【昭和の怪奇事件】無常！裁判に「勝利」した翌日に愛児を死なせてしまった父親！

2018年04月28日：22:00

これから紹介する事件は、筆者が過去に集めてきた新聞スクラップのなかでも１，２を争うほどに「気の毒」な事件である。

1975年（昭和50年）2月1日の毎日新聞に以下の社会面に以下のような見出しの記事が掲載されている。 「逆転無罪のパパ痛恨　その翌朝、愛児ひく」とある。

本事件は見出しの通り、父親が自分の運転する車で愛児を誤って轢いてしまった、という痛ましい事故なのだが、あまりにも気の毒かつ痛ましい事故のため、読まれる方によっては大きなショックを受ける可能性があるため、ご注意いただきたい。

逆恨みによる長き裁判

東京都清瀬市に住む船越さん（仮名）は、自身の住む団地の自治体で窮地に追い込まれていた。船越さんは自治体で常任委員を勤めていた1973年（昭和48年）、委員会を傍聴しにきた男性Aにいちゃもんを付けられた。

船越さんは会議を妨害するAを退場させたのだが、その際にAは転び二週間の怪我をしてしまった。逆恨みをしたAは船越さんから「暴行を受けた」として起訴され、結果2年に及ぶ長い裁判となってしまった。

第一審は船越さんは有罪で5000円の罰金刑であったが、船越さんの無罪を主張する近隣住民の証言もあり、1975年1月30日、Aの訴えは東京高裁にて破棄され、船越さんは晴れて「無罪」となった。

船越さんを応援してた団地自治会は船越さんの無罪を喜び、同地区の掲示板に「裁判勝利」の紙を貼り出すなどし祝福した。無罪が確定した1月30日の夜、船越さんは妻と二人の息子に娘の５人家族だけのささやかな祝いの席を設けたという。

・・・実はこの小さな宴が船越一家4人の最後の晩餐になるとは、この時点では誰も知らなかった。

翌日に訪れた悲劇

翌日１月３１日の朝、船越さんはバス停で近隣住民にお礼の挨拶をしたあと、自家用車を走らせ約６キロ離れた東京都田無市の職場へ向かった。

しかし、会社について、船越さんは自宅へ免許証を忘れたことに気がつき一時、家へ免許証を取りに戻ることにした。自動車は自宅前でエンジンをかけたままにし、船越さんは妻から免許証を玄関口で受け取った。船越さんは自動車へ戻るとすぐにサイドブレーキを引き車を発進させた。

だが、その瞬間車の下から

「ゴリッ」

という鈍い音。そして

「ぎゃああああああぁぁぁぁ！」

という妻の黄色い悲鳴が鳴り響いた。
驚いた船越さんは車から降りると、信じられない光景が飛び込んできた。

なんと、船越さんの次男（１歳）が血を流し息絶えていたのだ。

次男は船越さんが免許証を取りにいくとき玄関を開けっ放しにしており、次男はヨチヨチ歩きで外に出て父親の運転する車へ近づき、そのままタイヤへ巻き込まれたようだ。
船越さんは慌てて病院へ連れて行ったが、既に手遅れであった。

なお、死んだ次男の名前は、なんの因果か「勝利」という名前であった。

無罪判決から一日も経たないうちに、我が子を自分の手でひき殺してしまった船越さん…その胸中は察するに余りあるものがある。

名前に込められた意味

裁判に勝利した翌日、最愛の次男を失った船越さんは、その胸中を毎日新聞の記者へこう語っている。

「正直、ものすごく複雑な気持ちで頭の中が混乱している。弟の遺体に無心に線香をあげている二人の子供に、なぜお父さんとお母さんが泣いているのかを時間をかけて話してあげたい」

なお、勝利ちゃんの名前の由来は当時、船越さんが暴行事件のほかもう１件の裁判（不当解雇の撤回要求訴訟）を起こされていたため、「この子に裁判の勝利をかけよう」と妻と相談し、「勝利」と名付けたという。

皮肉にも裁判に勝利した翌日、願掛けをした息子を自分の手で死なせてしまった父親…。
世の中はなんとも無常である…。
勝利ちゃんの冥福を祈るとともに、関係者へ哀悼の意を表したい。

参照：毎日新聞

文：穂積昭雪（昭和ロマンライター / 山口敏太郎タートルカンパニー / Atlas編集部）