【ミリマス】白石紬「名探偵ナンナン……?」
P「今日は久々の休みだ。紬もオフだけど、あいつ休みってどうしてるんだろ? 甘味処めぐりでもしてるのかな」
携帯<ルーリーイローキンギョガミアゲールノハ♪
P「ん? 噂をすれば紬からだ。どうしたんだろ……もしもし」
紬『お休み中失礼します。白石紬です』
P「おう、どうした? 今日はオフのはずだったろ?」
紬『そうですが用事があったので電話致しました。……もしやあなたは私となるべく話をしたくないのですか?』
P「そんなこと一言も言ってないだろ。で、用事って?」
紬『以前、メールでお伝えした件についてです。手伝って欲しいことがあると』
P「メール……?」
紬『……もしや、とは思いますがプロデューサー、忘れてしまったのですか?』
P「…………」
紬『…………』
P「……てへぺろ(・ω<)」
紬『金沢に帰らせていただきます』
P「あーっ! あーっ! 覚えてる覚えてる! 冗談だって! 今すぐ行くからシアターで待ってろ!」
From:白石紬
唐突ですが、
駅前にある和菓子屋さんをご存じですか?
あのお店の和菓子は、どれも芸術的です。
季節ごとの練切なども大変美しく、見事です。
これまで、何度かお土産にしようと
買っていったのですが……
奇妙なことに、劇場の冷蔵庫に入れておくと、
消えてしまうのです。
先日は物陰から見張っていたところ、
双海さんに話しかけられ、
その一瞬の隙になくなっていました。
何者の仕業でしょうか……。
プロデューサー、
この問題の解決に力を貸してください。
上手くいったら、お菓子をひとつ差し上げます。
それでは、失礼します。
白石紬
P(こんなの絶対亜美と真美の仕業じゃねぇかって思って放置してたんだった)
P(亜美か真美のどちらかが声をかけてもう片方がその隙にお菓子を奪った……双子のやりそうなことだ)
P(紬は本当にこんなことにも気づいてないのか……?)
P(……いや、さすがに気づいてるよな。俺をからかってるだけだ)
P(というか紬居るよな? 帰ってないよな? そっちのほうが心配だ……)
ガチャ
紬「おはようございます。プロデューサー」
P「おお紬。よかった、居てくれたか。ほっとしたよ」
紬「金輪際あのような冗談はやめてください。次は本当に帰ってしまいますよ」
P「わ、わかった。肝に銘じておくよ。で、その荷物は?」
紬「これはメールにも書いた和菓子屋さんの和菓子です。もう一度張り込み捜査をと思い買って来ました」
P「へぇ。これが紬が絶賛してたやつなのか……って、張り込み捜査? 一度やったんじゃなかった?」
紬「はい。前回は失敗しましたが双海亜美さんから――」
亜美『こういうのは根気っしょ! 何回もやって犯人がボロを出すまでチャンスを待つんだよ! だからまたお菓子持ってきて♪』
紬「――というアドバイスを頂きました。なので諦めずもう一度やってみようかと」
P「うん、マジで気づいてないとは俺も思ってなかった。Pチャンびっくり」
P「いや、うん。びっくりしたのはそこじゃなくてね?」
紬「別にいいです。承知の上ですから。というわけで、プロデューサーには私の張り込みを手伝っていただこうかと」
P「まあ待て、紬。ひとまず俺の話を聞け」
紬「? なんでしょうか?」
P「この事件の犯人について俺は心当たりがある」
紬「なんっ、本当ですか!? いったいそれは誰なのです!」
P「紬に張り込みのアドバイスをしてくれたまさにその人だ」
紬「…………」
P「えっ、なにその目。可哀想なものを見る目するのやめてくれない? 泣きたくなる」
紬「心配してアドバイスまでしてくださった方を疑ってしまうようになってしまったあなたの哀れな人生を憂いているだけです」
P「うわ思ったよりキツイやつがきた」
P「いやだからそれがあいつらの手なんだって」
紬「あいつら? 複数形なのはなぜですか?」
P「ほんとにわかってないの? からかってるわけじゃないよね?」
紬「仰る意味がよく……」
P「だから、紬に話しかけた亜美は陽動なのさ。紬が視線を逸らしている隙にもう一人が冷蔵庫からお菓子を取り出すって寸法だ」
紬「……なるほど。確かに理にかなった作戦ですね」
P「だろ?」
紬「して、もう一人の犯人は? もう目星がついているのですか?」
P「そりゃお前、亜美の相棒と言ったら一人しかいないだろ。いつも一緒にイタズラやってる双子の真美さ」
紬「……もしかして、あなたは……バカなのですか?」
P「おっと予想外のところで来たね決め台詞」
紬「勝手に決め台詞にしないでください」
P「いやいやいや、ちょっと待って。俺の話のどこにそうなる要素があった? 完璧な推理だろ」
紬「完璧な推理などと、なんておこがましい。あなたのそれは私をからかうための作り話でしょう」
P「違うって! お前はまだ事務所に来て日が浅いから知らないかもしれないけど、亜美と真美は765プロ随一のイタズラコンビなんだ。だからこれは間違いないって!」
紬「まだそんなことを……何度言っても私は騙されません。だいたい、双海さんが双子だなんて誰が信じると言うのですか」
P「は? お前、今、なんて言った?」
紬「ですから、そんな戯言には私は騙されませんから」
P「いや違う。その後」
紬「え? 双海さんが双子だなんて誰が信じるか、です」
P「ウッソだろお前」
紬「さっきから何を言っているのですかあなたは」
P「紬は真美のことを知らないのか?」
紬「双海亜美さんの双子という方のことですね? そんな私をからかうためにあなたがでっち上げた人物のことなど知りません。妄想は脳内にとどめておいてください」
P(あ、これ本気で知らないやつだ)
P(なんでそんなことになったんだ? そりゃうちのアイドルは52人で数は多いけど真美だけ認識すらしていないって、ありえるのか? 亜美には会ってるのに……)
P(……もしかして、これも亜美と真美の遊びなのか? 紬の前には亜美一人だけしか現れないルールの遊び……たまに亜美と真美が入れ替わったりして反応を楽しむとか……)
P(……ありうる。というかもう絶対それだろ。入れ替わりなんて昔よくやってたことだし)
P(それよりも、だ。これどうやって誤解を解けばいいんだ。俺がなにいっても紬は絶対受け入れてくれないぞ……)
P(あいつら……まったく、こんなめんどくさいことをよくも……)
紬「何をさっきから考え込んでいるのですか? 早く行きますよ」
P「ああ、わかったわかった! 今行くから!」
バタン
紬「これでよし、です」
P「なぁ、ほんとにやるのか?」
紬「もちろんです。そのために買ってきたんですから。再び失敗しても良いようにいくつも買ってきました」
P「え、いくつもって、和菓子ってそんなに安くないだろ。いくらしたんだ? 俺が出すよ」
紬「……あなたはそうやっていつも人の懐事情を探っているのですか? 失礼ですからやめたほうがいいですよ」
P「なんでそうなるんだ……えーと、ここは俺の職場だ。職場で起こってる不可解な出来事を突き止めるのも俺の役目だ。そのために必要な費用を所属アイドルに出させるわけにはいかない。これでどうだ?」
