歯医者が登場する前は、虫歯治療はどうしていたのだろう?
虫歯の痛みは大昔から人々を苦しめてきたはずだ。歯の痛みは、耐えうることのできるもっとも悲惨な苦しみであることはよく知られている。
ありがたいことに現代のわたしたちは、長年培われてきた総合的な知識や現代医学の技術のおかげで、痛みもほとんどなく健やかな歯を保つことができる。これは昔の人たちにとってはとても享受することのできない贅沢だった。
わりと最近でさえ、局所麻酔や強力な鎮痛剤が使われるようになる前は、数人に押さえつけられて、青銅器時代のような粗野な道具で無理やり口をこじ開けられ、医師にペンチで無理やり歯を引っこ抜かれたりしていた。
その残酷さを想像したら、思わず顔をしかめてしまいそうになる。そんな恐ろしい昔の歯科治療の歴史を見てみよう。
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10. 歯科治療の誕生は古代エジプトから
image credit:James Edward Quibell
記録によると、歯科治療は、厳しい時代、食事事情も苦しかった古代エジプト人たちの文化で始まったという。
古代エジプトの人たちの食事は、おもに穀物だったが、安全なパンを作るのに、今日のようにきちんと殺菌された質のいい原料やいい家庭用品もなかった。
そのため、さまざまな金属、鉱物、体に悪そうなものがパンの中に入り込み、虫歯など多くの歯の障害を引き起こした。
エジプト人は食べ物から砂を取り除くことはほとんど不可能だとわかっていて、これは、当時蔓延していた口内の重大な健康問題の原因となっていた。
世界初の歯医者の記録は紀元前2660年頃にさかのぼり、ジョセル王の主席歯医者で内科医だったHesyre という人物だったという。
この時代のおもな歯科治療は、虫歯になったり、欠けたり、割れた歯や歯肉や膿傷に痛みを和らげるための詰め物をすることだった。
詰める物は、ハチミツやハーブなど植物、金のこともあったが、金を詰め物に使った歯科処置が死後に行われたのかどうかははっきりしない。とはいえ、この時代に行われた治療が、どれも耐えがたい痛みを伴ったことは確かだろう。
古代エジプトの医学力すごい!革新的な10の衛生学 : カラパイア
9. 歯に穴をあける。複雑な治療の始まり
image credit:Roemer- und Pelizaeus-Museum, Hildesheim
当時、徹底した手術が行われたのかどうか、抜歯が行われたのかどうかについては、残されている証拠が限られているため、議論が分かれる。
だが、このような早い時期から、補綴(義歯)が作られていた可能性があるケースが3つある。古代エジプト人は、初めて金歯を使った。穴をあけてゴールドのワイヤで歯の間を縫うようにして複雑なスタイルを作り上げていた。おそらく歯をしかるべき位置で固定するためか、美容のためだったと思われる。
紀元前2500年には、今日では悪夢のような処置だと考えられている最初の歯科治療が生み出された。歯に穴をあけることだ。
当時の遺体を調べると、人工と思われる歯の外側に左右対称の小さな穴が開いているのがわかる。膿を出して腫瘍の圧迫を緩和するために穴をあけることを学んでいたようだ。現代医学の恩恵もない時代に、こうした処置を体験するなどとても考えられない。
8. 弓のドリルで歯に穴をあける
image credit:Alistair Park
現代のように電力や細かい調整のきく道具なしで、どうやって歯に穴をあけたのだろうか?
