25 名前:水先案名無い人[sage] 投稿日:2006/01/09(月) 02:30:13 ID:vAcXgh3W0
682 名前: 今日のところは名無しで 投稿日: 2006/01/03(火) 05:51:11
食べるもの何にもないし、お金でも落ちてないかなあなんて考えながら夜中に外をふらついてた。
そしたら落ちてた。お金つうか財布が。中見たら20万くらい入ってんの。

一瞬、俺の中の悪魔が「貰っちまえよ」とささやいた。俺の中の天使は熟睡してた。
正直、新渡戸さん一人くらいなら連れて帰ったかもしれない。でも福沢さん20人は重すぎた。
そんなわけで駅前の交番までふらふら歩いていって、財布を届けた。

差し出された書類にいろいろと記入をしていたら、お巡りさんが俺の顔をのぞきこんで来た。
確かに俺はブサイクだし、夜中に歩いてるだけで職質された回数もそろそろ両手の指じゃ足りなくなりそうだった。
だからってそんなしかめっ面で俺を見ないで欲しかった。悪いことしたわけじゃないんだから。
そう思いながら、居心地の悪い視線をやりすごして記入を終えた。それと同時に、お巡りさんが口を開いた。
「ねえ」

俺は反射的に謝った。
「すいませんっ」
「いや、何謝ってんの。いいことしたんでしょ」
「……すいません」
「だから……まあいいや。それよりさ、ちゃんとご飯食べてる?」
「え? いや、その……はい。何日か前に」
「今日は食べてないの?」
「……はい、すいません」

よくわからないまま、俺は何度も謝っていた。それ以上の追求が怖くて下を向いていたら、お巡りさんは急に席を立った。
そして一分も経たない内に戻ってきて、机の上に何か硬くて重いものをドンと置いた。その音だけで俺はビビってしまった。
手錠とか拳銃とか、音の正体にロクな想像が浮かばず、マジで怖かった。


26 名前:水先案名無い人[sage] 投稿日:2006/01/09(月) 02:30:38 ID:vAcXgh3W0 [2/2]
結局、家には帰してもらえた。机の上に置いた缶詰とカップラーメンを持たされて。
「悪いな。駐在してるの一人だから、たいしたものがなくてさ」
そう言ったお巡りさんの前で、俺は声を上げて泣き出してしまった。堪え切れなかった。
お巡りさんは俺が落ち着くのを黙って待ってから、
「どうしようもなくなったら交番でも役所でも、どこでもいいから駆け込めよ。切羽詰って犯罪起こされても俺の仕事が増えるだけだからな」
最後は冗談めかして笑いながら言ったその言葉に、俺はまた泣き出してしまった。それが2時間ほど前のこと。

今、俺の前にはもうすぐ電気を止められて使えなくなってしまうだろうパソコンと、未開封のサバ缶とカップラーメンがある。
カップラーメンのフィルム包装や、サバ缶のプルリングに手をかける度にお巡りさんの笑顔が浮かんでくる。
お腹は減っているんだけど、なんとなく蓋を開けづらい。

この先、ラーメンやサバ缶を食べる度に、あのお巡りさんの顔を思い出すのかも知れない。
何度もあの笑顔を思い出せる機会があるように、もう少し頑張って生きてみようかと思った。