衰えていったお前は、自分のしぼみ切った胸を見て、語尾にザマスザマスと……」
夕子「嘘こけオイ!」
山田「ザマスは流石に嘘だが、それ以外は本当だ。俺は春休みにすっかりふさぎ込んでしまったお前を、俺はどうしても助けたかった」
夕子「そ、そんな……」ガクッ
山田「大丈夫だ。俺がついてる。一緒に頑張ろう」ポン
***
12月24日
コタロー「♪ジングルベール ジングルベール すっずがーなるー!」
父「♪今日はー 楽っしいー クッリスマスー!」
母「はーいパエリア登場! 美味しそうでしょう!」
コタロー「わあ!」
山田「いい色ですね」
母「でしょ? 夕子ー! ご飯食べるから降りてきてー!」
夕子「はーい……」フラフラ
父「ははは、どうした夕子。フラフラじゃないか」
夕子「……」キッ
父「に、睨むな睨むな……。そんなに大変なのか?」
夕子「もう8時間ぶっ続けでやってんのに全然終わんない……」ポロポロ
コタロー「大丈夫、お姉ちゃん?」
夕子「ありがとうコタローちゃん……。パーティーハットに合ってるね……」ポム
山田「長時間やり続けるのは非効率だ。適度な休息も必要だぞ」
夕子「なんであんたは鼻眼鏡つけてパーティーを楽しんでんだ。一緒に頑張ってくれるんじゃなかったのか」ガシッ
山田「だってとんがり帽子ゲームが始まったから……」
母「ご飯食べたら、少しくらいはゆっくりしたら? せっかくのクリスマスイブなんだし」
夕子「ううん……。食べたら部屋に戻る……。ケーキ出てきたらまた呼んで……」
***
12月25日 早朝
コタロー「やった! よく分かんないけどライオンのロボットの玩具だ!」
母「カッコいいのがもらえてよかったわね。でも今更ゾイドなんて明らかに誰かさんの趣味が反映されてるような気がするんだけど」ジッ
父「いやーいい趣味してるな、サンタさん。組み上がったら父さんにもいじらせてくれ」ワクワク
夕子「頼んでた物と違ってたけど、良いヘッドホンもらえた……。これでリスニングの宿題でもやろうかな……」ハハハ
父「め、目が虚ろだぞ……」ビクッ
***
12月26日
山田「ほら、ここは三角関数を使うんだ」
夕子「ううう……サインコサインって何なんだよぉ……。覚えてねえよぉ……」シクシク
山田「泣くな、それでも金玉ついてんのか」
夕子「ついてねえよ! あ、電話……。りつこからだ」ピルルルルルル
山田「無視しろ、無視」
夕子「できるか! ……もしもし?」ピッ
りつこ「あ、夕子か? 今暇やろ? お父んがスキーに連れてってくれる言うとんのやけど、夕子も一緒に来んか? はるかも来るで」
夕子「スキー?! 行きたい行きたい!」
山田「無理だ。行けると思うか? この宿題の量で」
夕子「あ……。ごめん……やっぱ宿題で手一杯で……」
りつこ「宿題? あんなもん、帰ってからでもええやろ」
夕子「え? でもこんなにいっぱいあるのに……」
山田「騙されるな。木下はあまりの量にギブアップしたのだ。それで少しでも道連れを作ろうとしているに違いない。あいつは宿題をしなくてもテストで平均を超えていたが、お前の場合はそうはいかんぞ」ヒソヒソ
夕子「……。ホントごめん。行けないや……」
りつこ「そうか……。よう分からんけど、ほんならまた今度な」ピッ
夕子「……。ううう……」シクシク
***
12月27日
夕子「洗脳マシーンを使っでぐれぇ……。お前は世界史が得意だっで洗脳じでぐれよぉ……」オーイオイオイ
山田「あれは危険すぎるからダメだ。語呂で覚えろ。『それパンツ? いや、おしめだよ ナポレオン(1804)』」
夕子「全然頭に入って来ねえよ! ナポレオンの皇帝即位とおしめの関連性が皆無だろ!」
山田「ただしおしめ(04)とおむつ(062)を勘違いすると18062年になってしまうから気をつけるんだぞ」