紬「そういうことですか。それならそうと早く言ってください。どうぞ、これがレシートです」
P「はいはい、次からはそうするよ。おっ、やっぱり結構するなぁ」
紬「あのお店の品物は全てレベルが高いものばかりですから、それくらいは当然です。さぁ、こちらの物陰に隠れてくださいプロデューサー。張り込み開始です」
紬「はい。大丈夫だと思います」
P(これで亜美と真美を出し抜けるとはひとっつも思わないけどな。張り込みを続けることを提案したのは亜美なんだし)
P(待てよ、今あいつらは紬を手のひらの上で転がしていると思ってるわけだよな。実際そうだけど)
P(ということは今回も同じ手で紬を欺こうとするはず……そこを俺が捕まえれば一件落着なんじゃないか? 実際に二人を目の前に出せば紬の誤解も解けるだろうし……)
P(今日は確か二人とも律子と仕事があって事務所じゃなくてこっちに来てるはずだ。それまでまだ時間はあるから仕掛けてくるかも……)
P(……よし、いっちょ賭けてみるか)
P「ん? ああ、家とか休みで出かけるときは俺も普通に私服だよ。今日は仕事はしないけど職場には出ることになったってことで、やっぱスーツかなぁと」
紬「私服、とはやはり洋服ですか?」
P「うん。紬はやっぱり洋服より和服の方が好みか?」
紬「好みを聞かれれば、はい、と言いますが、普段着は利便性等を考えて洋服です」
P「そうだよなぁ。俺も和服に憧れはあるけど今の社会を生きる上でって考えると普段着は洋服になるよな」
紬「和服に憧れがあるのですか?」
P「そりゃああるさ。ピシッと決めるとかっこいいし、日本人であることを誇りに思いたいしな」
紬「そ、そうですか」
P「どうした?」
紬「いえ……“日本人であることを誇りに思いたい”と仰ったことに驚きました。いつもは恐ろしく無神経で不躾なように思えて仕方がなかったあなたがそんな考えを持っていたとは。少し、見直しました」
P「それ褒めてんだよな?」
P「ん?」
紬「もし、よろしかったら、今度休みが重なったときに、私が和服を見立てて――」
亜美「やっほーつむつむ! なにしてんの?」
紬「ひゃんっ!? ふ、双海さん!? いつも背後から突然現れるのはやめてください!///」
亜美「んっふっふ~。つむつむはいつも狙ったとおりに驚いてくれて亜美料理に尽きますなぁ~」
P「それを言うなら亜美冥利だろ。つかなんだ亜美冥利って」
亜美「ゲゲッ! 兄ちゃん!? なんでここにいんの!? 休みじゃなかったっけ!?」
紬「この間双海さんにもお話した張り込みをアドバイスどおり再び行っているのです。プロデューサーはその助っ人です」
亜美「あ、あぁそんなこともあったね……す、助っ人……って兄ちゃん亜美のこと何ジロジロ見てんの? もしかしてやっと亜美の色気に気がついてクラッときた? うっふ~ん」
紬「……プロデューサー、さすがにそれは私も受け入れ難い問題です。双海さんはまだ中学生ですよ? 何を考えているのですか?」
P「俺は将来紬が悪い人に騙されないか気が気じゃないよ」
亜美「」ギクッ
紬「ああ、そのことですか。私も以前疑問に思っていたことですが、なんでも髪のセットの関係でそう見えてしまうだけで日によって変わるそうですよ」
亜美「そ、そうなんだよ兄ちゃん! もう、毎朝毎朝大変で参っちゃうYO!」
P「ふーん」ジロジロ
亜美「う……ち、近いよ兄ちゃん……」アセアセ
P「……真美だな?」ボソッ
亜美?「」ギクギクッ
P(ということは今頃亜美が……)
パタン
P(! 微かにした何かが閉まる音!)
サッ
P(一瞬見えた……テーブルの下に潜り込む黒い影が!)
紬「はい? 急にどうしたというのですか?」
P「いいから早く」
紬「もう、なんなん……? 双海さん、申し訳ございませんが手を繋がせていただけますか?」
亜美?「あ、あははー! 亜美、ちょっと用事を思いだし――」
ガッ
P「繋いでおいてくれるよな、亜美?」
亜美?「あ、あいあいさー……」
紬「プロデューサー、いったいなんだというのですか?」
P「今、俺たち冷蔵庫から目を離してたよな? 中身を確認する」
紬「は、はい」
P「……ほらな、紬が入れたお菓子、なくなってるぞ」
紬「そんな! またですか!? なんなん!?」
P「まて紬、隣にいるやつを逃がすなよ。それと、さっきエントランスで俺が披露した推理を思い出してみてくれ」
紬「え? は、はい。確かに状況は似ていますが、まさかそんなことは、いくらなんでも……」
P「待ってろ。今俺がその証拠を捕まえてやる。テーブルの下に逃げ込んだ犯人を!」
ガッ
P「おら! 捕まえたぞ亜美!」
??「うあうあうあー! 真美逃げてー!」
P「紬! 逃がすな!」
紬「な、なんなん!? なんなん!?」
亜美?「離してよつむつむー!」
紬「それは、だちゃかん!」
P「とっくにネタは割れてんだよ! いい加減に観念しろ! 亜美! 真美!」
P「ほれ、これでわかったろ? さっき紬が捕まえてたのが真美、テーブルの下に隠れてたのが亜美。れっきとした双子の姉妹だ」
紬「な……な……!」
P「真美が亜美って名乗ってたのは双子であることを利用して入れ替わり、それに気づかない相手の反応を見て楽しむっていうこいつらの常套手段だ。昔は俺もよく振り回されたもんだよ」
亜美「やっぱりこの手はもう兄ちゃんには通用しなかったかぁ。兄ちゃんがつむつむと一緒に張り込みしてる時点で撤退するべきだったよ……」
P「紬に話を聞いたときからお前たちだってわかってたから、仮に亜美に逃げられたとしても真美を捕まえて吐かせてたけどな」
真美「うう……兄ちゃんはいつから体制派(律っちゃん)になってしまったんだい……真美たちがあんなに反体制派として育ててやったじゃないか……!」
P「お前たちに育ててもらった覚えはねーよ。それにどちらかといえば俺も昔から体制派だったろう」
紬「な、なんなん……」
P「だから最初っからそう言ってたろ?」
紬「プロデューサーの戯言だと……驚きました」
P「俺は今までお前が気づいてなかったことが驚きだよ。いくら二人のイタズラだからって言ったって、集合写真だって撮ったし名前だっていろんなところに載ってるし、こんなに長い間気づかないなんてそうそうないぞ」
紬「写真撮影のときは人が多くて気にしていられませんでしたし、名前などはプロデューサーのいつものつまらないミスだと……」
P「そろそろ怒っていい?」
亜美「まあまあ兄ちゃん、つむつむもデビューしたばっかりでいろいろわかんないことがあるんだよ」
真美「ここは一つ、真美たちに免じて許してやってよ」
P「元はといえばお前たちのせいだろ。調子のんな」
亜美「んっふっふ~。そんなに褒められると照れますなぁ」
真美「もっと褒めてもいいんだよつむつむ!」
紬「いえ、褒めてはいません」
亜美・真美「え゛」
紬「プロデューサーは見抜いていたわけですから、私の真実を見極める力が足りなかっただけです。これからはもっと注意して物事を見るように精進しなければなりませんね」
