米国では、政権に批判的な報道を「フェイクニュースだ」と攻撃するトランプ大統領の主張に勢いを得て、既存メディアへの風当たりが強まっている。保守層とリベラル層との間で深まる社会の分断を背景に、偽の情報提供者を仕立ててリベラル色の強いメディアに誤報を書かせて信頼を失墜させようとする動きまで出ている。 (ニューヨーク 吉池亮)
昨年12月12日に投開票が行われた南部アラバマ州上院議員補欠選挙。当選が有力視されていた共和党候補のロイ・ムーア元州最高裁長官(70)の醜聞を、11月9日にワシントン・ポスト紙がスクープした。ムーア氏が過去に複数の未成年者にわいせつ行為を強要していたとの疑惑だった。「話したいことがあるが、身元は明かせない」。同紙はスクープ翌日の11月10日、匿名のメールを受け取った。取材現場に現れた女性は同紙記者に対し、15歳の時にムーア氏と性的関係を持ち妊娠、中絶を経験したと証言した。
女性は、ニューヨークに本拠を置き、ジャーナリズム組織をひょうぼうする保守系団体『プロジェクト・ベリタス』から送り込まれたという。この団体は2010年の設立以降、身分を偽る“おとり取材”でリベラル系団体や主流メディアのスタッフなどに近づき、隠しどりした会話を公開。その内容を右派系のニュースサイト『ブライトバート・ニュース』などが取り上げてきた。団体代表のジェームズ・オキーフ氏(33)は読売新聞の取材に対し、「主要メディアができないことをやっているだけだ」と語る。オキーフ氏は「大統領選に勝利したのはトランプ氏なのに、主要メディアはその現実を受け容れようとしない」として、メディアがいかに偏向しているかを暴く狙いがあるのだと主張。団体側の手法について、同氏は「ゲリラ記者」「覆面ジャーナリスト」と語り、「真実を暴くための手段だ」と悪びれる様子はない。
読売新聞 2018年1月17日付朝刊
嬉しくなって何の根拠もなく信じ込んでしまいがちだから気をつけたいね