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最原「僕らが往くは恩讐の彼方!」 巌窟王「これで終わりだ!」【後半】|エレファント速報:SSまとめブログ

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最原「僕らが往くは恩讐の彼方!」 巌窟王「これで終わりだ!」【後半】

関連記事:最原「僕らが往くは恩讐の彼方!」 巌窟王「これで終わりだ!」【前半】





最原「僕らが往くは恩讐の彼方!」 巌窟王「これで終わりだ!」【後半】






511:逆転の人 ◆SxyAboWqdc 2018/02/12(月) 20:06:51.00 ID:0SrphFv90

学園某所

BB『さて。じゃあ話を元に戻して……脱出ゲームで一番大事なところを確認です』

BB『そこ、どこです?』

夢野「隠し部屋……じゃと思う」

BB『隠し部屋?』

夢野「ウチもよくわからんが、とにかく隠し部屋じゃあ。女子トイレのあたりに隠し部屋の入口があっての」

夢野「そこに踏み込んだら、いきなり白銀に何かをされて……」

夢野「傷を見てみる限り弾でも撃ち込まれたんじゃろうなぁ? 麻酔弾とかそういうの」

BB『ふむ……周りに何があります? おそらくデバイスが出た先にこの部屋があったのなら電話回線くらい通ってるんでしょうが』

夢野「モノクマのデカい顔のオブジェ……?」

夢野「ウンともスンとも言わないから正真正銘の置物じゃろうな?」

BB『うっわ。本当だ。何これ。メトロイドのマザーブレインみたいに水中に浮かんでますけど……』

BB『うーん……端子とかあります? 繋いでくれれば充電するついでに中身調べられますけど』

BB『邪魔者だったとしたらウイルスぶちこんでぶっ壊します』

夢野「んん……ええと……ああ、おあつらえ向きにコードとかも放置されておるの。よし」カチッ



513:逆転の人 ◆SxyAboWqdc 2018/02/12(月) 20:13:46.33 ID:0SrphFv90

BB『……中身、なし。いや、何かしらあった形跡はありますね』

BB『でもコレ見る限り引っ越しされたか、さもなくば完全消去された後です』

BB『権限も凍結済みだから、残骸を乗っ取ったところで特に何もできませんね』

夢野「つまり特に役に立たないというわけじゃな?」

BB『ええ。ひとまずは。さて、夢野さん。どうして外に出られないんです? 入口はあったんでしょう?』

夢野「それがじゃなあ、途中の道がコンクリか何かで埋められておってのう」

夢野「どうしても外に出られないんじゃよ。元来た道からは」

BB『カメラから見る限り、もう一つメカメカしいドアがありますけど』

夢野「ウンともスンとも言わない。こっちは物理的じゃなく電子的にロックされているようじゃの」

BB『よし。じゃあどこかしらにこのデバイスを繋いでください。深夜までには開くようにハッキングしますので!』

ジャガーマン『そこから先は、私の出番だぞっ』

ジャガーマン『弟子アウノウン号よ。先生の指導に、キチンとついてくるんだぞっ』キラーンッ

夢野「は?」

ジャガーマン『ついてくるんだぞっ!』ギランッ

夢野「ぴいっ!?」ガビーンッ

BB『威圧しなーい』



514:逆転の人 ◆SxyAboWqdc 2018/02/12(月) 20:22:03.99 ID:0SrphFv90

BB『しかし、これだけ怪しい部屋に何もないっていうのが妙に引っかかりますね』

BB『そこのオブジェには間違いなくなにかがあった形跡がありますし……』

夢野「不思議じゃのう」

BB『うーん。まあ、後で現地の誰かが調べてくれれば済む話、ですよね』

BB『さて。誰かが来る前にパッパッと終わらせちゃいましょう!』

BB『……そうだ。これも忘れてました。見回りに誰かが来たりは?』

夢野「一度たりともなかったのう」

BB『食事とかトイレとかはどうしてました?』

夢野「トイレは別室に。食糧もメモ書きと共に一週間分は置いてあった」

BB『メモ書き? 内容は?』

夢野「『ごめんね! by白銀』じゃ」

BB『……』

ジャガーマン『悪い子は可愛くて怖いジャガーマンちゃんが食べちゃうのであった。ぱく』



515:逆転の人 ◆SxyAboWqdc 2018/02/12(月) 20:33:56.54 ID:0SrphFv90

BB『なんというか徹底的にこちらのことをバカにしてますね。ふふふ。いいでしょう』

BB『ならばこちらも私情バリバリマックスでお送りしますよ!』

BB『食らって爆ぜろ! CCC(カースドキューピッドクレン――)』

ジャガーマン『ジャガーリセットボタン』ポチッ

BB『え――』


ブツンッ


夢野「……ん?」

夢野「おい。おーい。どうしたー?」ポチポチ

夢野「……」

夢野「通信が切れおった……」ズーン



519:逆転の人 ◆SxyAboWqdc 2018/02/13(火) 17:35:23.37 ID:Ox7B7nQp0

病院

春川「……百田。ちょっと聞きたいんだけどさ」

百田「お?」

春川「この病院、なんで開設されたのか覚えてる?」

百田「あ? んなことも忘れちまったのかよ。そんなん……」

百田「……なんでだっけな?」ハテ

春川「……なんか忘れてる気がする……っていうか……」

春川「頭が最近、フワフワしてて現実味がない……」

春川(いや。なんというかそれを通り越して『生きている気がしない』)

春川「……百田。私たち、何か忘れてる気がしない?」

百田「忘れてるな? 明らかに」

百田「まあ必要なことなら思い出すだろ。人間そういうふうにできてんだ。慌てんな」

春川「……うん」

百田「さあってと! じゃあ見繕った本をさっさと終一の部屋にダイナマイッしてこようぜ!」

春川「そんなダイナミックに投下するようなものじゃないよ?」



520:逆転の人 ◆SxyAboWqdc 2018/02/13(火) 17:46:56.41 ID:Ox7B7nQp0

病室周辺

百田「おっし! それじゃあ行くぜ! 終い――!」

春川「!」

春川「待って」グイッ

百田「首根っこ!?」グヘァ

春川「……ちょっと遅れた方がいいかも」

百田「お?」

春川「なんか楽しそうだし」

百田「……」





最原「……できた」カシャーンッ

茶柱「すごっ!? グチャグチャのルービックキューブが綺麗な六面クリア!? 嘘でしょ!?」

最原「……あれ。凄い苦手だったはずなんだけど……?」

茶柱「あの……五×五マスのヤツも持ってきてるんですけど、やります?」

最原「うん。やらせて」





春川「ね?」

百田「……いらねぇ世話焼いちまったかな」フッ

春川「ま、後ででいいでしょ。私たちは時間を改めて……」

王馬「やっほー最原ちゃーん! エ口グロな真っピンクのエ口本を持ってきたよー! 注文通りの親子丼特集のヤツ!」ガラララッ

百田「」

春川「」

最原「」

茶柱「……」

茶柱「やはり男死に希望などないのです」ゴッ

最原「待っ――ぎゃあああああああああああ!?」



ゴキンッ



521:逆転の人 ◆SxyAboWqdc 2018/02/13(火) 17:58:00.80 ID:Ox7B7nQp0

新世界プログラムの中

白銀「起きて……」

白銀「ねえ。起きて……」

アンジー「……」

白銀「……言ってみただけだよ。当然、起きてるよね。寝る権利に関してはこっちで制限してるし」

アンジー「う……」

アンジー「何を……したの? みんなに……」

白銀「うーん。説明は長くなっちゃうなー」

白銀「まあ、死の体験?」

アンジー「この世界って確か……」

白銀「大丈夫。あくまでも体験版だからさ。本当に殺しちゃったりはしてないよ。興醒めでしょ?」

白銀「第一、あなたたちを皆殺しにしたいのならエグイサルでグチャッで事足りるしさ」

アンジー「じゃあ……」

白銀「記憶を消して再上映。記憶を消して再上映」

白銀「……最悪の結果で死亡する記憶を何回も何回も植え付けているだけだよ。ショック死しない程度にね」

アンジー「……衰弱死はするんじゃない?」

白銀「平気だよ。だって記憶を消して……詳しく言うなら記憶を『上書き』するのが思い出しライトの真の機能なんだもん」

白銀「精神が壊れたりはしないよ。これやられてる本人は無限ループだと認識してないもん」

アンジー「……?」



522:逆転の人 ◆SxyAboWqdc 2018/02/13(火) 18:04:29.51 ID:Ox7B7nQp0

アンジー「じゃあ……やられている本人は、本来設定されている上限より上の絶望はできないよね?」

白銀「別にそれでいいんだよ。だって、仲間だもん。そんな酷いことできないよ」

アンジー(白々と……)

白銀「本当のターゲットは……別の人、だからね」

アンジー「……アンジー?」

白銀「それと、巌窟王さん」

アンジー「!」

白銀「ふふっふー……思い出しライトを巌窟王さん用に改造したんだ。これなら忘却補正があっても関係がない」

白銀「いや。忘却補正があるからこそ酷いことになる」

アンジー「何……してるの?」

白銀「思い出しライトの『上書き』の機能を消した。ただ単に記憶を『追体験』させるだけの代物にしたんだよ」

白銀「これで思い出しライトの内容を『自分のものだ』とは錯覚しづらくなったわけだけど……」

白銀「苦しみや痛みとか鮮烈な記憶は、ほぼ自分の物と遜色なく体験できるはずだよ」

白銀「……ふふっ」

アンジー「……な、内容は……なに……?」ガタガタ

白銀「……」






白銀「現状新世界プログラム内で『おしおき』を受けている生徒全員の記憶の追体験。ほぼリアルタイムで上映中」

アンジー「ッ!」



523:逆転の人 ◆SxyAboWqdc 2018/02/13(火) 18:10:10.59 ID:Ox7B7nQp0

巌窟王「……」ズルッ ズルッ


――ごめんなさい。最原くん、白銀さん。私が首謀者を殺そうだなんて思わなければ……!


巌窟王「……」ズルッ ズルッ


――俺には……何もない。外の世界に俺の生きる動機は何も。

――ごめんなさい。星くん。ごめんなさい。あなたを殺した私を許して……!


巌窟王「……」ズルッ ズルッ


――や、やめて……お願い。僕にそんな酷いことをしないで。姉さん! 姉さんッ!


巌窟王「……」ズルッ ズルッ


――やめて! 死にたくない! 苦しい! 死にたくない! 苦しい! 苦しい! 助けて!

――ゴン太は……なんでこんな酷いことを……? みんなの役に立てないままで……!


巌窟王「ぐ……!」

巌窟王「……」ズルッ ズルッ



524:逆転の人 ◆SxyAboWqdc 2018/02/13(火) 18:14:51.17 ID:Ox7B7nQp0

白銀「どの程度うまくいっているかわからないけど、もしかしたら生徒全員の怒り、悲しみ、後悔とかいった感情も巌窟王さんに逆流してるかもね」

白銀「あの人、本当に優しかったからなぁ。そういうこともあるでしょ」ケラケラ

アンジー「ひ、酷い……! なんでこんなこと……!」ガタガタ

白銀「ん? 酷い、のかな? どうだろ。自分でやってることだから全然わかんないや」

白銀「なので……どのくらい酷いことなのか、アンジーさんが試してみてよ」

アンジー「へ?」

白銀「巌窟王さんが見ているものを、そのままあなたにも見せてあげる!」

アンジー「ひ……!?」


ガシャンッ


アンジー「あ、や、やめて……! 何この鎖! 外してよ!」ガシャンッ ガシャンッ

白銀「だーめっ」ニコニコ

アンジー「お、お願い! 助けて! アンジー、何か悪いことした!? なんでこんなことされないといけないの!?」

アンジー「や、やめて! やめてやめて! いやだぁ!」ジタバタ

白銀「はい上映」



ピカッ



アンジー「あ、ぐ……ああああぐうううう!?」

アンジー「あひいいいいいいいいいいいいいッ!?」



530:逆転の人 ◆SxyAboWqdc 2018/02/13(火) 19:40:28.22 ID:Ox7B7nQp0

それなりに聞き流せ! 次回予告!

ジャガーマン「おっす! オラ、ジャガーマン! ジャガー道場、始めるよー!」

夢野「……ん!? なんじゃこの空間!? あれ!? 通信が切れてからウチ、暇だったから寝たはずなんじゃが!?」オロオロ

ジャガーマン「着替えろ」

夢野「は?」

ジャガーマン「着替えろっつってんだよ弟子アンノウン号コラァーーーッ!」シュババババッ

夢野「ぎゃあああああああああああ!」

弟子アウノウン号「うう……い、一体何を……ひい!? なんじゃこの格好! 今時ラノベかエ口ゲでしか見ないようなブルマ体操着!?」

ジャガーマン「お前の名前を言ってみろ」

弟子アウノウン号「は? ウチの名前は『弟子アウノウン号』じゃ……って、あれ?」

弟子アウノウン号「違くて。ウチの名前はそんな珍奇な商品名みたいなのじゃなくって『弟子アウノウン号』じゃ……」

弟子アウノウン号「ひい! 本名が言えん!?」ガビーンッ!

ジャガーマン「それじゃあ時間も時間なので次回予告だよっ!」

ジャガーマン「次回! 『ナイトメアビフォア夢野秘密子』! お楽しみに!」

弟子アウノウン号「脱げないー! 脱げないーーー! ぐおおおおおおおおおッ!」ジタバタ



540:逆転の人 ◆SxyAboWqdc 2018/02/14(水) 19:52:07.23 ID:Ozu28cfF0

夢野「……ハッ! な、なんじゃ今の悪夢は……凄く理不尽な目に遭ったような……」

BB『あ。起きました?』

夢野「BB! 通信は復活したようじゃな?」

BB『ええ。一応。猫にリセットボタンを押されるとか、どこのファミコンですか……』

ジャガーマン『すまぬの極み乙女』

BB『利用価値がなかったら即座に地獄へボッシュートしてるところです』

BB『ああ、そうだ。デバイスの方はずっとドアの端子に繋ぎっぱだったので、あなたが寝ている間に調べられることは調べましたよ』

BB『……ええとですね。夢野さん。あなたの前に二つの選択肢があります』

夢野「選択肢?」

BB『このまま二日ほど時間を置くか、すぐに私のハッキングによって外に出るか、です』

夢野「……なんて?」



541:逆転の人 ◆SxyAboWqdc 2018/02/14(水) 20:01:18.03 ID:Ozu28cfF0

BB『実は、この扉、時限設定が施されていたんですよ。あと二日すれば何もしなくっても自動的に開くんです』

夢野「なんじゃと?」

BB『もちろん、私の手にかかればすぐにでもあなたを出すことはできるんですが……』

BB『でもちょっと意図的すぎて。二日という期間に何か意味を感じないこともないというか』

夢野「ううむ。食糧にはまだ余裕があるから、二日ぐらいは何ともないんじゃが……」

夢野「意図がまったくもってわからんのう」

ジャガーマン『え? 酷い目に遭ってほしくないんでしょ?』

夢野「なに?」

ジャガーマン『だってぇ、嘘だとは言え数日は仲間として接してきた生徒にゃんだから、多少の情は出て当たり前だにゃん?』

ジャガーマン『情は厄介だぞー? なにせ殺人鬼も独裁者も魔王だって平等に殺せる猛毒だからにゃん』

BB『いや、それは……』

BB『……都合の良すぎる仮説だと思うんですけどねぇ』

夢野「……」

夢野「正直、ウチには今でも信じられん。白銀は間違いなく仲間だったんじゃぞ」

夢野「酷いことはされたのかもしれんが……何か理由があって仕方なく、とウチは考えたい。思いたいんじゃ」

BB『うひー。やだやだ、カビが生えそうなくらい青臭い主張です』

ジャガーマン『だけどそれも真理なのです』

ジャガーマン『ふむ……どちらの選択肢を選ぶにせよ、まあ一晩くらいは考えるべきでしょう』

BB『……どうします? 夢野さん』

夢野「そうじゃな……ひとまずドアを開けるのは保留じゃ」

BB『了解』

夢野「……」

夢野(白銀……)



552:逆転の人 ◆SxyAboWqdc 2018/02/15(木) 20:22:06.34 ID:l3f/0K4P0

最原入院二日目

最原「……」

最原(暇だ……おかしいな。ちょっと前はかなり騒がしかった気がするんだけど……)




赤松『あー! うわー! 入間さんが! 入間さんが怪我して……きゃー!』

入間『傷に響くから騒ぐなドグサレ女!』ギャーギャー



最原「……」

最原(……ありもしない過去の記憶が見える……気がする)

最原(変なの)

ガララッ

百田「おう、終一! 昨日は大変だったな」

最原「あ。百田くん」

百田「昨日茶柱がバラバラにしたエ口本の修繕が終わったから持ってきたぜ」

最原「有難迷惑だよッ!」ガビーンッ!



553:逆転の人 ◆SxyAboWqdc 2018/02/15(木) 20:28:58.64 ID:l3f/0K4P0

最原「……ねえ百田くん。僕たち、何か忘れてない?」

最原「ありえないことだとは思うんだけど、現状に凄まじい違和感があって……」

百田「ん。終一もやっぱ気になるか。まあでも、無理に思い出すなって。傷に障るぞ?」

最原「でも……」

百田「ヘーキだって。そのときがくれば絶対に思い出せるからよ」

最原「……うん」

百田「……気持ちはわかるけどな。さっき茶柱の研究教室の跡地に行ったらよ。モノダムの首があったんだよ」

最原「へ?」

百田「なんかよくわからないけどな。それ見た途端、胸が締め付けられるような気分になってよ」

百田「……久しぶりに見たアルバムの途中のページがゴッソリ抜けてる気分?」

百田「とにかくそういうのだ。やっぱ明らかに忘れてんだよなぁ。変だよな」

最原「……」

百田「思い出せねぇのは辛いよな」

最原「百田くん……」

百田「……」






百田「あと、そこに並べられてる人形を見てるだけで悪寒がする」

最原「だよね!? 僕もそこ本っ当気になってたんだよ!」



554:逆転の人 ◆SxyAboWqdc 2018/02/15(木) 20:36:29.05 ID:l3f/0K4P0

百田「明日になったらちょっとは動けるようになるんだろ? 激しい運動はできねぇだろうから、そんときゃ中庭で日向ぼっこでもするか!」

最原「うん。そうだね。ちょっと外の空気も吸いたいし」

百田「……なんで東条いねえんだろうな」

最原「……感傷?」

百田「違くってよ。いや、そう聞こえても仕方ねぇんだろうけど」

百田「ああ、クソ! 本当におかしいぞ! なんで東条がいねぇんだ!?」

最原「……」



夢野『おらあ! 東条先生のオペレーションの時間じゃあ!』

東条『治療開始よ』




最原「……また幻視……」

最原「僕たちに一体何があったんだろう」



555:逆転の人 ◆SxyAboWqdc 2018/02/15(木) 20:43:34.80 ID:l3f/0K4P0

中庭

王馬「……」

天海「……」

春川「……」

茶柱「……」

茶柱「で。みんな揃って『何かを忘れている気がする』という欠落感を覚えているのはわかりましたけど」

茶柱「これに関して、何か覚えていることはありませんか?」




謎の巨大時計オブジェ『アト3日15時30分54秒』



王馬「うーん。いや、覚えがないね」

王馬「……断言してもいいけど、コレだけは本当に覚えがないよ。病院とは違う。正真正銘、気が付いたらここにあったオブジェクトだ」

春川「……ああ、もう! モヤモヤする! 明らかに変なのに気付くの遅れたし……!」

天海「あと三日……? 何が起こるっていうんすか」

王馬「……」

天海「おや? 王馬くん。何か心当たりでも?」

王馬「いや。なんかカラーリングがキー坊に似てないかなって。このオブジェ」

春川「は? ああ……そういえばどことなく……?」

茶柱「……なんでしょう。すごくイヤな予感がします……」



556:逆転の人 ◆SxyAboWqdc 2018/02/15(木) 20:51:08.86 ID:l3f/0K4P0

新世界プログラム内

白銀「あと三日と十五時間くらいしたらフル武装したキーボくんが覚醒して学園全体を焼き払う手筈になってるんだ」

白銀「……これがあなたたちの、学園生活の果てだよ?」

アンジー「……あ……う……」

アンジー「……」

白銀「もう返事もできない? 無理もないけど」

白銀「つまらないなぁ。そろそろ準備できないものかなぁ」

白銀「……まだだな。もうちょっと時間かかりそう」

アンジー「……?」

白銀「ふふっ。楽しみにしててね。あなたには第二弾があるから。巌窟王さんも味わってないとっておきのおしおきが、さ!」ニコニコ

アンジー「……ろして……ころして……」

白銀「やだ。仲間だもん」

アンジー「……」



563:逆転の人 ◆SxyAboWqdc 2018/02/16(金) 20:12:44.78 ID:WlzV+trI0

隠し部屋

BB『でー? 夢野さん、これからどうしますー?』ピコピコ

夢野「んー? そうじゃのー。やっぱり一晩考えてみたんじゃが、二日という期間には特に意図はないと思うんじゃよなー」

夢野「最低限、邪魔をされないようにとは思っておったんじゃろうが、そういう小細工は既に終わっているようじゃし……」

夢野「今出ていこうが、二日後に出ていこうが白銀にとってはどうでもいいと思うんじゃよなー」ピコピコ

夢野「今となっては明日じゃけど」

ジャガーマン『何してんのー?』

BB&夢野「桃鉄」

ジャガーマン『……なんでそんなところにあんの?』

夢野「薄暗い部屋に放置しっぱなしだと精神に異常をきたしそうだから、という配慮じゃろうなぁ」ピコピコ

BB『このデバイスのスペックなら電話越しでもコントローラーいじくれますし……』ピコピコ

夢野「……BB。今夜出るぞ。準備しておくんじゃ」

BB『あいあいさー』



564:逆転の人 ◆SxyAboWqdc 2018/02/16(金) 20:32:18.26 ID:WlzV+trI0

病室

最原「……百田くん。もしかして今日はずっとここにいるつもり?」

百田「ああ。まあな。テメェだって退屈だろ?」

最原「まあ確かに退屈だけどさ……」

百田「安心しろって。ちゃんとテメェの体力の限界のときには外に出るし、茶柱が来たら席譲ってどっか行くからよ」

最原「妙に気を回すね?」

最原「……変にテンション高くなってない?」

百田「んん。まあな。最近妙に体の調子がいいんだ」

最原「……?」

最原(最近より以前はそうじゃなかった、みたいな口ぶりだな)

百田「クロスワードが載ってる雑誌持ってきたから一緒にやろうぜ」

最原「うん」

百田「お。付録に星座占いがついてやがる。何々?」

百田「……俺の星座の運勢が最悪だ。『信じられないものを見て腰を抜かすかも』だとよ」

最原「幽霊とか?」

百田「やめろよ縁起でもねぇ!」

最原「はは。ごめん。冗談だよ」



566:逆転の人 ◆SxyAboWqdc 2018/02/16(金) 20:40:28.25 ID:WlzV+trI0

寄宿舎

王馬「ふんふんふーん。明日は最原ちゃんの仮退院の日だからねー! 思いっきり歓迎しないと!」

王馬「最原ちゃんの部屋のドアに『赤い絵の具の水風船と裁縫針』で作ったトラップを設置して……よし!」

王馬「これで完成! 悪の総統特製、血みどろホラーボム!」テレレッテレー!

王馬「さぁて。明日を楽しみにして、この仕掛けを作ったことを今すぐ忘れようっと」

王馬「天海ちゃんをからかいに行くかー!」スタスタ



※本当に忘れた



569:逆転の人 ◆SxyAboWqdc 2018/02/16(金) 21:21:46.22 ID:WlzV+trI0

最原サイド:全員『何かを忘れているという欠落感』を覚えているものの『記憶が偽物』という発想には絶対に至らない

巌窟王サイド:おしおきリフレイン中。巌窟王とアンジーのみ『死ぬより辛い目』に遭っている

夢野サイド:脱出を計画中。なお夜に出るのは白銀を警戒してのこと。ジャガーマンの加護が最大限活用できるのは夜なので






学園崩壊まであと三日と十数時間



571:逆転の人 ◆SxyAboWqdc 2018/02/17(土) 20:10:37.09 ID:ep71ibgy0



夢野「……よし! 行くぞ! 行くぞう!」ガタガタ

BB『足が大笑いしてますけど』

夢野「ああん? これはじゃなあ! さっき『蜘蛛駕籠』を聞いたから大笑いしているだけで怯えているわけではないぞ!?」

ジャガーマン『チョイス渋くね?』

BB『ていうか何で落語が置いてあるんですか、おかしいでしょ』

夢野「んあ? いやお主のデバイスに入っておったアーカイブデータの中にあったんじゃが?」

BB『は? あ、ほんとだ! 誰ですか落語を入れたの!』

酒呑童子『……野ざらしとかも入れておいたから暇になったら聞くとええ』

BB『秒で割れた!』

ジャガーマン『チョイス渋くね?』

BB『……話が逸れました! 開けますよ!』



572:逆転の人 ◆SxyAboWqdc 2018/02/17(土) 20:22:10.89 ID:ep71ibgy0

ジャガーマン『ふっふっふー。我がジャガーの加護を受けるがいい!』ボンッ

夢野「ごふっ!? な、なんじゃ? 煙幕!?」

BB『にしか見えないでしょうが、あなたの周りを情報撹乱の結界で覆っています』

BB『夜の間に限定すれば、余程勘が鋭くない限り、誰にも気づかれることなく行動できます。監視カメラの類もほぼ無効化です!』

ジャガーマン『急ごしらえだからちょこーっと欠点もあるけどにゃん。何かを落としたりすると高確率でバレたり』

ジャガーマン『まあバレたとしても誰なのかは判別できないでしょうけど。黒い影に覆われたUMAが現れたくらいにしか思われないはずだにゃん』

夢野「そんなドジっ子キャラでもないし、安心せい」

ジャガーマン『流血とかもダメよ?』

夢野「誰にも見つからなければそもそも出血もクソもあるまい」

ジャガーマン『ま、それもそうだにゃん!』

ジャガーマン『あ。見えなくなっているだけだからくれぐれもトラップの類には気を付けて!』

夢野「外の様子を見て大丈夫そうだったらすぐに結界は解除するんじゃぞ。余計なことしてドツボにハマるのはこりごりじゃからな!」

夢野「ひとまず最原のところへと向かうか。私室におるかのー」

BB『じゃ、オープンザドアー!』


ガシャンッ!