弓に似ているが矢をつがえるものではなく、弦が鋭いスパイクや青銅の支柱に結びつけられただけの弓錐のようなものを使ったのではないだろうかと予測されている。弦がスパイクのまわりに巻きつけられているので、まるでチェロを弾くように弓を前後に動かすと、スパイクが回転して対象物に穴があく。
歯に穴をあけるやり方として簡単に手際よくできる方法ではなく、どう考えても快適とは思えない。幸いなことに、紀元前4000年ごろの古代エジプトではすでにアルコールが生産されていたが、いくらアルコール度の高いものをもってしても、この処置は間違いなく悲惨だったことだろう。
7. メスやペンチ。精巧な道具が使われ始める
image credit:Crystalinks
エジプトでは文化や医療が進むにつれ、社会に蔓延していた歯の問題を解決するために、精密で複雑な道具がますます広く求められるようになった。
少なくとも紀元前2500年頃には、ペンチ、メスなどの道具を完備した本格的な歯科治療が行われていた痕跡が残っている。
この頃までには、エジプト人は補綴、脳外科手術など、さまざまな手術を行うのに必要な道具や知識を持っていた。歯に穴をあけてきれいにしたり、形の悪い歯を取り除いたりといったことをやっていた。
歯科治療は徐々にだが、確実に複雑になっていき、現在のわたしたちにとってなじみのある快適なやり方になっていった。快適というか、我慢できる範囲と言ったほうがいいかもしれないが。
6.エトルリア人による歯科技術の発展
image credit:Wellcome Trust
エトルリア人は、ローマ以前にさかのぼるイタリアの先住民族で、紀元前700年から400年頃生きていた人たちのことだ。
ローマの支配が始まったとき、エトルリア人はローマの穏やかな始まりに同化した。彼らはすでに歯科治療において、革新的な貢献をしていた尊敬すべき民族だった。エトルリア文化の多くがローマに採用され、のちにローマ帝国が起こったため、歴史にその名を残すことになった。
紀元前700年までには、エトルリア人はすでに、動物の歯や金の詰め物を使って、歯のインプラントを行っていた。彼らは金属を温めてはんだづけして、むき出しの神経や空洞を埋め、食べかすなどにさらされる歯髄や末端神経の痛みを抑える方法を知っていた。
また、エトルリア人は動物の歯や骨を使って、世界初の審美歯科処置を行った。彼らの義歯は現在のものほど耐久性はなかったが、簡単に取りつけ、交換が可能で、この方法は1800年代まで行われていた。
エトルリア人がさまざまな分野で進んだ文化をもっていたため、今日のわたしたちはその恩恵を永久に享受することになるだろうが、現代の義歯技術の助けなしで歯を金属でくっつけたりしたがる人は今はほとんどいないだろう。
5. 古代ギリシャで歯科医療が進まなかった理由
古代ギリシャは文化的に進んでいたと思われているのに、歯科治療に関しては後塵を拝していた。これはおもに彼らの哲学と好戦的な性格によるところが大きい。
ギリシャ人は力と美が究極の美徳だと信じていたため、虫歯の痛みなど歯を健康に保つために払う代償としては小さなものだった。痛みは弱さの証で、医者に歯を抜いてくれなどと頼むのは、間違いなく社会的地位を失うほどのダメージだった。
古代ギリシアで歯痛に苦しむ人が望んだ一番の方法は、さまざまな薬草を浸した布を歯に詰めて、食べ物が中に入らないようにすることくらいだった。
しかも、虫歯を抜かなかったせいで、多くの人が感染症で死んだ。たいていの場合、歯痛の地獄の苦しみを取り除いてもらうよう神頼みするだけで、なんとかうまくいくことを期待するだけだった。
4. 虫歯予防。中世で始まる歯科衛生
image credit:Istorijos jdomybes
中世という時代は歯科治療に関して、知識の正確さや問題解決のための道具においてかなり進歩が見られた歴史の転換期だった。
だが、大きな発展は、虫歯の予防対策、歯科衛生という意識が生まれたことだ。
今日の歯磨きやマウスウォッシュのように、フッソやアルコールがすぐに手に入る時代ではなかったが、中世ヨーロッパの人々は、きれいな布で歯をこすって清潔にし、口内から汚いものを取り除く知識を持っていた。これはいい口臭の助けにもなった。
当時、砂糖の値段がとても高かったため、この時代は虫歯の問題には無縁だったが、裕福な階級には酢や、バクテリアを殺して息をさわやかにする成分を含んだマウスウォッシュがあった。
1158年、ビンゲンのヒルデガルトは次のように勧めている。
歯を健康にしたいなら、朝起きたときに冷たい純水を口に含み、しばらくそのままにする。そうすると、歯のねばつきが和らぎ、歯を洗うことができる。これを頻繁に続けると、ねばつきが徐々に減り、歯の健康が保たれる。
この粘液は寝ている間に歯に付着するため、目覚めたら冷水できれいにするべきだ。湯よりも冷水のほうがいい。湯だと歯が脆くなる。
中世は予防歯科治療の最盛期となり、自分の歯の健康と見栄えを保つあらゆる方法が大いに注目された。
3. ホワイトニングの誕生