P「ほ、ほどほどにしてくれな? これ以上紬に疑心暗鬼になられたらかなわんぞ……」
紬「まったく……本当にあなたは失礼な方ですね。これまで私が疑心暗鬼になったことなど一度でもありますか?」
P「どの口が言うかどの口が」
P「そうだ、二人ともどうしてこんなことをしたんだ?」
亜美「それがさぁ、聞いてよつむつむ兄ちゃん!」
紬「私は女性ですが……ま、まさか男だと思われていたのですか!?」
P「紬、一度決めたことをすぐに行動に移すところは尊敬したいところだが、まずは落ち着け。お前と俺を繋げて呼んだだけだ」
真美「もー! ちゃんと聞いてってば!」
P「あー悪い。ちゃんと聞くから。なにがあったんだ?」
亜美「亜美たちが買ってきていれておいたプリンが誰かに食べられちゃったんだYO!」
紬「プリンが誰かに食べられた?」
亜美「だから二人で買い物に行って、前にいおりんが買ってきてくれたゴージャスセレブプリンを買おうとめーっちゃ早起きして、一つだけ買えたから二人でわけっこするつもりで冷蔵庫に入れて置いたんだけど……」
亜美・真美「「夕方に帰ってきたらなくなってたんだYO!」」
P「またかよ! 美希やあずささんに確認は?」
真美「したよ。ミキミキもあずさお姉ちゃんも食べてないって」
P「そうか……」
紬「? なんの話ですか?」
P「ああすまん。前にちょっといろいろあってな。気にしないでくれ」
真美「それでね、そのお菓子がめっちゃ美味しくて! また食べたいって亜美と話してたらまた冷蔵庫にあるのを見つけて、気づいたら食べちゃってたんだ」
P「なるほど、それで止まらなくなってエスカレートしてしまった、と」
亜美「ピンポンピンポーン! そういうことだよ兄ちゃん!」
真美「さっすが真美たちの兄ちゃんだね!」
P「まったく……お前ら、前回のプリン騒動から全然懲りてないらしいな」
紬「…………」
亜美「あれ? つむつむ、難しい顔してどうしたの?」
P「紬も呆れてるんだよ。そんな理由で大切なお菓子を食べられたなんて……って。でもほら紬、真相はわかったわけだから、二人の処遇は置いといてとりあえず一件落着ってことで……」
紬「いいえ、プロデューサー。何も終わってはいません」
P・亜美・真美「「「え?」」」
P「あ、そうか」
紬「また再び同じようなことが起こる可能性もあります。その人物を見つけない限りこの事件は解決しません」
P「うん。一理あるな。それで、どうするんだ?」
紬「決まっています。私たちでこの犯人を見つけるのです」
P「あぁ、まあそういうことになるだろうとは思ったよ」
真美「んっふっふ~。犯人探し、やっと面白くなってきたね~」
亜美「その話……亜美たちも一枚噛ませてもらうよ。探偵役は今回はつむつむに譲ったげる」
亜美「キャッチコピーはポアロとつむつむのソロ曲をかけて『瑠璃色の脳細胞』とかどう? それか『金魚一少女の事件簿』とか」
紬「な、名前やキャッチコピーが必要なのですか? それにやけに詳しい……」
亜美「なにいってんのつむつむ! 形から入るのはめっちゃ大事だよ!」
P「名前は某少年探偵漫画から取って名探偵ナンナンはどうだ? 紬ってよくなまってなんなんっていうし」
亜美・真美「「それだ!」」
紬「なんなん!? プロデューサーまで!?」
紬「本当にそう呼ばれるのですか? これからずっと?」
P「捜査するのはいいけど亜美と真美はだめだぞ」
亜美「な!? どういうことだワトソン君!」
P「誰がワトソン君だ誰が。お前たちはこれから律子と仕事だろ」
真美「ゲゲッ! なぜそれを知って……兄ちゃんいったい何者!?」
P「お前たちのプロデューサーさせてもらってるよ、ありがたいことにな」
亜美「うあうあうあー! なんてことを!」
真美「よりによってあの鬼軍曹に! 兄ちゃん、よくも裏切ったなぁ~!」
律子「だぁれが鬼軍曹ですってぇ……?」
亜美・真美「「で、でたー!!」」
律子「人をお化けかなにかみたいに言わないでよ。亜美も真美も、探してたのよ」
亜美「ご、ごめん律っちゃん! 真美と遊んでたら時間忘れちゃったよぉ! さ、早く行こう?」
律子「そうしたいところだけど我らがプロデューサー殿が私に話があるみたいだからちょーっと待ってなさい」
P「それがかくかくしかじかでな……」
真美「もはやこれまでか……ナンナン……あとは頼んだよ……」
亜美「亜美たちの分まで黒の組織と戦って、元の体を取り戻して……!」
紬「は、はぁ……」
真美「ってわけでー、名探偵ナンナン! このあとすぐ!」
亜美「ミュージックスタート!」
私は高校生アイドル、白石紬
実家の呉服屋で店番をしていた私は加賀友禅の着物を返却に来た怪しげな男と出会った
プロデューサーと名乗る黒ずくめの男と話をしていた私は
いつの間にかその男の事務所、765プロのアイドルにスカウトされていた
私はその人に名刺を手渡され、気がついたら……
上京してしまっていた!
金沢から出てくるために転校や転居の手続きも済ませてきた私は
プロデューサーに言われるがままアイドルになるために765プロライブシアターに転がりこんだ
そこで起きたプリン消失事件を捜査することにした私は
咄嗟に名前を聞かれて名探偵ナンナンと名乗り
犯人の情報を掴むためにプロデューサーと行動を開始した
アイドルになっても頭脳は同じ! 迷宮なしの名探偵!
真実は……なんなん!?
紬「プロデューサーもプロデューサーです。名探偵ナンナンなどという名前をつけて……あなたは本当に、バカなのですか?」
P「え? そうかな……面白い名前だと思ったんだけど。俺、あの漫画好きだし」
紬「そんなことは聞いていません。まったく……もういいです。捜査を開始しますよ」
P「そうだな。まずなにから始める?」
紬「まずは今ある情報を整理してみましょう。私が冷蔵庫に入れた和菓子が最初になくなったことに気づいたのは、一週間前の水曜日の18時ごろのことです」
P「ということは亜美たちのプリンが消失したのもその日ってことだ。16時過ぎにロケが終わる予定って聞いてたから、二人が気づいたのは17時ごろだな」
紬「つまり犯行時刻は17時よりも前ということになりますね。その日、朝から17時までにシアターに誰が来たかわかりますか?」
P「うーん、アイドルなら予定表を見ればわかるけどそれ以外ってなると厳しいな。いろんな業者も入ったりするし。青羽さんに聞いてみよう」
P「そりゃもちろんわかるが……その情報必要か?」
紬「もちろんです。確認したいことがありますので」
P「確認したいこと? わ、わかった。えーっと、確かプリンの上に板チョコやイチゴ、メロンに生クリームとかが乗ってるやつだ」
紬「……もしや単にプリンというよりプリンアラモードのほうが近いでしょうか」
P「ああ、確かにそうだ。詳しいな紬」
紬「……やはり、私はそれを見ていますね」
P「本当か!?」
紬「はい。私が和菓子を冷蔵庫に入れたとき、水曜日の昼過ぎになりますが、確かにそのようなプリンが冷蔵庫に入れてあったと思います。存在感がとても強く覚えていました」
P「ってことは昼まではプリンは冷蔵庫の中にあったわけだ」