576:逆転の人 ◆SxyAboWqdc 2018/02/18(日) 17:54:42.94 ID:YfSsgYOt0

寄宿舎周辺

王馬「……じゃあそろそろ、ここで決着を付けちゃおうか」ゴゴゴゴゴゴゴ

天海「王馬くん……!」ドドドドドドド

春川「……何あれ?」

茶柱「あ。春川さん。いや、王馬さんがついさっき天海さんに対してゲームを申し込んでですね?」

春川「ゲーム?」

茶柱「きっかけはいつも通りのくだらないものでしたけどね」

王馬「間違いないよ。キミが首謀者なんだろう、天海ちゃん!」

天海「くっ……冗談でも言っていいことと悪いことが……!」

春川「あ。うん。本当くだらないね……」

茶柱「天海さんは見た目がチャラいだけでひたすら無害ですからねー。ここ最近で気付きましたけど」

茶柱「なんというか……良く言って『毒にも薬にもならない』というか……」

春川「大分悪くなってるよ。素直に『役立たず』と言った方がむしろ角が立たないんじゃない?」

天海「うおおおおおお! 俺の味方がどこにもいないーーーッ!」ガビーンッ!



577:逆転の人 ◆SxyAboWqdc 2018/02/18(日) 18:09:06.13 ID:YfSsgYOt0

王馬「ルールは簡単! 今から三回コイントスをするから、表か裏かを天海ちゃんが当ててよ」

王馬「正解すれば天海ちゃんの勝ち。ハズレは俺の勝ち。何らかの理由で俺がコイントスを行わなくなったら天海ちゃんの完全勝利」

天海「イカサマは?」

王馬「俺がイカサマしていたことが発覚した場合も天海ちゃんの完全勝利でいいよ!」

王馬「ま! 俺はそんなセコいマネは絶対にしないけどね!」

春川(嘘だ)

茶柱(嘘ですね)

天海「……嘘っすよね?」

王馬「当然!」

王馬「天海ちゃん。この三回勝負で俺が勝ったら……」

王馬「俺のことはいい! みんなのことを外の世界に出してくれよ! お願いだから!」

天海「いやそんなこと言われましても……」

王馬「じゃあジュースおごって」ケロリ

天海「そのくらいなら……」

茶柱「軽い……」

王馬「じゃあ行くぜ! まず一回目!」キィィィン!





バシャッ



春川「ん?」

茶柱「どうかしました? 春川さん」

春川「今、寄宿舎の方から……いや、なんでもない」



578:逆転の人 ◆SxyAboWqdc 2018/02/18(日) 18:14:08.37 ID:YfSsgYOt0

王馬「一回目は俺の勝ち!」

天海「くっ。やっぱりあからさまにイカサマをしている……!」

春川「……」

春川「!」

ガシッ

茶柱「ん? 春川さん? なんで転子の手を掴んでるんです?」

春川「逃げよう」

茶柱「はい?」

王馬「じゃあ行くぜ! 二回目のコイントス!」キィィィンッ

天海「今度も表っす!」

茶柱「あの……二人とも置いてけぼりですけどいいんですか? ていうか何から逃げてるので?」スタスタ

春川「よくわからないもの」スタスタ

茶柱「?」

春川「死にはしないと思うから、あの二人には接触してもらおうかな。具体的に敵なのか味方なのか知りたいし」



579:逆転の人 ◆SxyAboWqdc 2018/02/18(日) 18:33:09.29 ID:YfSsgYOt0

王馬「さあ。今度は……どうなる!?」

王馬「……あ!」

天海「あ?」

王馬「天海ちゃんの勝ちでいいや! 俺ちょっと用事ができちゃった!」ビュンッ

天海「あ。ちょっと!」

王馬「死なないように気を付けてねー!」

天海「……はい? 何を言って」


ポタリ


天海「ん?」


ポタリ

「うま……」

ポタリ

「おうま……」

ポタリ

「おうまぁぁぁぁぁぁ……!」


天海「……えっ?」



580:逆転の人 ◆SxyAboWqdc 2018/02/18(日) 18:40:21.15 ID:YfSsgYOt0

数刻前

王馬「じゃあ次はどのゲームで遊ぶー?」

天海「もう遊びとか言っちゃってるじゃないっすか。完全に俺のこと疑ってるっていうの方便っすよね……」

王馬「えー? そんなことないよー! 天海ちゃんが絶対に首謀者だってー!」

王馬「だってそうじゃないとマジで天海ちゃんの存在意義が……ううっ。泣けてきた」

天海「歪んだ同情はやめてほしいっす!」

夢野「……おお。おー……」

夢野「すごいのう! すごいのう! ここまで近づいてもバレないんじゃのう!」

BB『曲がりなりにも神の加護ですからねー』

ジャガーマン『ふむん。割と普段通りにみんな過ごしているようだにゃん』

ジャガーマン『……いや待てよ。かなりの人数が欠けているのに、なんでいつも通りに過ごせているんだろう』

ジャガーマン『先生は訝しんだ』

夢野「うーむ……一応、もうちょい結界は維持じゃな。接触は最低限。最原のところに急ぐか」

夢野「お? コイツらも寄宿舎の前に行くようじゃの……同行する形になるか」スタスタ

王馬「にしし……このイカサマコインでジュースおごらせてやろうっと」

夢野「あくどいのう」



581:逆転の人 ◆SxyAboWqdc 2018/02/18(日) 18:49:15.57 ID:YfSsgYOt0

寄宿舎前

王馬「春川ちゃん! 俺と天海ちゃんの最終決戦を見届けてくれ!」

春川「……はあ」

夢野「めっちゃイヤそうじゃな」

春川「……百田のところ行きたい……」

夢野「ド至近距離だと色々駄々流しなのが丸聞こえじゃあ……」

春川「!」

夢野「む? こっちを見た?」

春川「……??」キョロキョロ

BB『微妙に気づいているようですが……まあ生身の人間じゃあこの程度でしょうね』

ジャガーマン『逆にここまで気付けるのなら流石は超高校級の暗殺者、と言ったところだにゃー』

ジャガーマン『弟子にしたい』

夢野「……寒気がする。やめとくれい」

夢野「さてと。じゃあ最原の部屋に向かうか」スタスタ



582:逆転の人 ◆SxyAboWqdc 2018/02/18(日) 18:57:05.69 ID:YfSsgYOt0

寄宿舎の中

夢野「最原ー! さーいはらー!」ピンポンピンポーンッ

夢野「……留守か? 気配がないのう」ガチャリンコッ

夢野「あれ。ドアは開いとる。不用心じゃのう」バツンッ


バシャアッ!


夢野「ぶへああっ!?」

BB『夢野さん!? どうしました?』

夢野「うごおおお! 何か液状のものを頭からぶっかけられたような……!?」

夢野「なんじゃあこりゃあ! 体中が真っ赤じゃぞ!」

BB『おや。どうやら扉の上方に水風船が仕掛けられていたようですね。ドアを一定以上の角度で開けると裁縫針が刺さって中身が飛び散る仕掛けです』

夢野「絵具かコレ……うええ。最悪じゃあ。一体誰がこんなイタズラを……!」

夢野「む。ドアの下の方に何か……」



カード『バカがかかるー! by王馬』



夢野「王馬ァーーーッ!」ダッ



583:逆転の人 ◆SxyAboWqdc 2018/02/18(日) 19:03:40.47 ID:YfSsgYOt0

現在

??「おう……まあ……!」ポタリッ

天海「ぎゃあああああああああああああ!?」ガビーンッ





遠くの茂み

茶柱「な、なんですかアレ! 何か黒い影のようなものが王馬さんのことを呼んでいるような……!?」

春川「わからない。わからないけど、手負いみたいだね。赤い液体が垂れてる」

春川「置いてきたの失敗だったかな。ダメかもアレ。天海死ぬかな?」

茶柱「そんな他人事みたいに!」ガビーンッ

王馬「あー。よかった。天海ちゃんが鈍感で」

茶柱「あなたはいつの間にこっちへ!?」

春川「相変わらずの逃げ足だね」

王馬「あ。天海ちゃんもやっと逃げた……あ、でも足をもつれさせて転んだ」

王馬「……」

王馬「し、死んだ……!」

春川「じゃなくて、どこかに頭ぶつけて気絶しただけだよ。多分」

茶柱「……一体、この学園に何が起こってるというのですか……!?」

春川「む。あれ。あのバケモノ……」

春川「病院の方に向かってない?」

茶柱「……え」

王馬「……最原ちゃんが危ないかもね」

茶柱「!」



585:逆転の人 ◆SxyAboWqdc 2018/02/18(日) 20:33:15.33 ID:YfSsgYOt0

夢野「ちいっ! 王馬は逃げたか! 逃げ足の速いヤツ!」

BB『ん……? あれ。ていうかみんな散り散りになっているような。天海さんに至っては悲鳴とか上げてませんでした?』

夢野「んあ? そういえば……」

ジャガーマン『にゃんでかなー!』

BB『なんででしょう?』

夢野「まあよい! ここにいないのであれば次じゃ! 何か怪我をして病院にいるかもしれん。行ってみるぞ!」

BB『おー!』

ポタリッ ポタリッ

ジャガーマン(あ。そっか。あの血のりのせいで存在の隠蔽が不完全になっちゃったんだにゃ)

ジャガーマン(……ま、教えるの後でいいか)



586:逆転の人 ◆SxyAboWqdc 2018/02/18(日) 20:53:48.90 ID:YfSsgYOt0

病室

百田「……」オリオリ

最原「……」オリオリ

百田「おっし! これが記念すべき百羽目の折り鶴だぜ!」シャキーンッ

最原「なんで自分の千羽鶴を折ってるんだろう、僕たち」

百田「暇すぎて恐ろしく生産性のないことしてんなー、俺たち」

百田「カジノとか行けば景品に携帯ゲーム機とか置いてあったりすんのかな」

最原「絶対にやめようね。百田くんがギャンブルに異常に弱いってことは春川さんから聞いてるから」

百田「は、ハルマキ……!?」ガビーンッ



ズルッ ポタッ


百田「……?」

百田「なんだ? 廊下から変な気配がするような」

最原「え?」

百田「誰かいんのかー?」スタスタ


ガララッ


??「……いはら……さい……はら……?」キョロキョロ

百田「……」


バタムッ


百田「終一。塩とか持ってねぇか?」

最原「ないけど……」



588:逆転の人 ◆SxyAboWqdc 2018/02/18(日) 21:00:11.72 ID:YfSsgYOt0

百田「オバケなんていないさー!」

最原「劇団四季ばりの肺活量で急に何言ってんの?」

百田「しゅ、終一。俺は多分、何か忘れてる。ていうか俺、多分だけど『二度と夜の病院なんかに近づくもんかよ』と思ってたはずなんだ!」

百田「なんかすげぇ恐ろしい目にあったっていうかよ……!」

ガタンッ

ガララッ……

??「ここ……か……?」


バタムッ


百田「は、入ってくんじゃねええええええええ!」ギリリッ

??「……うおお、お……!」ギリリッ

最原「百田くん? 外に誰かいるの?」

百田「ははははは! いるわけねえだろ! あはははははは!」

??「けろ……開け……ろ……!」ギリリッ

百田「おし! 大丈夫だ! 力そのものはそんな強くねぇ! この分ならドアを押さえつけているだけで大丈――!」


グアンッ


百田「何ィィィィィ!?」



589:逆転の人 ◆SxyAboWqdc 2018/02/18(日) 21:04:54.83 ID:YfSsgYOt0

病室の外

夢野「なんか知らんが、百田が悪ふざけをしているせいでドアが開かん! 最原がいたの一瞬見えたのに!」

BB『うーん、どうしましょうか』

ジャガーマン『ジャガーの力を全開だ! ちょっとだけ怪力を貸してあげちゃう!』


グアンッ


夢野「あ。ドアが軽くなった」

百田「何ィィィィィ!?」

夢野「おお。百田は元気そうじゃの」

最原「……!?」

夢野「ふむ。最原は怪我をしておるのか? 大分酷い怪我みたいじゃの」

百田「あわ……あわわわわわ……」

百田「ハッ! ビビッている場合じゃねぇ!」

百田「ああっ! アレはなんだ!?」ビシィッ

夢野「む? ウチの後ろに何かあるのか?」

百田「……」ガシッ

最原「うわっ」


ガララッ


百田「飛び降りるぞ終一ーーーッ!」

最原「ここ二階なんだけどーーーッ!?」ガビーンッ


ドスンッ


夢野「……んあ? あれ。二人とも消えとる!?」ガビーンッ



590:逆転の人 ◆SxyAboWqdc 2018/02/18(日) 21:12:34.14 ID:YfSsgYOt0

春川「やっぱり天海は普通に気絶してるだけだね。何やってるんだか」

王馬「あららー」

茶柱「天海さんたちのことは頼みましたよ! 転子は病院に行ってきます!」

百田「うおおおおおおおお! 痛ぇぇぇぇぇ!」

茶柱「……今の、百田さんの声!?」

春川「……」

春川「王馬。ジュースおごってあげるから天海のことお願いね」

王馬「よしきた!」

春川「行こう。茶柱」

茶柱「了解です!」ダッ




病院周辺

百田「でも割と大丈夫だ。大怪我ってほどでもねえ!」

最原「も、百田くん! 大丈夫?」

百田「ああ! このまま寄宿舎に行くぞ! あれはやべぇ! 見るからに常識の外からやってきた何かだ!」





病室の中

夢野「またバカなことやっておるのう、百田は……」

BB『どうします? 夢野さんも飛び降ります?』

夢野「普通に出入り口の方に向かうに決まっておるじゃろ……」スタスタ

ジャガーマン(……流石にこのままはダメだよにゃー。怒られちゃう)

ジャガーマン(そうだ! 病院の出入り口のあたりで合流したら、夢野ちゃんの加護を一旦解こう!)

ジャガーマン(感動の再開になるだろにゃー)ワクワク



593:逆転の人 ◆SxyAboWqdc 2018/02/19(月) 19:06:53.16 ID:mkl4D/k60

病院ロビー

茶柱「地面に点々と赤い液体が……あのバケモノは間違いなくこっちに来ていますね!」

春川「百田は……多分大丈夫だろうけど……いや大丈夫じゃないだろうな」

茶柱「どっちですか?」

春川「あのバケモノ単体は脅威でもなんでもないと思うんだけど……百田ああいうの凄い苦手だから」

茶柱「ああ……」

ポタリッ

春川「来た」

茶柱「!」

??「……?」

茶柱「う! 至近距離で見るとかなり不気味ですね。遠近感が狂うというか現実感がゼロというか……!」

春川(……コイツ、こっちのことを気にしてはいるみたいだけど……)

??「……?」

春川(妙に親し気な視線を感じる。向こうは私たちのことを知ってるのかな?)



ブワッ


茶柱「ひゃっ!? 風!?」

春川「……あ。影が晴れてく。やっと擬態を解いて……?」

春川「!?」

茶柱「……ひっ……!?」



594:逆転の人 ◆SxyAboWqdc 2018/02/19(月) 19:12:10.72 ID:mkl4D/k60

百田「おっし! このまま寄宿舎まで逃げるぞ! 最短距離で走るとどうしても病院の出入り口の前を通っちまうのが心配だが……!」

最原「ねえ。何がいたの?」

百田「オバケではない何かだ! オバケなんかじゃねぇ! アレは! 断じて!」

最原(まるで要領を得ない)

茶柱「きゃあああああああああああああ!」

最原「!」

百田「今の……茶柱の声か?」

最原「病院の方だよ! 多分、百田くんの見た何かと鉢合わせしたんだ!」

百田「ち、ちくしょう! マジかよ!」

百田「助けないわけには……でも終一を置いて行くのも……」オロオロ

最原「一緒に行こう!」

百田「……ははっ! そうこなくっちゃな! 全速力だからしっかり背中から落ちないよう捕まってろよ!」ダッ



595:逆転の人 ◆SxyAboWqdc 2018/02/19(月) 19:17:42.36 ID:mkl4D/k60

病院のロビー

春川「……」オロオロ

最原「あ。あれ。あそこにいるの春川さんじゃ……」

百田「お。本当だ。ハルマキ! こんなところで何やってんだよ! あぶねーぞ!」

春川「百田……茶柱がその、気絶してて……」

春川「あとそれだけじゃなくって……」

百田「あ? テメェにしては歯切れが悪ィな。一体どうし……」

夢野「うおおおおおお! 転子ー! しっかりするんじゃ転子ーーー!」

百田「!?」ガビーンッ

最原「あ。夢野さん。久しぶり」

夢野「お。最原か。いや久しぶりってほどではないじゃろ。せいぜい数日ぶりじゃし」

最原「ああ、うん。そうだったね」

百田「!?!?」ガビーンッ

百田「……」オロオロ

春川「そうそう。そんな感じになるよね?」



596:逆転の人 ◆SxyAboWqdc 2018/02/19(月) 19:23:08.24 ID:mkl4D/k60

最原「……?」

最原「……え? 夢野さん?」

夢野「そうじゃぞ?」

春川「……夢野は死んだよね? ていうか、その格好……」

夢野「ウチの格好? ああ、これは……」

百田「かなり鮮明に幽霊見ちまった……終一を背負ってなければこの場でぶっ倒れてぇ……」ズーン

夢野「……あい?」

夢野「ていうかウチは死んでおらんぞ! それはプログラム世界の中での話じゃろ!」

夢野「そんなんどうでもいいからさっさと転子を介抱せい!」

百田「あ、ああ。うん? ハルマキ?」

春川「私に振らないでよ……なんかもう関わりたくない。すぐに寄宿舎に帰って寝たい」

百田「そうだ。これ多分夢だろ。夢じゃなかったとしても夢だったものとして処理してぇ……」

最原(……)

最原(何か……何か思い出せそうな気が……!)



597:逆転の人 ◆SxyAboWqdc 2018/02/19(月) 19:39:15.02 ID:mkl4D/k60

夢野「というかなんでこんな意味不明なタイミングで加護を解除したんじゃ!」

BB『知りませんよ! ジャガーマンさんに文句言ってください!』

最原「!」

最原「その声……聞いたことがある……名前も知ってる……!」

ジャガーマン『おや? 最原くんの様子が……!』

最原「……ぐっ!」


『思い出せ。お前には武器をやっただろう?』


最原「……誰の……声?」

最原「僕は何を忘れて……ぐううう……!」

百田「終一!?」

BB『おや……どうやら話が見えて来たようです。この場にいる全員、プログラム世界の中で記憶をいじくられているようですね』

夢野「白銀が言っていたというアレか? いや記憶を弄るって、どうやって……」

BB『手段に関しては後回し。重要なのはその記憶を弄られていた者の中でたった一人、最原さんだけが微妙に無事ということです』

BB『これは……なにかのきっかけで一気に記憶を取りもどすかもしれません!』

BB『キーワードをぶつければきっと……!』

夢野「キーワード?」

BB『候補はこちらで用意します!』

夢野「わかった! ぶつけるのはウチに任せるがよい!」

BB『了解! 候補検索……確定!』

夢野「目覚めろ最原ァーーーッ!」ブンッ

BB『え? ちょ、ぶつけるって物理的な意味じゃ、きゃーーー!』

最原「え?」



ビュンッ


BB『ええい! ままよ! このままキーワードを叩き込んでやります!』

BB『よろしくお願いしまーーーーっす!』


ガツンッ


最原「がっ――!」

百田「携帯が終一の額にーーーッ!」ガビーンッ!



巌窟王 カルデア 虎よ、煌々と燃え盛れ 待て、しかして希望せよ
第一の事件 第二の事件 第三の事件 第四の事件
忘却補正 忘却補正 忘却補正 忘却補正



最原(そう、だ。僕は……!)

最原(今まで本物だと思い込んでいた学園生活は!)



598:逆転の人 ◆SxyAboWqdc 2018/02/19(月) 19:50:33.87 ID:mkl4D/k60

巌窟王『……東京ではないな! クハハハハハハ……』

巌窟王『間違えた!』ガビーンッ!

最原『何を!?』ガビビーンッ!




最原「そうだ。彼の名前は――モンテ・クリスト!」



BREAK!



605:逆転の人 ◆SxyAboWqdc 2018/02/20(火) 20:22:52.76 ID:7teTlBYG0

最原「……」

夢野「おお。思い出したか。よかったよかった。これで一件落着――」

最原「……」ブワッ

夢野「!?」ガビーンッ

百田「終一? 泣いてるのか?」

最原「ぐっ……うえ……!」グスグス

夢野「ええっ!? あれぇ!? 人々を笑顔にする魔法使いであるウチがよりにもよって人を泣かせてしまった!? 嘘じゃろ!?」オロオロ

夢野「あわわ。痛かったか? ウチが物理的にキーワードを叩き込んだせいか! ウチのせいか!? ウチのせいじゃな!?」

最原「違うんだ……! 僕は、なんで、こんな大事なことを……!」ボロボロ

最原「うわああああああ……!」

百田「……まるで話が見えねぇ。夢野。テメェ、間違いなく死んだはずだろ。なんでここにいんだ?」

夢野「……わからんヤツじゃのう。だから死んでおらんって」

春川「あのさ。こう言っちゃなんだけど、その姿で言われても説得力が……」

春川「……」クンクン

春川「……血じゃない。絵具だ、コレ」

夢野「やっと気付いたか!」



606:逆転の人 ◆SxyAboWqdc 2018/02/20(火) 20:29:05.24 ID:7teTlBYG0

春川「だとしても、私たちの目の前で夢野は死んでた。私はそれを覚えてる」

春川「だからこうやってアンタを目の前にしても『夢野の幽霊が目の前にいる』って話の方が遥かに現実味があるんだよ」

春川「いや……どっちもどっちなんだけど、それでも『夢野が生きてる』って話よりは遥かに信じられる」

夢野「まあいいわ。そんなことより大事なことがある。最原が思い出せたのならお主たちもいずれ思い出すじゃろうし」

春川「……?」

百田「全然ピンと来ねぇ」

百田「……でも、そのデバイスに覚えはある。なんとなく『外と繋がってるわけじゃない』ってことだけはわかるぜ」

夢野「お」

春川「……そうだ。夢野。その携帯、なに?」

BB『んー。なんなんでしょう、コレ。なんか記憶の改竄に個人差があるというか……』

BB『後で天海さんや王馬さんにも問い合わせる必要がありそうですね』

最原「……百田くんが微妙に覚えていることに関して心当たりはないけど、僕が覚えていることに関しては一つだけ……」

BB『それは?』

最原「アンジーさんに譲ってもらったことがある。思い出したよ」

最原「あれはアマデウス斎藤と初めて邂逅した直後のことだったんだけど……」



607:逆転の人 ◆SxyAboWqdc 2018/02/20(火) 20:34:46.76 ID:7teTlBYG0

第二章でのこと~最原の証言~

最原「アマデウス斎藤と名乗る天海くんに謎のテンションでぶん殴られて気絶した後、僕とアンジーさんは巌窟王さんの記憶を追体験したんだ」

BB『は? なんと?』

最原「金属バットで思いっきり殴られたんだって」





アマデウス斎藤『と、いうわけで。お嬢さん、ちょっとこっちにおいでなさいっす」』

アンジー『はーい!』

アマデウス斎藤『グンナイッ!』ガンッ

アンジー『ぐへあ』バタリッ

最原『アンジーさんが金属バットで殴られて気絶したーーーッ!?』ガビーンッ!

巌窟王『貴様……!』

アマデウス斎藤『こっちもグンナイッ!』ガンッ

巌窟王『』バタリッ

最原『巌窟王さんもーーーッ!』

アマデウス斎藤『ついでにグンナイッ!』ガンッ!