夕子「なんだ18062年って。そこまで馬鹿じゃねえよ」
コタロー「お母さん、雪だるまつくろー!」キャッキャ
母「あらいいわね。うんと大きいの作ろうか!」ウフフ
夕子「あ……雪遊びしてる……。いいな……」
山田「俺はさっき、雪に小便で名前を書いてきた」ハハハ
夕子「なに小学生みたいなことしてんだ」アホカ
コタロー「なんかこの辺黄色いんだけど、なんでかな?」
母「さあ? でも雪だるまにしたら模様がついて素敵かもしれないわ」
山田「あ」
夕子「てめえ他人ん家の庭でやりやがったな! お母さん! コタローちゃん! その雪触っちゃだめ!」
***
12月28日
夕子「登場人物の心情なんか知らねーよぉ……」グター
山田「国語は俺もどう教えたらいいのか分からん。頑張れ」
夕子「冷たいなぁ……。そういえばさっきからあんたはあたしの部屋で何読んでんだ?」
山田「筒井康隆の『パプリカ』だ。主人公が機械を使って他人の夢の中に入り込むんだ。面白いぞ」
夕子「ああ、それアニメで見たことある……」
山田「未来に帰ったら作ってみるか……」パタン
夕子「やめろ! 事件が起こるから小説になるんだろうが!」
山田「ははは、冗談だ」
夕子「ったく、少しも笑えんぞ……」
山田「実は似たようなものをもうすでに作っていてな」ホラコレダ
夕子「さっさと捨てろ、そんなもの! あたしの夢に侵入してきたら許さんぞ!」
山田「すまん、昨晩侵入してしまった。それにしても、夢の中だと俺に対してやけに優しいんだな、お前」ハハハ
夕子「本当に優しいかどうか、もう一度入って確かめてみるか……?」ベキッ
山田「い、いや……いい……。鉛筆、新しいのをやろう……」ビクビク
***
12月29日
夕子「なんか毎日長時間勉強してたら、少しずつ分かるようになってきた……」カキカキカキカキ
山田「いい傾向だ。この単語の並び替え問題なんか全問正解だぞ。どうだ? ちょっとは勉強が楽しくなってきたんじゃないか?」
夕子「全然。ホントはすぐにでも遊びに行きたい。こんなにたくさんの宿題出した教師どもを、片っ端から殴りたい」カキカキカキカキ
山田「そ、そうか……。だがきっと、この過酷な勉強が必要だったと実感できる日が来る。宿題であろうがなかろうが、今お前は大切なことをやっているんだ」
夕子「宿題じゃなきゃこんなの死んでもやんないっての。でもまぁ、いつかは受験しなきゃなんないんだから、無駄じゃないってのは分かるけどさ」カキカキカキカキ
山田「そうだぞ! 全然無駄じゃないんだぞ!」
夕子「さっきからやかましいぞ。分からない問題にぶち当たったら呼ぶから、コタローちゃんの相手でもしてろ」カキカキカキカキ
山田「あ、ああ……」
***
12月30日
山田「ちょっと根を詰め過ぎじゃないか? 少しは休憩を取らないと体に毒だぞ?」
夕子「詰めたくて詰めてるわけじゃねえ……。終わらないからやってるだけだ……」ハアハア
山田「だ、だがまだ1週間以上あるんだぞ? ほら、年末の面白そうな特番もやってることだし……」
夕子「あと1週間とちょっとしかない……だ。この量をこなすには、今のペースじゃ間に合わないくらいだ……」ハアハア
父「夕子、入るぞー」トントン
夕子「どうぞー……」カキカキカキカキ
父「最近は本当に頑張ってるな。どうだ? 今日くらいは羽を伸ばしてみんなで温泉にでも行かないか? 温泉の近くに美味しい店だってあるぞ? いいだろ、ケンちゃん?」ガチャッ
山田「いいですね! 是非行きましょう! ほら、行くぞ夕子!」
夕子「ごめんお父さん……。とっても行きたいんだけど、あたしには宿題があるから……。あたし抜きで行ってきて……」カキカキカキカキ
