古代ローマや古代ギリシャは、よく西洋文明誕生の地として引き合いに出され、わたしたちが憧れる偉大な思想家や芸術家発祥の地だと言われる。
そのせいか、これら古代文明の国や政治のいい面ばかりに目がいってマイナスの資質は忘れられがちになっている。
芸術や哲学においてローマよりも優れた国はもっとあるし、彫刻や議論においてギリシャよりも秀でた国ももっとある。
ここでは今まで決して足を踏み入れたことのないソクラテスやカエサルの世界を見ていこう。
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10. 家父長権 一族の独裁者(古代ローマ)
家父長はローマの一族のリーダーのことで、たいてい、最年長の男性か、一族の中でもっとも高貴な生まれの者がなる。
一族を守るというごく普通の役目が家長の肩にはかかっているわけだが、その絶対的な権力が下にいる者にとって恐ろしい結果をもたらすことがある。
一族の名を守るため、家長は子供を奴隷として売ったり、妻を家から追い出したりする権利をもち、一族が所有する土地や実質的な富のすべてをコントロールする。
その影響は直接の家族だけに留まらない。使用人、内縁の妻、奴隷平民までをも含む一族関係者すべてに及ぶ。
こうした家父長制はローマ社会の基本ユニットで、ユニットの家父長のルールは絶対的だ。一族が所有する土地や物すべての実質的な唯一の所有者なのだ。これがまさに独裁性をもつ一族の延長、つまり本質的な政府のミニチュア版を形成している。
ローマ政府によって統治されているとはいえ、ほとんどはローマの支配力と各一族の君主によって
二重に支配されていたということなのだ。
9. ローマ政府は個人の情報について少し過敏になりすぎた
ローマ政府のもっとも重要な政治ポジションは監察官だった。その責務は公的モラルを保つ、人口調査を続ける、国家のために財政を管理することだ。
この地位は、ローマの政治社会の中ですでに高い階級にいる者にとって、献身的市民としての最高の地位として、喉から手が出るほど欲しい最終キャリアだった。
監察官権限のほとんどはモラルを法律化する仕事から発生する。個人や家庭のモラルに関する情報が観察官から人口調査に反映されると、恐ろしい結果をもたらすことがある。なにか悪い点を告発されたりすると、その一族の汚点となり、それが投票権の剥奪、上流階級からの追放、階級降格につながることもあった。
監察官が罰する悪徳は、ローマ哲学に反すること、つまり、過度にだらけた生活スタイル、奴隷への虐待、詐欺、恥ずべき行為全般に及ぶ。
一族の名は失墜し、常に国家への愛国心を推進する監察官のモラル定義を基準に、貧困に没落する可能性もある。モラルが法律に織り込まれるようになったため、監察官は人々を支配するもうひとつの道具になり、人々の秘密や評判にアクセスできる権利をもつ、触れてはならない個人と化した。
このオーウェル的システム(全体主義社会)は、モラルの曖昧さや個人のプライバシーについて議論の余地をもたない。監視は厳しく、監察官の目を逃れられる者は誰もいない。すべての人間が四六時中監視下におかれ、持っているものすべてを失うはめになる。
8. 奴隷制という名の征服(古代ローマ)
歴史のさまざまな時点で、多くの国が奴隷に頼っていたのは確かだが、ローマの奴隷労働力への依存度は際立っている。一時期、ローマの人口の30%が奴隷で占められて、生まれるよりも死ぬほうが多いとまで言われた。
奴隷の数を維持して、労働力を保つために、ローマはひたすら周辺地域を征服し続けて、奴隷を確保しなくてはならなかった。それでも数が足りることはめったになく、こうしたやり方は残酷を通り越して、非常に非効率で、人命のムダ使いでしかなかった。
・古代ローマの奴隷制度に関する10の事実:カラパイア
7. 古代ローマの無慈悲
ユダヤ人は、いろいろな意味でローマ人から敬意を払われていた。それはユダヤ人の信仰の古さのせいだった。
端的に言うと、彼らは概して扱いやすかったのだ。だが、ローマ帝国にとってときに問題になることもあった。ユダヤ人は自分たちのまわりの多神教的な集団や政治の中で浮いていて、完全に同化することを拒んだ。
ユダヤ人は概して従順だったが、政治的に意見が対立すると両者は衝突した。紀元70年、ローマ人は多くのユダヤ人を殺し、彼らのもっとも神聖な聖堂を破壊して、暴動への対処の仕方、キリスト教徒もまもなくこうなるという例を世間に知らしめた。
ローマ人は頻繁にこうした鎮圧を行い、ありとあらゆる暴動が過酷なやり方で抑え込まれ、反乱
者は完全に抹殺された。