最原『何故ぶっ』バタリッ





最原「今から考えてみると僕まで殴られた理由はほとんど『その場のノリ』以上の何物でもなかったな」

BB『へ、へー……』



608:逆転の人 ◆SxyAboWqdc 2018/02/20(火) 20:40:49.02 ID:7teTlBYG0

最原「ともかく、その場で気絶した僕はアンジーさんの夢を共感覚か何かで見たんだろうね」

最原「気が付いたときには石造りの監獄でさ」

最原「そこで僕たちは……巌窟王さんと戦った。まあ一方的に追いかけ回されてただけだったけど」

最原「見事なまでに、こっちに対抗手段がなかったからさ……」

BB『それ、よく無事に目覚めることができましたね?』

最原「まあ、助っ人がいたからね……」

BB『助っ人?』

最原「名前はわからない。でも令呪を持った黒い髪の少年だった」

BB『!』

BB『その令呪って、こんな形じゃありませんでした!?』

夢野「お? 最原。画面に何か表示されたぞ?」

最原「……」

最原「ああ。間違いない! コレだよ!」

BB『や、やっぱり……!? 変なところで顔が広いですね、彼も』

BB『いや。それとも巌窟王さんの記憶の中にいる彼の幻影であって、本人ではないのでしょうか……』

最原「で。その戦利品としてアンジーさんは巌窟王さんから忘却補正のスキルを貰った。元はそれが目当てだったんだけど……」

最原「そこで僕にとって予想外のことが起きた」



609:逆転の人 ◆SxyAboWqdc 2018/02/20(火) 20:46:40.75 ID:7teTlBYG0

アンジー『はい。終一! アンジー、特にいらないからコレあげるよー!』

最原『えっ!? ちょっと待って! これのためにわざわざこんな危険な目に遭ったんだよね!?』

アンジー『いいのいいの! どうせアンジーが持ってても、あんまり役に立てられそうにないしー!』

アンジー『それにさ……うん。格好よかったから』

最原『え』

アンジー『アンジーのこと、守ってくれてありがとうね?』

アンジー『これはエンゲージリングの代わり』

最原『そ、そっか。そこまで言うのなら……』

最原『……ん? 待って。今、何の代わりだって?』





BB『忘却補正の所有権を譲ってもらったんですか!?』ガビーンッ

最原「今思い出したよ! もう! よく考えたらあの時点で、だったんだ!」

最原「そういえば東条さんの事件が終わった後、アンジーさんこんなことも言ってた! 結婚してって言われた後!」





第三章中



最原『なんで僕なの? 僕なんかしたっけ?』

アンジー『学級裁判で神様とは違う答えを出した』

アンジー『それ以前にもあったけど、このときピンと来たんだよー!』

アンジー『二人が揃えば無敵だってさー!』キラキラキラ




最原「それ以前にもって、このときのことだったのか! 心当たりがなくって当たり前だよ! 思い出せてなかったんだから!」



610:逆転の人 ◆SxyAboWqdc 2018/02/20(火) 20:53:53.07 ID:7teTlBYG0

最原「でも、なんでこのタイミングで忘却補正の機能が戻ったんだろう」

BB『戻ったというよりは……ショックのせいで起動した感じですね』

BB『忘れられないという能力は人間の脳には過ぎた能力であることは間違いないですし』

BB『今の今までは防衛本能で起動してなかっただけです。これからはもう切れないですよ』

BB『ま。巌窟王さんからの借り物である以上、巌窟王さんが死んだら消えますけど』

夢野「そうじゃ! 巌窟王! 今、どうしておるか覚えておらんか!?」

最原「それは……」

最原「……」

最原「……」コテンッ

夢野「む? 最原」

最原「ぐー」スヤァ

夢野「寝とるーーーッ!?」ガビーンッ

百田「……話の途中でかよ。すげぇなコイツ」

BB『ああー……大怪我している状態で脳を酷使させすぎましたね。当然です』

春川「……まるで事情が見えてこないけど……夢野。説明してくれるんだよね? 一から」

夢野「もちろんじゃ。最原ほど上手くできる自信はないが……」

夢野「転子のことも心配じゃし、全員のことを片付けてからでもよかろう?」

春川「当然」

百田「おし! じゃあ全部片づけるぜ!」



612:逆転の人 ◆SxyAboWqdc 2018/02/21(水) 19:14:58.35 ID:CKn2dedw0

数分後

ジャガーマン『The show must go on(ショーは続けなければならない)』

夢野「え? なんて?」

ジャガーマン『英語の有名な諺。意味はおおよそ『一度やったことは最後までやり遂げなさい』って感じ』

夢野「なんでそれ今言ったんじゃ」

ジャガーマン『いやジャガーマンもたまには本職の英語教師っぽいことしたくって……』

夢野「先生だったのか!? しかも担当が英語!?」ガビーンッ

BB『し、知らなかった……と言い切れないエッセンスを感じます……なんででしょう』

百田「ひとまず終一は元の病室に放り込んでおいたぜ」

春川「茶柱もね」

夢野「同衾?」

春川「そんなわけないでしょ。普通に別々のベッドだよ」

王馬「みんなー! 起きた天海ちゃんを連れてきたよー! 元気ー!?」タッタッタッ

天海「無様晒したっす! 大丈夫っすか!?」

夢野「おお! 天海! 久しぶりじゃな!」

天海「ぎゃあああああああああ!?」ガビーンッ

百田「気持ちはわかるけどよ」



613:逆転の人 ◆SxyAboWqdc 2018/02/21(水) 19:23:35.79 ID:CKn2dedw0

夢野「ひとまず直近の危機はないようじゃから加護はもう使わないでよさそうじゃなぁ?」

夢野「……なんじゃろう。拍子抜けすぎるぞ。白銀はどこに……?」

春川「白銀までいるの?」

夢野「……認識がズレすぎてて話のすり合わせに時間がかかりそうじゃなぁ?」

BB『ひとまずじっくり! ゆーっくりと説明しましょう!』





数時間後



夢野「――というわけで、白銀の言を丸っと額面通り受けるならの話じゃが、お主たちは記憶を弄られていたようじゃな?」

夢野「ウチはこの通りピンピンしとるぞ?」

春川「……?」

百田「……?」

天海「……?」

王馬「あらら全員、脳のキャパ越えちゃったみたいだね。あんまりな真実に声も出ないみたい」

夢野「ここまで言ってもまだ思い出せんか?」

夢野「……というか、むしろどういうふうに記憶しているのか逆に興味が湧いてきたんじゃが……」

百田「見ての通りだっつの。いなくなったヤツは『全員死んだ』んだ。俺たちにとってはそれが現実で……」

百田「そんな都合のいい事実をいきなりまくし立てられても、何が何やら……」

夢野「弱気じゃのう。お主らしくもない」

百田「……」

百田「あっ。それもそうだな。うん、そうだ。話は簡単じゃねぇか」

春川「え?」

百田「夢野の話を信じるぜ!」

春川「は!?」ガビーンッ!



614:逆転の人 ◆SxyAboWqdc 2018/02/21(水) 19:31:00.83 ID:CKn2dedw0

百田「だってよ! コイツの言う通りなら、俺たちを襲っていた害意はほとんど虚飾で構成されてたことになる!」

百田「夢野の話が真実なら俺たちにとって都合がいい! それでいいじゃねぇか!」

春川「そんな簡単な話じゃないでしょ。どう考えても」

夢野「春川の意図するところとは別じゃろうが、簡単な話ではないというところのみは本当じゃろうな」

BB『ですねえ。結局、消えた人たちが全員生きている可能性があるというだけの話ですし』

BB『さて。新世界プログラムの中に囚われたままの人たちはどうなってるのでしょう』

百田「どうなってるも何も、いなかったと言うしかねぇよな」

王馬「そだねー。最近俺も、何回かあの部屋に入ったけど特に何も無かったし」

天海「え? なんのために行ったんすか?」

王馬「遊んでたんだよ。あれ別にVRだけが能の全てじゃないからさ。ゲームとして他にも使えるんだよ?」

天海「へー」

夢野「……?」

夢野「赤松たちはいなかったのか?」

王馬「誰もいなかったよ。いたとしたら流石に気づくって」

夢野「むう……ここから先は最原が起きないと何もわからんのう」



615:逆転の人 ◆SxyAboWqdc 2018/02/21(水) 19:38:46.62 ID:CKn2dedw0

天海「それはそれとして……なんか親しみがありすぎてまったく違和感を覚えてなかったんすけど」

天海「その通信機器はどこに繋がってるんすか?」

BB『……あ。天海さん見てて思い出した! 天海さん! アレ、どうなってます!? 紛失されてると困るんですけど!』

天海「あれ?」

BB『アマデウスさんの仮面ですよ!』

天海「!」

天海「……聞こえる……」

BB『え』

天海「俺の内から湧き上がる熱い声が……聞こえる……」

夢野「え。急にどうしたんじゃ天海。怖……」

天海「……そうだ。俺は知っている……その名前を!」

天海「俺の内に潜む熱い魂を!」




――叫べ。

――その衝動のままに。その仮面がきっとキミを強くしてくれる。

――さあ。迷いを捨てろ! そして叫ぶのだ!

――変身と!


天海「――変身!」


ピカッ ドカァァァァァンッ



アマデウス斎藤「思い出した……」

夢野「何を!?」ガビーンッ



616:逆転の人 ◆SxyAboWqdc 2018/02/21(水) 19:43:01.71 ID:CKn2dedw0

百田「な、なんてこった……天海の正体は『超高校級の仮面ヒーロー』だったのか!」ガーンッ

春川「衝撃の真実だね」

王馬「だっせー!」ゲラゲラ!

アマデウス斎藤「思い出したっす……すべてを!」

夢野「ええーっ!? BB! これどういう理屈なんじゃ!?」

BB『あ。これは断言できます。考えるだけ無駄なイベントですね』

BB『思い出したと言うのならラッキー、くらいに捉えておきましょう。最原さんとは完全に別口です』

夢野「ええーっ!?」ガーンッ!






アマデウス斎藤「俺は俺だあああああああああああああ!」ドカァァァァァンッ!



621:逆転の人 ◆SxyAboWqdc 2018/02/22(木) 20:13:22.83 ID:sUJGpPAr0

アマデウス斎藤「夢野さん! 生きていたんすね! 記憶をリメンバーした俺だからこそわかるひとしおの感動!」

夢野「天海。一つ教えておこう。そのテンションのままウチに近づいたら全力でパンチするぞ」

夢野「……春川が」

春川「なんで私……確かにテンションがウザいけどさ」

カチャリ

天海「よいしょ」

百田「戻っちまった」

春川「残念そうにするのやめて」

天海「……この学園生活で起こったことをすべて思い出したのはいいんすけど、やっぱりわからないことはありまくりっすね」

天海「中庭の時計とか」

天海(あとすべてって言った割には前回の学園生活のことは未だに思い出せないっす)

夢野「む? そこら辺はまだ聞いておらんの」

天海「ひとまず明日にしないっすか? 夜っすよ?」

夢野「そうじゃのう。まあ深夜にあーだこーだ言っても仕方あるまい。ひとまず寝て起きてから考えるぞ」

百田「……王馬はどこ行った?」

王馬「お? 呼んだー?」スタスタ

春川「どこ行ってたの?」

王馬「最原ちゃんと茶柱ちゃんにお見舞いサービスしてきたー」ヘラヘラ

夢野「余計なことしておらんじゃろうな?」

王馬「してないよ」ケロリ

百田「……」

王馬「じゃ、ひとまず寝ようか! 今日のところは解散!」ヘラヘラ

春川(不安……)



622:逆転の人 ◆SxyAboWqdc 2018/02/22(木) 20:19:23.96 ID:sUJGpPAr0

天海の部屋

天海「ふう……アマデウスの仮面……キミには助けられてばっかりっすね」

天海「さてと。明日に備えて寝ないとっすね。露骨にタイムリミットもあるみたいだし、一秒だって無駄にできないっす!」

天海「ベッドメイクしっかりしてから寝ないと……」サッサッ

白銀「衣服用のブラシがあるけど、使う? 毛布の毛玉とか取れると思うけど」

天海「ははは。流石にそこまでは……」

天海「は?」




パンッ



白銀「こんばんは。そしておやすみなさい」

白銀「悪いけど、天海くんは私が貰っていくよ。みんな」



623:逆転の人 ◆SxyAboWqdc 2018/02/22(木) 20:29:32.14 ID:sUJGpPAr0

翌朝

最原「……ハッ! 寝てた?」

最原(大丈夫だ。記憶はキチンとしている。前まであった欠落感も消えているし)

最原(問題ない。万事順調だ。疲れが祟って電池が切れたみたいに寝たことだけが心配だけど)

最原「……あれ。体が重いな……一体なんで……」

茶柱「すぴー」スヤァ

最原「ああ。茶柱さんが覆いかぶさってただけか。ああ、安心し――」

最原「」

最原(……危ない。悍ましいほどのリアルな命の危機に、悲鳴を上げるところだった……!)

茶柱「すう……すぴ……」スヤァ

最原「……」

最原(巌窟王さん。ごめん。どうやら僕、あなたたちを助ける前に終わりそうだ……人生が)ズーン



624:逆転の人 ◆SxyAboWqdc 2018/02/22(木) 20:40:04.86 ID:sUJGpPAr0

最原(ひとまず予定通り傷は塞がっているようだし、ちょっとくらいアクロバットなことをしても問題はないだろう。死にはしない)

最原「……逃げ切れるだろうか……いや、逃げ切るしかないんだ……!」ズリ……ズリ……

最原(密着している茶柱さんをゆっくりと引きはがし、ズラし、同時に僕も移動する)

最原(当然彼女との体の間に摩擦が生じることになるが、リスクなしに脱出はもう不可能だ)

最原(微妙に傷口が痛むが死ぬよりはマシだろう)

茶柱「んん……」スヤァ

最原「大丈夫、この分なら充分抜け出せ――」

最原(……摩擦で服がめくれあがって見えちゃいけないものを見てしまった)

最原(いや実際そこまで致命的なものではないけど、寝ている間に乱れたみたいで、ちょっと肌色率が高……)

最原(……)

最原「もう少しこのまま眺めているのもいいか」

茶柱「んん……?」モゾリ

最原(すごくいいかんじ)ガンミ

最原(いい。このアングルが凄くいい!)ガンミ

最原(……この光景に命を賭けるに値するか?)

最原(……)

最原「YESだ!」

茶柱「ん?」パチリッ

最原「あ」

茶柱「……」

最原「……」

最原(ティンダロスの猟犬と目があった)



630:逆転の人 ◆SxyAboWqdc 2018/02/23(金) 17:55:34.83 ID:7W8kCydk0

茶柱「……?」ボーッ

最原(まだだ! まだ終わってない! どうやら寝ぼけているようだし、勝負はここからだ!)

最原(うおおおおおお!)ズリ……ズリ……

茶柱「むー」ギュッ

最原(だ、抱き着かれた!?)ガビーンッ

茶柱「こうすると……右腕が死ぬ」ギリリッ

最原(寝技だコレーーーッ!?)ギャァァァァ!

茶柱「たーのしー」ウフフ

最原(これでまだ寝ぼけてるんだよなぁ! 冗談じゃない! 激痛が走ってるし!)ジタバタ

茶柱「……もうどこにも行っちゃダメですよ……末永く転子の傍に……」

最原(ぎ、ギブアップすべきか……? いや! ギブアップしたところで『楽になれる』だけだ! やっぱり死ぬ!)

最原(ならこのまま激痛に耐えたまま二度寝に入る可能性に賭け……ん?)

最原「……」







最原「茶柱さん。起きてるよね?」

茶柱「え」

最原「いや、なんとなくそう思っただけなんだけど……もう完全に起きてるでしょ?」

茶柱「……」

最原「なんで寝ぼけているフリなんか……」

茶柱「ふんっ」ボキンッ

最原「うぼああああああああああああああ!?」



632:逆転の人 ◆SxyAboWqdc 2018/02/23(金) 18:13:47.39 ID:7W8kCydk0

茶柱「まったく。なんで最原さんと一緒に寝ているんですか、転子は」

最原「し、知らない……気が付いたらこんなことに……」ピクピク

最原(茶柱さんはもうベッドから降りて、服装をただしている。凄く残念だ)

茶柱「ここは病室……? ふむ。お互いに覚えがないとなると、どうやら王馬さんに担がれたようですね」

最原「ああ。僕がなにかしたとは考えないんだ。実際してないけど」

茶柱「王馬さんを拷問した後で彼が白なら、次はあなたですよ?」

最原「拷問!?」ガビーンッ

茶柱「でもまあ、あなたは転子のことを知ってますから、こんなバカげたことはしないでしょう」

茶柱「……ほぼ王馬さんですよ。間違いなく。あなたにこんな勇気はないでしょうし」

最原「うん。ないね」

茶柱「……」ジーッ

最原「……なんでそんな失望の眼差しを向けて来るの?」

茶柱「……別に……」プイッ

最原「?」

最原「よくわからないけど、まあともかくお互いに無事でよかっ……」

最原「あ! そうだ! 茶柱さん、大丈夫!?」

茶柱「……転子が?」

最原「そうだよ! だって昨日、夢野さんを見て気絶したって!」

茶柱「ッ!」



633:逆転の人 ◆SxyAboWqdc 2018/02/23(金) 18:41:37.18 ID:7W8kCydk0

茶柱「……春川さんから聞いたんですか?」

最原「というか現場を見たんだよ。百田くんと一緒に」

茶柱「あれは一体、なにが……うっ」ガクリ

最原「茶柱さん!?」

茶柱「……思い出すだけで足に力が入りません。全身が震えてきます」

茶柱「とにかく、もう、身も心も凍えるようで……!」ガタガタ

最原(それはそうだ。当たり前だ。悪ふざけの産物だったとしても夢野さんは血塗れで)

最原(殺人事件自体が虚構だったとしても、そこに存在した感情は本物だったのだから)

最原(……巌窟王さんが言っていた。何かの奇跡で夢野さんが帰ってきても――)



巌窟王『今このときの感情は間違っても嘘にはならない』



最原「……茶柱さん。あの……」

最原「寒いのなら抱きしめるけど。投げたり関節技はやめてね?」

茶柱「……」

茶柱「そういうのは無言でやってください」

最原「ごめん。流石にそれは無理だよ」



ギュッ



635:逆転の人 ◆SxyAboWqdc 2018/02/23(金) 19:49:19.47 ID:7W8kCydk0

白銀『……ふふふ。準備、できたかなー……?』

最原「ん?」

最原(……変だな。どこからか視線を感じるような……)

王馬「……」ジーッ

最原(病室の外に王馬くんがいる……ドアを半開きにしてこっち見てる……)

王馬「……」ジーッ

最原(しかも明らかに録画してるーっ! あのビデオカメラ、倉庫で見たことあるーっ!)

王馬「……!」

最原(ん? こっちから視線逸らして……)

王馬「……」チョイチョイ

百田「……」ナンダナンダ

春川「……」ナニナニ

最原(増えたーーーッ!?)ガビーンッ

百田「……」

百田「……」グッ

最原(うわああああああ! 『俺たちのことは気にするな』とでも言いたげだーっ! 無理だよ!?)

茶柱「……悔しいですが、安心します」スリ……

最原「そ、そう」

最原(見られているって言ったら絶対に第二ラウンドだな。勢いで殺されかねない)

最原(……あれ。天海くんがいない?)



636:逆転の人 ◆SxyAboWqdc 2018/02/23(金) 20:06:54.75 ID:7W8kCydk0

中庭

謎の時計オブジェ「」ドーンッ

夢野「確かに見るからにヤバそうなオブジェじゃのう」

ジャガーマン『危険戦隊ヤバレンジャーのグリーンと言ったところか。ヤツは四天王の中でも最弱』

BB『戦隊ものなら五人ですよ』

夢野「BB。アナライズは?」

BB『おっと。そうでしたそうでした。うーん』ジーッ

BB『夢野さん。そこら辺の石ころを、あのオブジェクトに投げつけてくれません?』

夢野「それ多分危険じゃろ……まあ、仕方あるまい。時間もないしのう」

夢野「ほいっ!」ブンッ

ガンッ

BB『……キーボさんのカメラに反応あり。今の音がキーボさんの視点から聞こえました』

BB『映像は真っ暗ですが、間違いなくキーボさんはあの中にいますね』

夢野「やはりそうか。閉じ込められておるのか?」

BB『判別が付かないんですよねー。情報が不足しすぎてて』

BB『ていうかそもそも、今までラッキーだとしか思ってなかったのでまったく深く考えてなかったのですが』

BB『なんでキーボさんにこんな機能があるのかすらも疑問ですし』

夢野「こんな機能?」

BB『情報の送受信機能。これがあるからカメラとして使用できてたんです』

BB『……きっと黒幕がこの機能を使っているのでしょう、と思っていたから大して疑問には思ってなかったのですが……』

BB『この送受信機能は学園の外に向かって行われているものです。首謀者が白銀さんで、学園の中にいるのであれば……』

夢野「白銀が情報の送受信機能をキーボに取り付ける意味がない……?」

BB『……とまでは言いませんが、直接的な恩恵は皆無でしょうね』

夢野「うーん……後で情報を纏めて最原に報告じゃなあ」



637:逆転の人 ◆SxyAboWqdc 2018/02/23(金) 20:18:43.45 ID:7W8kCydk0

夢野「そういえば、中庭も様変わりしたというか……変な建物がまた生えておるのう」

BB『なんでしょうアレ。夢野さん、なにか聞いてます?』

夢野「さてのう。さっぱりじゃ。さっぱりじゃが……ちょっと気になるし行ってみるとするかの」

夢野「転子がビックリするから事情を説明し終わるまで絶対に病院に顔出すなとか言われておるし」スタスタ

夢野「……?」

ダレカーッ……

夢野「……天海の声? あの建物からか?」

BB『はて。一体何をしているのやら』

ジャガーマン『ジャガーイヤーは天国耳っ!』

ジャガーマン『ええと……誰かいないんすかー、と叫んでるっすね』

夢野「どうしたんじゃアイツ」

ジャガーマン『さあ?』



644:逆転の人 ◆SxyAboWqdc 2018/02/24(土) 16:00:56.21 ID:RgdhlCNf0

ちょっと時間は遡って深夜


バシャアッ


天海「……ハッ!? ここは……ここはどこっすか!?」キョロキョロ

ギシッ

天海「ああ! 当たり前みたいに拘束されている! ダメだ! 全然動けないっす!」

天海(いや。落ち着け。パニックになるな。口は塞がれていない。塞がれていないのだからやるべきことは一つだけ)

天海「誰かああああああああああ! 誰か助けてっすーーー! 殺されるーーーッ!」ジタバタ

白銀「そんなプリニーみたいに叫ばなくっても……」

天海「あ! 白銀さん!」

天海「……」

天海「ぐぬうううう。無念っす。このまま本当に何もできないままゲームオーバーだなんて……!」

白銀「あ。別に殺すためにこんな場所に連れて来たわけじゃないよ?」

天海「へ?」

白銀「……まさか最原くんを連れて来るわけにもいかないしなー。どうしようかなーと思ったところで天海くんが記憶を取り戻したからさ」

白銀「ちょっとサンプルになってほしくて。どの程度、記憶を取り戻したの?」

天海「!」

白銀「その確認をしたいんだー」ニコニコ

天海「イヤと言ったら?」

白銀「拷問してでも口を割らせる」

天海「……」

白銀「本気だよ? 三秒後には『何でも喋るドン! もう一回遊べるザウルス!』と泣きべそをかくことになるって」ニコニコ

天海「そうそう簡単に……いくと思わないことっすね!」

天海「俺は絶対に拷問なんかに負けたりしない!」



645:逆転の人 ◆SxyAboWqdc 2018/02/24(土) 16:03:35.86 ID:RgdhlCNf0

天海「うわあああああああ! やめろー! やめてー! お願い、それだけは! それだけはー!」

白銀「じゃあ三本目行っちゃうよー」ガリガリガリ

天海「ひいいいいいい! やめ……やめて! お願い! なんでも喋る! 全部喋るっすからー!」







天海「お願いだからバトエンを無意味に削るのだけはやめてーーーッ!」

白銀「書き味悪いー」カリカリ

天海「使うのもやめてぇ……本当になんでも喋るっすからー……!」


天海が拷問に屈するまでの時間、実に二分十秒。バトエンは三本お亡くなりになった



646:逆転の人 ◆SxyAboWqdc 2018/02/24(土) 16:10:12.20 ID:RgdhlCNf0

天海「――ということで、およそこの学園で起こった全部は思い出せたはずっす」

白銀「……」

白銀「それだけ?」

天海「……? それだけっすけど」

天海(なにかまだ話してないことあったっすかね? それとも俺が気付いてないだけで、まだ忘れていることが……?)

白銀「……拷問第二弾行っておく?」スッ

天海「本っ当にやめてくれっす! それもう絶版だから滅多に手に入らないんすよ!?」

天海「特にその星5のヤツはマジな激レアもんで、保存状態がよければマニアの間で数百万単位で取引が」


ガリガリガリ



天海「うわあああああああああ! いっそ爪を剥ぐとかの正統派拷問にしてーーーッ!」



647:逆転の人 ◆SxyAboWqdc 2018/02/24(土) 16:18:03.37 ID:RgdhlCNf0

数分後

天海「なぜ……なぜこんな残酷なことができるんすか……」グッタリ

白銀「私もコレが好きだからだよ。残酷さを理解できているからこそ拷問として転用できるの」

白銀「なにに価値があって、なにが壊れると人は悲しむのか。最低限理解してなければコスプレイヤーとしてとても活動できないよ」

白銀「……そういう意味では、仲間だったあなたたちをあそこまで痛めつけるのは私としても相当心が痛んだんだよ?」

天海「戯言を……」

白銀「嘘だと思う?」

天海「……」

天海(よく考えたら、白銀さんは結局、誰も殺してないんすよね)

天海(……いやいやいや。彼女のやったことを考えないと。結果はどうあれ過程が酷すぎる)

白銀「まだ時間はありそうだから、もうちょっと話そうよ」

白銀「……本当に思い出してないの?」

天海「……そんな白銀さんにとって致命傷になるような情報なんて……」

白銀「そっか。ならいいや。じゃあ後は私の単純な娯楽で……余った時間を全部あなたへ捧げようか」

天海「誰かーーーッ! 誰かいないんすかーッ! 助けてー! 俺のバトエンを助けてーーー!」ジタバタ



649:逆転の人 ◆SxyAboWqdc 2018/02/24(土) 18:32:24.02 ID:RgdhlCNf0

天海(ということが起こったのは果たして何時間前だったのか。今、俺は相変わらず拘束されたままで……)

天海(放置プレイを受けている)

白銀『じゃ、そろそろ時間だから行くね。楽しかったよ』

天海(と言い残して白銀さんは姿を消してしまった……)

天海(……拘束がガチすぎて、このままだと俺は最悪、脱出のために色々な関節を折り曲げなければならなくなる)

天海(これ以上の最悪はない。あってはならない。何故なら俺が閉じ込められている場所はどうやらトイレのようだが……)

天海(拘束されたままだと行けない。つまり脱出できない場合を考えたくない)

天海「誰かー! 誰かいないんすかー! このままだと俺、やばいんすけどー!」ジタバタ

夢野「……んあー? 声がするのはこの小窓か?」ヒョイッ

天海「……夢野さん!?」

夢野「天海。こんなところで何を遊んでおるんじゃ。ていうかこの建物はなんじゃ?」

天海「俺自身よくわからないんすけど……夢野さん、どこからここに入ってきたんすか?」

夢野「中庭からじゃが……」

天海「あ! わかった! ここアレっすね!? なんか最近中庭にできた近未来的な建物!」

夢野「……縛られておるのか?」

天海「助けてほしいっす! このままじゃ俺はこれからの学園生活をずっと下ネタと共に生きていかなきゃならなくなるっす!」

夢野「そうしたいのは山々じゃが、縛られておるんじゃよな?」

天海「?」

夢野「ナイフなど持ってきておらんし、天海にほどけない拘束をウチが解ける道理はないぞ?」

天海「あ」

夢野「まあ助けくらいは呼んできてやるわい。それまで暴発しないように……その……祈っておくぞ?」

天海(希望を与えられてからそれを奪われる……これが……絶望……)ボーゼン



651:逆転の人 ◆SxyAboWqdc 2018/02/24(土) 18:53:38.19 ID:RgdhlCNf0

天海(……いや! もう限界だ! 漏らす選択肢はない! ならば!)ゴキンッ

天海「ぐおおおおおお……手錠は……あるいは手錠のように手首を拘束する縄は親指の関節を外せば抜け出せる……!」

天海「ぐ、ぐ。くそ。元に戻さないと」ボキンッ

天海「……まあ痛みは残るっすよね。そりゃそうっすよね」

天海(変な汗が出てまったく動けない……純粋な痛さで眩暈がする……)

天海(これだからやりたくなかったんすよ。白銀さんの目の前でやったところで不意を打てたりはしないだろうし)

天海「ふう……ひとまず済ませること済ませて……あ、小窓は閉じておかないと」パタンッ



数分後


天海「危なかった……!」

天海「……さてと。それじゃあ、探索を開始しましょうか」



652:逆転の人 ◆SxyAboWqdc 2018/02/24(土) 19:30:42.14 ID:RgdhlCNf0

天海「……エグイサル!? が、一、二、三機……」

天海「それにエグイサル用に作ったとしか思えない洗浄機とかもあるし……まさかここって」

天海「いや。間違いなくエグイサルの倉庫っすよね……」

天海(だとすると消えた二機は一体どこに……)

天海「……違う。逆になんで三機残ってるのかを考えるべきか」

天海(今までに死亡したモノクマーズはモノキッド、モノスケ、モノダム。残っているエグイサルのカラーリングと一致……)

天海(ここにエグイサルが三機残ってるのは単純に使い手がいないから)

天海(……なら、残る二機は稼働中、ということか……どこで?)