紬「そうなりますね。ありがとうございます。また時間が絞れました」
P「おう。じゃあ次は青羽さんのところに行ってみるか」
P「青羽さん、お疲れ様です」
美咲「あ、プロデューサーさん! 紬ちゃんも。お疲れ様です♪」
紬「お疲れ様です」
美咲「今日は二人ともオフなのにどうしたんですか?」
P「少し聞きたいことがありまして。一週間前の水曜日にアイドル以外でシアターに来た人っていますか? 業者の方とか、レッスンの先生とか」
美咲「え? ええと、ちょっと待ってくださいね……水曜日、水曜日……その日は誰も来てませんねぇ。その代わり、アイドルの皆さんはみんな一度は来てますけど」
P「そうですか。ありがとうございます。……ちなみに、青羽さんはゴージャスセレブプリンって知ってますか?」
美咲「ゴージャスセレブプリン! 販売開始から50分で売り切れてしまうというあのスイーツ!」
紬「! 知っているのですか!?」
美咲「もちろんです! 私も朝から並んでチャレンジしてみたこともあるんですけど、ぜんぜん買えなくて……一度は食べてみたいですよねぇ」
紬「あ……そ、そうですね」
P(青羽さんはシロか……)
P「いやあそれがかくかくしかじかで……」
美咲「なんと!? これこれうまうまですか!?」
紬「なんなん……?」
美咲「そうですか……そんなことがあったんですね。全然心当たりがありません。役に立てなくてごめんなさい……」
P「いえいえ、いいんですよ。俺も紬から聞かされて初めて知りましたし」
美咲「私もアイドルの誰かに会ったら心当たりがないか聞いてみますね。少しでもお手伝いしたいので」
紬「恐れ入ります。青羽さんもお仕事がんばってください」
美咲「ありがとう紬ちゃん。うん、私がんばる! そうだ! これ、先週の水曜日の予定表です!」
P「ありがとうございます! これでアイドル皆がいつどこにいたのか、だいたいのことがわかりますね。それじゃ早速捜査再会だ」
紬「はい。では、行って参ります」
美咲「はい! 紬ちゃん、プロデューサーさん、いってらっしゃーい!」
紬「外部の方が冷蔵庫の中のものを食べていったなんて、元々考えてはいませんでしたが」
P「うん、俺もそうなんだけど可能性を潰せたってのは大きいだろう」
紬「そうですね。これで犯人はアイドルの中にいるということがはっきりしました」
P「……うーん、やっぱりそうはっきり口にすると聞こえはよくないな」
紬「ですがそれが事実です。事件の性質を考えると繰り返し起こる可能性もあります。これ以上事が大きくなる前に私たちの手で止めなければ」
P「……そうだな。紬の言うとおりだ」
紬「さて、次の聞き込みはどういたしましょう?」
P「えーと、今シアターにいるのは……お、伊織がレッスンしてるな。先週の水曜日にもシアターに来てる」
紬「では、次は水瀬さんですね。参りましょう」
P「おーい、伊織」
伊織「あら♪ プロデューサーじゃない! それに紬も♪」
P「おう。レッスンお疲れ様」
紬「お疲れ様です。水瀬さん」
伊織「お疲れ様♪ 二人揃ってどうしたのかしら? 二人とも今日はオフじゃなかった?」
P「ちょっといろいろあってな。伊織に聞きたいことがあるんだが……」
伊織「何かしら?」
紬「先週の水曜日、冷蔵庫にゴージャスセレブプリンが入っていたのですが、心当たりありませんか?」
紬「本当ですか?」
伊織「私が買ってきたプチケーキを冷蔵庫にいれるときに見たわ。それに誰が買ったのか気にした覚えがあるわ。何しろアレは存在感強いからね」
P「ってことは伊織はそれは食べてないんだな?」
伊織「……あんたからそれを聞かれるとは思わなかったわ。昔あんなことがあったのに私が誰のかわからないものを食べると思う? それもゴージャスセレブプリンを、よ」
P「そ、そうだよな。疑って悪かった」
紬「ちなみにそれは何時ごろの話ですか?」
伊織「ここに着いたのがお昼ちょっと前だからそのくらいね。それから仕事でシアターには戻らなかったからそれ以降は見てないわ」
紬「ありがとうございます」
P「まあ、そんなところだ」
伊織「まったく、うちの事務所にはゴージャスセレブプリンが消える呪いでもかかってるのかしら」
P「なんだそのピンポイントな呪いは……」
紬「呪いでもなんでも構いませんが、現象には必ず理由があるはずです。私たちはその謎を解くためにこうやって捜査しています」
P「どうせオフだしな」
伊織「なるほどね。わかったわ。私は後で仕事があるから手伝えないけど応援するわ。紬、プロデューサー。この伊織ちゃんが応援してあげるんだから必ず犯人を見つけなさい! いいわね?」
紬「承知いたしました」
P「ああ、わかってるよ」
伊織「にひひ♪ いい返事ね!」
控え室
P「……とは言ったものの、全然手がかりが出てこないな。伊織に続いて何人かアイドルたちに当たってみたけど皆空振りだったし」
紬「捜査が進まないというのは刑事ドラマなどではよくあることですが、なんとも歯がゆいものですね。実際の警察だとこの比ではないのでしょう」
P「まだまだ当たってないアイドルもいるけど、こう何も出てこないと手詰まり感出てくるな。ゴージャスセレブプリンなんて元々なかったんじゃないかとすら思えてくるよ」
紬「双海さんたちの証言が嘘だとでも言うのですか? それはありません。私も水瀬さんも目撃していますから。それとも、その全てが嘘だとでも?」
P「えーっと、そういうわけじゃないんだが……いや、そうだな。ごめん」
紬「プロデューサーの言うとおりまだまだ当たっていない人はいます。そこから必ず手がかりは出てくるはずです。諦めず、頑張りましょう」
P「……そうだな。わかったよ。なんだか紬、頼もしくなったな」
紬「あなたが頼りないことを言うからです。まったく、私が一番――」
腹の音「グゥゥゥ」
紬「…………///」
P「あー……はははは、そろそろ昼飯にしようか」
紬「……では、そちらのからあげ弁当で……///」
P「ほいきた。……いつまで赤くなってんだ。そんなに気にすんなって。俺も腹減ってたし」
紬「あ、あなたにはデリカシーというものはないのですか!? 人には気にするなと言われても許容できないことも存在するのです。放っておいてください……///」
P「あーはいはい。悪うございました」
紬「もう……い、いただきます。ぱくっ」
ガチャ
亜利沙「おっはようございまーっす! 松田亜利沙、午前の収録からただいま帰還いたしました!」
P「お、亜利沙か。お疲れ様」
紬「お、お疲れ様です」
P・紬「「?」」
亜利沙「ふぉぉぉぉっ!? 紬ちゃんが赤面してからあげを頬張ってます!! レアです! これはシャッターチャーンスッ!!!」パシャパシャパシャパシャ
P「お、おいおい!?」
紬「な!? な!? なんなん!?!?///」
亜利沙「で、出ましたぁぁぁぁ!! 紬ちゃんの方言! ムフフ♪ チョーキュートです! ぜひこのマイボイスレコーダーに録音させてください! はい、3、2、1、きゅ――」
P「ちょっと落ち着け亜利沙!」Pノネコダマシ!
亜利沙「はうっ」アリサハヒルンデワザガダセナイ!
