アメリカ化学会の学術誌Journal of Medicinal Chemistryによると、その成分はキョウチクトウ科の植物などから抽出されるウアバイン(Ouabain)と呼ばれるもので、ソマリ族はイギリスやポルトガルからの植民地侵略に対抗する際にもこれを矢毒として使っていました。
ウアバインは強心配糖体であり、心拍数を下げる作用があることから心不全の薬などにも使われています。その一方で、精子の運動性を劇的に低下させることも観察されていました。
これに着目した化学者らは、心臓組織に影響を与えず精子活動を低下させるタンパク質だけを取り出したウアバイン類似物質を作り出し、動物実験を行いました。その結果、このウアバイン類似体は、精子の泳動を効果的に抑制しながらも、中毒性の副作用を示さなかったとのこと。
またこの成分は成熟した精子細胞に対して効果を発揮するため、効き目が切れた後に生産された精子細胞には影響しないこともわかりました。つまり薬の使用を止めるだけで、簡単に生殖機能を復活させられるというわけです。
このまま研究が進めば、数年後には経口薬(もしくは塗り薬)として男性向けの避妊薬が実用化されるかもしれません。
ちなみに、考えられる問題はどの程度の男性がこれを使う意思があるかですが、The Telegraphが行ったアンケート調査では、8万4379人の男性回答者のうち52%が男性向けの経口避妊薬を使いたいと回答しています。
一方、Bloombergの2017年の記事によれば、2002年にドイツで行われた調査では、ドイツ、フランス、米国、メキシコ、ブラジルなど9か国の男性9000人のうち、55%以上が「新たな男性向け避妊薬が出たら使ってみたい」と回答したとしています。人口換算すればこの9か国には4400万人の潜在的顧客がいるとされ、全世界ならばさらに大きな需要があると予想されます。