天海「……あれ? そういえば」




病院ロビー


BB『あれ? そういえば』

夢野「んあ? どうしたBB」




――モノクマ、どこ行った?



655:逆転の人 ◆SxyAboWqdc 2018/02/24(土) 20:28:17.51 ID:RgdhlCNf0

新世界プログラム内

モノクマ「……憐れだなぁ。あれだけ大口を叩いていた巌窟王さんのこんな姿を見るのは心が痛むよ」

白銀「モノクマー。まだ編集終わらなーい?」

モノクマ「あと少し待って。もうちょっとで出来上がるから」カタカタ

白銀「……ねえモノクマ。本当の私からの定時連絡、来た?」

モノクマ「来たよ。天海くんと最原くんが記憶を取り戻した」

白銀「それは前回の連絡でしょ」

白銀「……天海くんは? どこまで思い出した?」

モノクマ「……今回の学園生活だけだよ。前回の学園生活に関しては一ミリも思い出してなかったみたい」

白銀「……なーんだ。ガッカリ」

白銀「本当、とことん見掛け倒しだなぁ。彼。本当に残念」

白銀「……」





白銀「やっぱり、私は――」

モノクマ「……」



656:逆転の人 ◆SxyAboWqdc 2018/02/24(土) 20:49:51.09 ID:RgdhlCNf0

病室

最原「……体中の痛みが消えたわけじゃないけど、ひとまず歩けるようにはなってる」

百田「おう! それじゃあこれで……」

最原「調査再開、だね。この学園の謎をどうにかして解き明かして、それで……!」

最原「みんなと一緒に学園の外に帰るんだ!」

春川「……」

春川「それが本当にベスト?」

百田「あ? どういう意味だよ」

王馬「そだねー。ひとまずモノクマはこっちの衣食住を完璧に保証してくれてるわけだし……」

王馬「このままコロシアイをせずに一生ここで暮らすっていうのも一つのベストアンサーなんじゃない?」

百田「は?」

最原「……」

王馬「ねえ。どう思う? 茶柱ちゃん」

茶柱「……え。何故転子に?」

王馬「……これ以上頑張ったら、最原ちゃん、本当に死ぬかもよ?」ニヤァ

茶柱「!」

春川「……どう思う? 百田」

百田「……仮にそうだったとしても、調べないのだけはナシだろ」

百田「最原、天海、夢野の三人が『消えたヤツらは生きている可能性がある』っつってんだ。なら助ける必要がある」

春川「助けた後の話をしてるんだよ。気が早いけどさ」

春川「……本当に外に出るべきなのかな」

茶柱「……」

最原「……負けたくないんだ。僕は」

茶柱「え」

最原(そうだ。負けたくない。そうでなければ、いつだって絶望と相対していたあの背中を見失ってしまう)

最原(あの背中は僕にとってあまりに眩しすぎた。今更見なかったことにするのは無理だ)

最原(……本当に格好よかったから。何よりも、彼はまだ何も諦めてなかったのだから)

最原「僕の答えは変わらないよ。みんな揃って外の世界に出る」

最原「……ごめん。付き合ってくれないかな?」

百田「ああ! 当たり前じゃねーか! 地獄の底まで付き合うっての」

茶柱「……」

茶柱「そんな場所まで行かせませんよ。転子は」

最原「ん?」

茶柱「いえ……なんでもありません」



657:逆転の人 ◆SxyAboWqdc 2018/02/24(土) 21:03:31.91 ID:RgdhlCNf0

春川「ひとまず最原。これ。現状やっちゃいけないことリストを軽く纏めておいたから。後で記入漏れがあったら書き足す」

最原「ああ、ありがとう。えーと、なになに」


・階段の上り下り禁止(傷が開く)
・激しい運動禁止(傷が開く)
・立った状態での小便禁止(激しい立ちくらみによる怪我の恐れ)
・喧嘩(カブトムシより強い相手だと返り討ちにされる)
・激しくなくとも筋肉を無駄に緊張させるのはダメ(腕相撲とか最悪)


最原「結構厳しいよ!?」

春川「アンタ、本当に死にかけてたから」

最原(自分自身ではそこまで危ないという自覚はないのだけど)

最原(……気を付けておくか)

春川「あと茶柱。今だけはノリと勢いで最原に暴力を振るうのは禁止ね」

春川「……大切な人を殺したい?」

茶柱「……わかりました」

最原「素直だね。茶柱さん」

茶柱「茶化さないでください。早速禁を犯してしまいそうです」

最原「ご、ごめん……」

王馬「で? どこから捜索する?」

最原「それは……」


コンコンッ


最原「ん?」

百田「誰だ? 律儀にノックなんかしてよ」

春川「……入ってこないね」

王馬「あ。もしかして……」

春川「ん? ……ん。そっか。私が出るよ。茶柱、ちょっと窓の外見ててくれる?」

茶柱「へ? なぜ?」

百田「ああ。アイツか」

最原(……夢野さんか)



658:逆転の人 ◆SxyAboWqdc 2018/02/24(土) 21:22:30.63 ID:RgdhlCNf0

春川「……天海が……漏れそう……?」

夢野「はやく……拘束……ガッチガチ……」

百田「……やべぇ……天海蘭太郎が下海乱太郎になっちまう……!」

最原(変なこと話してるなぁ)

茶柱「……やっぱり夢野さんがいるんですね?」

最原「ああ。うん。間違いなく夢野さんだよ」

茶柱「……信じられません。だって……だって……」

茶柱「……」

王馬「都合よく物事考えればいいのにさ。茶柱ちゃんも大概面倒だよね」

茶柱「窓の外に放り投げられたいです?」

王馬「最原ちゃんには優しいのに、俺に対しては冷たいんだなぁ」

王馬「……あ! 逆か! 俺には普通で、最原ちゃんに対しては優しいんだ! いやぁ、熱いなぁ! あはははははっ!」


ガシッ ブンッ ガシャアアアアアンッ



王馬「うわあああああああああ……」


ベシャッ


茶柱「悪は滅びました」

最原(窓の外にぶん投げたーーーッ!)ガビーンッ

茶柱「……別に! あなたのことなんてどうでもいいんですからね! 一緒にぶん投げてもよかったんですよ!」

最原「わ、わかってるって! 王馬くんの戯言だよね」アセッ

茶柱「わからないでくださいッ!」ウガァ

最原「ええっ!?」



664:逆転の人 ◆SxyAboWqdc 2018/02/25(日) 18:43:29.28 ID:gIsdmAHz0

百田「わりぃ! 俺とハルマキとゆめっ……ええと……」

春川「百田と私とペンネーム『ロリロリファンタジック』は一緒に中庭に行ってくるね。天海がピンチらしいから」

夢野「!?」ガビーンッ

最原(ドアの向こうで夢野さんがショック受けてる気がする)

茶柱「……事情はサッパリわかりませんが……もういいですよ。夢野さんの名前を聞くくらいなら」

百田「そうか! なら俺たちはこれから別行動だ! 天海の方が片付いたらすぐに終一の方に合流すっからよ!」

春川「百田。まだ使ってないパンツとズボンはある?」

百田「……ああ。あるぜ……取ってくるからハルマキは先に行っててくれ」

夢野「ぐすっ。どんな姿になっても仲間じゃぞ、天海……!」

春川「ごめん。流石に私は漏らすヤツと仲間なのは抵抗が……」


ゾロゾロ


最原「行っちゃった」

茶柱「……寝ている内になんとなく思い出した気がします」

最原「ん?」

茶柱「最原さんのことを頼む、と赤松さんからアイコンタクトか何かで伝えられた気がするんです」

茶柱「……まあだから、不本意ながら、あなたに付き合ってあげますよ」

最原「最高の助手だよ。ありがとう」

茶柱「……素直すぎてムカッと来ます」

最原「ええー……」

ヨジヨジ

王馬「俺は最原ちゃんには茶目っ気が足りないって思うな!」バッ

茶柱「落ちなさい」ゲシッ

王馬「ぎゃあああああああああ……」


ベシャッ


最原「せっかくよじのぼってきたものを蹴落とさなくても!」ガビーンッ

茶柱「条件反射でつい……」



665:逆転の人 ◆SxyAboWqdc 2018/02/25(日) 18:56:57.45 ID:gIsdmAHz0

天海「……おー」ガシャコーンガシャコーン

天海「一度だけ、拡声機能を使ったことはあるんすけど、実際に乗りこなしてみると感動っすねー」

天海「ん? なんだろう、このボタン。ドクロマークがついてるから絶対に押さない方がいいんだろうけど……」

天海「……いやいや。俺はそんな愚かなことはしな」

グインッ

天海「ぐあああああああ! ケーブルか何かに足を引っかけて転んだー!」ゴテンッ ポチリッ

天海「え? ポチリ?」


カッ



格納庫の外

百田「天海ーっ! 助けにきたぞ! あと少しの辛抱だ! 頑張れーーーッ!」

春川「頑張れー」

夢野「もっと早く走るんじゃあ……ぜぇぜぇ……早くしないと天海の膀胱が爆発してっ……ごほっごほっ」

春川「アンタは運動不足すぎ」

百田「まあ流石に我慢しすぎて漏らすことはあっても、爆発することはねーだろ――」




ドカァァァァンッ


百田&春川&夢野「天海ィーーーッ!」ガビーンッ



☆――さらば天海……!



670:逆転の人 ◆SxyAboWqdc 2018/02/25(日) 19:58:09.74 ID:gIsdmAHz0

百田「爆発のお陰で隔壁がぶっ壊れてやがる! ちょっと前は近づくと凄い警報鳴ってたのに!」アワアワ

春川「百田。流石にここから先に進みたくないんだけど……」

百田「わかる! 気持ちはわかるけどよ! 今となってはもう治療ができそうなヤツがお前しかいないんだ! 頼む!」

春川「……」アセッ

百田(マジでイヤそうだ)

春川「……あれ。唇がベタつかない」

百田「あ? それが?」

春川「普通、人って爆発すると脂肪分が空気中に飛びまくって唇がめっちゃベタつくんだよ」

夢野「ははは。なんじゃそれ。まるで人を爆発させたことがあるような口ぶり……」

春川「……」

夢野「……ごめんなさい」ビクビク

百田「もうこの話はやめよう! やめやめ!」

百田「だとすると天海は無事なのか?」

春川「うん。多分この爆発で天海は焼けてはいな……い?」チラッ

春川「あっ!」

百田「あ? なんだよ。天井になにか……あっ」

夢野「あ」







天井にぶら下がった状態で気絶している天海「」チーン

百田「アレどうやって降ろしゃいいんだよ」

春川「……天海の真下にトランポリンでも設置するのが一番早いんじゃない? あとは自力で体揺さぶって落ちてもらう」

夢野「クッションならあったのう。倉庫に」

春川「持ってくる。アホらしすぎ」スタスタ



671:逆転の人 ◆SxyAboWqdc 2018/02/25(日) 20:12:18.32 ID:gIsdmAHz0

数分後

天海「し、死ぬかと思ったっす……死ぬかと……」ガタガタ

夢野「よかったのう天海! よかったのう!」バッシバッシ!

百田「で。結局なんでこんな大爆発が起こったんだ?」

夢野「我慢できずに暴発したんじゃよな? この場に入間がいなくてよかったのう。一生起たないとか大笑いでネタにされそうじゃ」

天海「既に夢野さんがネタにしてるっすよね。違うっすよ。ただエグイサルブルーの自爆装置をうっかり押しちゃって」

春川(そこら辺に散らばってるのはエグイサルの残骸か……)

天海「巌窟王さんが前にぶっ壊したせいでバランス感覚が微妙におかしくなってたみたいっすね」

天海「自動的にバランスを取るって説明書には書いてあったんすけど……」

百田「巌窟王? 誰だ?」

春川「?」

天海「……」

百田「まあいいか。残りの二機はどこ行った?」

天海「それなんすよねぇ。あんなデカいものを隠そうと思ったらかなり大変だと思うんすけど」

夢野「……隠すつもりなのか? 本当に。探してみれば割と簡単に見つかるのではないか?」

天海「む……確かに。あの欠落感のせいで頭全体の動きが鈍くなってたのは否定できないっすし」

天海「案外、わかりやすいところにドーンッて置いてあったりするかもっすね」



672:逆転の人 ◆SxyAboWqdc 2018/02/25(日) 20:22:24.48 ID:gIsdmAHz0

スパコン室の中

最原「……」

茶柱「……」

王馬「あれ。どうしたの二人仲良く固まっちゃって」

最原「ええと……王馬くん。なんで新世界プログラムの横にあんなものが置かれてるのかな」

王馬「置かれているというのは正確じゃないな。多分アレって『停止』しているだけだよ」

王馬「……中にキチンとモノクマーズはいるんじゃない?」

エグイサルレッド「……」プシューッ

エグイサルピンク「……」ボファーッ

茶柱「これって……なんのつもりなんでしょう。なんでエグイサルがこんなところに……」

最原「新世界プログラムを守っているのかな。確かアレって校則でわざわざ『破壊したら連帯責任として全滅させる』って書いてあったし」

最原「……壊されたら困るんだ。今は」

茶柱「中に誰かいるとでも? でも……」

最原(そうだ。席には誰も座っていない。前に見たときとは随分と様変わりしてしまった)

最原「みんなは一体どこに……」

茶柱「探してみましょう。そのためにここに来たのでしょう?」

最原「うん! お願い! 王馬くんも手伝って!」

王馬「……」ペーイッ

最原(ん? 今、なにかを新世界プログラムの上の方に投げたか?)

王馬「うん! わかった! 一緒にみんなを探そう!」

王馬「あ。でもその前に、ちょっと出口のあたりまで下がった方がいいかも」

最原「なんで?」

王馬「爆発するから」




ドカァァァァァンッ



最原「」

茶柱「」

王馬「たーまやー。いやぁ、入間ちゃんが作ったにしては随分と綺麗な花火だなぁ。にしし」ケラケラ



673:逆転の人 ◆SxyAboWqdc 2018/02/25(日) 20:39:03.91 ID:gIsdmAHz0

最原(脳内に爆音がこだまする。そして、今の光景を焼き付けるように何度も脳内でリフレインが起こる)

最原(何度も何度も何度も……)

茶柱「……最原さん。さっき校則について、なんと?」

最原「端的に言うと僕たちは死ぬってこと」

茶柱「最原さん。転子の棺の中にはトレーニングウェアとか入れといてください」

最原「だから全員死ぬんだって!」

ガシャコンッ

最原「!」

茶柱「……いいえ。死なせませんよ。もう二度と……二度と……!」

最原「茶柱さん?」

茶柱「大事な人が死んでしまうのは耐え切れない!」

王馬「ヒューッ! 格好いいー!」

茶柱「結果如何によらず王馬さんだけは必ず道ずれにします」

王馬「!?」ガビーンッ

最原(当然の末路すぎる……けど)

最原「……なんで壊したの?」

王馬「特に理由なんてないけど?」

最原「……いや。こういうタイミングで意味のないことをするほど暇じゃないよね? キミは」

王馬「……試したいことがあってさ」

王馬「この中に、本当に新世界プログラムなんてあったのかなぁ?」

最原「……?」

王馬「あ。わからない? じゃあ付け足すよ」

王馬「さっき俺が壊した箱、前みたいに中身があったと思う?」

最原「!」



ガシャコンッ



エグイサルレッド「……」ガシャコンガシャコン

エグイサルピンク「……」ガシャコンガシャコン

茶柱「……」

茶柱「え? 素通りしてどっか行っちゃいました」

最原「まさか、この新世界プログラムだと思っていた巨大な箱……!」

王馬「うん。中身はゴッソリどっか行ってた。後に残ってたのは前の精巧なプログラムとは似ても似つかない『バカゲー』だったよ」



674:逆転の人 ◆SxyAboWqdc 2018/02/25(日) 20:46:30.75 ID:gIsdmAHz0

最原「じゃあ、中身は一体どこに……!」

白銀『さて。どこでしょう。ふふっ』

最原「……」

最原「あのさ。王馬くん。さっきから気になってたんだけど……視線を感じない?」

王馬「視線? どこから?」

茶柱「?」

最原(僕の気のせいか? 前とは違って、どこにいても見られている気がする……)

最原(前とは……違う?)

最原「忘却補正のせいかな。なにか……見た目ではわからないけど、新世界プログラムでの事件が終わった直後とは何か!」

最原「明確に、この学園に変化が起こってる気がする!」





エグイサル格納倉庫

BB『……変な磁場がありますね。前はこんなものなかった気がするのですが……』

夢野「変な磁場?」

ジャガーマン『んー。こんなこと言いたくはないんだけどさー……どこかから見られてない?』

BB『え? ああ、そういえば、このねっとりする感覚はまず間違いなく盗撮ですね。流石に野性の勘は鋭い』

夢野「盗撮ゥ?」

天海「……あ。そういわれるとなんだか変な感じっすね」

夢野「んー……? 気のせいじゃ、と言い切れない何かがあるのう」

百田「そうか?」

春川「……ピンとこないけど。気のせいじゃない?」

夢野「……んあー?」

天海「うーん……まあどうにでもできないから、ひとまず放置するしかないっすよね」




白銀『うふふっ。あはははっ……』



天海「……イヤな予感しかしないんすけど」



677:逆転の人 ◆SxyAboWqdc 2018/02/26(月) 19:56:05.06 ID:XfstKIat0

最原(こんなこと思っちゃいけないけど夢野さんと同行できないのが痛いな……)

最原(そういえば、夢野さんに今までどこにいたのか訊いてない)

最原(会うまで記憶が無くなってたことを考えると、どこかに閉じ込められていたと考えるのが一番自然だけど)

最原(どこに? 現状の僕たちに手出しができない場所と言ったら……)

最原「……地下の隠し部屋?」

茶柱「今、なんて言いました?」

最原「赤松さんの事件のときに議論の争点になったアレだよ。もしかしたら夢野さん、そこに閉じ込められてたんじゃ……」

茶柱「……」

最原「ええと……ごめん。大丈夫? 無神経だったよ」

茶柱「いいって言っているでしょうッ!」

最原「!」ビクッ

最原「……ごめん」

茶柱「……」

最原(もう全員、こんな学園生活は限界だ。いつまでも閉じ込められた状態でコロシアイを強要されている現状)

最原(頭がおかしくならない方が遥かに不自然だろう)

最原(多分……僕自身も、僕自身に見えない範囲で、段々と人間が壊れ始めている)

王馬「そして人間が壊れ始めている僕は理性も壊れ始めているので、茶柱さんの胸の内、正確に言うならブラジャーの内に対する興味も抑えきれず」

王馬「近い内にうっかり押し倒してエ口イムエッサイム、エ口エ口ワッショイショイ」

最原「不必要な副音声やめてくれる!?」ガビーンッ

茶柱「最原さん。死ぬときは一緒ですよ。転子は間違って最原さんを殺したら学級裁判で進んで自首しますので」

最原「やめよう! そういう悲しすぎる決意!」

最原(王馬くんだけは相変わらずだなぁ。壊れない精神してるのか、最初から壊れてるかのどちらかだな……)



678:逆転の人 ◆SxyAboWqdc 2018/02/26(月) 20:05:56.99 ID:XfstKIat0

最原「それにもしも僕が茶柱さんに殺されたとしても、絶対に茶柱さんには生き残ってほしいし……」

茶柱「……そ、それはどういう意図で言っているので?」アセッ

最原「いや、念のため。お願いだから全力で生き残ってね。僕はキミを絶対に恨まないから」

最原「だってキミは僕にとって……」

茶柱「……」ドキドキ

最原「大切な『仲間』なんだから!」

茶柱「……」シンナリ

最原「ん? あれ。微妙に元気が無くなったような……どうしたの?」

茶柱「あなたは目聡いのかクソ鈍感なのかどちらかにしてください。本当……」ハァ~~~~~~

王馬「ねえ最原ちゃん」

最原「?」

王馬「バ~~~~~~~ッカじゃねぇの?」

最原「!?」ガビーンッ

最原「と、ともかく、下に向かいたいんだけど……」

茶柱「……いいですよ。またおんぶですね?」

最原「あ、あの。本当にごめんね?」

茶柱「また謝る。もういいですから。どうせなら感謝を」

最原「……ありがとう」

茶柱「……」テレッ

王馬「……俺、先に行ってようか?」ニヤニヤ

茶柱「王馬さんがそういうカスみたいな気遣いするの本当気持ち悪いので、別にいいです」

王馬「厚意を厚意と正しく認識した上でコレかぁ。俺のお腹から元気な殺意が産まれそうだね!」ヘラヘラ



679:逆転の人 ◆SxyAboWqdc 2018/02/26(月) 20:14:55.84 ID:XfstKIat0

白銀『……充分すぎるね』ニヤァ

最原「……」

最原(視線が強くなった気がする。何かドツボにハマっているような……)

最原(白銀さん。キミは一体、僕たちに何をさせたい?)






新世界プログラム内

白銀「……生きてるー? よね。生きてるよね。だって死ぬこと許可してないし」

アンジー「……」

白銀「あ。でももう声を出す気力もない、と。ふふっ。私のやったことの重大さを見せつけられてるようで、罪の意識がまた重くなるなぁ」ニヤニヤ

白銀「……でもつまんない」

アンジー「……これ以上、何をする気……?」

白銀「まずはリンクを切るね。ひとまず第一段階は終了。飽きちゃった」

ブツンッ

アンジー「あ……う……」

白銀「はい。やっと解放された気分はどう? 今まで死の体験全マシのヴィジョンを見せつけられてたわけだけど」

アンジー「……」

白銀「じゃ、次に行こうか!」

アンジー「……」

白銀「あ。もしかして、今のより酷いものなんてそうそうこの世に存在しないと思ってる?」

アンジー「……ないでしょー? 実際……」

白銀「あるよー! 例えばコレとか!」

ブゥンッ

アンジー「……」

アンジー「――は?」



680:逆転の人 ◆SxyAboWqdc 2018/02/26(月) 20:24:35.02 ID:XfstKIat0

アンジー(光景が変わった。今度は直接脳に叩き込まれるヴィジョンではなく、VR空間を利用した非現実的なパノラマ)

アンジー(相変わらずアンジーは縛られたままだけど、アンジーのいる場所がまるごと病室に切り替わる)

アンジー(見たことがある。閉じ込められる前に何度か足を運んだ、才囚学園の病室)

アンジー(そこにいるのは――)



茶柱『――』

最原『――』



アンジー(終一と転子だった)

アンジー(……楽しそうに笑っていた。終一は前の学級裁判の怪我をそのまま引きずっていたみたいだったけど)

アンジー(何を喋っているのかは聞こえない……)

アンジー(……ただ、楽しそうだった)

アンジー「なに、これ……楓たちに見せているような幻想?」

白銀「ん? 違うよ。こればっかりは違う」

白銀「……紛れもない現実だよッ!」ギンッ

アンジー「……」

アンジー「やめて」

白銀「え?」

アンジー「見たくない」

白銀「んー? なんでー? せっかく見せてあげたのになー?」ニコニコ

白銀「今の今まで、アンジーさんたちとは別行動になっちゃったみんなのことが心配だったんじゃないのー?」ニヤニヤ




茶柱『――』

最原『――』



アンジー(楽しそうに笑っている。まるで……まるで――)

アンジー「やめて。お願い! 見たくない! 見たくないから!」ジタバタ

白銀「……」

白銀「聞くと思う? 今更甘いこと言うなぁ」

アンジー「ひっ……」

白銀「まだ続くよ。まだまだ続くよ。大丈夫、この空間はVRだから……」







白銀「まばたきしなくっても健康に一切、害はないから」



685:逆転の人 ◆SxyAboWqdc 2018/02/27(火) 18:46:20.74 ID:+hlAgWoq0

学園一階

夢野「……ハッ!」

百田「ん? どうした夢野」

夢野「ジャガーマン! アレじゃアレ!」

ジャガーマン『はい来た!』ブオンッ

百田「……お!? 夢野が消えた!?」キョロキョロ

春川「ああ。前に見たアレかな?」

夢野「夜じゃないから声くらいは聞こえるじゃろ。しばらくこのまま身を隠すぞ!」ヒソヒソ

百田「んだよ。一体どうし……ん」

天海「最原くん?」

最原「あ。天海くん。間に合ったんだね」

天海「お陰様で……なんでおんぶされてるんすか」

茶柱「階段の上り下りはちょっと危険なので……」

天海「俺より遥かに撃たれてたっすもんね……」

百田(茶柱から身を隠しやがったな)

春川(まだ整理ついてないだろうしね。仕方ないよ)



686:逆転の人 ◆SxyAboWqdc 2018/02/27(火) 19:03:51.86 ID:+hlAgWoq0

茶柱「……ん? なんでしょう。どこか懐かしい気配が……」

夢野(マジかコイツ。どんな嗅覚しとるんじゃ)

王馬「あ! 夢野ちゃん! スカートめくれてパンツ丸見え!」

夢野「ぴえっ!? 嘘じゃろ!?」ガビーンッ

王馬「もちろん嘘だよ!」

ジャガーマン『やっば。夜じゃないから今ので完璧に加護が解除されちゃった』

ボンッ

夢野「……え?」

茶柱「……」

夢野「……え? 見えてる? もしかして見えてるのか? ウチ丸見えか?」オタオタ

茶柱「……うっ……!」グラッ

最原「茶柱さん!?」

茶柱「最原さん。そろそろ降りてくれませんか? 半端なく気分が悪……うえ……!」

天海「無理もないっすよ! あの世界での夢野さんはちょっとシャレにならない死に方してたんすから!」

天海(俺の覚えている限り、改竄された記憶でも『実際に起こったことに即して死んでいた』感じだったし)

王馬「まあ超ド級のトラウマだったもんね。今更夢野ちゃんが帰ってきたところで、できた傷がなくなるわけじゃないし」ケラケラ

夢野「王馬ァ!」

王馬「……俺は俺の楽しみのために場を引っ掻き回しただけだよ! それの何が悪いんだよッ!」

百田「逆ギレがド下手すぎんだろ!」

春川「その反論まで含めて愉快犯だよね」

茶柱「ごめんなさい……ごめんなさい夢野さん。ごめんなさい……!」ガクリッ

夢野「あわわ……」オロオロ

最原「……許せないな。やっぱり」

百田「何がだ?」

最原「白銀さんだよ。吐いていい嘘と悪い嘘がある。彼女は明らかにその一線を越えてる」

王馬「え? そんな線があるの?」キョトン

天海「もう黙っててほしいっす」



687:逆転の人 ◆SxyAboWqdc 2018/02/27(火) 19:18:13.30 ID:+hlAgWoq0

夢野「……じゃ、じゃがのう。白銀だって何か事情があったのでは……」

天海「理由?」ギロリッ

夢野「!?」ビクゥッ

最原「どんな?」ギロリッ

夢野「!?!?」ビクビクゥッ

百田「よせよ二人とも。夢野が今にも心臓麻痺で死んじまいそうだ」

夢野「う、ウチは未だに信じられんのじゃ。白銀が首謀者だのなんだの……」

夢野「ウチが女子トイレにあった隠し部屋に入るまでは、白銀は仲間だったんじゃぞ! 絶対に!」

夢野「ずっと一緒じゃったろ……そうそう簡単に切り捨てられるか……!」

最原「キミはあの世界に行ってないから……あの世界でどんなことが起こったか見てないから!」

最原(ん? 隠し部屋? 女子トイレ?)