P「紬、大丈夫だったか?」
紬「は、はい……」
P「はぁ……亜利沙、お前のアイドルへの愛は本物だし、好きなことをはっきり好きと言って自分もそれに近づこうと努力するところは一番のいいところだ」
P「けどもうちょっと落ち着け。相手のことを考えず好きを押し付けるのはファンがやっちゃいけないことっていうのは、亜利沙も知ってるだろ?」
亜利沙「は、はい……ありさ、アイドルちゃんのファン失格です……こんなんじゃ、いつまで経っても憧れのアイドルちゃんになんてなれませんよね……」
P「だから、焦らなくていいって。一歩ずつ、いろんなことを学んでみんな成長していくんだ。それに、亜利沙だってそのアイドルちゃんの一人なんだからな?」
亜利沙「ぷ、プロデューサーさん……」ジーン
P「で、だな。さっき撮った紬の写真は後で俺に送ってくれ」
紬「プロデューサー?」
P「それと紬の方言音声なら前に収録でたまたま撮れたデータが……」
紬「プロデューサー?」
P「ああ、それはな、かくかくしかじかで……」
亜利沙「ええ!? まるまるうまうまですかぁ!?」
紬「また……」
P「亜利沙は何か知らないか?」
亜利沙「すみません……ありさも心当たりありません……」
紬「そうですか……」
P「そうか! 写真になにか写っているかも!」
亜利沙「ムフフ♪ これをこのパソコンに入れて……あっ! まだ見ちゃだめです!」
P「なんで?」
亜利沙「プロデューサーさんには見せられないような姿のアイドルちゃんが写ってる写真もありますので! すぐに整理します!」
紬「なぜそんなものを撮ったんですか?」
P「どれどれ……うわ、何枚あるんだこれ?」
紬「一日分だけでこんなに……普段、日に何枚撮るんですか?」
亜利沙「ティンと来た場面を逃さず写真に収めてるだけですから、普段はそんなに多くないですよ? その日はアイドルちゃんたちがプチケーキを食べている姿が可愛らしくていっぱい撮っちゃいました!」
P「確かに皆ケーキみたいなの食べてるな……なんでこんなにあるんだ?」
亜利沙「それはですね……なんと伊織ちゃんがアイドルちゃんみんなのために買ってきてくれたケーキなのです! でも素直にそうとは言えず、ブログに載せるためと言ってごまかす……そんな伊織ちゃんのチョーキュートな瞬間を収めた一枚がこの写真です!」
P「へー。あいつがそんなことを……紬は食べたか?」
紬「はい。“水瀬さんから皆へのプレゼントが冷蔵庫にある”と人伝に聞いていましたので頂きました。私が和菓子がなくなっているのを見つけたちょうどそのあとです。箱ごと冷蔵庫に入れられていたのを覚えています」
亜利沙「ちなみにありさも写真を撮ったあと伊織ちゃんから直接頂きましたよ! 伊織ちゃんが選んだ話題のスイーツなだけあってとっても美味しかったです!」
P「俺は何も知らなかったなぁ。……待てよ。そういえばあの日遅くに出張から帰ってきたら机にカップケーキが置いてあったっけ。もしかしてそれなのか?」
亜利沙「ムフフ♪ それが伊織ちゃんの気持ちということですね♪」
亜利沙「はーい! できますよ! ちょっと待ってくださいね!」
P「紬、どうしたんだ?」
紬「プロデューサー、水瀬さんの後ろの冷蔵庫を良く見てください」
P「ん? 何か張り紙がしてあるな。なになに……『2段目のプリンは茜ちゃんの! 食べちゃダメ!』か?」
紬「そしてもう一枚、それに被せるようにして……」
P「『おいしかったよ。ごちそうさま!』こ、これは!?」
紬「そうです。一枚目はイラストや『茜ちゃん』という言葉から察するに野々原茜さんのものでしょう。そしてその野々原さんのプリンを食べたということを示す二枚目の紙、これは紛れもない犯行声明です!」
P・亜利沙「「な……なんだってー!!」」
P「茜に聞いて確かめる必要があるな。しかしこの犯行声明の内容、大胆というかなんというか……」
紬「野々原さんの注意書きに対して敢えてそうしたかのような挑発する意図も感じられますね」
亜利沙「そうですか? ありさはなんとなく天然というか、無邪気にも感じるんですが……」
P「確かにそう感じられるところもあるな。だけど……その場合、茜のプリンは無条件で食べてもいいと考えていることになる」
紬「そうですね……もしそうだとしたら野々原さんに対して悪意があってわざと食べたわけではない分、余計性質が悪いように思えます」
P「まぁ、茜に対してそんなことができるのは……」
紬「心当たりがあるんですか?」
P「いや、まずは茜に確かめてみることにしよう。話はそれからだ。茜の今日の予定は確か……」
茜「呼ばれて飛び出てジャジャジャジャーン! スーパーアイドル茜ちゃん満を持して登場! ね、驚いた? 驚いた? ナイスタイミングでびっくりしちゃった? ってわー! プロちゃんと紬ちゃんがいる! 今日休みじゃなかった? なんでなんで? もしかして、茜ちゃんにどーしても会いたくて事務所に出てきたのかな?」
麗花「お疲れ様でーす! あっ! プロデューサーさん! 今日もナイス普通ですね♪ それに紬ちゃんと亜利沙ちゃんも! お疲れ様♪」
亜利沙「これはー! 765プロが誇るアイドル漫才ユニット『ぷっぷかプリン』の二人が揃って登場ですー! これはシャッターチャーンス!」パシャパシャパシャパシャ
P「……茜は麗花といっしょにもうすぐ収録から帰ってくる予定だったはずだ」
紬「見ればわかることを確認しなくても構いません。それにしても突然賑やかになりましたね」
P「こいつらがいて賑やかにならなかったらむしろ病気じゃないかと俺は心配するよ」
茜「なになに? いおりん?」
P「その後ろの冷蔵庫に貼ってある紙のことだ。これは茜が貼ったのか?」
茜「あーっ! そうそう、そうなんだよプロちゃん! これ茜ちゃんのプリンが勝手に食べられてたときの写真だよ!」
紬「先週の水曜日のこと、ですね?」
茜「紬ちゃんあったりー! 食べないでってちゃんと張り紙してたのに戻ってきたら食べられてたから茜ちゃん、ムキー! 犯人は茜ちゃん人形の材料にしてやるー! ってなってたんだよ」
紬「茜ちゃん人形……?」
茜「さっすがプロちゃん! 察しがいいね! そのとおり……茜ちゃんのプリンを食べたのはなにを隠そうこの人!」
麗花「はーい! ぷっぷかプリンのプリンを食べるほう、北上麗花でーす♪」
茜「麗花ちゃんはぷっぷかのほうでしょー!? それにプリンは茜ちゃんのだからー!」
P「やっぱりか……」
紬「なんなん?」
麗花「それは簡単なことだよ紬ちゃん」
紬「簡単なこと?」
茜「麗花ちゃん麗花ちゃん! 簡単に説明するのもなんだから、あのときのこと再現してみない?」
麗花「あ、それ面白そうだね♪ うん、やりたい!」
茜「それでは皆々様、寄ってらっしゃい見てらっしゃい! ぷっぷかプリンによる『ぷっぷかプリン、内部分裂!?』再現劇がはーじまーるよー!」ドンドンパフパフ
紬「なんなん?」
P「紬、これがこいつらのやり方だ。悪いが付き合ってやってくれ」
茜「はーい! 今日もカワイイ茜ちゃんだよー!」
茜「茜ちゃん、今日はプリンを買ってきたのだー! 冷蔵庫に入れておいて、レッスンの後に食べよ!」
茜「……っと、今日の茜ちゃんはそれだけでは終わらない……冷蔵庫に入れておくといつも食べられているもんね。だからー」
茜「こうやって注意書きを冷蔵庫に貼っておけば、間違えて食べられることもないよねー! さっすが茜ちゃん! さ、今日も張り切っていってみよー!」
茜「レッスン後」
茜「レッスンしゅーりょー! さーってと、取っておいたプリンを……ってあれ? 茜ちゃんの張り紙の上にまた張り紙がしてある?」
茜「なになに? 『おいしかったよ。ごちそうさま!』ま、まさか!?」
茜「あーっ! またプリンが食べられてる!」
茜「もーっ! 張り紙までしてたのに茜ちゃんのプリン食べたのだれー!? 犯人は茜ちゃん人形の材料にしてやるー!!」
茜「ていうか茜ちゃんの張り紙の上に被せて『おいしかったよ。ごちそうさま!』って、こんなことする人間は一人しかいなーい!!」
茜「麗花ちゃん! また茜ちゃんのプリン食べたでしょー!」
麗花「うん♪ 美味しかった!」
茜「『うん♪ 美味しかった!』じゃなーい! 茜ちゃんのって張り紙してあるのにどうして食べちゃったの!?」
麗花「茜ちゃんのだから食べていいよって意味かなーって」
茜「食べちゃダメって書いてあるでしょー!?」
茜「そりゃそうだよ! 茜ちゃんのだもん!」
麗花「じゃあ今度は一緒に食べよ?」
茜「!」
茜(麗花ちゃんが『一緒に食べよ』って言うなんて……これってきっと『次は私が買ってくるね』って意味だよね!)