6. 愛国心か死か(ローマ)
ローマ人は宗教によって差別していたわけではなく、むしろ愛国心があるか否かで判断していたことを心に留めておかなくてはならない。
つまり、指導者に敬意を示す良き市民でいる限り、誰を崇拝しようとローマ人は構わなかったということだ。だが、キリスト教徒のグループなどが非公式に会見を求めてきたときに問題は起こる。そうしたグループの数が次第に増え、自分たちが異端だとみなす儀式への参加を拒むようになった。
ローマ人は宗教を国家の愛国心を維持するための手段と考えていて、ローマの支配者や法を有効にするために共通の宗教礼拝を活用した。だが、キリスト教信者のような部外者は、ローマ人が脅威とみなす不和や軋轢を生みだした。こうして、キリスト教徒は迫害された集団となった。
ネロからディオクレティアヌスまで、ローマ人はおびただしい数のクリスチャンを拷問し殺害した。個人でも集団でも、群衆の面前や通りで公然とクリスチャンを辱しめ、抹殺したのだ。
ローマ人は自分たちの秩序に反する脅威を必死で打ち砕こうとするあまり、考えうる限りの残酷なやり方で少数派の信仰を処罰し、自分たちがどれほど残酷になれるかを世間に知らしめ、ディストピアをつくりあげてしまったのだ。
5. 上流階級の代償は一致していた(古代ギリシャ)
ギリシャの貴族階級の12歳から15歳の少年たちには、たいてい年長の師がつき、教養をもち成功するにはどうすべきかを教えられた。だが残念なことに、このペアリングは子弟の関係を越えることが多かった。
師と弟子の性的な関係は、ギリシャ文化では完全に認められていて事実上奨励されていた。若者の権利は、年長者に武勇を示し、その見返りに指導をあおぐという関係に委ねられていた少年が思春期に入る前にこうした関係になることもあり、双方の合意によるものではなく、その社会的序列から抵抗もできなかった。
多くのギリシャ人は子弟関係においての相手への愛情を主張してきたが、若い弟子にとっては決して自由意思による結果ではなかった。
こうした形で、ギリシャ文化は若い貴族を怯えさせ、倒錯した権限を濫用して彼らを食いものにし、恐怖としか表現できないような世界を作り出した。
4. 女性の生活は囚人のようだった(古代ギリシャ)
ギリシャの女性たちのほとんどは、社会から切り離され、まさに独房で監禁されているような生活をしていた。
結婚するまでほとんど家の中で過ごし、似たような家柄の夫のところへ嫁いでいく。雑用に奔走し、(同席できる場合は)儀式に出席することもあったが、生活のほとんどは家の中でほぼひとりで過ごした。家の中の専用の部屋で、子どもや使用人と共に過ごし、夫の許可があれば、訪問客を迎えるために客用の部屋に入ることができた。
女性たちはたいてい14歳で結婚し、奴隷の少女は男の主人の性的所有物、その妻のうっぷん晴らしの対象だった。
奴隷、貧乏人だけでなく、貴族、中流階級の女性たちですら自由はなく、女性は男が作った単なる哀れな存在で、醜く知性もなく、彼女たちの安全のために部屋に閉じ込めておかなくてはならないという考えのもとに甘んじるしかなかった。
3. 少数派教団の林立(古代ギリシャ・ローマ)
歴史家によって"ミステリーカルト"と名づけられた組織が、古代ギリシャ・ローマにはたくさんあった。
彼らは秘密の礼拝、入団式、儀式、それぞれ違う教義をもつ。各カルトは独自の食事、埋葬、日常生活、信仰する神や女神をもち、ひとつの存在に自らの生活を捧げることでそれを信仰していた。
輝かしい死後の世界へとのぼっていくために、神や女神の愛顧を得ようとしていたようだ。
ミトラというカルトは、男性オンリーのカルト集団として軍国主義や男らしさを寿ぐ。信仰の対象がなんであれ、カルトは歴史家を引きつけるが、現代人にとってはかなり不気味だ。
・古代ギリシャ・ローマ時代のカルト信者が使用していた謎めいた手の彫刻「サバジオスの手」 : カラパイア
2. 戦闘特化集団、スパルタ人の台頭
この世に生を受けて以来、スパルタ市民は徹底して蛮行を訓練される。戦争を行うことがあらゆるスパルタ人にとって究極の目標で、その目的を果たすために十分な装備を整える。
少年時の食事でさえ、制限されている。たくましい体格を維持するためにそうするのではなく、盗みを奨励するためだ。食べ物を盗んで捕まると、その罰は過酷だったが、それは盗みの罪のせいではなく、現行犯で捕まったことが理由だ。
スパルタ人は効率性と力だけを説き、モラルなど後回しにすることが多い。意図的に自分の子どもたちを頑強で有能な犯罪者に育てるのも、すべては戦いに備えるためだ。