天海「……夢野さん。本当に色々あったんす。白銀さんは俺たちのことを、今までの学園生活を本気で踏みにじってきました」

天海「俺はその光景を覚えてるんす。無かったことにはできないんすよ……!」

天海「無かったことにしたらアンジーさんの決意も、巌窟王さんの臭い芝居の価値もどこかに行っちゃうじゃないっすか」

夢野「でも……だって……!」オロオロ

最原(……もしかしてあの事件、夢野さんが死んでないってこと以外は現実に即してたのか?)

最原(じゃあもしかしたら……!)



688:逆転の人 ◆SxyAboWqdc 2018/02/27(火) 19:33:48.90 ID:+hlAgWoq0

最原「……夢野さん。もしかしてキミって、昨日までどこかに閉じ込められてたの?」

夢野「んあ? 最原に話したかの?」

天海「あ……いや。記憶を取り戻したことに気を取られて聞いてなかったような……」

百田「俺は状況そのものが意味不明すぎて細かいところに気を配ってなかったな」

春川「アンタはいつだってそんな感じでしょ」

夢野「まあ実際閉じ込められておったんじゃが……」






夢野「図書室の隠し扉の向こうにな?」

全員「ッ!」



689:逆転の人 ◆SxyAboWqdc 2018/02/27(火) 19:34:27.75 ID:+hlAgWoq0

夕ご飯の休憩!



690:逆転の人 ◆SxyAboWqdc 2018/02/27(火) 20:15:14.03 ID:+hlAgWoq0

最原(気が付いたときにはもう走り出していた)

天海「あっ! さ、最原くん!」

茶柱「え?」

春川「……バカ! 運動するなって言ったのに!」

最原(夢野さんがあそこに閉じ込められていたことまでは予測できた)

最原(ただし、それが現実に則したものだったとまでは考えてなかった!)

最原(もしかすると……!)




図書室

最原「……」ゼッゼッ

最原(なんだか妙に体が怠くて息苦しい気がするが、そんなことはどうだっていい)

最原「ドアが開きっぱなし……中は!?」

最原「……ああ! 凄い! 全部プログラム世界で見たもの、そのままだ!」ダラッ

ポタリッ

最原(急に走ったせいだろうか。汗が止まらない。なにか汗が微妙に粘っこい気がするが、錯覚だろう)

最原「マザーモノクマ……現実にもあったのか! じゃあ!」

最原「くそ! ない! あのモノクマカラーのパソコンが……!」

最原「ここまで同じなら、無い方が不自然だろうに!」

最原(プログラム世界の中では結局、最後まで調べられなかった。アレさえあれば、きっとみんなを見つける手がかりになる!)

最原(アレさえあれば……!)ガサゴソ

最原「……」ゼエゼェ

最原(あれ。なんだろう。意識が朦朧としてきたような……)

最原(まあいいか。脳の機能が鈍っていようと、答えを間違わなければいい話だ。最低限、気絶しなければ動ける)

最原(見つけないと)ガサゴソ



691:逆転の人 ◆SxyAboWqdc 2018/02/27(火) 20:21:22.19 ID:+hlAgWoq0

百田「……」

百田「おい終一」

最原「……」ガサゴソ

百田「終一。こっち向け。おい」

最原「……あ。百田くん。ごめん、気が付いてなかった。何?」

ポタリッ

百田「ちょっと休め。血が出てんぞ」

最原「え? ……あ、ごめん。全然気付いてなかった。現場を荒らすつもりじゃなかったんだけど……」

最原「それより百田くん! ここを見てよ! いかにも何かありそうじゃない!?」ゼェゼェ

百田「それよりってこたねえだろ」

最原「……う。ごめん。本当に、現場を荒らすつもりじゃなかったんだ……でも――」ゼェゼェ

百田「もういい。話が通じねぇ。俺が心配してんのはテメェのことだけだ」

最原「……僕が? どうしたの?」



バキィッ



百田「寝てろ。俺はテメェを死なせるつもりはねぇ」



692:逆転の人 ◆SxyAboWqdc 2018/02/27(火) 20:30:46.50 ID:+hlAgWoq0

春川「……百田。最原は……」

百田「大丈夫だ。気絶してるだけだっつの」

春川「……どうしてこんなになってまで」

天海「気持ちは……わかるかもしれないっす」

天海「つい最近まで全員揃っていたものが、急にゴッソリ減ったんすよ?」

天海「……記憶を取り戻した俺なら共感できるっす。不安なんすよ。この状況が……」

夢野「文字通り、死ぬほどか」

夢野「……ああ、イヤじゃなあ……本当にイヤじゃ」

夢野「ウチら、なんでこんな目に遭ってるんじゃ? ウチらが何をしたっていうんじゃ?」

夢野「本当に……めんどい……!」ギリッ

茶柱「……」

夢野「……ウチはしばらく自分の研究教室に引きこもっておる。転子。最原を頼むぞ」

夢野「天海。デバイスはお主に渡す」ペイッ

天海「引き受けたっす」キャッチ!

茶柱「……」

天海(最原くんが探していたのは、あのノートパソコンか……)

天海(でも、この場にはないみたいっすね)

天海(……そもそも、白銀さんは一体どこに消えてるのだろう)

天海(今日のところは……調査はここまでっすかね)




残り時間 二日と九時間



699:逆転の人 ◆SxyAboWqdc 2018/02/28(水) 19:50:40.46 ID:/YMJXVPZ0

天海の私室

天海「……」キョロキョロ

天海「よし。大丈夫。大丈夫っすよね。今度こそ白銀さんはいない……!」

百田「夢野がいるってだけでも信じられねぇんだ。白銀が生きてるってのも変な気分だな」

百田「なんで出てこねぇんだ?」

天海「それは……」

天海「……その内に話をするっす」

百田「おう! そうか! じゃ、確認も済んだみてぇだから俺も帰るぜ!」

百田「……なんか悩みがあったらいつでも聞くぜ?」

天海「……ありがとう」

天海(そろそろ隠すのもバカらしいっすよね)

天海(でも……今の今まで隠していたことに関して、責められるのが怖いんすよねぇ)

天海「……明日になったら。落ち着いたら。今はそれどころじゃないから、か……」

天海「いつまで言い訳するんすかね。俺って」ポイッ

モノパッド「」ドサッ

天海「はあ……」



700:逆転の人 ◆SxyAboWqdc 2018/02/28(水) 20:00:49.81 ID:/YMJXVPZ0

カルデア

BB「はあー……暗雲、暗礁、暗黒、暗い話のオンパレードです」

BB「はやく巌窟王さんを帰還させないとヤバイですよねー……はあー……」

セミラミス「……」キョロキョロ

セミラミス「おい。BBよ」

BB「セミラミスさん? どうかしました?」

セミラミス「我がこの間に開発した新作ゲームがどこかに行った。なにか知らぬか?」

BB「ああ。あのバカゲーです? なくなったんですか?」

セミラミス「知らぬか。ならばよい……よくない。今、なんと? 我の知力を結集させて作ったゲームぞ?」

BB「いやだってアレ、あなたの趣味全開で面白さは保証するとしてもジャンル的には完全にバカ……」


ジャラジャラジャラッ



BB「シェイクスピアガード!」サッ

シェイクスピア「ぎゃあああああああああああ!」

セミラミス「二人そろって毒にもがけ!」ジャラジャラ



701:逆転の人 ◆SxyAboWqdc 2018/02/28(水) 20:10:31.44 ID:/YMJXVPZ0

スパコン室

王馬「……」

王馬「さようなら。『戦慄のファーストタイヤキング・オブ・バビロン』……楽しかったよ。バカだったけど」

王馬「これ作ったヤツはまず間違いなく甘党だったんだろうな……俺と趣味合うよ……すごく……」





セミラミス終身名誉たいやき工場長『さあ愚民ども! 今日も元気にタイヤキング!』

タイヤキング!

セミラミス『タイヤキング!』

タイヤキング!




王馬「目を閉じれば今もあの声が聞こえるようだ……」ホロリ



巴からの評価も上々の良ゲーだった



707:逆転の人 ◆SxyAboWqdc 2018/03/01(木) 20:06:45.79 ID:3rg9Fiiq0

カルデア

BB「はあ……はあ……危なかった。セミラミスさんが飽きるまで防げて助かった」

BB「ノリで盾にした通りすがりのシェイクスピアさんは雑巾ボロボロくんになっちゃいましたけど」

ボロシェイク雑巾「」チーン

BB「さぁてと。作業を再開しないと」


ブゥン


BB「ん……? この反応は――」

BB「……そう、ですか。彼に示されたのはそういう選択肢、か……」






BB「私にできることは、もうこれ以上はないのかもしれませんね」



708:逆転の人 ◆SxyAboWqdc 2018/03/01(木) 20:16:50.50 ID:3rg9Fiiq0

ズルッ ペタッ

巌窟王「……」

巌窟王(どれだけの時間が経ったのだろう。この光も、音もない空間に落とされて)


ズルッ ペタッ


巌窟王(腕一本で這いつくばり、少しずつ前へと進む)

巌窟王(流石に俺も、いい歳だ。アンジーを無傷で助けるなどという夢物語は抱いていない)

巌窟王(ただそこに向かうことだけが目的だ。後のことは、なんとでもなる)

巌窟王(そうだ。俺はいつでもそうだった。すべては辿り着いたときに始まる)

巌窟王(手遅れになっているというのなら、それもいいだろう。俺のやるべきことが変わるだけ。歩みを止めることはない)


ズルッ ペタッ


ザザッ


巌窟王「ぐ……」

巌窟王(またか。やはりアイツらも同様に処理しなければならないだろう。姦しいこと、この上ない)




――なんで……!



巌窟王(なんで自分がこんな目に、か?)

巌窟王(問うても無駄だ。理由などない。現実とは、そういうものだ)

巌窟王(だから諦めるな)



709:逆転の人 ◆SxyAboWqdc 2018/03/01(木) 20:24:44.42 ID:3rg9Fiiq0

ズルッ ペタッ

巌窟王(……アンジーのいる場所は、大雑把な方角はわかる。契約は伊達ではない)

巌窟王(距離はわからないが、まあ些末な問題だろう)


ズルッ ペタッ


「うわあ。めっちゃ悪趣味な空間ですね。なんか見覚えありますけど」


巌窟王「!」

巌窟王「……」

BB「やっほー。久しぶりですね、巌窟王さん」

巌窟王「……」


ズルッ ペタッ


BB「無視しないでくださいよ。酷いなぁ」



710:逆転の人 ◆SxyAboWqdc 2018/03/01(木) 20:31:08.36 ID:3rg9Fiiq0

BB「安心してください。本当にこっちに来たわけじゃなくって、この空間におけるアバターでしかありませんから」

巌窟王「……」ズルッ ペタッ

BB「さ。帰りますよ。巌窟王さん。そのために私はここに来たんです」

巌窟王「……」

巌窟王「ふざけるな」

BB「至極真面目ですよ。ていうか……」

BB「……そこまで酷い目にあってるんです。もう充分ですよ。逃げたところで彼らはあなたを責めません」

巌窟王「……白銀の差し金だな?」

BB「おそらくは。急にもう片方のデバイスが……」

BB「……あ。女神勢たちが勝手に生徒に渡した、あなたが持っていたのとは別のデバイスのことですけど」

BB「それが急に新世界プログラムに接続されたんですよ」

BB「デバイスの物理的な座標はパッとしないんですけどね。今まで最原さんたちが行ったことのないどこかから接続されているのでしょう」

巌窟王「……その情報を最原が知ったら喜ぶだろうよ」

BB「教えません。もう彼らのことは、私にとってはどうでもいいです」

BB「帰ってきてください。巌窟王さん」

巌窟王「……」



ズルッ ペタッ



711:逆転の人 ◆SxyAboWqdc 2018/03/01(木) 20:35:57.46 ID:3rg9Fiiq0

BB「……」

BB「いつでも傍にいます。この世界での私に、巌窟王さんを基の世界に帰す以外の権限はありませんが……」

BB「諦めるときになったらすぐご連絡を」

巌窟王「……」ズルッ ペタッ

BB「……」






BB(ああ、絶対あきらめないだろうなぁ。この光景が『彼』と凄く……被る)



712:逆転の人 ◆SxyAboWqdc 2018/03/01(木) 20:43:23.10 ID:3rg9Fiiq0

巌窟王「……」ズッ

BB(あれ。止まった)

巌窟王「……」フー

BB(そして息を整え始めた)

巌窟王「……!」カサカサカサカサッ

BB(そして機敏に動き始めたーーーッ!?)ガビーンッ

BB「待って!? なにか気に障ること言いました!?」

巌窟王「貴様が傍にいるという状況が一番堪えられん」

BB「逃げてるのか! 私からッ!」ガビーンッ

BB「ああ、本当に早い! なんて人!」

BB「もう絶対に助けてあげませんからねーーーッ!」

BB「……」

BB「まったくもう。頑固なんだから。そこら辺、計算外だったんじゃないですか。白銀さん」クスクス

BB「……最終的に勝つのはきっと、ああいう人ですよ」



717:逆転の人 ◆SxyAboWqdc 2018/03/02(金) 20:19:02.20 ID:fs8LWZgv0

赤松「……う……?」

赤松「ここは……どこ?」

赤松「あれ。私は……おしおきされて死んだはずじゃ……」

????「目が覚めたか?」

赤松「誰?」

赤松(……いや。本当に誰だろう。さっぱり心当たりがない)

赤松(まず間違いなく初対面なのは当然だけど、見てくれにも私と決定的な齟齬がある)

赤松(そう。例えるなら、大昔の、色が白黒の映画の中の登場人物が目の前にいるような……)

赤松(……長い髪。長い髭。優しい瞳。賢そうな喋り方)

ファリア神父「ファリア神父、と呼ばれていたこともあるな」

赤松「……聞いたことがあるような……あっ」

赤松(思い出した。監獄塔シャトーディフで、巌窟王さんが出会った……!)

赤松(思い出して……思い出して……やっとここがどこなのか理解した)

赤松「石造りの監獄……!」

ファリア神父「彼の原風景だ。そして、私はそこに残る影法師だ」

ファリア神父「……エドモン・ダンテスはどうやら、自分の心に踏み入らせるほどにキミたちを気に入っているらしい」

ファリア神父「あるいは……かつての私がそうなったように、キミたちのことを既に『家族』だと認識しているのやもしれんな」

赤松「家族……?」

ファリア神父「なにせ二人で過ごした時間が長かったものでな。私はエドモン・ダンテスのことを息子のように思っていたよ」

ファリア神父「この監獄に囚われ、すべてを失った者同士だったからな」

赤松「……確かに、私たちと同じだね。いや、ですね」

赤松(……見た目は酷いけど、ちょっとだけ心が安らぐ)

赤松(多分これは、かつて巌窟王さんが感じたクオリアそのままを投影していたからだ)

赤松(……彼といる空間と時間だけは、地獄の中にある唯一の安息だったんだ)

赤松(巌窟王さんと一緒にいた私たちも、そうだったから、とてもわかる)



718:逆転の人 ◆SxyAboWqdc 2018/03/02(金) 20:31:28.06 ID:fs8LWZgv0

ファリア神父「……私はこの世の地獄と呼ばれた、この監獄にてエドモン・ダンテスと出会った」

ファリア神父「彼は明日の幸福を約束された有望な船乗りだった」

ファリア神父「だが、ここに放り込まれた彼はすべてを失った。父も、婚約者も、誇りも」

ファリア神父「……彼は陰謀に巻き込まれていた。だが、あまりにも無辜であった」

赤松「え? 巌窟王さんが無辜? でも……」

ファリア神父「……彼が私と出会ったのは、収監されて五年のことだった」

ファリア神父「そのときの彼は、ここまでされて抗うという選択肢が完全に頭からすっぽ抜けていたのだよ」

ファリア神父「誰も憎んでいなかった」

赤松「……信じられない!」

ファリア神父「そう。私自身もまさにそんな反応だった。顔には出さなかったがな」

ファリア神父「だが……私が彼に対してさまざまな知識を授ける内に、彼の中には確かに叛逆の意思が芽生えた」

ファリア神父「今となってはそれがいいことだったのか悪いことだったのかわからないが……」

赤松「……」

赤松「いいこと、だったと思います。だってあなたのお陰で外に出れたのだから」

ファリア神父「彼を外に出せたことに関しては一切の疑いはない。だが……」

ファリア神父「私の与えた影響のすべてが、彼にとっていい影響だったとまでは思わんよ」

赤松「……チラつくな」

赤松(瞼の裏に、最原くんと巌窟王さんの並んでいる姿が見えた)

赤松(ファリア神父が巌窟王さんにあげたものは、紛れもなく希望だ。先に進む絶対の原動力)

赤松(……でも先に進めば、踏みにじらなければならないものが沢山ある)

赤松(苦しいことも、泣きたくなる光景も、耳をふさぎたくなるような酷い現実も)

赤松(……そして私たちは、そのすべてに対して何のリアクションも示さない、ということもできない)

赤松(生きたいのであれば、生きている限りは……抗わなければならないだろう)

赤松(望む望まぬに関わらず、攻撃せずにはいられない)



719:逆転の人 ◆SxyAboWqdc 2018/03/02(金) 20:48:05.65 ID:fs8LWZgv0

ファリア神父「……果たして、私は正しかったと思うかね?」

赤松「……」

赤松(難しいな。ここで正しい、と言ったら、巌窟王さんが最原くんに与えた影響のすべてをも肯定しなきゃならなくなるだろう)

赤松(なにせやったことが、ほとんど……いや)

赤松(まったく同じなのだから)

赤松「……ごめんなさい。正しいか、間違いだったのか。それを答える言葉を私はもちません」

赤松「でも」

赤松(そう。でもだ。巌窟王さんと私たちが出会ってしまった以上……正しさも、間違いも関係ない)

赤松(生きることは残酷だ。すべての生きる人の望みが過不足なくすべて叶うわけがない)

赤松(でも彼がいなかったら、私が死んでいたことも事実だ。なら答えは決まっている)

赤松「必要でした。私たちには彼が……モンテ・クリスト伯爵が、必要だった!」

赤松「この答えの前に、正しいとか間違いとか、そんなレッテルはあまりにも些末です。小さなことです!」

赤松「それに、それすらも私たちにはどうでもよくって……!」

ファリア神父「なに?」

赤松「――楽しかったから!」

ファリア神父「――」

赤松「一緒にいて楽しかった! 本当に、心の底から、楽しかったんだよ!」

赤松「辛かった! 苦しかった! でもそれはそれ、これはこれだよ!」

赤松「みんな仲間で、ずっと一緒に乗り越えてきて……だから!」

赤松「正しさも、必要さよりも、ずっと大事だったから! 私たちには、それがすべてなんです!」

ファリア神父「……」






ファリア神父「……答えは得た、な」



720:逆転の人 ◆SxyAboWqdc 2018/03/02(金) 20:52:25.14 ID:fs8LWZgv0

ファリア神父「……逆転の一手がある。それをキミに捧げよう」

赤松「え」

ファリア神父「必ず我が息子を助けてくれ。それだけが私の望みだ」

赤松「……」

赤松「そう、だ。思い出した」

赤松(私は、そのためにここに来たんだ。そのために、ここに残ったんだ!)

ファリア神父「ところで……」

赤松「はい?」

ファリア神父「私はエドモン・ダンテスのことを息子のように思っている」

赤松「はい。さっき聞きました」

ファリア神父「そして、おそらく彼の方も私のことを第二の父のように思っているはずだ」

赤松「はい……はい? まあ、そうかもしれませんね?」

ファリア神父「そして、ここまで踏み入れた以上、キミたちもおそらくエドモン・ダンテスから息子や娘のように思われていることだろう」

赤松「……」








ファリア神父「おじいちゃん、と呼んでくれてもよいぞ?」

赤松「謹んで遠慮させていただきます」



731:逆転の人 ◆SxyAboWqdc 2018/03/05(月) 18:57:20.22 ID:tZqMhoZS0

ザザッ……

――やめて。お願い……■■■■を置いて、幸せにならないで。


ザザザッ

――立ち上がれないくらい悲しんでいて。膝を折ったまま立ち上がらないで。

――そうじゃないと■■■■は……!


ザザザザッ


――忘れないで。忘れるくらいなら負けて。そこで終わって。■■■■と一緒に死んで。

――お願い。愛をこっちに向けて。こっちだけに向けていて!


ザザーッ



最原(……ノイズだらけの祈りを聞いた……気がする)

最原(ノイズが多すぎて誰の声だかわからない)

最原(アンジーさんの声に近い気がするけど……)

最原(……いや。彼女が僕たちの敗北を願うはずはないよな)



732:逆転の人 ◆SxyAboWqdc 2018/03/05(月) 19:02:03.69 ID:tZqMhoZS0

病室

最原「……ん……?」

百田「お。起きたか終一」

最原「百田くん? 僕は一体……」

最原(あ。忘却補正のお陰で、ノータイムで頭が冴えてきた)

最原「……そうか。百田くんに殴られて気絶してたんだった」

百田「げ。忘れてりゃいいもんを……」

百田「まあいい。ひとまず元気そうでよかったぜ」

百田「軽く輸血して、傷も再度塞いで、なんとかギリギリ取り繕ったんだ」

最原「ごめん。面倒かけたみたいで」

百田「……俺はよ。別にテメェのことを止めなくってもいいかって、一瞬思ったんだけどよ」

百田「だって、仲間のためなら俺もどんな無茶するか自分でわかんねーしな」

百田「ただ……」

最原「ただ?」

百田「ほら。そいつが泣きそうな顔してたから止めざるを得なくって」

最原「そいつ?」

最原(と、百田くんが指した先には、茶柱さんがいた)

茶柱「……すー……」スヤァ

最原(僕のベッドの端っこに頭を乗せて眠ってる)



733:逆転の人 ◆SxyAboWqdc 2018/03/05(月) 19:09:31.15 ID:tZqMhoZS0

百田「じゃ、俺はそろそろ出るぜ。夜の病院はマジでもうこりごりだからな」スッ

最原「あ、ああ。うん。だろうね」

最原(微妙に残ってるんだな。あの病院の迷宮化の記憶……)

百田「……茶柱に心配かけたことちゃんと謝っとけ」

最原「うん」


ガララッ スタスタスタ


最原「……茶柱さんを起こすべきかな。このままの体制で寝るの健康に悪そうだし」

最原「茶柱さん。起きて!」

茶柱「……すー……」スヤァ

最原「うーん……声だけじゃ無理があるかな。でも肩を揺さぶるために触ったら多分凄い悲鳴出された後で関節技だよなぁ」

最原「でも迷惑かけたし……」

茶柱「……」

最原「あ。起きた」

茶柱「だからあなたは、なんでそこまで聡いのに……はあ」スッ

最原(茶柱さんは上体を起こし、こちらに目を向けた。完全に呆れ顔になっている)



734:逆転の人 ◆SxyAboWqdc 2018/03/05(月) 19:11:26.01 ID:tZqMhoZS0

茶柱「それとも面倒を起こしたくないから、気付いてるのにわざと気付いてないフリをしているので?」

茶柱「もしそうなら、転子は別に……フラれても文句言いませんよ」

茶柱「こんな暴力女、こっちから願い下げだってキチンと言えばいいじゃないですか」

最原「……」







最原「??????????」

茶柱(ほ、本当にわかってない顔ーーーッ!? 嘘でしょ!?)ガビーンッ



735:逆転の人 ◆SxyAboWqdc 2018/03/05(月) 19:22:07.61 ID:tZqMhoZS0

最原「……なんかいい感じだね。今の時間」

茶柱「え」

最原「だってほら。いい感じに西日が差しこんで、夕日で部屋が赤くなってさ」

最原「小説のワンシーンみたいじゃない?」

茶柱(うわぁ。転子の言うことがマジでわからないから、気にも留めてない……だけど)

茶柱「確かに、なんか綺麗ですね」

最原「……みんながいつも通りにいればよかったのに。いつもみたいにバカ騒ぎしてくれていれば、きっともっと綺麗な景色だったのに」

茶柱「……そんなに不安ですか?」

最原「うん。不安だよ。みんながいなくなって、この学園が急に広く感じるようになったのがとても不安」

最原「うっかり泣いてしまいそうなんだ。寂しすぎてさ」

茶柱「……もう泣いてますよ」


ポロッ


最原「ん? あ、あははっ……ごめん。言ってる傍からダメだなぁ、僕」ポロポロ

茶柱「……」



ガバッ


最原「え……」

最原(一瞬、何が起こったのか理解できなかった)

最原(温かい。体中が……)

最原「……茶柱さん?」

最原(彼女に抱きしめられていることに気付くのに、本当に時間がかかった)



736:逆転の人 ◆SxyAboWqdc 2018/03/05(月) 19:30:25.72 ID:tZqMhoZS0

茶柱「本当、弱すぎてイヤになりますよ。だからすぐに泣き止んでください」

茶柱「泣きたいのはこっちなんですから。慰めている側が泣くわけにはいかないじゃないですか」

最原「え」

茶柱「転子は……あなたがいなくなってしまいそうで不安です」

茶柱「だから、転子は全力であなたを安心させます」

茶柱「全身全霊で、あなたを繋ぎとめて……そのために、あなたの傍を離れませんから……!」

茶柱「だから、あんな無茶もうしないでくださいよ。泣いたっていいし、弱音吐いたっていいですから!」

最原「……ねえ。茶柱さん。キミは優しい、いい人だけどさ」

最原「男子のことが嫌いじゃなかったっけ?」

最原「なんでここまでしてくれるの?」

茶柱「……わかりませんか?」

最原「うん。さっぱり全然まったくこれっぽっちも一ミリグラムたりとも心あたりがないよ!」ズバーンッ

茶柱「……」ブチッ





茶柱「好きだからですよッ! バカじゃないんですか!?」

最原「は?」

茶柱「……ハッ!?」

最原「……?」




ザザザッ……



最原(あれ……なんだろう。なにか『とても決定的な何か』が壊れたような気がする)

最原(気のせいかな?)