茜「そこまで言うなら許してあげる、麗花ちゃん! でも次はきっと茜ちゃんも一緒に食べるからね!」
麗花「いいよ♪」
茜「と、いうわけでヒビが入りかけたぷっぷかプリンの仲はコタツに入った茜ちゃんのようにまぁるく収まったのである」
茜「『ぷっぷかプリン、内部分裂!?』再現劇、これにてしゅーりょー!」
麗花「ありがとうございました!」
茜「ありがとー! ありがとー!」ドンドンパフパフ
紬「う、うちには、わからん……!」
P「ま、まあそれだけ仲がいいってことだよ。何か間違いがあったとしても、亀裂が入ることなく水に流して笑い合える。二人はいい友達ってことさ」
麗花「茜ちゃんは扱いやすくて可愛いです」
P「紬、何も聞こえなかった。いいな?」
P「茜みたいにそういうことを許せる間柄ならいいかもしれないが、見境なく食べてちゃ他の人にも被害が出る。今回それでちょっとした混乱が起きたからな」
麗花「え? なんのことですか?」
紬「双海さんたちのゴージャスセレブプリンのことです。先週の水曜日、お二人が冷蔵庫に入れたプリンが誰かに食べられていました。これを食べたのも北上さんなのでしょう?」
麗花「私は茜ちゃんのプリン以外は食べないよ?」
紬「え?」
P「え?」
亜利沙「え?」
茜「え?」
麗花「うん。他の人のものを食べるなんて、そんなひどいこと私はしないよ?」
茜「麗花ちゃんそれ茜ちゃんの方見て言って?」
P「なんだって……? 俺たちは亜利沙が撮った伊織の写真に写ってる張り紙を元に、茜のプリンを食べた人が亜美真美たちのプリンを食べた可能性があると思ってここまで捜査してきたんだ。本当に食べてないのか?」
麗花「はい。そもそも、ゴージャスセレブプリンって、なんですか?」
一同「「「「!」」」」
紬「ぷ、プリンの上に板チョコやイチゴ、メロンに生クリームなどが乗っているプリンアラモードに近いプリンです! 本当に知らないのですか!? 見てもいないと!?」
麗花「うーん。そんなプリンもあったようななかったような……私は茜ちゃんのプリンが食べたかったから♪」
茜「麗花ちゃんそれどういう意味?」
P「ほ、本当に知らないみたいだな……麗花が亜美真美のプリンを食べたんじゃないってことは……」
紬「真犯人は、別にいる……?」
P「ああ。茜と麗花が事件に関係してるものとばかり思っていたからなぁ。この伊織の写真も関係なかったかぁ……」
亜利沙「ありさの写真が役に立たなくてすみません……」
P「ああいや、亜利沙は何も悪くないさ。むしろ何の得もないのに協力してくれてありがとうな」
亜利沙「ぷ、プロデューサーさん……」
紬「それにしても、北上さんは不思議な方ですね。犯人と疑ったというのに笑って許してくださいましたし」
P「麗花は超のつくマイペースな人間だからな。でも、そうだな。悪いことしたよ」
P「あ、青羽さん。お疲れ様です。いやあ、それがどうにも、かくかくしかじかで……」
美咲「あぁ、これこれうまうまだったんですねぇ……」
紬「もういいです……」
美咲「それが伊織ちゃんの写真なんですね」
P「はい。伊織がみんなのためにプチケーキを買ってきて、写真を撮ってるところらしいです。青羽さんは食べましたか?」
美咲「もちろん頂きました! 『伊織ちゃんがみんなのために買ってきたプチケーキが冷蔵庫にあるから食べていいよ』って話が私のところまで回ってきましたので♪」
紬「……?」
美咲「プロデューサーさんは食べられなかったんですか?」
P「ああはい。残念ながら日帰り出張で、帰ってきたのが夜遅くだったので情報が回ってこなかったみたいです」
美咲「あっ、じゃあもしかしたらアレ、プロデューサーさんのだったのかも!」
P「え?」
美咲「何日も冷蔵庫の中に箱が残っていたので見てみたら一つ残ってたんです。日も経ってるしと思って捨てちゃいました……ごめんなさい!」
P「ああ、いいんですよ。俺、あの日机の上にあったカップケーキを食べてるんです。多分それが伊織からのやつです」
美咲「え? じゃあ残ってたのは……」
P「多分伊織の奴が数を間違えたんでしょう。だから気にしないでください」
紬「…………」
亜利沙「紬ちゃん? どうしました?」
「双海さんたちの入れ替わりに私が気づかなかったのは事実です」
「亜美たちが買ってきていれておいたプリンが誰かに食べられちゃったんだYO!」
「和菓子が最初になくなったことに気づいたのは、一週間前の水曜日の18時ごろのことです」
「犯行時刻は17時よりも前」
「ゴージャスセレブプリン」
「アイドルの皆さんはみんな一度は来てますけど」
「外部の線はなくなったな」
「私が買ってきたプチケーキを冷蔵庫にいれるときにチラッと見たかもしれないわ」
「ありさに覚えがなくてもありさが撮った写真は忘れません!」
「皆ケーキみたいなの食べてるな」
「伊織ちゃんがアイドルちゃんみんなのために」
「“水瀬さんから皆へのプレゼントが冷蔵庫にある”と人伝に」
「机にカップケーキが」
「わた春香さんはかわいいですよ」
「犯人は茜ちゃん人形の材料にしてやるー!」
「ぷっぷかプリンのプリンを食べるほう」
「私は茜ちゃんのプリン以外は食べない」
「『伊織ちゃんがみんなのために買ってきたプチケーキが冷蔵庫にあるから食べていいよ』って」
「多分伊織の奴が数を間違えたんでしょう。だから気にしないでください」
紬「……!」
ガタッ
P「うぉっ」
紬「プロデューサー。全アイドルを今日中に集めることはできますか?」
P「えっ? いや、無理だよ。これから仕事があるアイドルだっているし……」
紬「ではこれから私が挙げるアイドルは少なくとも絶対に集めてください。何時になっても構いません。決まったら連絡してください」
亜利沙「紬ちゃん、どうしたんですか?」
紬「私はこれからやらなければならないことがあります。プロデューサーはその方たちを集めることに集中してください」
美咲「紬ちゃん?」
紬「この事件の曇った硝子のような謎は、もう溶けました」
ギィィィバタン
https://www.youtube.com/watch?v=WJvkJGtQbRQ
19:00
765プロライブシアター イベントホール
伊織「ちょっと! なんでこんな時間に集められなきゃいけないわけ?」
美咲「ごめんね伊織ちゃん。紬ちゃんが『この謎はもう解けた』みたいなこと言ってたけど……」
真美「じゃあつむつむの捜査上手くいったんだ。やりますなぁ」
亜美「真美、名探偵ナンナンっしょ?」
茜「名探偵ナンナン?」
麗花「かわいい名前だね♪ なんなんななーん♪」
亜利沙「名探偵ナンナン! 紬ちゃんの決め台詞のシーンで撮った写真のタイトルはそれで決まりですね!」
「私にもわからないわ、未来」
「早く帰らないとドラマが始まっちゃうんだけどなぁ。私だけ帰っちゃダメ?」
「あっ千早ちゃん! 新曲良かったよ!」
「ありがとう、春香。春香こそ、あたらしい衣装、とっても似合ってるわ」
「ミキもう眠いの……あふぅ」
「美希はほんまによう寝るなぁ」
「私、お腹空いちゃった……」
「あっ、このあと皆でうちに食べにこない? いっぱい作るよ!」
「私も美奈子さんのお家行きたいです!」
「可奈は食べ過ぎないようにね」
「杏奈ちゃん、帰ったら通話しながらゲームしない?」
「うん……やりたい……」
P「集められたのはこれだけか……紬に言われた最低限のメンバーはいるな」
カッカッカッ
紬「みなさん、お疲れ様です。ステージの上から失礼します」
P「あっ紬! 言われたとおり集めたけど……なにをするんだ?」
紬「ありがとうございます。これから事件についての私の推理を披露させていただきます」
伊織「ってことは本当に解けたの?」
紬「はい」
伊織「やるじゃない! どんなものか聞かせてもらおうかしら♪」