父「夕子……」
山田「……数時間のロスがなんだ! 帰ってから取り戻せばいいだろう!」
夕子「うるせえ! 今投げ出したら、今まで耐えてきたことが馬鹿みたいになるじゃねえか!」
山田「う……」
夕子「あたしは既にクリスマスパーティーを放棄し、友達の誘いを断り、雪遊びを諦め、見たいテレビだって我慢してきたんだ! 今温泉に行くということは、これまでのあたしの努力を裏切ることになるんだ!」
山田「そんなことは……ないと思うが……」
夕子「それにふさぎ込んでしまったあたしを救うために、あんたはわざわざタイムマシンを作り上げてここへ来た。あんたのことは大嫌いだが、その優しさを裏切ることもできない……」
山田「いや、ほんと俺のことは気にしなくていい……。というか俺のためを思うなら、すぐにでも温泉に行ってくれ。それにここまで勉強したんだから、全教科0点の大参事はすでに免れたと言っていいだろう。未来は変わった……」ダラダラ
夕子「いや、馬鹿なあたしはこの宿題を全てこなしてはじめて周りと同じになれるんだ! あたしは何としてもこの宿題をやりきる!」ゴオオオオオオオオ
父「夕子! 父さんは感動したぞ! 誘って悪かった!」
夕子「謝らなくていいよ。それよりもしあたしのせいで皆が温泉に行けなくなったら罪悪感を感じちゃうから、思いっきり楽しんできて」
父「ああ! 遠慮なんかせずに楽しんでくる! 正月だって楽しいことには一切お前を誘わない! 父さんたちだけで思いっきり漫喫する!」ポロポロ
夕子「約束だよ……!」スッ
父「ああ!」ガシッ
***
12月31日 23:59
夕子「5! 4! 3! 2! 1!」カキカキカキカキカキカキカキ
山田(ひい……!)
***
1月1日 0:00
夕子「あけましておめでとおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」カキカキカキカキカキカキカキ
山田(こ、怖い……!)ガタガタガタガタ
***
1月2日
夕子「お年玉をたくさん貰えた」ニコニコ
山田「良かったな。福袋でも買いに行ったらどうだ?」
夕子「まだ全然終わってないのに行けるわけないだろ。それより未来のあたしはお年玉で何を買ってた?」カキカキカキカキ
山田「何を買ったかは聞いてないが、Amazonで何かを注文したと言ってたな。たまたま荷物を受け取ってるとこを見たが、悪魔みたいな顔をしてたぞ」
夕子「なんだそりゃ? 一体このお金で何を買うんだ、あたしは?」カキカキカキカキ
***
1月3日
夕子「今日を含めてあと6日……。終わらん……」ヒイヒイ
山田「だが数学はかなりの難問を解けるようになったな。今解いたのなんか、東大入試の過去問だぞ」
夕子「そうか……やけに難しいと思った……」カキカキ
山田「どうだ? そろそろ勉強が楽しくなってきただろう?」
夕子「楽しくないつってんだろ? 仕方ないからやってるだけだ……」カキカキカキカキ
山田「そ、そうか……。でも更にできるようになればきっと楽しくなるはずだ!」
***
1月4日
山田「凄いな! あれだけ分厚かった世界史のドリルを終わらせるとは!」
夕子「一度教科書と資料集を丸暗記したらあとは書きこむだけだからな」カキカキカキカキ
山田「もう世界史なら学年で1位とれるぞきっと!」
夕子「馬鹿言え。あたしは2学期の期末で全教科最下位だぞ」カキカキカキカキ
山田「謙遜するな。どうだ? 世界史の奥深さが……」
夕子「全く分からん。もう終わった世界史のことはいい。今は物理でいっぱいいっぱいだ」カキカキカキカキ
山田「ははは……だがきっといつか分かるはずだ……」
***
1月5日
山田「いやー! お前はホント天才だな! 国語のことはよく分からんが、模範解答よりよっぽど優れた文章じゃないか!」
