【未解決事件】謎の暗号を残し死んだ身元不明の男ソマートン・マン

2018年04月30日：22:00

1948年12月1日、オーストラリアのあるの海岸で、一人の身元不明の男性の遺体が発見された。
この身元不明の遺体は様々な謎や暗号を残しており、「オーストラリアの最も深い謎の1つ」とされ、2018年の今もなお、未解決の事件となっている。

オーストラリア国内のみならず、警察が身元特定のため資料を世界中に公開し、外国の政府にも協力を要請した、通称タマム・シュッド事件（the Tamam Shud Case）と呼ばれる、この怪奇な事件をご紹介したい。

身元不明の遺体=ソマートン・マン

（ソマートン公園：遺体のあった場所に "X" 印が付けられている）

1948年12月1日午前6時半ころ、オーストラリアの南に位置する都市、アデレードにほど近いソマートン公園の海岸で、男性の遺体が発見された。

警察の検分によると、身元不明のこの遺体は40〜45歳でイギリス人のような容貌をしており、身長は180センチ、特徴として、つま先の親指と小指が楔形になっていたため、かかとが高く、先の尖った特殊な靴を日常的に履いていたのではないかとされている。

（1948年の写真）

死亡時刻は遺体発見と同じく12月1日の午前2時頃と推定されている。死亡したのは眠っている間と考えられており、毒物による死ではないかと推測されているが、死因は不明である。（後の調査の結果ジギタリスという毒の可能性が指摘されている。）

発見された土地の名前から、この男性はソマートン・マンと呼ばれるようになった。
身元を特定できなかった警察は、発見から9日後の12月10日に遺体に防腐処理を施しており、ソマートン・マンの写真や指紋は世界中に出回ったが、身元の判明には繋がっていない。

隠しポケットに残された謎

遺体発見時のソマートン・マンの所持品は以下となっている。

・アデレード郊外のヘンリー・ビーチ行き列車の乗車券（未使用）
・アデレードからの使用済みのバス乗車券
・アルミ製の薄型の櫛
・半分程中身が残っているチューインガムの包み
・半分ほど中身が入ったタバコの箱
・4分の1程中身が残っているマッチ箱

当初、所持品は上記のみとされており、身元の特定には繋がらないのではないかと思われていたが、その後、遺体のズボンの奥に縫い付けられた隠しポケットが発見され、そのポケットには『Tamam Shud』と書かれた小さな巻紙が入っていた。

（隠しポケットから発見された紙）

この紙は、11世紀〜12世紀に生きたペルシアの学者であり詩人のウマル・ハイヤームという人物の詩集、『ルバイヤート』の最終ページから破り取られたものであることが判明しており、Tamam Shudとはペルシャ語で「終わった」「済んだ」という意味となる。

警察はこの情報を公開し、Tamam Shudのページが破り取られたであろうルバイヤートを探したところ、ある男性が、「ドアを施錠せずに車を停めていたら、何者かによって後部座席に置かれていた。」と1冊のルバイヤートを届け出たのである。

調査の結果、ソマートン・マンが隠し持っていた紙は、このルバイヤート（1941年版）から破り取られたものであることが判明している。

裏表紙に書かれた暗号

（何らかの暗号であると考えられている）

届けられたルバイヤートの裏表紙には、5行の謎めいた暗号が大文字のアルファベットで書かれていた。

WRGOABABD
~~MLIAOI~~
WTBIMPANETP
MLIABOAIAQC
ITTMTSAMSTGAB

鉛筆で書かれたこの5行のうち、2行目は4行目の書き損じと見られており、この文字列が暗号であるとされる根拠になっている。

この暗号の解読には、暗号の専門家の他、オーストラリア国防省や軍の情報部門、数学者などが試みたが、現在に至るまで成功していない。

謎を深める電話番号と一人の女性

ルバイヤートの裏表紙には電話番号も書かれており、遺体発見現場の近くに住むジェスティン（愛称）という元看護師のものであることが判明している。しかし、彼女がルバイヤートを所持していたのは第二次世界大戦中の1945年であり、彼女の署名入りでオーストラリア陸軍のアルフレッド・ボクソールという名の中尉に渡したと証言している。

警察は、ソマートン・マンはアルフレッド・ボクソール中尉の遺体ではないかと考えたが、ソマートン・マンの遺体発見後も中尉は健在であることが確認されており、ジェスティンの署名入りのルバイヤートを所持していたことも判明している。

ボクソール中尉が所持していたルバイヤートは1924年版であり、ソマートン・マンが持っていたとされる1941年版とは異なっていたのだ。なぜソマートン・マンが持っていたルバイヤートに、ジェスティンの電話番号が書いてあったのかは謎のままである。

なお、元看護師のジェスティンには不可解な点がある。
彼女は刑事により、遺体から型取りされた石膏の胸像を見せられているが、「卒倒しそうなまでに驚いていた」また、「胸像を見るとすぐに目をそらし、二度と見ようとしなかった」と記録されている。

未解決事件の追っている元刑事のゲリー・フェルタスという人物は、2002年にジェスティンにインタビューを行っており、「ジェスティンはソマートン・マンが誰なのか知っていると信じている。」と述べている。

ソマートン・マンはスパイだったのか

（ソマートン・マンの墓石）

2013年、オーストラリアのテレビ番組「60 Minuts」がジェスティンの家族にインタビューを行った際、ジェスティンの娘であるケイトが「母（ジェスティン）は、ソマートン・マンが誰なのか知っており、警察より上層の人間も知っている。」と語っている。

また、ジェスティンはロシア語も話すことができたが、どこで何のためにロシア語を習ったのかをケイトには明かさなかったとも語っており、ソマートン・マンとジェスティンは共にスパイだったのではないかとの推測もある。

謎に包まれた、タマム・シュッド事件。ソマートン・マンはスパイだったのか、そしてジェスティンとの関係とは。そこには複雑な人間模様、恋愛模様があったのかもしれない。

文：渡邊ぞんび

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