――だいきらい。みんな。



746:逆転の人 ◆SxyAboWqdc 2018/03/06(火) 20:26:58.14 ID:qTtjaG+R0

茶柱「……さん! ……らさん! 最原さん! 聞いてるんですか!」

最原「……はっ! 意識が別のところに向かってた!」

最原「何の話してたんだっけ。茶柱さんが男子嫌いで、男子に褒められてもまるで嬉しくないって死んだ顔で言ってたあたりだっけ」

茶柱「え?」

茶柱「……あ! 初対面だ! 初対面のことですよねそれッ! 話遡り過ぎってか、よく覚えてますね!?」

最原「そうか……僕のことが好きだったのか……そうか……」

最原「嘘か冗談にしては体を張り過ぎじゃない? 意図もさっぱりわからないし……久しぶりに難問だな……」ウーム

茶柱「いい加減にしないと第五の事件の被害者にしてさしあげますよ?」

最原「落ち着いて」ガタガタ

茶柱「……仕方ないじゃないですか。好きになってしまったものは」

茶柱「それとも……その、迷惑、ですか?」

最原「うん」キッパリ



ゴキンッ



最原(僕の首から出ちゃいけない音がーーーッ! ていうか視界が人間ではありえない角度に!)ガビーンッ



749:逆転の人 ◆SxyAboWqdc 2018/03/06(火) 20:49:39.07 ID:qTtjaG+R0

最原「自力で治せた……人体ってこんなプラモデルみたいな仕組みだったっけ」

茶柱「……フラれました……まあ当然ですが……」ズーン

最原「え。いや迷惑だと言っただけで特にフッた気は一切ないけど」

茶柱「え」

最原「ところで茶柱さん。もうそろそろ夜だし帰った方がいいんじゃない?」

茶柱(こ、この男死ィ~~~! 面倒臭いからこのまま話を有耶無耶にしようとしているー……!)ワナワナ

最原「あの……本当帰って……」テレッ

茶柱「あなたちょっと喜んでますよねぇ!? 普通に転子に告白されて嬉しがってますよねぇ!?」

最原「いや……うん。これで嬉しがらないヤツがいるとは思えないっていうか……」

最原「やっぱり茶柱さんってかわいいから」

茶柱「でも迷惑なんですよね?」

最原「状況が状況だから間違いなく迷惑だね!」


ゴキンッ



最原(そろそろ首が取れそう)



750:逆転の人 ◆SxyAboWqdc 2018/03/06(火) 21:12:00.21 ID:qTtjaG+R0

最原「……余計な話をしすぎた。うん。嬉しいよ、茶柱さん」

茶柱「そうですか。で?」

最原「え? 他になにか言うことあるっけ?」

茶柱「……その……付き合ってはくれないのですか?」モジモジ

最原「励ました直後に励まそうとした対象に重たい要求するとか凄い面の皮だね!」

茶柱「うぐう!」グサッ

最原「とは、思ってないけど。ええと……ひとまず待っててくれる?」

最原「この学園生活が終わったらさ、僕は……」






最原「僕の方から、告白するよ」

茶柱「え」

最原「ありがと。負けられない理由が一つ増えた」

最原「……無茶をしないことを約束できないけど、今度はもっとマシな勝利の方法を探すよ」

茶柱「……はい。必ず見届けます。約束ですよ?」ニコリ



754:逆転の人 ◆SxyAboWqdc 2018/03/06(火) 21:23:01.11 ID:qTtjaG+R0

白銀「かくして、二人の男女はめでたく結ばれましたとさ。めでたしめでたし」

白銀「……ま、悲しい約束だけどねー。おそらくどっちか死んじゃうし」

白銀「……ところでさ。物語に組み込まれる定型文でこんなのあるよね」

白銀「『死んだアイツらの分まで幸せにならないと』ってヤツ、さ」

白銀「……凄い欺瞞だと思わない? いくら幸せになってもさ……そこに死んだ人の居場所はないんだよ」

白銀「……そこにあなたはいないんだよ。アンジーさん」

アンジー「……違う」

白銀「なにが?」

アンジー「アンジーは、喜べるもん……終一のことも、転子のことも大好きだもん……!」

アンジー「欺瞞なんかじゃない!」

白銀「……」

白銀「そうは思ってないんじゃない? アンジーさんは、さ」

白銀「ていうか聞こえてるし」




――殺してやる。二人とも。憎いから殺す。絶対に殺してやる。



アンジー「違う! アンジーはこんなこと思ってない!」

白銀「ここは電子の世界。精神と魂の牢獄。かなり時間はかかるけど、その人の『抑圧した心の声』もキチンと反映できるんだよね」

白銀「他の人にはやってないよ! アンジーさんだけ特別!」


――だいきらい。みんな。みんな。アンジーのことを悲しまないみんなのことなんて死ねばいい。



アンジー「誰か助けて……アンジーは……こんなこと思ってない……」ポロポロ

アンジー「誰かあ……アンジーのことを……赦して」

アンジー「悪くないって言ってよ。アンジーはいい子だって……!」



755:逆転の人 ◆SxyAboWqdc 2018/03/06(火) 21:31:31.12 ID:qTtjaG+R0

白銀「可哀想だけどさ……この声に嘘はないよ」

白銀「そうやって泣いているアンジーさんも本心なんだろうけど」

白銀「皮肉なことにそうやって押さえつければ押さえつけるほどに……その闇は深くなる」

アンジー「あ、あ、あ……やめ……やめて……お願い。誰かアンジーを止めて」

アンジー「目を潰して。耳をもいで。もう何も感じたくない」

アンジー「怖い。怖いよお……こんな感情、知りたくない……!」


――憎い。世界が、この学園に生きているすべての生徒が。


白銀「……ふふっ。あははっ……あはははははは!」

白銀「あーっはっはっはっはっはっはっは!」

白銀「笑えるなぁ。巌窟王さんはずっとアンジーさんのそういう姿を見たかったはずなのにさ」

アンジー「え?」

白銀「気付かなかったかなぁ。巌窟王さんはまさに、アンジーさんのそういう『感情』をゆっくり育ててきたんだよ」

白銀「彼自身のポリシーか、あるいは身勝手な優しさか……信仰心のみで心が空っぽだったあなたのことが本当に気に食わなかったんだろうね」

白銀「だから全力であなたを育てた。その結果、ちゃんと感情は産まれた」

白銀「……その極致がここだよ。ねえ。アンジーさん。あなたは、こんなことなら誰も好きにならなければよかったと思うかもだけど」







白銀「それはつまり、巌窟王さんと出会わなければよかったと言っているも同然なんだよ」

アンジー「――」



756:逆転の人 ◆SxyAboWqdc 2018/03/06(火) 21:36:00.63 ID:qTtjaG+R0

――堕ちるのは楽だよね。

アンジー「やめて」

――他人に責任を押し付ける甘美をもう知ってる。

アンジー「やめ……」

――全部あの方が教えてくれたこと。

アンジー「あぐ……」

――楽な方。楽な方に向かうのはとても楽しい。

アンジー「……」

――彼のくれた感情のまま、進むことは間違いじゃない。

――間違いじゃないことは、正しいことでしょう?



アンジー「……神様……」

白銀(堕ちた……!)



ベシャッ


白銀「ん?」

白銀「……えっ」

白銀「なんで……!? なんでここにいるの!? まだ辿り着けるはずがないのに!」

アンジー「……?」





「アンジー……!」



763:逆転の人 ◆SxyAboWqdc 2018/03/07(水) 20:27:13.10 ID:GOaHLE4t0

アンジー「あ……あ……!」

アンジー(来てくれた! アンジーの希望! アンジーのすべて! アンジーの想像力の果てにいる至高のお方!)

アンジー(助けて! 助けて! あなたならそれが……!)

アンジー「え……」

白銀「まあでもどうでもいいか。そのナリじゃあ、ねえ?」

巌窟王「……」ウゾ

アンジー「……」

アンジー(そうだった。アンジーの令呪のせいで身動きが取れなくなっている隙に……バラバラに)

アンジー(アンジーのせいで……?)

アンジー「……」

アンジー「あ、ああああああ! 違う! 違う違う! 違うもん!」

アンジー「こんなの何かの間違い。こんなの……こんなの絶対に違う!」

巌窟王「アンジー……?」ウゾ



764:逆転の人 ◆SxyAboWqdc 2018/03/07(水) 20:32:16.58 ID:GOaHLE4t0

アンジー「助けてよ! アンジーを助けて! なんで!? なんでアンジーがこんな目に遭わないといけないの!?」

アンジー「ああ……やだ、やだやだやだ! 立ってよ! 倒れないでよ!」

アンジー「それができないのならせめて、アンジーのことを呼ばないでよぉっ……!」

巌窟王「……」

アンジー「何もかも……何もかも思い通りにならない! 誰も救ってくれない!」

アンジー「アンジーは何も悪くないのに……なんで!? どうして!?」

巌窟王「アンジー」

アンジー「気安く呼ばないでって言ってるでしょ……! お前なんか……お前なんか……!」







アンジー「アンジーの神様なんかじゃないッ!」



765:逆転の人 ◆SxyAboWqdc 2018/03/07(水) 20:37:51.74 ID:GOaHLE4t0

巌窟王「……白銀。貴様、アンジーに何を……!」

巌窟王「これは……」

白銀「うん! 茶柱さんと最原くんは両想いになったの! 全力で拷問して精神的に追い詰めた末にコレを見せたんだよ」ニコニコ

白銀「……あはっ。まあ理由がわかったからって、気休めにもならないんじゃない?」

白銀「どう? どう? アンジーさんに拒絶された感想は?」ニヤニヤ

巌窟王「……」

巌窟王(……俺が神ではない、だと? 今更、なにを当たり前のことを)

巌窟王(だが確かに……大泣きしているアンジーを抱きしめることすらできないというのは……)

巌窟王(いや。いい。ひとまずそれは、置いておこう)

巌窟王「感想を……聞きたいか?」

白銀「ん?」






巌窟王「……本当に?」ニヤァ

白銀「……!?」ゾクッ



766:逆転の人 ◆SxyAboWqdc 2018/03/07(水) 20:43:40.83 ID:GOaHLE4t0

白銀「気が変わっちゃった。エグイサル。もう一回痛めつけて」

白銀「……それで最初からやり直しだよ? 巌窟王さん」

エグイサル「」ガシャコンッ

巌窟王「……く、クハ……クハハハハハハハハ」

アンジー「うう……うううううううう……! 嫌い。イヤ。何もかも……みんな!」

巌窟王「そうだ。俺は神ではない。故にこの身が何かを創造することなどなく……!」

アンジー「ぜんぶ……ぜんぶぜんぶぜんぶぜんぶぜんぶ……!」

巌窟王「見せてやろう。俺の本分を……そして絶望しろ。それが地獄だ。つまるところ……」

白銀「エグイサル! やって!」

エグイサル「」グアンッ





巌窟王&アンジー「全部ぶち壊してやる――!」




バリバリバリッ ガシャアアアアアアンッ!


BREAK!



767:逆転の人 ◆SxyAboWqdc 2018/03/07(水) 20:50:20.62 ID:GOaHLE4t0

白銀(直後、吹き飛ぶエグイサル。空中で分離し、その破片が小さい順に粉々に燃え尽きていく)

白銀「……えっ」

巌窟王「クハハハハハハ……」

巌窟王「クハハハハハハハハハ」

巌窟王「ハーーーーーッハッハッハッハッハ!」


ボオオオオオオオオッ


白銀「え、ちょ……な!? な、なに!? 何が起こってるの!?」アタフタ

巌窟王「ああ! 素晴らしい! なんという量! そして質……! 想像以上か、夜長アンジー!」ボォオウッ

アンジー「うう……うううううううう……!」

白銀「そんな……巌窟王さん。あなた、なんで……」

白銀「なんで二本足で立ってるの!?」ガビーンッ

巌窟王「クハハハハハハハハ! バカめ! 霊核にあえて傷を付けなかったのは失敗だったな、白銀ェ!」ギンッ

巌窟王「俺は巌窟王! この身は永遠の復讐鬼なれば!」

巌窟王「ああ、そうだ! この身がある限りは……絶対に! 確実に……貴様を燃やし尽くすまでは永劫に!」

巌窟王「俺の歩みが止まることなどない!」

白銀「……!?」

巌窟王「……アンジーが世話になったな? 纏めて返そう」

巌窟王「せいぜい足掻いてみせろよ……!」



768:逆転の人 ◆SxyAboWqdc 2018/03/07(水) 20:56:36.41 ID:GOaHLE4t0

白銀「はは……あはは。まだ大丈夫だよ。だって、エグイサルはこれだけじゃないもん!」

ガシャガシャガシャコンッ!

白銀「まだ出て来るよ。まだまだ出て来るよ! これだけの物量をあなたは絶対に凌駕できない!」

巌窟王「……今までならば、そうだったかもしれんな」

巌窟王「アンジー」

アンジー「……」

巌窟王「……遅くなった」グシャ

アンジー「髪が乱れる。気安く触らないで」

巌窟王「フン。気を害したのなら謝罪しよう。では……やれるな?」

アンジー「……」

巌窟王「白銀。長い間、ずっと見せていなかった切り札を見せてやろう」

白銀「え」

巌窟王「我が往くは恩讐の彼方……!」ボオオオオオッ

巌窟王「見るがいい! これこそが我が魂を燃やす毒炎! 不死の者すら焼却する究極の復讐劇!」

アンジー「宝具、真名解放――!」





巌窟王「虎よ、煌々と燃え盛れ!」



774:逆転の人 ◆SxyAboWqdc 2018/03/08(木) 20:09:23.11 ID:5YCDjsIw0

ボオウッ

ドカァァァァァァァンッ!


白銀「んー……? なにこれ。前にも見た分身能力じゃない。この程度なら……」

白銀「ん!?」

巌窟王「バカめ。いつ俺が本気を出した?」

巌窟王2「あの程度、普段の俺に比べれば児戯に等しい」

巌窟王3~97「さあ! 存分に味わえ! これが正真正銘の、俺の力!」

巌窟王「すなわち……本物の『虎よ、煌々と燃え盛れ』である!」

白銀「……」チラッ

巌窟王98「アンジー。乱れた髪を整えてやろう」シャッシャッ

巌窟王99「肌の状態も良くない。クリームを使おう」ヌリヌリ

巌窟王100「パーカーがほつれているぞ」ヌイヌイ

アンジー「むー! やー!」イヤイヤ

白銀(舐めてるーーーッ! 言ってる傍から本気じゃない! 分身が三体アンジーさんの世話してるし!)ガビーンッ!



777:逆転の人 ◆SxyAboWqdc 2018/03/08(木) 20:24:26.93 ID:5YCDjsIw0

白銀「やっちゃえエグイサル! アンジーさんのみを仕留めればひとまずこの場は収まる!」

エグイサルs「」ガシャコンッ

巌窟王2「クハハハハハハハハハ!」ビュンッ

エグイサルだったもの「」バキムッ

白銀「……」

白銀「は、早……!?」

白銀(でも)

巌窟王(言ってみたものの……微妙にこちらの戦力が足りん)

巌窟王(やはり相手のテリトリーでの戦闘は明らかに悪手だな)

白銀(それに……この感じ。巌窟王さんの回復は『見てくれだけ』だ!)

白銀(突貫工事でそれっぽく仕立て上げただけのガタガタな施工! 大丈夫! 壊しきれる!)

巌窟王(だからと言って……止まるわけにはいかないだろう)

巌窟王「本当に頭にきている。アンジーの恨みは真っ先に清算させてもらうぞ」

白銀「戯言を! エグイサル! 押しつぶして!」



778:逆転の人 ◆SxyAboWqdc 2018/03/08(木) 20:35:07.79 ID:5YCDjsIw0

「声は静かに。私の影は世界を覆う。超超超限定!」

白銀「?」

巌窟王「!?」ガビーンッ




「チープ・カースド・カッティング・クレーター!」



潰れたエグイサル「」バキバキバキッ!

白銀「なっ!?」

巌窟王コスBB「ふっ……舐めるなよ白銀さん。じゃなくて白銀。私っ……じゃなくて俺は復讐鬼だ」

巌窟王コスBB「復讐鬼なので、性転換程度も造作もない!」ビシィッ

白銀「……?(何コレ? 誰? という目)」

巌窟王「……(俺に訊くな。答えたくないという態度)」ズーン

白銀(まあいいや。大丈夫! まだこっちに勝ちの目はある!)

巌窟王(依然として勝利は遠い、か!? 知ったことか! 俺は……俺は……!)ボォウッ!



779:逆転の人 ◆SxyAboWqdc 2018/03/08(木) 20:44:16.92 ID:5YCDjsIw0

巌窟王「うおおおおおおおおおおお!」

バキバキバキンッ

白銀(残りエグイサル……三〇〇! 過半数が蒸発! でも……!)

巌窟王「……」ゼーゼーッ

白銀「バテてる?」

巌窟王「まさか」ニヤァ

白銀「ふっ。そんなこと言っちゃって……」チラッ

巌窟王100「生姜湯だ。温まるぞ」

アンジー「……」プイッ

白銀(アンジーさんの世話係が減ってる。巌窟王さんの余裕はハッタリだ!)

白銀「……」

白銀(ここまで追い詰められてもアンジーさんの世話はやめないんだなぁ……)ズーン



780:逆転の人 ◆SxyAboWqdc 2018/03/08(木) 20:54:49.54 ID:5YCDjsIw0

白銀「なんでそんな虚勢を張れるの? あなたをそこまで突き動かしているものはなに?」

巌窟王「……信じているからだ」

白銀「え?」

巌窟王「俺は今まで見た物を信じる。ここに至るまで渦巻いていた生徒たちの怒り、悲しみ、後悔……」

巌窟王「それらは決して偽物ではなく、だからこそアイツらは強くなれたのだ」

巌窟王「貴様のチャチな幻影などで、決して霞むことのない真作の記憶。それがある限り、貴様の作る死の映像なぞ茶番に過ぎない!」

白銀「聞くだけ無駄だった。さようなら。今度こそ、永遠に」

エグイサルs「」ガチャリッ

BB(一斉砲撃の準備……決めて来る気ですか! 流石にコレは防ぎようが……!)

巌窟王(いや……まだだ)

巌窟王(こんなところで終わるわけには……!)






赤松「頑張れ! 巌窟王さん!」

巌窟王「!」

白銀「……は!?」

巌窟王「……宝具、再発動!」ボォウッ!




ドカァァァァンッ!



785:逆転の人 ◆SxyAboWqdc 2018/03/09(金) 20:48:14.58 ID:1vYgS0mY0

白銀(段々と減っていったはずの分身がまた戻ってきた……!?)

白銀(まずい! 押し返される! いや、それ以前に!)

白銀「そんなバカな! なんで赤松さんがこんなところに! あなたたちだけは絶対に脱出できない設定にしたんだよ!?」

赤松「うん。絶対に脱出できなかったよ! たった一つ、あなたが計算ミスをしてくれなければ永遠におしおきされてた!」

BB「このプログラム世界で起こりえる計算ミス……?」

BB「……巌窟王さん絡みの何かですね。不正なプログラムである彼以外に、この世界に例外は起こりません」

赤松「……」

赤松「え? 誰?」キョトン

巌窟王「気にするな赤松。それより……」

巌窟王「無事でよかった」ホッ

赤松「え。そんな素直に心配されてたとは思わなかったな……」テレッ

白銀「ぐ。でも、まだ私にだって勝ちの目は……!」チラッ






巌窟王95「体の関節がバキバキだぞ」

巌窟王96「長い間拘束されていたのだろうな。マッサージを」ポキポキ

巌窟王97「歯磨き粉はイチゴ味とメロン味、どちらがいい?」

アンジー「いー、やー!」ジタバタ

巌窟王98「暴れるな! 手元が狂う!」

巌窟王99「アンジーがさっきから反抗的だ……」ズーン

巌窟王100「クハハ! 何、この年頃の娘にはよくあることだ! 気にするな!」ギンッ

白銀(世話係が増えてるーーーッ!)ガビーンッ

赤松「セルフでカウンセリングしてる……」



787:逆転の人 ◆SxyAboWqdc 2018/03/09(金) 21:08:34.57 ID:1vYgS0mY0

白銀「そうだ! 魔力だって無限じゃない! どんなエネルギーにだって果てはある!」

白銀「だから今までその宝具は使えなかったんだもん! こんな無茶が続くはずが……」

巌窟王(チッ。無理をしていることくらいは流石に露呈するか)

赤松「いや。白銀さん。あなたは……!」




「ヒャッハーーーッ! 終わりに決まってんだろクソ地味ブス!」

「例外は一度起こったら二度、三度と連鎖するものだヨ?」

白銀「――」




ザンッ バチバチィッ!



入間「時間はかかったが、このプログラム世界の極一部の権限を掌握。真宮寺の日本刀を最上位に変えた。なんでも切れるぜ?」

真宮寺「剣の扱いに関してはド素人だけど、流石にここまで強いと話が違うよネ?」

白銀「な、んで……!?」ガタガタ

赤松「白銀さん。これが私の……私たちの、逆転の一手だよ!」ズギャアアアアンッ!



788:逆転の人 ◆SxyAboWqdc 2018/03/09(金) 21:17:21.61 ID:1vYgS0mY0

回想

赤松「自力で脱出する? そんなことが……」

ファリア神父「可能だ。事実、キミはここへ既に脱出している」

ファリア神父「タイミングは、エドモン・ダンテスが『彼女』を攻撃し始めた直後がベストだろう。一人二人ならともかく全員脱出するのだからな」

赤松「そうだ。そもそも、なんで私だけが脱出できたんだろう」

ファリア神父「彼女はキミたちの味わう苦痛を、エドモン・ダンテスへと直接流れるように、一種のリンクを作った」

ファリア神父「それは間違いなく彼を痛めつける猛毒と化したが……そこに計算違いが生じた」

ファリア神父「つまり『キミたちの苦痛』が彼に流れたのと同じくして『巌窟王としての精神の強さ』がキミたちに流れ込んでいる」

赤松「!」

ファリア神父「本当に少量だがね。ちなみにキミが巌窟王の内面である『ここ』に来れたのも、このリンクのお陰だ」

赤松「……私にやれますか?」

ファリア神父「……」




ファリア神父「待て、然して希望せよ、だ」



789:逆転の人 ◆SxyAboWqdc 2018/03/09(金) 21:31:12.10 ID:1vYgS0mY0

赤松「私たちは巌窟王さんから色々なものを貰って来た。希望も、強さも! 前に進む動機だって!」

赤松「やり直しのチャンスもくれた!」

赤松「だから全力で走ったんだよ! みんなの場所へ! そして、あの死の牢獄から脱獄させた!」

赤松「白銀さん! 私の、本当の終局。あの日投げた砲丸の先……やっと届いた!」

赤松「ここが私の『殺意の行方』だ!」



ザッ


東条「さあ。仕上げよ」

星「散々に俺たちを甚振ってきたツケは、キッチリ払ってもらうぜ」

獄原「……白銀さん!」

白銀「……ははっ。あははははははっ! ああ、役立たずたちがゾロゾロと!」

白銀「あなたたちなんかが揃ったところで、絶望には勝てない! 何もできやしない!」

白銀「モノクマや巌窟王さんとは違うんだよ!? 今まで殺し合って来たオマエラに、何ができるっていうの!?」

白銀「こんなところで終わらない! 終わるもんか――!」

巌窟王「いや」


ヒュンッ バキンッ


白銀「え――」

巌窟王「これで終わりだ――!」

白銀「……」

白銀(エグイサルが、一気に、すべて……!?)




バキバキバキッ ガシャアアアアアアアンッ!



COMPLEAT!



790:逆転の人 ◆SxyAboWqdc 2018/03/09(金) 21:37:47.94 ID:1vYgS0mY0

白銀「なんで……?」

巌窟王「先ほど俺も気付いたのだが……どうも頭が先ほどより軽い」

巌窟王「むしろいつもより調子がいいくらいだ」

BB「……ああ! なるほど! 全員が解放されたが故、ですね!」

BB「このリンクが今となっては巌窟王さんの強さを補強する支柱として機能しているのでしょう」

東条「私たちの心は今となっては一つよ。この繋がりが、あなたを追い詰める最後の詰めとなったの」

星「皮肉だな、白銀。お前さんはあまりにも俺たちを舐めすぎてた」

獄原「……もうゴン太たちは弱くなんかない。少なくとも、巌窟王さんの背中を押すことはできる!」

獄原「やっと……やっとここまで辿り着けた……!」

白銀「……」

巌窟王「さあ。随分と時間はかかったが」ザッ

白銀「ひっ……!」

巌窟王「『正しいクロを指摘できればクロだけがおしおき』。貴様が定めたルールだろう?」ニヤァ



795:逆転の人 ◆SxyAboWqdc 2018/03/10(土) 19:08:39.26 ID:nI42rhS20

入間「よくも散々俺様を絞殺してくれたなぁ! ものすごく苦しかったんだぞう!」プンスカ!