中世の文化は歯をきれいにすることに憑りつかれていて、ホワイトニングは歯科衛生ケアの大きな部分を占めていた。
輝くばかりの白い歯のために多くの調合薬が作られ、売られ、実際に使われたのは、現代の歯科医院で同じように宣伝している製品がどっさり見られるのとまったく同じだ。
Trotulade Ruggieroによって書かれた11世紀のDe Ornatu Mulierumは、女性の化粧について次のように書いている。
歯はこのようにして白くする。焼いた白大理石、焼いたナツメヤシの種、白ソーダ石、赤瓦、塩、軽石、これらをすべて粉にして、湿ったウールをきれいな麻布で包んだものの中に入れ、それで歯の表裏をこする。
女性は食事の後で上質なワインで口をゆすぐべき。それからよく乾かし、新しい白い布で拭く。仕上げに、毎日ウイキョウかセリ、パセリを噛むと口臭がさわやかになり、歯肉もきれいになり、歯が真っ白になる。
2. 義歯の発展
image credit:Pierre Fauchard
時代が進むにつれ、予防や抜歯だけでは歯科治療は追いつかなくなった。世界貿易の広がりによって砂糖は簡単に手に入るようになり、一般の人々の口に入るようになったが、貧困層にはまだ栄養不良が蔓延していて、歯や骨の問題を引き起こしていた。
歯の交換はエトルリア人以来ずっと主流だったため、全体のブリッジや義歯が歯科の歴史の中で避けられないものになっていった。
14〜15世紀までには、歯医者はブリッジや総入れ歯ができる美容外科医になっていた。牛の骨を歯の形に似せて成形し、それを義歯が必要な貧しい患者の口にはめ込み、金のワイヤで固定する。義歯が緩んだ場合は、もう一度、金のワイヤをつけ直す。
この処置は金のワイヤを歯肉や顎、あるいは両方に縫い込むやり方と言っていい。これはちょっとノーサンキューだ。
1. 死者から義歯を作る
image credit:Mount Vernon
さて義歯を作るには材料がいる。牛の骨から義歯を作るのは専門家でないとできないので、万人が手に入れられるものではない。
当時義歯として使える材料となると、死者の歯である。中世の人々はよく死体から歯を抜いた。中世では死体はたっぷりあったのだ。
複数の遺体から歯を抜いて、患者の歯に合った義歯を作るのにより適したものを選ぶこともあった。確かにそのまま使えるとはいえ、おぞましいことだ。
via:10 Horrors Of Dentistry Throughout History / written by konohazuku / edited by parumo
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コメント
1. 匿名処理班
歯医者行きたくなくなってきた…。
2. 匿名処理班
平均寿命が延てるのに、乳歯の生え変わりは10歳前後なんだよなー。
永久歯一回だけで、70年持たせるのなんて無理だよ。
40代位で永久歯に生え変われば、物凄く大事にするのになー。
歯医者行きたくないなー。
3. 匿名処理班
まあ人が亡くなるほどの病気だったから、穴開けるぐらい我慢しろってことだったのかな?
何にせよ先達のおかげで今の治療があると思うと、有り難い…といって良いのかな
4. 匿名処理班
ルイ14世だったか、歯があることが万病の原因とされて全て抜歯された王様がいたような。
それにしても読むだけで歯が痛くなった。
あ、俺もここに入る資格あるぞ!!
現在のかかりつけは、歯が無事なら抜くべきでないという考え。
右上犬歯の後ろ(第1小臼歯)の根っこに歯周病がまわりぐらつきが酷くなるうち、第2小臼歯までぐらつき、結果2本とも抜いて部分入れ歯になったとさw
5. 匿名処理班
※4
怖い話じゃないの…
6. 匿名処理班
安心してくれ。現代の歯科医師もこれを読んで歯医者さん超怖いって思った。
7. 匿名処理班
当時は最先端だった。
現代の歯科治療も未来から見れば「当時は最先端だった」。
そういえばドリルによる虫歯治療はかえって歯を悪くするって、、最近言われ始めましたね。。。 恐ろしい。
8. 匿名処理班
弓でドリルて…
これも含めて医療に関しては文句なく近代に生まれて良かったとつくづく思えるわ…
9. 匿名処理班
現代人でよかった・・・
10. 匿名処理班
何かの本で人類が火を使い始めてから虫歯に・・・
と読んだ記憶があるけど・・・
11. 匿名処理班
色々な技術が発達してるのに、
虫歯の治療は削って詰め物、
それでも駄目なら引っこ抜く
という所から全く進歩してませんね。
何でもっと画期的な治療法が出てこないのか、
ずっとモヤモヤしてますわ。
12. 匿名処理班
※1
連休明け、歯医者さんの検診なんだ…。たぶん、衛生士のお姉さんにガリっとかゴリっとかされるだけだろうけど、「少々お待ちくださ〜い」って先生呼ばれたらどうしようって思っちゃってるよ…。
13. 匿名処理班
※11
アルツハイマー病の治療薬が、歯の再生に効果があるっていう研究がされてましたよ
まあそれでも削る必要はあるんですけど