真美「そうだそうだ! 真美たちのプリンを食べたのが誰なのか、早く聞かせてよナンナン!」
紬「なっ……本当にその名で呼ばれるのですね」
紬「最初の事件が起こったのは先週の水曜日のことです。まず、私が冷蔵庫に入れた和菓子が目を離した隙に消えていることに気がつきました」
紬「その後、何度も和菓子が消える事案が発生し、今日になってこの事件の捜査に乗り出しました」
紬「その捜査で私の和菓子を食べていたのは双海亜美さん、双海真美さんの二人だということが判明しました」
亜美・真美「「うあうあー! こんなに大勢の前で言うなんてひどいよー!」」
伊織「自業自得でしょ!」
紬「しかし、お二人には理由があったのです」
紬「お二人はその日のハードなスケジュールに備えてゴージャスセレブプリンを買ってきておられました。しかし仕事から帰ってきたところ、そのプリンが誰かに食べられてしまっていました」
紬「お二人は仕事で疲労しさらに空腹。その日の希望だったプリンをも失い、絶望の極限状態にある中、私の和菓子を見つけ、救いを求めるかのように思わず手を出したそうです」
紬「これが最初の事件の概要です」
紬「この事件についての推理を披露する前に、見ていただきたい写真があります。亜利沙さん、お願いします」
亜利沙「わかりました! 皆さん、スクリーンに注目です!」
バン
伊織「ちょ、ちょっと! 私の写真じゃない! こんなに大きく映し出されるとちょっと恥ずかしいわね……」
紬「この写真は事件の起きた先週の水曜日、水瀬さんが皆のために買ってきたプチケーキを写真に収めているところです。このプチケーキは皆さん食べられましたね?」
一同 コクン
伊織「み、みんなのためって……ちょっと買いすぎちゃったから分けてあげただけよ!///」
亜美「あれあれ~? 顔が赤くなってますなぁ?」
真美「買いすぎちゃったからって50個以上も買うぅ?」
伊織「う、うるさいわね!///」
紬「ありがとうございます。そうだろうと思いました。あの和菓子は味は美味しいですが、サイズは手のひらに乗るくらいで空腹を満たすにはとても足りませんからね」
紬「そしてここで水瀬さんにいくつか質問したいことがあります」
伊織「えっ? 私?」
紬「はい。水瀬さん。あなたはこのプチケーキのことをどうやって皆さんに伝えましたか?」
伊織「そ、それはその日会ったアイドルに『冷蔵庫にプチケーキがあるから食べていいわよ』って伝えて、それから『このことをみんなに広めてね』ってお願いしたわ」
紬「私もそのことは伝聞で知りました。水瀬さんから直接聞いた人以外はみなさん同様のはずです」
紬「つまりその情報は人から人へと渡って行ったわけです」
紬「水瀬さん、確認しますが、伝えた言葉は『冷蔵庫にプチケーキがあるから食べていいわよ』で一字一句間違いありませんか? 特に、『プチケーキ』という単語は入っていましたか?」
伊織「一字一句と言われると自信なくなってくるけど……そうね、『プチケーキ』って単語が入ってたのは確かだわ」
伊織「えっ!? そ、それは……」
紬「重要な情報ですのでお聞かせください」
伊織「そ……そうよ/// ま、まだあるの?」
紬「最後にもう一つ。プチケーキの数は765プロ事務所関係者からプロデューサーの分を引いた数ですか?」
伊織「そ、そうよ」
紬「確かでしたか?」
伊織「ええ。それは何度も数を数えたから間違ってないわ」
紬「ありがとうございました。これで確信が持てました。質問は終わりです」
紬「そんなことはわかっています。ですが、このことはこの恐ろしい事件に大きく関わっています」
P「恐ろしい事件? ゴージャスセレブプリンがなくなっただけじゃないか」
真美「だけとはなんだー!」
亜美「なんだー!」
P「ああ、悪い悪い。そういうつもりで言ったんじゃないんだ」
紬「この事件は単にプリンが誰かに食べられてなくなった、というだけではありません。この事件を解決することができなかった場合、765プロ自体の存続に関わると私は考えています」
P「なんだって!?」ザワザワ
紬「ですが安心してください。私はすでに真実をこの手に掴んでいます。これからご説明します。起こるべくして起こった、この恐ろしくも悲しい事件の真相を」
真美「そうだよー!」
紬「同じ頃、野々原さんも自分で買ってきたプリンを冷蔵庫に入れて『2段目のプリンは茜ちゃんの! 食べちゃダメ!』という張り紙を貼り、その後北上さんがそれを無視して食べ『おいしかったよ。ごちそうさま!』という張り紙を残していますが、これは事件とはあまり関係がありません」
麗花「えへへ♪」
茜「その反応は違うと思うよ麗花ちゃん。あっ、茜ちゃんと麗花ちゃんは綺麗に仲直りしてるから気にしないでね!」
紬「お昼頃、水瀬さんが人数分のプチケーキを買ってきて箱ごと冷蔵庫にしまいます。その瞬間を亜利沙さんが撮った写真がこちらです」
伊織「ええ。その通りよ」
亜利沙「あのときの伊織ちゃんは最高にかわいかったデス!」
紬「その後からプチケーキの情報が流れ始め、プチケーキは一つずつ数を減らしていきます」
紬「お昼過ぎ、私が和菓子を冷蔵庫に入れます。そのとき、ゴージャスセレブプリンがあるのを目撃しました」
紬「17時頃、双海さんたちが帰ってきてゴージャスセレブプリンがなくなっているのを確認し、和菓子を食べプチケーキを食べました」
亜美「あのときは絶望したよ……」
真美「うんうん」
紬「18時頃に私が和菓子がなくなっているのを確認し、プチケーキを頂きました。このとき、箱の中に残っていたプチケーキは私が食べた分のほかに一つだけでした」
紬「そして数日経ってから青羽さんがプチケーキがまだ一つ残っているのを確認し、日が経っていたこともあり衛生面を考えてプチケーキを捨てたそうです。ですね?」
美咲「え? あっはい!」
紬「日帰りの出張に行っていたプロデューサーはプチケーキのことを知らず食べていませんが、水瀬さんから別にカップケーキが用意されていました。ですので残っていたプチケーキはプロデューサーのものではありません」
紬「ちなみに、確認したところ、社長や音無さんには秋月さんが持っていったそうです」
P「じゃあ、アイドルの中にプチケーキを食べていない子がいるってことか?」
紬「そういうことです。ではなぜその人はプチケーキを食べられなかったのでしょうか?」
P「伊織からのメッセージがその子にだけ行き渡らなかったから?」
紬「当然そう思うことでしょう。その謎を明らかにするために、私は先ほど765プロに所属する全アイドルと連絡を取りました」
亜利沙「それで別行動をしてたんですね」
紬「水瀬さんはプチケーキの情報を広める際のメッセージに『プチケーキ』という単語を入れていたと仰いました。しかし、私が人から伝え聞いた言葉は『水瀬さんから皆へのプレゼントが冷蔵庫にある』でした」
伊織「『プチケーキ』って単語が変わっちゃったの?」
亜美・真美「「伝言ゲームだ!」」
紬「まさにその通りです。メッセージが人から人へと渡っていく間に形を変え、『プチケーキ』という単語が『プレゼント』という単語にすり替わったのです」
紬「私が全アイドルに確認したところ、全ての人にメッセージは伝わってはいましたが、やはり人によってところどころ違っていました」
紬「そしてこれこそがゴージャスセレブプリンが消えることになってしまった大きな原因なのです」
P「まさか……間違えたのか!?」
紬「その通りです。プロデューサー」
紬「シアターに来た彼女はそのメッセージを思い出し、『プレゼント』を頂こうとして冷蔵庫を開けます」
紬「彼女の目に飛び込んできたのはプチケーキの入った箱ではなく、圧倒的な存在感を放つゴージャスセレブプリンでした」