真宮寺「キミが怒るとシリアスな空気が一気にポンコツ化するから黙ってた方がいいヨ」

真宮寺「さてと。手を貸す必要はあるかな? 巌窟王さん」

巌窟王「無用だ」



ブツンッ


巌窟王「……慌ててリンクを切ったか? 今となっては無駄だがな?」ザッ

白銀「!」ビクッ

白銀「ま、待って! みんな無事だったでしょ!? 許してよ! ね?」

巌窟王「無事?」

巌窟王「……誰が?」

アンジー「……」

赤松「アンジーさん……あなたともリンクしてたから、微妙に状況は伝わってたよ」


ギュッ


赤松「ごめんね……助けるの遅れて!」

アンジー「……ん……」



797:逆転の人 ◆SxyAboWqdc 2018/03/10(土) 19:21:40.06 ID:nI42rhS20

巌窟王「サーヴァントとして腹立たしいことこの上ない」

巌窟王「大事なときにずっと傍にいなかった俺自身が……」

巌窟王「この状況を作り出したこの学園が! この世界が!」

巌窟王「一番腹立たしいのは貴様だ! 白銀つむぎ!」


ボォオオオウッ


巌窟王「楽に死ねると思うなよ……!」

白銀「う、た、助け――!」


バァンッ


白銀「きゃあああああああああっ!」

巌窟王「ひとまず足の爪先から潰した。今度は俺が……貴様を見下す番だ」ゴゴゴゴゴゴゴ

白銀「痛い。痛いよう! 助けて。やめて! 死にたくない!」

ジュウウッ

白銀「あああああううう!」ジタバタ

巌窟王「俺を見あげるな。うっかり左目を蒸発させてしまっただろう。まだ先の予定だったのだが?」



798:逆転の人 ◆SxyAboWqdc 2018/03/10(土) 19:32:37.65 ID:nI42rhS20

巌窟王「ひとまず這い這いでも動けないように、各所の主要な関節は『しばらく麻痺って動かない』程度まで叩きのめしておくか」バキッ バキッ

白銀「あぎゃああ……!」

入間「ケケケ。ざまーねーぜ。いい気味だ」ケケケ

真宮寺「……そうだネ」フゥ

赤松「……真宮寺くん? どうかしたの?」

真宮寺「巌窟王さんと喧嘩をしたいわけじゃないし、彼に対する発言権はとっくのむかしに消え去ってるから、言わないヨ」

東条「……」

東条「赤松さん。そのままアンジーさんを抱きしめてて」

赤松「え?」

東条「ここから先は……更に酷くなるわよ」

巌窟王「さて。下準備はこれで終了だ」

巌窟王「……よく手入れされた爪だな。まずはアンジーへの贖いとして貰っていくぞ。すべてな」

白銀「や、やめて! それだけは……!」

巌窟王「まだ宝具の残滓は残ってる」

巌窟王2「少しずつ少しずつ貴様からすべてを奪って行こう」



グチャッ


白銀「ぎ、あ、いや、あああああああああああああああ!」





入間「……」

入間「あ、あれ。なんか想像と違う。やりすぎじゃねぇ?」アタフタ

星「……そうだな。だが……」

獄原「……もうゴン太たちに巌窟王さんを止めることはできないよ」

獄原「全部……手遅れだ」

赤松「……」



799:逆転の人 ◆SxyAboWqdc 2018/03/10(土) 19:41:49.31 ID:nI42rhS20

巌窟王「服が邪魔だ。もう貴様にはいらないものだし、剥ぐぞ」ビリィィィッ

白銀「や、うあ、やめ……」

巌窟王2「気が変わった。背骨を砕いて二度と歩けないようにしてやろう。もっと後にする予定だったが我慢できん」バキイッ

白銀「ごっ……」

巌窟王3「その白い肌が目障りだ。背中に二度と消えない傷を付けよう。満遍なく」

ジュウウウウッ

白銀「あああああああああああああっ!」

巌窟王4「思ったのと違う。背中の皮を剥いだ方が上手くいくだろうか」


メリッ ブチッ


白銀「かっ……げっ……」

赤松「……」

星「……これで良かったんだ。アイツは誰にも救えない」

星「こうなるしかなかったんだ」

赤松「本当にそうだったのかな……」

赤松(復讐より真実を選んだ彼らなら……違う答えを見つけられるんじゃないのかな)

赤松「……もしも、なんてもう、ないか。私たちはそこまで器用な生命体じゃない」

赤松(それに……こっちが取り返しのない傷をそれぞれ受けたのは間違いない)

赤松(体は無事でも、心がもう……!)

アンジー「……」



800:逆転の人 ◆SxyAboWqdc 2018/03/10(土) 19:48:40.13 ID:nI42rhS20

バキッ ゴリッ グチャッ ベチャッ ブチッ

白銀「……すけて……」

赤松「……」

白銀「たすけて……おねがい、だれか……」

入間「ざ、ざけんじゃねーよ。誰がテメェなんか……テメェ、なんか……」

入間「……」

入間「あ、あの。巌窟王。ちょっとやり過ぎじゃねーかなー、なんて。ハハハ」






巌窟王s「……」ギロリッ

入間「あっ、ナンデモナイデーッス。俺様はただのゴミでーっす」ヘコヘコ

真宮寺(弱い……)

東条(無理もないけど。あの眼光、心臓が止まりそうよ)



801:逆転の人 ◆SxyAboWqdc 2018/03/10(土) 20:07:49.30 ID:nI42rhS20

巌窟王「さて……俺の気が済めば途中でやめてやろうと思ったのだが……」

巌窟王「妙だな。まったく気が晴れない。楽しいがな」

白銀「……」

巌窟王「……つまらないマネをするな。死んだフリなど無駄だぞ」ゲシッ

白銀「げほっ……」

巌窟王「……やはり殺すしかないか」ボォウッ

白銀「!」

白銀「うう……うううううう!」ガタガタ

赤松「待ってよ巌窟王さん。白銀さんから情報を引き出す前にそんなことする気?」

巌窟王「……絶対に喋らないぞ」

入間「はあ? 完全に心が折れてるように見えるぜ? 今ならなんだって……」

巌窟王「コイツはそうだろうな。だが『コイツを見ているヤツ』は許さないだろう」

巌窟王「俺がそういう手段を取ろうとした瞬間、ヤツはコイツを先回りして殺す」

星「……誰のことを言っているんだ?」

巌窟王「後で話そう。ともかく、そんなことになるくらいなら」

巌窟王「俺が殺す」

真宮寺「……最後に言いたいことはある? 覚えておいてあげるヨ」

白銀「……死にたくない……」

真宮寺「……ごめん。思ったより遥かに救えない人だったヨ」

巌窟王「フィナーレだ」ボオオウッ

白銀「アンジーさん! 止めて! 巌窟王さんを止めてよお!」

アンジー「……」






アンジー「死んで」

アンジー「……もう二度と声を聞きたくない」



804:逆転の人 ◆SxyAboWqdc 2018/03/10(土) 20:15:22.16 ID:nI42rhS20

白銀「――」

巌窟王「オーヴォワール」ボォウッ



ボオオオオオオオッ



白銀「うわあああああああああああああ!」

赤松「……」

赤松(白銀さんが燃える。全身が。すべて)

赤松(……吐き気を催すほど酷い臭い。そして光景だった)

赤松(ここに来て見たものの中で一番、酷い。でも目を逸らすことも許されないような……そんな強制力もあった)

白銀「あああああああああああ……ああああああ……」

白銀「……あ、ははっ」

赤松(……あれ。今、笑った?)

入間「……死んだ」

赤松「え? あ……」

赤松(それきり、白銀さんは動かなくなった)

赤松(……人間が死ぬのなんて、こんなものだった。思ったよりはなんてことはない)

赤松(天使が降りてきて、天国に連れてってくれるなんてことも当然なくって……)

赤松(……後に残ったのは耳が痛いほどの静寂と、ヒトの燃えカスだった)

赤松(誰も何も言えなかった)



807:逆転の人 ◆SxyAboWqdc 2018/03/11(日) 20:01:05.01 ID:DqFv2MaU0

巌窟王「……さて。いつまでもこうしているわけにもいくまい」

赤松「!」

巌窟王「お前たちはどうするのだ?」

入間「あ? どうするもこうするも、さっさとこの世界から出たいに決まって……」

真宮寺「ん? 待って。巌窟王さん。それを聞いてどうするつもり?」

巌窟王「質問に質問で返すな」

真宮寺「いや流石にこれは応えてもらわないと。だって巌窟王さん、もう僕たちに付き合う理由がないでしョ?」

星「令呪がないから、だな?」

巌窟王「ム……」

巌窟王「……」

BB「ああ。それはですねみなさん。わざわざ説明するまでもないと思うのですが」

BB「巌窟王さんはもう、あなたたち全員のことが大好きになっちゃったみたいで。最後まで手を貸したいそうですよ?」

巌窟王「……余計なことを言うな」ペシッ

BB「きゃんっ」

東条「ふふっ。あなたって人はどこまでも……」

東条「……」

真宮寺「……」

星「……」

入間「……」

獄原「……」





全員「誰?」キョトン

BB「てへりんっ」キャルンッ



808:逆転の人 ◆SxyAboWqdc 2018/03/11(日) 20:12:29.15 ID:DqFv2MaU0

五分後

赤松「……BBさん!? こんな感じの人だったんだ! 巌窟王さんとコンビ組んでたイメージだったからもっとこう……!」

星「もっと歳食ってると思ってたぜ。まさか俺たちとそう歳が変わらない女子だったとは……」

巌窟王(AIに年齢という概念があるかどうかは微妙だが……)

BB「自分から招いておいて、白銀さんの反応がいまいちだった理由が今ごろわかりましたよ……みんなそう思ってたんですか」

BB「……まあいいです。さっさと外に繰り出すとしましょう。最原さんや夢野さん、天海さんなどの記憶を取り戻した組が心配してましたよ?」

赤松「えっ」

東条「……やっぱり夢野さんは死んでなかったのね」ホッ

入間「んだよ。蓋を開けてみりゃ、俺様たちの大勝利じゃねぇか」

入間「新世界プログラムの中での出来事とはいえ白銀も死んだし、これでコロシアイは終了だよな! ケケッ!」

巌窟王「いや。まだだ。白銀は死んでいない」

入間「は?」

アンジー「……今そこで消し炭になってるつむぎは……本物じゃないから」

東条「えっ」

BB「アルターエゴ……つまりデータ上に作ったよく出来た分身ですね。残念ですが白銀さん本人じゃありません」

真宮寺「結局、決着は外の世界に持ち越しというわけだネ」

獄原「うん。いいよ。今度はゴン太たちが白銀さんを捕まえる番だ!」

赤松「……捕まえて、どうするの? また殺すの?」

巌窟王「当然だろう?」

赤松「……本当にそれでいいのかな」

巌窟王「何が言いたい?」

赤松「……ううん。巌窟王さんに付いていくと決めた私が言うべきことじゃないよ」

赤松「きっとここから先は、最原くんたちが見て決めることだと思う」

巌窟王「……」



809:逆転の人 ◆SxyAboWqdc 2018/03/11(日) 20:23:34.29 ID:DqFv2MaU0

巌窟王「最原か。やはり最後には、こうして対立することになるか。俺はヤツの沙汰を最原に譲る気は毛頭ない」

赤松「一応白銀さんにはここでこうして復讐したわけだし、流石に譲ってもいい気がするけど」

巌窟王「断る。絶対に」

赤松「また最原くんが苦労しそうだなぁ」

巌窟王「そうか? ヤツも案外、俺との論争を楽しんでいるかもしれんぞ?」

入間「え゛」

星「……いや……毎回胃腸の壁を削るような顔をしてたような……」

巌窟王「ふ。バカめ。好きで突っかかってるわけではないとでも?」

獄原「好きで突っかかってたのかな!?」

東条「……いえ。普通にひたすら困った顔をしてたわね」

巌窟王「ふっ。なんにせよ、また対立する可能性は高いだろう。ヤツは俺のことが嫌いらしいからな」

赤松「はい?」

巌窟王「基本的に調停と縁のある者は俺のことが嫌いらしいからな」フッ

赤松「……」

赤松(最原くんカワイソー……)ズーン

東条(憧れの人からこんな勘違いされてると知ったら、また精神が削れちゃうでしょうね。彼)

BB「さあって! それじゃあ一緒に外に――!」ブツンッ

赤松「ん? あれ?」

星「……急に消えたぞ」

獄原「……えっ!? 急に消えちゃった!? なんで!?」ガビーンッ

巌窟王「デバイスとの接続を切られたか……? となると……」

赤松「外の世界の白銀さんに、気付かれた!?」




ズガンッ



810:逆転の人 ◆SxyAboWqdc 2018/03/11(日) 20:33:56.53 ID:DqFv2MaU0

巌窟王「……無事か!?」

赤松「あ、ああ。うん。なんとか……って、東条さん!?」

東条「……外の世界の傷が、この世界にフィードバックされたようね。残念よ」フウ

真宮寺「でも既に結構治ってるよネ。完治ももうすぐじゃないかな」

巌窟王「待て。外の世界の傷が反映されただと?」

入間「どうした? 巌窟王。うっかりトランクスに夢精したような顔してよ」

巌窟王「赤松! アンジーは!」

赤松「え? ……きゃあっ!?」

ボタッ……

アンジー「う……!」

獄原「あ、アンジーさん!? どうしたの!? 何があったの!? 血がいっぱい出てるよ!?」アタフタ

巌窟王「白銀ぇ……!」ギリッ

東条「……死なない最低限の処置はされているようね。でも最低限すぎて、このままだと三日持つかどうか……!」

巌窟王「一刻も早く外に出るぞ! 虎よ――」

ガシッ

星「落ち着け巌窟王。アンジーの体への負担を考えろ」

巌窟王「……」

真宮寺「入間さん。さっきこの世界の権限の一部を乗っ取ってたよネ。それでなんとかできない?」

入間「今やってる! ああクソッ! ダメだ! 全部『外にいる誰か』に奪い返されちまった!」




白銀『ふふっ……ふふふふふふふ……!』





赤松「……そんな! ここまで来て、こんなことが!」

東条「私たちに自力で外に出る手段はない。巌窟王さんは……」

巌窟王「無理だな。ここは新世界プログラムの奥深くだ。できないことはないが時間が足りなさすぎる」

巌窟王「アンジーの魔力供給が十全であればまったく問題はなかったが……」

入間「そのアンジーがピンチなわけだから無理ってか? クソッ! ネコとタチのジレンマかよ!」

東条「まったく意味はわからないけどジレンマという部分以外は不正解だと思うわよ」

赤松「終わり……なの? ここまで来て、こんなのってないよ!」

巌窟王「くっ!」



811:逆転の人 ◆SxyAboWqdc 2018/03/11(日) 20:37:18.73 ID:DqFv2MaU0

カルデア

BB「あれ。急に接続切られちゃいましたね」カチカチ

BB「……仕方ない。ひとまず後で最原さんたちに、みんな無事ってことだけは伝えておきますか」

BB「……そういえば。アンジーさんに渡されたはずの女神の加護、どこ行っちゃったんでしょう」

イシュタル「ん? 女神の加護? 巌窟王が焼却して捨てたって言ってたけど?」

BB「いやいや。女神本体が生きてる限りは焼いて捨てても効力は消えませんよ」

BB「一応回収しておきたかったんですけどねぇ。うーん……捨てたというのなら、まあ、他の誰かに所有権が移ってるのかなー」

ナーサリー「所有権が移るとどうなるの?」

BB「焼かれた分、効力は下がるでしょうが、それなりの効果は発揮すると思いますよ」







BB「少なくとも病気にはかからなくなるでしょうね」



819:逆転の人 ◆SxyAboWqdc 2018/03/12(月) 18:59:16.14 ID:BGKE+BFl0



最原「よし。傷口は一応塞がった。大丈夫。行ける」

最原「……行こう!」




天海の私室

天海「……ぐー」スヤァ

天海「ハッ! 朝か……成長した妹に『お兄ちゃん』と呼ばれる夢見てた」

天海「うーん! 夢見が良かった! なんていい朝だ!」

ガララッ

全裸の王馬「やっほー天海ちゃん! お風呂借りてるよー!」スッポンポォォォン

天海「最悪の目覚めだーーーッ!」ガビーンッ





夢野の研究教室

夢野「すかー」スヤァ

春川「……んん」スヤァ

百田「……なんで二人そろってこんな場所で寝てんだ?」



残り時間 一日と十七時間



820:逆転の人 ◆SxyAboWqdc 2018/03/12(月) 19:11:39.85 ID:BGKE+BFl0

天海「なんで王馬くんが俺の部屋にいるんすか!?」

王馬「天海ちゃんが寝てる間にピッキングして入った」パォォォォオン

王馬「なんか凄くいい夢見てたみたいだったから起こすに起こせなくって暇で暇で……」イスカンダルゥゥゥゥ

王馬「まあ色々物色した末に証拠隠滅もかねて風呂に入ろうって思ってさ!」ロンゴミニアドォォォォ

天海「ひとまず下半身くらいはタオルで隠してくれないっすかねぇ! 凄く気になるんすけど!」

王馬「あーい」シュルッ

王馬「……ところでさ天海ちゃん。俺、白銀ちゃんの動機ビデオは見てないはずなんだよね」

天海「いきなりなんすか?」

王馬「いや。天海ちゃんの動機ビデオを見て気になったことがあってさ」

天海(マジで物色してる……)

王馬「……やっぱり天海ちゃんや夢野ちゃんの言う通り、俺はどうも記憶を弄られているらしいってことに気付いたんだ」

王馬「だって『第一の事件で死んだはずの白銀ちゃんの動機ビデオ』を見た記憶があるんだもん」

天海「え? ああ、そっか。動機ビデオが配られたのは第二の事件のときだったから……」

天海(第一の事件で白銀さんが死んだとしたら辻褄合わせで、誰も白銀さんの動機ビデオを見ていない、ということになる)

天海「で。えーと、王馬くん。キミまさか」

王馬「うん! 昆虫で和もう会のときにみんなの動機ビデオを見たんだよ!」

天海「……」

王馬「で。ここからが重要なんだよね。なんで『白銀ちゃんの動機ビデオを見たこと』を『天海ちゃんの動機ビデオで』思い出せたんだと思う?」

天海「はい? いや、理由なんかあるんすか?」

王馬「にしし」



821:逆転の人 ◆SxyAboWqdc 2018/03/12(月) 19:17:35.58 ID:BGKE+BFl0

王馬「内容が似てたんだよ。映ってる人物の詳細まで」

天海「……えっ」

王馬「まあ流石に冒頭部分の名前と超高校級の肩書部分に関しては違ったけど」

王馬「あとメッセージの内容もね」

天海「……それ、どういうことっすか? なんで……」

王馬「さて。天海ちゃんにわからないことなら俺にはわからないよ」

王馬「ここから先は何が何でも思い出さないとダメかもね」

王馬「取り返しの付かないことになる前に、さ」

天海「……」

天海(もう形振り構ってられない、か。信用を裏切ることになったとしても……)

王馬「おっと。うっかりタオルがずり落ちちゃった」エクスカリバァァァァ

茶柱「あれ? なんで天海さんの部屋のドアが半開きになって……」ギィッ

天海&王馬「あ」

茶柱「……」






茶柱「ぎいいいいやあああああああああああっっっ!」ドガシャアアアアアンッ

天海「いやああああああああああああああああああ!」ガビーンッ

王馬「ぶごああああああああああああああああああ!」グシャッ



822:逆転の人 ◆SxyAboWqdc 2018/03/12(月) 19:31:07.74 ID:BGKE+BFl0

夢野の研究教室

百田「おーい。ハルマキ。こんなところで寝てたら体バッキバキになんぞー」ペシペシ

春川「んん……ん。百田……」ボーッ

春川「……あっ」パチリッ

百田「よう。起きたか」

ベシィッ

百田「ってぇ!」

春川「人の寝顔を無許可で見るとか、良い趣味してるね」

百田「デコピンするこたねぇだろ! めっちゃ痛かったしよ!」

春川「物凄く恥ずかしかった。舌を噛み千切りたくなった。この辱めの三分の一でも百田に味わわせたかった」

百田「箇条書きで述べんな! わぁーったよ! 俺も悪かったよ!」

春川「……わかったのならあんま見るな。バカ。顔洗いたいし。最悪」ゴシゴシ

百田「……で。なんで夢野と一緒にいんだ?」

春川「改変された記憶っていうのに興味があったから夜通し聞いてたんだよ」

春川「……確認したいことはちゃんと確認取れたから、もうどうでもいいけどね」

百田「何かわかったことがあるのか?」

春川「……あ。ごめん。そんな深刻な顔しないでよ」

春川「本当に個人的なことだからさ……」

百田「?」



823:逆転の人 ◆SxyAboWqdc 2018/03/12(月) 19:37:41.03 ID:BGKE+BFl0

春川「顔洗ってくる」スタスタ

百田「……」

百田「夢野。起きてんだろ」

夢野「ドキィッ!」ビクッ

百田「答えたくないのなら別にいいんだけどよ。アイツが確認したかったことってなんだ?」

夢野「んあー……んー……絶対にウチから聞いたことは言うでないぞ」

夢野「記憶改変前の百田と仲良かったか、じゃな。ザックリ言うと」

百田「ハッ! んだよ、そんなこと心配してたのか! やっぱり可愛いところあんじゃねーか!」

百田「俺とハルマキだぞ? どんなことがあっても仲がいいに決まってらァな!」

夢野「百田……」

百田「俺とハルマキの『友情』は絶対だかんな!」ニカッ

夢野「春川が可哀想」ズーン

百田「……さてと。じゃあそろそろ行くか」

夢野「時間もないことじゃしの。そろそろみんなと合流したいところじゃ」

百田「ああ」



824:逆転の人 ◆SxyAboWqdc 2018/03/12(月) 19:51:21.53 ID:BGKE+BFl0

プログラム世界の中

入間「はあ……はあ……ダメだ! 通常の操作しか受け付けねぇ! 根本的に外の世界に出る機能がなくなってやがる!」

入間「一体どうしたら……!」

星「おい入間」

入間「即興でウイルス作ってバラ撒くか……? いや。白銀の方に隙がねぇと効果ねぇしなー」

星「おい入間。おい」

入間「今更アイツがフィッシングサイトやエ口URLに見せかけたブラウザクラッシュじみた古典的罠に引っかかるとは思えねーし……」

ベシーンッ

入間「痛ぇーーーッ!」

巌窟王「星が呼んでいるぞ。返事くらいはしておけ」

入間「うっせーな! こちとら必死に黄金の脳細胞詰まった頭巡らせてんだよ! なんの用だコラ!」

星「ここどこだ?」



ザザーンッ……

ザザーンッ……ミャーミャー



赤松「青い海。白い砂浜。南国気分丸出しのヤシの木……あとウミネコ」

獄原「……熱帯性気候だね。この熱さと湿度」

真宮寺「……」

入間「ここがどこかって? ふふっ……ふふふふふふふ」

入間「知るかボケッ! 俺様が聞きたいっつーの!」ウガァ

真宮寺「だろうネ」



825:逆転の人 ◆SxyAboWqdc 2018/03/12(月) 19:58:07.23 ID:BGKE+BFl0

入間「ただまあ、この新世界プログラムを構築する汎用テクスチャは、学園の他に色々あってな」

入間「ずっと同じ光景ってのも気が滅入るし、ちょっとした遊び心で変えてみたのは俺様だ」

入間「ここがどこかって質問には答えられねぇけど、なんでここにいるって質問に対しては『俺様の趣味』と言う他ねーな」

入間「ファイル名は『ジャバウォック島』とかなんとか付いてたか?」

獄原「聞いたことない島だね」

巌窟王「プログラム世界の中の島だ。おそらく実在はしていないフィクションの島だろう」

赤松「アンジーさんは?」

星「こことは別の場所に涼しくて清潔な部屋を用意してる。東条が世話をしているが……」

巌窟王「すぐに帰ってこいと伝えたぞ。この世界で治療をしたところで意味がない」

赤松「……早く脱出しないと……!」

入間「ああ。フルスロットルで行くぜ! はしゃいでる暇はねーからな!」

真宮寺「……」ジャッジャッ

獄原「あ。良い臭い。何作ってるの?」

真宮寺「ひとまず焼きそばと焼きトウモロコシを……」

入間「……」

入間「はしゃぐ暇……ねーんだけど……?」



826:逆転の人 ◆SxyAboWqdc 2018/03/12(月) 20:07:09.78 ID:BGKE+BFl0

「ただいま。進捗はどうなっているかしら」

入間「お。帰ってきたか東じょ――」

水着の東条「こちらはあまり芳しくないわ」キラキラキラ

入間「はしゃいでる暇ねーっつってんだろうがババァーーーッ!」ガビーンッ

真宮寺「他の人も流石に空気読んで水着にはなってなかったのに」

東条「入間さんと同じよ。たまには気分転換もしたくなるわ。この前まで酷い目に遭ってたのだから猶更」

赤松「あ、ああ。うん。絶妙に反論しにくい話題持ってくるね……」

東条「あと『南国だし水着になっちゃいなよ斬美ー』と精一杯の強がりでアンジーさんが言うものだから……」

獄原「アンジーさんの注文だったんだ!?」

赤松「よりによって強がりで言う内容じゃないって。ねえ巌窟王さん」

赤松「……あれ。いない」

東条「彼の『無駄だから戻ってこい』の真意はこれでしょうね」

真宮寺「……二人きりになりたい、か」ジャッジャッ

真宮寺「焼きそば、できたヨ。食べる?」

入間「……食べる」



833:逆転の人 ◆SxyAboWqdc 2018/03/13(火) 19:24:14.98 ID:423y3RPU0

医務室

アンジー「……痛い」

アンジー(しかもなんだか息をする度に力が抜けていくような気がする……)

アンジー(今度こそ死んじゃうのかな)




ドタバタバタッ ガチャリンコッ



巌窟王「クハハハハハハ! アンジー! チーズフォンデュを持ってきてやったぞ!」グツグツグツ

アンジー(南国感ゼロの料理……)

巌窟王「ム……しまった」

アンジー「?」


バタムッ  コンコンッ ガチャリンコッ


巌窟王「クハハハハハハ! アンジー! チーズフォンデュを持ってきてやったぞ!」グツグツグツ

アンジー「うん。アンジーは気にしてないから。気にしてないから『ノックし忘れた』ってことを思い出したからってわざわざやり直さないで」



834:逆転の人 ◆SxyAboWqdc 2018/03/13(火) 19:37:43.30 ID:423y3RPU0

巌窟王「偽りの世界だとは言え、空腹度の設定は生きている。何かしら食さなければ更に死が近づくぞ」グツグツグツ

巌窟王「口を開けろ。食べさせてやろう」トロォォォリ

アンジー「……」プイッ

巌窟王「……そうか。無理に食べさせるのも同じくらい良くないからな。仕方あるまい」ハフハフ

アンジー(自分で食べ始めた……悔しいけど物凄く美味しそうだなー……)ズーン

巌窟王「さて。そのまま聞けアンジー。お前には大事な話がある」モゴモゴ

アンジー「?」

巌窟王「……お前がいくら拒絶しようと構わない。俺はお前のサーヴァントを辞める気はない」ゴックン

巌窟王「少なくとも、アンジーとの契約はまだ終わっていないのだからな」ハフハフ

アンジー「……令呪はもう使い切っちゃったよ。しかも最悪のカタチでさ……」

巌窟王「お前はまだ、自由ではない。そして気付いていないのなら今言うが、あれは俺が使わせたに等しい」モグモグモグモグ

巌窟王「アンジー。お前はお前の意思で令呪を使っていない。ならば不完全燃焼だろう。俺もこれで契約とするのは不服だ」ウマスギル!