夕子「んなことはどうでもいい。問題なのは推敲に時間をとってしまったことだ。馬鹿かあたしは……」カキカキカキカキ
山田「いやいや、10分でこんなのが書けるなんてもうプロの域だ。将来の可能性が広がったな!」
夕子「あたしは将来花屋さんになるって決めてるんだ。小説家なんかになる気は更々ない……」カキカキカキカキ
山田「ま、まあ心変わりすることもあるからな……。頭の片隅にでも、そういった道があることを残しておくといい……」
***
1月6日
夕子「あと3日……!」ゲホッゲホッ
山田「な、なあ……いい加減勉強の楽しさがわかってきたろ……? 楽しいと言ってくれ……」ガクガクガクガク
夕子「しつけえな……。楽しくなくても終わりゃそれでいいだろ……」カキカキカキカキ
山田「ま、まだ3日ある……。その間にきっと気づく……。俺は信じてるからな……?」ガクガクガクガク
***
1月7日
夕子「お、終わりが見えてきた……!」ハアハア
山田「そうか! お前はきっとすべてをやり遂げた達成感で勉強の楽しさに気づくんだ! そうに決まってる!」
夕子「ううう……ペンダコが痛い……。苦しい……」カキカキカキカキ
山田「がんばれ夕子! その苦しみの先に、何物にも代えがたい喜びがあるんだ!」
***
1月8日
夕子「やっと終わったアアアアアアアアアア!」バンッ
父「頑張ったな夕子!」ガシッ
母「偉いわ夕子!」グスッ
コタロー「お姉ちゃんおめでとう!」ダキッ
山田「本当におめでとう。どうだ、今の気分は?」
夕子「こんな目に遭わせやがった教師どもへの殺意で胸がいっぱいだ」ニコッ
山田「……。あの、勉強が楽しくなったりとかは……?」ビクビク
夕子「全くない」
山田「せ、世界史の奥深さに気づいたりは……?」ガクガク
夕子「ひとつもない」
山田「しょ、将来、物書きの道もいいかなーなんて……?」ガタガタガタガタガタ
夕子「何度も言わせんな。あたしは花屋になるんだ。もし大学に行けたら園芸を学んで、ダメだったら卒業と同時に就職する」
山田「……。とりあえず宿題が終わって良かったな……」ポロポロ
夕子「……泣くほどあたしのこと心配してくれたんだな。ありがとう……///」
山田「やっと理解した……。そうだよな……。タイムパラドックスが生じたら、今までやったことが全て水の泡になるかもしれないもんな……」ポロポロ
夕子「……なんの話だ?」
山田「じゃあ俺は未来に帰る……。ただひとつだけ覚えておいてくれ……。この冬休みの地獄のような勉強は、まったく無駄にはならないってことを……。あと暴力はいけないってことも……」ポロポロ
夕子「ああ。約束だ!」
山田「じゃあな……」バチバチバチバチ
夕子「行っちゃった……」
***
1月9日
夕子「おはよー!」ウンセウンセ
はるか「あ、夕子! おはよー」
りつこ「おはよーさん。冬休みは楽しんだか?」
夕子「全っ然。それよりごめんね? せっかく誘ってくれたのに突っぱねちゃって……」ドッコイショ
りつこ「気にせんでええ。勉強に精出したい言うてる友達の足引っ張ることなんかできんわい」ナハハ
夕子「あ、やっぱり足引っ張る気だったなあ」
りつこ「? いや、あんだけしか宿題出とらんから、足枷にならん思うて誘ったんやけどな……?」
はるか「ていうかその大きな紙袋は何が入ってんのよ?」
担任「おーい宿題を集めるぞー。教卓の上に出せー」
夕子「あ、はーい。じゃあこれ提出してくる!」ウンセウンセ
りつこ「いや、何提出する気やねん……」
夕子「どっこいしょお!」ドオオオオオンッ
担任「な、何だこのドリルの山は……?」ビクッ
夕子「何って……。自分が出しといてそれはないでしょ先生……!」ピキッ