男は10年間軍隊に奉仕しなければならず、それから初めて正式な市民として認められる。そして、自分の兵舎をこっそり抜け出して妻のところへ行かされる(これもまた、捕まれば罰せられる)。スパルタに生まれたら、兵士になって一生国に縛りつけられるしかなく、個人の自由などほとんどもてない。
1. 腐敗と没落(古代ローマ・ギリシャ)
古代ローマ・ギリシャについてのもっとも恐ろしいことは、腐敗だろう。両者ともかつては栄華を誇ったが、さまざまな理由で、彼らは自分の帝国を制御する術を失い、その優位性を他者に譲ることになった。
どれほど政府が強くても、最終的には崩壊し滅亡した。ソクラテスの死はギリシャの真の理想の死を寓意的に意味していて、避けられない衰退の前兆だった。ここではとりあげていないが、ギリシャやローマのたくさんの創設者たちの考えはすばらしいものだった。だが、帝国の終焉までそれは続かなかった。
収賄や私利私欲が、ローマ帝国の崩壊の原因になり、新しい国家が台頭してきたときに、立ち向かう力はもうなかった。力を増すほど、政府自体はゆっくりと衰退し、最初にできたシステムの腐敗した残骸をさらすだけとなった。暗殺や闇取引がはびこり、末期のローマ政府を本当の意味でのディストピアにしてしまった。
References:10 Reasons Why Ancient Greece And Rome Were Complete Dystopias - Listverse/ written by konohazuku / edited by parumo
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コメント
1. 匿名処理班
古代ギリシャと古代ローマを一緒に扱うのは如何なものか
2. 匿名処理班
ギリシャは民主主義のせいで滅びた事がある
3.
4. 匿名処理班
籠の中の鳥が不幸だからって、
野に解き放たれれば幸せになれるかって言えばまた別の話だからなぁ
自由と治安がある程度両立した現代に感謝
5. 匿名処理班
キリスト教優越史観にあふれた記事。
国家や文化圏の興亡はいつの時代もあることで、現代の西欧文明風な倫理感を振りかざして過去の事象を解釈しても意味がない。というか、記事の内容から筆者の解釈を差し引くと、人間の行動規範が何も進歩してないことに驚く。
6. 匿名処理班
一番の原因は移民だろう。
7. 匿名処理班
大してディストピアでもない
8. 匿名処理班
中国が今まさにITを駆使して全国民の「信用格付け」を
行おうとしてるけどローマにおける監察官と全く同じだなぁ
超大国になりつつある隣国がディストピアに向かうのは
日本にとって対岸の火事では済まされない気がする…
9. 匿名処理班
地味に地方独自の古代思想を今でも引き摺っている地方が日本の近くにもありますねぇ。
国も民族さえ入れ替わっても、その思想だけは残り続けている。
困った物です。
10.
11. 匿名処理班
陶片追放とか隙あらばやりたがる奴定期的に湧くしな
12.
13.
14.
15.
16. 匿名処理班
ローマの場合離婚率半端でなく7バツなんてごく普通
しかも合い場所はコロシアムであり、くんずほぐれつする
相手を探す夫婦なんてよくいたようだ
17. 匿名処理班
※8
十四億の蛮族を制御統制しようとしたらその位は当然、寧ろしてもらわなければ困る
民主化すれば素晴らしい事が起こるとでも思うのだろうが実際は誰にも制御されぬ十四億の黄巾の乱が起きるだけのように思える
18. ナパチャット
今も昔も大して変わらない
19. 匿名処理班
古代ギリシャが滅びた理由→ローマ
古代ローマが滅びた理由→氷河期
20. 匿名処理班
それじゃあ今が自由化といわれると、ねぇ・・・
似たような権力の暴力や情報の統制は今でも聞く話だし、一方で国民市民も自由と権利ばかり求めて責任と義務は等閑な人も珍しくないし
21.
22. 匿名処理班
今も大して変わらないじゃん
23. 匿名処理班
キリストとユダヤ教は古代ローマを目の敵にしすぎてうんざり
24. 匿名処理班
移民問題とか外国人に参政権与えすぎた問題とか民主主義が衆愚政治化して有能な指導者が追い落とされたりとかっていう、現代と共通する問題には敢えて触れない方向なんだな。
その一方でユダヤ人叛乱の鎮圧とかキリスト教カルトの取り締まりとか、やられた方がそもそも犯罪者のようなケースまで取り上げてる。
25. 匿名処理班
臆病な無能が権力持つと、ろくでもない世界になる
26. 匿名処理班
奴隷の反乱が怖い?なら奴隷より強くなればいいんや(真理