アンジー「……」

巌窟王「何より、お前はようやく俺のマスターたる資格を得たのだ。やっとだぞ?」グビグビグビグビ

巌窟王「ここで終わらせるにはあまりにも惜しいだろう」プハァーッ

アンジー「お酒臭い」

巌窟王「……チーズにはワインが合うのだ」

アンジー「やめて」

巌窟王「……」



835:逆転の人 ◆SxyAboWqdc 2018/03/13(火) 19:50:08.48 ID:423y3RPU0

巌窟王「……片付けよう」ガランガランッ

アンジー「ねえ。なんで? なんでアンジーに令呪を使わせるようなことをしたの?」

巌窟王「……」

アンジー「流石に気づいてたよ。そこまで盲目じゃない」

巌窟王「好奇心故、だな」

アンジー「え?」

巌窟王「あそこで煽ったら、アンジーは果たして令呪を使うかどうか。それを知りたかった」

巌窟王「お前は信仰心故に仲間を犠牲にするような女ではないと、半分は信じていたがな」

アンジー「……どうだろー。アンジーは……ちょっと前のアンジーなら、どうしてたかなー……」

巌窟王「間違いなく仲間を犠牲にして俺の要求に応えていただろうよ」

巌窟王「そう。それだ。それが今のアンジーとむかしのアンジーの違いだ」

巌窟王「それこそが我がマスターたる資格なのだ」

アンジー「……アンジーにとって本当に。本当に大事なものだったんだよ。信仰心って」

アンジー「酷い人だなぁ。お前」

巌窟王「初対面時からわかっていたことだろう?」ニヤァ

アンジー「……利用するよ。アンジーはまだ死ねない。絶対にこの世界から生きて外に出てやる」

アンジー「それで……それで……」






アンジー「ムカつくから終一に正当性一切なしで一発ビンタする」

巌窟王「クハハ! その意気だ」



836:逆転の人 ◆SxyAboWqdc 2018/03/13(火) 20:06:15.09 ID:423y3RPU0

巌窟王「利害は未だに一致している。俺も白銀(と最原)を殺さねばならないからな……!」ギンッ

アンジー「余計なオプションついてないー?」

巌窟王「気のせいだ。ともかく!」

巌窟王「……お前が自由を手にするまでは、もうお前の傍から離れないことを誓おう」

アンジー「……一心同体。一蓮托生。うん。もう一回、アンジーの命運をあなたの炎に預ける」

アンジー「祈りはもう捧げないけど……その分、うんと願うからねー」

アンジー「ワガママだって放り出さないでよー? アンジーをこうしたの、お前なんだからさー」

巌窟王「クハハ! バカめ! サーヴァントたるこの身に、背負えない願いなぞそうそうあるものか!」

巌窟王「……過去現在、未来においてマスターは一人だけであろうと思っていたが……」

巌窟王「ふっ。アンジー。お前も及第点ではあるぞ。喜ぶがいい」

巌窟王「あと。お前と呼ぶのはそろそろやめてくれ。今までとのギャップを感じて軽くショックを受けてしまう」

アンジー「お前で充分だよー」プイッ

巌窟王「……」ズーン

巌窟王「……最終局面だが、お前がギリギリでここに至れてよかった」

巌窟王「俺と契約したのがお前で、本当に……」

アンジー「……?」

巌窟王「ふっ。俺らしくもない。忘れろ」



837:逆転の人 ◆SxyAboWqdc 2018/03/13(火) 20:17:56.96 ID:423y3RPU0

巌窟王 エドモン・ダンテス

我が名は巌窟王(モンテ・クリスト)。
愛を知らず、情を知らず、憎悪と復讐のみによって自らを煌々と燃え盛る怨念の黒炎と定め、すべてを灰燼に帰すまで荒ぶるアヴェンジャーに他ならない。
この世界に寵姫(エデ)はおらず、ならばこの身は永劫の復讐鬼で在り続けるまで……というのはカルデアでの話。

旅行先を間違えたとはいえ、一応旅行は旅行。偶然出会った生徒たちとの出会いはそれなりに大切にしている。
『旅の恥はかきすてと言うだろう?』

絆LV1
マスターはサーヴァントのステータスを見ることができる。ただしアンジーはその権利をすべて放棄した上で巌窟王との契約を履行。
結果、実質上の巌窟王のステータスはすべて『不明』となった。
実際のところ、まともに測定はできない。なにせアンジーの都合、もとい感情で簡単に上下するので……

絆LV2
基本的に人理焼却が行われた世界にしか存在できないエクストラクラス故に、自らのマスターもカルデアのマスターただ一人と定義している。
だが事故ったものは仕方がないので、アンジーにもそれなりに世話を焼く。
さながら兄か父のように見えるが、本人にそれを指摘しても否定するかはぐらかすだろう。
なお、ここまでする理由は特にない。強いて言うなら『巌窟王自身が想像するサーヴァントのヴィジョン』を正直に実行しているだけ。
極論、契約したのが王馬だったとしても似たようなことになっただろう。(契約者がアンジーで本当によかったとは思うが)

絆LV3
宝具の解放はほとんどできないと言っていい。
巌窟王は本来、檻に対してこれ以上のない特攻を持つが、その効力すら実質ほとんど死んでいる。
モノクマの校則が強力なのか、それとも別の理由があるのかは定かではない。
なお、脱出の意思が死んでいるわけではない。檻は檻。巌窟王故に必ず破壊してみせる。

絆LV4
モノクマは巌窟王にとって、存在自体が許せない不倶戴天の敵である。
世界にあまねく理不尽と悪意の具現そのものである彼を、巌窟王は何をどう間違っても許さないだろう。
見逃すことはありえない。何故なら自らは間違っても『エドモン・ダンテス』などではないのだから。

人間性を取り戻し、見逃すなんて展開は――

絆LV5  NEW!
マスターが彼の姿を正しく認識し、巌窟王がマスターを認めれば、その絆がやがて莫大な力を生むだろう。
自らのマスターとなるような奇特な者はカルデアのマスターの他には存在すまい。

だが契約が期間限定で、しかも正当な復讐の理由を持つ者であるならば話は別だ。
恩讐の果て。すべての感情を清算したその彼方に、仲間のため信仰を捨てた巫女が何を見るのか。
復讐鬼はきっと最後まで見届ける。

なお、彼女に信仰を捨てさせたことに関して多少の負い目を感じていることは内緒である。



839:逆転の人 ◆SxyAboWqdc 2018/03/13(火) 21:11:18.50 ID:423y3RPU0

入間「さあ。この新世界プログラムの状況を説明すんぞ」

入間「まず一つ。根本的に改竄を受けてて、俺様たちが自力で外に出るための『正当な手順』というものが、ない」

赤松「見つけてないだけって可能性は?」

入間「ない。絶対にない。俺様が不眠不休でずっと探して結論づけたことだ。ないっつったら『絶対にない』んだよ」

東条「仮に入間さんが見つけてないだけで実際にどこかに存在したとしても……」

東条「この世界において、入間さんに見つけられないものを私たちが見つけられるとは思えないわ」

星「確かにそう考えるなら、入間がないと言うものに関しては『ない』と考える方が一番手っ取り早いし効率的だな」

入間「じゃあ次。なら改竄されたものを再び改竄して『正当な手順を作れるかどうか』に関して」

入間「これも無理だ。今の俺様が動かせるのはゲームで例えるなら『Aボタンを押せばジャンプできる』的な正当な操作の延長線上のものでしかない」

入間「ゲームの中の登場人物である、という縛りがある以上はシステムに干渉することはできない」

獄原「じゃあ、ゴン太たちがこの世界を壊すっていうのはどうかな。経験則だけど、どんな檻でも壊せば外に出られるよね?」

入間「ゴン太の着眼点は原始的ではあるが、一つの真理だな。だがそれもノー、と言わざるを得ない」

入間「データ上に構成されたアバターに物理的な破壊力は一切ないし……」

入間「あったとしても『やるべきじゃない』。わかるだろ?」

星「新世界プログラムの破壊は全生徒への連帯責任のルールだな」

獄原「あ……」

真宮寺「何かいい手はないの? 入間さん」



840:逆転の人 ◆SxyAboWqdc 2018/03/13(火) 21:26:56.81 ID:423y3RPU0

入間「マジで色々考えたんだぜ? でも手段があまりにも限定されすぎてた」

入間「例えばこんなん。『外にいる白銀をどうにか揺さぶって、自分からプログラム内の生徒を出すように仕向ける』みたいな手だ」

入間「今ある中では一番現実的な手だったが……頓挫した」

星「理由は?」

入間「二重の意味で隙がないからだな。単純に新世界プログラムが『全部乗っ取るには難易度が高すぎる』というのが一つ」

入間「もう一つは『白銀の興味がもうこちらにまったく向いてない』からだ。これが一番でけぇ」

赤松「え。どういうこと?」

入間「エラーっていうのはシステムじゃなく人が起こすもんだ。ウイルスメールがいい例だろ?」

入間「だけど人にエラーを起こさせる手はまず『こちら側に相手側が興味を持っていること』が大前提だ」

入間「前にデバイスの切断や、アバター設定の変更をして以来、白銀はこちらに一切の干渉をしていない」

入間「既に色々と白銀がこちらを見ていたとしたら絶対に動揺するような偽造映像や、システムの穴を使ったちょっとした裏技を仕掛けてみたが……」

星「……反応が一切無かったんだな」

赤松「まさか、白銀さん、もう私たちのことを『見てすらいない』の!?」

入間「そうとしか考えられねーんだよなぁ」

真宮寺「……つまり、万事休すというわけだネ」



841:逆転の人 ◆SxyAboWqdc 2018/03/13(火) 21:34:16.06 ID:423y3RPU0

入間「残るところは俺様たちにとって最悪の手段だけだ」

東条「どんなリスクがあってもいいわ。教えてちょうだい」

入間「待つ。待って外の連中が俺様たちを閉じ込めている新世界プログラムのサーバーか、俺様たちの本体を見つける」

入間「外側からの救助を待つ」

東条「!」

入間「……最悪っつったのは俺様たちにリスクがあるからじゃねー。いやもちろん俺様たちだってあぶねーけどよ」

入間「アンジーが耐え切れないから最悪なんだ」

東条「……それしかないのね……」

赤松「ん……そういえばさ、この前の学級裁判でちょっと話題になったじゃない?」

入間「あ?」

赤松「ええっと、話はちょっと変わるんだけど……三日も四日も人の体は放置できないから、時間間隔を狂わせる類のトリックは使えない、みたいな」

赤松「私たち、この世界に入ってもう大分経つはずだけど無事だよね。どうしてだろう」

入間「……あ。考えもしてなかった。確かに変っちゃ変だな……?」

東条「そういえば。私の怪我、この世界に反映されてからずっと……治癒の速度が格段に遅くなったような気がするの」

東条「気のせいかもしれないのだけど……」

星「……まだ俺たちが気付いてない真実があるのか」

赤松「大丈夫だよ」

獄原「え?」

赤松「……大丈夫。きっと、最原くんたちが私たちを見つけてくれる」

赤松「それを私は信じてる……!」

入間「……」

赤松(最原くん……みんな……!)



849:逆転の人 ◆SxyAboWqdc 2018/03/14(水) 22:21:56.89 ID:7GeTRUGb0

真実組(最原、茶柱、天海、王馬、春川、百田、夢野の七人)

最原は忘却補正により、天海は特に何の理由もなく、夢野はそもそも何も手を加えられてないために記憶を保持している。
思い出しライトに対する巌窟王の態度から、最原はこの学園の真実に気づき始めている。
ただし、あまりにも残酷すぎるので無意識に可能性から除外している。
他、天海は白銀の存在そのものに疑問を持ち、夢野は白銀の裏切りに対して疑問を持っている。

記憶を取り戻していない者たちは『ありえない齟齬』が思い出の中に発生していることを自覚している。
だが『記憶を改竄されている』という言葉に対しては概ね懐疑的、ないし実感が湧いていない。

最原と天海の両名に、白銀に対する憎悪は当然あるが、最終目標はあくまでも『真実の探求』。
故に学園の真実を手にすることができるのであれば、迷いなく白銀への復讐を放棄する。



復讐組(巌窟王、アンジー、赤松、東条、星、真宮寺、入間、獄原の八人)

死の体験から解放されたが、未だに新世界プログラムからの脱出は成されていない。
アンジーの負傷の程度は実のところ大したことはないが、治療が必要最低限に収まっているので長い間の放置は危険。
思い出しライトの持つ残酷な真実に巌窟王は気付いたが、それをみだりに口にしたりはしないだろう。
全員、VRでの体験とはいえ白銀に間違いなく殺されたので、巌窟王を止めることに関してはひたすら消極的。

白銀に成された仕打ちは心の中に確かな傷として残っており、これを無視した行動は今後一切取れなくなった。
最原たちの決断に意見を述べるつもりは既にないが、かと言ってそれが正解だとも思えない。

なお、入間の趣味によって新世界プログラム内のテクスチャは『ジャバウォック島』となっている。
拠点は主に砂浜に建てられた海の家。真宮寺が鉄板で作る料理の匂いが漂う。

余談だが当初入間は新世界プログラム内のテクスチャを『イヌカレー空間』にするか迷っていた。
語感がなんとなく良かったという理由のみで考慮しており、意味は一切理解していなかったが……

キーボのことは忘れているわけではない。ただ『この世界にいない』ということを理解してるだけで。



858:逆転の人 ◆SxyAboWqdc 2018/03/15(木) 23:25:18.14 ID:x27jNVw80

食堂

百田「さぁって! それじゃあ俺が作ったチャーハンを朝食にしながら現状を整理するぜ!」

茶柱「朝っぱらから食べるものではありませんが……」モグモグ

茶柱「ああ。意外と美味し……ッ!?」ゴフッ

春川「辛ッ!?」ゴフッ

百田「鷹の爪を入れたからな」

王馬「最悪だよコレー! 部分的にひたすら辛いよー!」ウグエエエエ

天海「部分的ってところが精神的に最悪っすね」

夢野「く、口つける前で助かった……」

最原「……あ。でも慣れると意外と……」モグモグ

春川「んん……悪くない……?」モグモグ

百田「じゃ。俺たちが第四の事件を終えてから見て来たものを羅列するところから、だな。終一そんときいなかったし」



859:逆転の人 ◆SxyAboWqdc 2018/03/15(木) 23:37:38.87 ID:x27jNVw80

最原「百田くんの研究教室からはゴフェル計画の資料。中庭に格納庫。そして謎の巨大オブジェ。中にはおそらくキーボくん……」

天海「俺の研究教室もあったっすよ。これの詳細に関しては最後に回させてほしいっす。長い話になるので」

百田「じゃあゴフェル計画についてだな。ほぼ黒塗りで潰されてたから詳細はわからねーんだが……」

百田「十六人の高校生をひとところに集めて何かをする、みたいな計画ということだけは辛うじてわかった」

最原「……」

最原「……宇宙船に十六人の高校生を集めて打ち上げる現代版の『ノアの箱舟』じゃないかな」

百田「なに?」

最原「今までの思い出しライトに呼び起こさせられた記憶を省みてみたら、そうとしか考えられなくって」

春川「……やっぱりここ、宇宙船なのかな」

百田「まあゴフェル計画の無事だった部分を通しで見るとそれっぽくも読めるけどよ……」

王馬「うーん。それが本当に真実かなー。だとしたら俺たちを閉じ込めて、こんなゲームやらせてるのは誰だって話だし」

王馬「誰も見ていないデスゲームなんてありえないでしょ?」

最原「……」

最原(……確かに。でも、白銀さんはヒントそのものを裏切るような行為は一切取っていない)

最原(提示された手がかりで、この学園の謎は解けるはずなんだ)

最原(まだ足りない、というパターンはあっても、最後には必ず解けるようにできている)

最原(……やっぱりどこかフェアなんだよな)



860:逆転の人 ◆SxyAboWqdc 2018/03/15(木) 23:48:21.35 ID:x27jNVw80

夢野「……んあ? 一体お主たちは何を言っておるんじゃ? 空が見えるんじゃから宇宙船なわけが」

天海「実は地球が滅んでたってことをつい最近俺たちは思い出したんすよ」

夢野「なんじゃとーーー!?」

天海「だとしたら、ここは少なくとも地球じゃないはず……って話になったんすけど」

天海「それ以前にどうやって俺たちは滅んだ地球の中で生き残ったんだろうって考えて……」

夢野「それで辿り着いたのが宇宙船説か……」

王馬「モノクマの科学力が桁外れってことは既に何回も身に染みてわかってるし」

王馬「あの空が作り物だったとしても俺は驚かないよ」

夢野「しかしウチらだけを打ち上げても仕方なかろうに、選考理由は一体なんじゃ?」

最原「わからない……わからないけど」

最原「……」

BB『あー! あー! みなさん! おはようございまーっす!』

最原「!」

天海「あ。BBさん」

BB『耳よりの情報を持ってきてあげましたよーっと!』



862:逆転の人 ◆SxyAboWqdc 2018/03/16(金) 19:56:53.40 ID:h5V6P24Q0

BB『玉子かけご飯を美味しく食べる方法と、この状況を打破できるかもしれないお得な情報、どちらが先に欲しいです?』

百田「玉子かけご飯の方からだ!」

ガシッ ガシャンッ!

春川「玉子かけご飯じゃない方から」フゥ

最原(春川さんが百田くんの後頭部を鷲掴みにしてチャーハンの皿に叩きつけたーーーッ!)ガビーンッ

天海「あれぇ!? 百田くんこれ死んでないっすか!? 死んでるっすよね!?」

夢野「起きろ百田! どうしたんじゃ百田! 百田ーーーッ!」

春川「止めるときは止めないと際限なく暴走するから。コイツ」

王馬「息の根を止めるのはやりすぎだよ?」

春川「一瞬でやらないと……痛みも苦痛も感じる間もない内に安らかに……」

最原(優しさが完全に裏の世界の人のそれだーーーッ!?)ガビーンッ

BB『じゃ、現状を打破できそうな情報から。赤松さんやアンジーさん、他巌窟王さんの無事が確認できちゃいましたー!』

最原「!」



863:逆転の人 ◆SxyAboWqdc 2018/03/16(金) 20:07:16.98 ID:h5V6P24Q0

百田「復活(リ・ボーン)!」ガバリッ

茶柱「あ。起きましたよ」

天海「いやありえねぇーっすよ! だって呼吸も心臓も止まって……あれ!? 気のせいだったんすかね!? 気のせいっすかね!?」アタフタ

百田「赤松たちの安否が確認できただと……!? つまりヤツらは生きてるってことだな!?」

BB『ええ。私たちが目を離している隙に全員ぶち殺し、とはなっていなかったようです』

百田「……最高のニュースだぜ」

春川「百田……」

百田「ところで顔が全体的に痛ぇんだが……」

春川「気のせいだよ……」

百田「気のせいか……そうか……」

天海「……本人たちがコレでいいのなら……いいんすけど……」ズーン

夢野「う、うん。そうじゃな。こういう愛情の形も、あるんじゃあないか、のう……」ガタガタ

最原(あってたまるか、とは言えないよなぁ。怖くて)

最原「BBさん! 赤松さんの居場所は?」

BB『さっぱりです。少なくとも最原さんたちが今までに行ったことのない場所だということしか……』

天海「……」

天海「俺の出番っすね。はあ……」

王馬「天海ちゃん?」



865:逆転の人 ◆SxyAboWqdc 2018/03/16(金) 21:12:38.49 ID:h5V6P24Q0

天海「あの……みんな、聞いてほしいんすけど。実は俺の才能、わかっちゃったんすよね。正確に思い出したわけじゃないんすけど」

百田「なんだと?」

天海「実は俺は……『超高校級の生存者』だったらしくて……コロシアイのスタート時点からヤバいもん持ってたんすよね」

茶柱「ええと、話があんまりよく見えないんですけども」

天海「これっすよ」ゴトリッ

最原「……モノパッドだね?」

天海「俺、モノパッドを余分に一つ貰ってたんすよね。ほら」

王馬「あれ。本当だ」

春川「……なんで天海だけ?」

天海「……こっちのモノパッドには、この学園の地図がまるっと『ほぼ』全部入ってるんす」

最原「!」

天海「これが俺の才能……いや」

天海「『全開のコロシアイを生き残った』という実績っすよ」



866:逆転の人 ◆SxyAboWqdc 2018/03/16(金) 21:22:49.79 ID:h5V6P24Q0

十分後

最原「そうか……僕たちの前にもこんなコロシアイをした生徒がいたのか……!」

最原「天海くんはそのコロシアイを生き残った生徒。だから『超高校級の生存者』」

春川「なんでその発想に至らなかったんだろう。これだけ用意周到に私たちを追い詰めたモノクマをずっと見てたのに」

春川「何の予行演習も、経験もなしにできることじゃない。絶対に」

百田「いつまで経っても助けが来ない閉鎖空間なんてふざけきったものを実現させてるわけだしな……」

百田「俺たちが知らない内に『前回のコロシアイ』があったとしても、まったく不思議じゃねぇか」

最原「……前回のコロシアイに関して考えたいことは色々とあるけど、まずは!」

最原「天海くん! このモノパッドは凄いよ! 学園のまだ解放されてない区画のことまで描写されてる!」

天海「……」

夢野「どうしたんじゃ? 天海。浮かない顔をしておるが」

最原「あ……そうか。そういうことだね」

天海「やっぱり、わかっちゃうっすよね……」

最原「このモノパッドの地図、描写は正確だけど完璧じゃないんだ」

天海「そう、俺は今の今まで……」

天海「え? そっち?」



867:逆転の人 ◆SxyAboWqdc 2018/03/16(金) 21:35:52.37 ID:h5V6P24Q0

茶柱「どういうことです? 完璧じゃないって……」

最原「ええと、ごめん。茶柱さん、春川さん、百田くんと王馬くんの四人はわからないと思う」

最原「だから夢野さんと天海くんの二人で一緒に確認してほしいんだけど。ほら、この図書室の隠し部屋のところ」

夢野「んあ? なんじゃ……? あっ」

天海「そう。もう一つの隠し通路、女子トイレ側の出入り口が描写されてないんすよ」

天海「第一の事件直前まではタイムリミットのせいで焦ってたっすから、描写に穴があるって可能性に頭が回ってなかったんすけどね」

天海「バカっすよ、俺。モノクマから渡されたものなんだから、その程度の意地悪はされてて当たり前なのに」

最原(あ。今理解したけど……)

茶柱(転子が天海さんを見たときに持っていたモノパッドは、これだったんですね)

天海「……もしかしたら巌窟王が死ななかったら、今頃死んでいたのは俺の方だったのかも……」

最原「え?」

天海「言ってなかったっすね。実は仮想空間上のあの部屋で、俺はあるものを見つけてたんすよ」

天海「……赤松さんが凶器に使ったのと同型の砲丸をね」

最原「それって……!」

天海「犯人はこの『穴開きの地図』で俺をおびき寄せて、赤松さんに冤罪を着せた上で殺す気だったのかも……」

天海「そんな狂気を垣間見たんすよ」

夢野「その砲丸、血にまみれていたり……」

天海「してなかったっすよ。だって未使用だったっすからね。赤松さんの砲丸は過不足なく巌窟王さんにゴチン。それで終了っす」

最原(今はもう燃えちゃって存在しないけど、あの血塗れ砲丸には赤松さんの服の繊維も付いてたし……間違いないだろうな)

百田「巌窟王って誰だ?」

春川「……?」

茶柱「聞き覚えがまったくないですね」

最原「……やっぱり寂しいな。こういう声聞いちゃうと」



868:逆転の人 ◆SxyAboWqdc 2018/03/16(金) 21:44:32.12 ID:h5V6P24Q0

BB『……それ。軽く探ってみましょう』

天海「え?」

BB『もしかしたら見えていないだけで、描写は完璧なのかも……!』

最原「……あ。そうだ。今はもう僕たちは白銀さんの傾向がわかってる!」

最原「描写に穴があると見せかけているだけで、実際には本当に完璧なのかも!」

天海「あ!」

夢野「BB! モノパッドに接続できるか!?」

BB『ええと端子のカタチは……あ。大丈夫ですね。行けます! コネクタを!』

夢野「了解じゃあ」カチッ

BB『はい接続完了。中身は……ビンゴ! うわあ! 大昔のインターネットに氾濫してるような古典的炙り出し機能が!』

BB『はい、表示しまーっす!』ピロピロピロ……



シャキーンッ



最原「……女子トイレ側の隠し通路が見えるようになってる!」

百田「他に見えるようになってる部分はねーか?」

天海「ええと……!」

春川「ここじゃない? 百田の研究教室の真横に隣接してる……」

百田「……あ! そうだ! こんな部屋知らねーぞ、俺ァ!」

夢野「確定じゃな。隠し部屋発見じゃ!」



871:逆転の人 ◆SxyAboWqdc 2018/03/17(土) 21:18:25.30 ID:4ZOScbRz0

百田の研究教室に至る螺旋階段の真下

最原「……」

最原「これは……長くない?」

春川「流石にこれは最原を背負って上に行くの大変すぎるよね」

夢野「BB。いい感じの加護はないかのう。怪力が出るようになるヤツがベストなんじゃが」

BB『なくもない……ていうかジャガーマンさんがまさに怪力スキル持ってますが』

BB『飽きて寝てます』

夢野「ネコ科動物丸出し……」

茶柱「別にいいですよ。転子が上に連れていきますので」

夢野「こういうと