担任「いや、そんなに睨まれても知らんもんは知らん。こんな量、たった2週間ちょっとの冬休みの宿題に出すわけないだろ……」
夕子「……へ?」
夕子「へ……4月1日……? ま、まさか……?」キッ
山田「ようやく気付いたようだな……。そうだ! エイプリルフールだ!」ハハハハハハハハ
夕子「」
山田「冬休み中にタイムトラベルが実現可能なことに気付いてな。そこで4月1日に去年の冬休み初日にタイムトラベルし、お前に嘘のドリルをめっちゃくちゃにやらせまくるという案を思いついた」
夕子「」
山田「どうだ、勉強がさっぱりのお前には、これ以上ないくらいためになる嘘だろう? ……どうした? 般若みたいな顔して……」
夕子「……。そうか……。ここでこいつをぶちのめしたら、タイムマシン開発を諦め、あたしの努力が無に帰る可能性があるんだな……」ブツブツ
山田「ゆ、夕子……? もしかして怒ってるのか……? ためになったろ……?」ビクビク
夕子「……あちゃー! こりゃ、一本取られた!」パンッ
山田「そ、そうだろ? いい嘘だろ?」ホッ
夕子「死ぬほど大変だったけどね。でもあんたには感謝してる。勉強の楽しさに気づくことができたし!」
山田「そうだ! その楽しさに気づいてしまえばこっちのものだ!」
夕子「世界史の奥深さも分かった!」
山田「世界史はやればやるほど味が出てくる、スルメみたいな科目だからな!」
夕子「それにあたしは文章の才能あるかも! 将来は物書きに……なーんて!」アハハ
山田「いやいや、分からんぞ! もしかするとこの学校から芥川賞作家が出るかもな!」ハハハハ
***
4月1日
山田「じゃあ今からタイムトラベルしてくる。それにしても3学期のお前は凄かったな。あと2点でこの俺が期末でお前に負けるところだったぞ」
夕子「これも全部あんたがしっかり教えてくれたおかげ。過去のあたしを、スパルタ式でビシバシ鍛えてやってくれ!」
山田「もちろんそのつもりだ。……それより今お前が抱えている箱、お年玉で買ったとか言ってた奴だろ? 何を買ったんだ?」
夕子「今は秘密。帰って来たら見せてやる。だから頼んだぞ」
山田「ああ! 任せておけ!」バチバチバチバチ
***
2秒後
山田「……」バチバチバチバチ
夕子「よお……お帰り……」ビキビキビキビキ
山田「ご、ごべんなざい……」カタカタカタカタ
夕子「何がごめんなさいなんだ……? 言ってくれなきゃ分かんねえなあ……」
山田「洒落にならん嘘をづいでごべんなざい……」シクシクシクシク
夕子「そうだな……。洒落になんなかったな……。楽しみに楽しみに、それはもう楽しみにしていた冬休みをぶっ潰しちまったんだもんな……」
山田「約束……覚えでるが……? 暴力はいげないっでいう……」ポロポロポロポロ
夕子「さあな……。なにぶん数か月前のことなんでな……」ゴキッゴキッ
山田「ぞのAmazonの箱……中に何が入っでるが当ででやろう……。大量の爆竹だろ……?」ポロポロポロポロ
夕子「ピンポーン……。ほら……尻を出せ……」ガシッ
山田「や、やめでええええええええええええええええええええええええええええええ!」アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア
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コメント一覧
-
- 2017年12月27日 21:49
- 伏線からオチまで高レベルだな、すげえ
-
- 2017年12月27日 21:56
- 人物から会話まで低レベルだな、すげえ
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