紬「彼女の脳内ではプレゼントというイメージとゴージャスセレブプリンの存在感が合致し、それを食べていいものだと勘違いして食べてしまったのです」
紬「そして彼女に食べられるはずだったプチケーキは残り、双海さんたちが食べるはずだったゴージャスセレブプリンは姿を消し、私の和菓子の消失まで連鎖していったのです」
紬「以上が先週の水曜日に起きた事件の顛末です」
紬「その人の名前は、私の口から申し上げることはできません」
P「え? どうして?」
紬「もし故意にゴージャスセレブプリンを食べていた犯人と呼ばれるべき人物がいるとしたら、私はここで公表したでしょう」
紬「しかし彼女には何の罪もないのです。私は彼女の名誉を守るために絶対に名前を公表しないと本人と約束しました」
紬「そしてこの事件を成り立たせるための条件の基になってしまった人々も同様です」
紬「もしメッセージが正確に伝わっていたなら、もしプチケーキが個別に入れられていたなら、もしゴージャスセレブプリンでなかったなら……。そのような“もし”に罪はありません。予測できるものではありませんでしたから」
紬「この事件は様々な条件が重なり合った上に成り立っている偶発的なもの。誰のせいでもない、悲しい運命のいたずらです」
亜美「うぇ!?」
真美「な、なに? ナンナン」
紬「これで納得いただけたでしょうか? プリンを食べたものの正体を明らかにするといいながら、お二人にお教えすることができないことになってしまったのですが……」
亜美「い、いやぁー、それは全然いいんだけど、亜美たちもここまで大事になるとは思ってなかったというか……」
真美「っていうか、真美たちにだけ事件のこと教えてくれればよかったんじゃないの?」
P「そうだ、紬。何も事件を知らないみんなを集めてまでやることじゃなかったんじゃないか? どうしてこんなことを?」
紬「…………」
P「何の話だ?」
紬「聞いてください。この事件はそれと同じです。765プロという着物のほつれです。このほつれは放っておけばどんどん広がり、やがては裂けることになります」
紬「今回は早期に気づけてそのほつれを直すことができましたが、被害がもっと拡大していた可能性もありますし、このようなほつれはいつどこにできるか予想ができません」
紬「そんなほつれによる些細なすれ違いから相手を誤解し、不和が生じ、バラバラになっていく。それは、悲しいことです」
紬「私は皆さんに知って欲しかったのです。知ることですれ違いを防ぎ、発生した誤解も素早く正せるように。私はまだ所属して間もないですが、この765プロという場所を、失いたくなかったから」
P「そうか……そうだったのか」
伊織「まったく……やることが大げさ過ぎるのよ、アンタは。……でも、そうね。アンタの言うとおりだわ」
亜利沙「紬ちゃんがそんなことを考えていたなんて……うっうっ、ありさ、感動しました!」
P「俺はみんながトップアイドルになることを目指してる! 一人一人がバラバラじゃ辿り着けはしない。外からの障害もあれば、時に中で障害が発生するかもしれない。その時は765プロ一丸となって、みんなで立ち向かっていこう!」
一同「はい!」
紬「みなさん、ありがとうございます!」
P「こちらこそありがとうだよ、紬。それで、ここにいるみんなには伝わったけど、ここにいないみんなにはどうするつもりだ?」
紬「亜利沙さんに頼んで動画を撮影してあります。それを765プロ内で共有させましょう」
P「なるほど。それで撮影機材のあるここに集めたのか」
紬「勝手に使ってしまい申し訳ございません。一刻も早く明らかにすべきことだと思いまして」
P「いいさ。それより、もう皆に言うことはないのか? ないなら、この事件を終わらせよう」
紬「それと、お騒がせしたお詫びと言ってはなんですが、冷蔵庫に私が買ってきた和菓子が765プロ関係者全員分入れてあります。一人一つ、ぜひ召し上がってください」
亜美「やったー! ナンナンのお菓子めっちゃ美味しいんだよ!」
茜「それは聞き捨てならないねぇ。茜ちゃん、遠慮なくいただいちゃうよ!」
麗花「茜ちゃんのプリンもあるかな?」
亜利沙「ここにいないアイドルちゃんにも教えてあげないといけませんね!」
伊織「今度は伝言ゲームにならないようにしっかり正確に伝えないとね♪」
真美「みんな! 我に続けー!」
ワーワードタドタ
美咲「あっ、みんな危ないから走らないでー!」
ガシッ
P「おっと。紬、大丈夫か?」
紬「プロデューサー……」
P「随分緊張してたみたいだな」
紬「……普段立つステージとはまた違った緊張がありました。舞台袖から出る前など足が震えて……ああやって推理をすらすらと披露できたのが不思議なくらいです」
P「誰だって自分の思いを伝えるのは怖いもんさ。紬は良くやったよ。様になってたぞ、名探偵ナンナン」
紬「……この期に及んで茶化すとは、あなたは本当に失礼な方ですね」
P「茶化してなんかないさ。本当にかっこよかった。今度、探偵役のオーディションを受けてみてもいいかもな。どう思う?」
紬「そんなことも言わねばわからないのですか? っ、離してください。もう一人で立てます」
紬「…………」
カッカッカッ
紬「……すぅ」
紬「瑠璃色金魚は恋い焦がれる 凛と咲き誇る花菖蒲」
P「……これは」
紬「吐き出す空気は泡の模様 決してあなたの心に」
紬「届かないの」
紬「…………」
紬「それから親元を離れ、上京してこの事務所に転がり込み、初めての場所で右も左もわからない中あなたの言うとおりにステージに立ち、今はこうしてアイドルをやっています」
紬「初めてセンターのお役目を頂いてステージに立ったときは生まれて初めてというほどに震えました。エミリーさんを初め沢山の方々が私をサポートしてくださったことでステージは成功しましたが、私の胸の内にあったのは常に不安でした」
紬「アイドルをやっているときもオフのときも、常に不安が付きまとっています。それでも今日までやってこれているのは何故だと思いますか?」
紬「アイドルになれると言ってくれたあの日から、あなたのことを信じているからですよ」
P「紬……」
紬「あなたが似合うというならどんな衣装でも着てみせましょう。あなたが歌えるというならどんな歌でも歌ってみせましょう。あなたがやれるというなら……」
紬「あなたが本当に私のことを思って取って来てくださる仕事なら、私はあなたを信じて仕事をするだけです。ですから、あなたはあなたの思うままにプロデュースしてください」
紬「私にはあなたが必要です」
P「……そんな風に思ってくれて嬉しいよ。これからもトップアイドル目指して一緒に頑張っていこうな!」
紬「あ、プロデューサー。その前に私の買ってきた和菓子を受け取っていってください」
P「ああ、そうだったな。もちろん貰って帰るよ」
紬「それと、その差し入れの分とは別にもう一つ、これをどうぞ。お礼の品です」
P「お礼の品? 何かしたっけ?」
紬「メールでお約束していたはずです。まさか忘れてしまっていたのですか?」
P「あ、ああ! 思い出した、思い出したよ!」
紬「……つまり忘れていたのですね」
P「……てへぺろ(・ω<)」
紬「金沢に帰らせていただきます」
P「あーっ! あーっ! 悪かった! 謝るから帰らないで! 紬ーッ!」
終わり
「劇場サスペンス」
THE@TER BOOST! 投票締め切り1月22日23時59分!
お忘れなく!
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コメント一覧
-
- 2018年01月19日 23:30
- プリンが無くなるのは茜ちゃんの特権なはず
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