特集
2018年5月8日
銀座和光。銀座の象徴的な建物だ。
銀座和光は、元々は服部時計店(現在のセイコー)の本社として1932年(昭和7年)に作られた、銀座を象徴する建物である。。
この銀座和光と、昭和を代表する大スター・石原裕次郎、そして新宿の百貨店・新宿伊勢丹にはある共通点がある。 ちょっと予想して読み進めて欲しい。
岡本智博(オカモトラボ)(おかもとともひろ)
1984年生まれ岡山のど田舎在住。技術的な事を探求するのが趣味。お皿を作って売っていたりもする。思い付いた事はやってみないと気がすまない性格。前の記事:「人工知能(AI)に面白記事を考えさせたら怒られた」 人気記事:「プラスチック射出成型機でプラスチック製品を“手作り”する」 > 個人サイト オカモトラボ 正解は薄ピンク色の石銀座和光の外壁に近づいてみる。
銀座和光の外壁をよく見てみると、ピンク色と白色、黒色が混ざった特徴的な石で出来ていることが分かる。全体で見ると薄くピンク色だ。そして新宿伊勢丹も同じ石が使われている。
神奈川県にある石原裕次郎のお墓。
また、こちらは1987年(昭和62年)に52歳という若さで亡くなった昭和を代表する大スター、故・石原裕次郎氏のお墓である。
墓石はやはり薄いピンク色。
東京で桜の開花宣言が出される時の基準となる桜の標本木。
さらに記憶にも新しい桜の開花宣言のニュースでお馴染みの靖国神社の標本木だ。
周囲に敷いてある砂利を見ていただきたい。少し分かりにくいかもしれないが、そう、やはり薄いピンク色をしている。 この様に色々な場所で見つける事ができる薄ピンク色の石は、実は全て同じ場所で採掘され運ばれてきたものだという事はあまり知られていない。 石の正体は岡山県岡山市で採れる万成石そんな日本中でひそかに大活躍している薄ピンク色の石は、僕が住んでいる場所からほど近く、岡山県岡山市の万成という場所で採れた万成石というものらしい。
万成石は地下深くでマグマがゆっくりと冷え固まった花崗岩で、花崗岩には石英、斜長石、カリ長石、雲母などが含まれている。万成石はカリ長石がピンク色をしている珍しい石だ。
僕は岡山市に万成という地名があるのは知っていたが、石が採れるというイメージはなかった。僕がフリーターをしていた時にカラオケ店で一緒にバイトしていた学生さんが万成に住んでいたくらいで、あまりイメージが湧かない。
岡山市の中心部から15分ほど車を走らせる。
やってきたのは、万成石の採掘元である武田石材さん。
と言う訳で、万成石の採掘元の武田石材さんにお邪魔した。採掘元と言えば、もっと山の中にあるイメージだったが意外にも住宅地の中だった。
今回お世話になった専務の高橋さん(左)。
高橋さんには以前から知り合いで、めちゃくちゃお世話になっている。今回急に連絡してお邪魔させてもらったのだ。
高橋さんは面倒見が良いいわゆる職人さんという雰囲気で、万成石について聞けば熱く語ってくれる。 気づけば灰皿の下にも万成石。
採石場(丁場)をみせてもらう薄ピンクの石はどんな場所で採れるのか、もしかすると山自体が薄ピンクなのか。だとすればインスタ栄え間違いなしだなと想像を膨らませながら、早速採石場を見せてもらう事になった。
採石場のことを高橋さん達は丁場(ちょうば)と言っていたので、ここからは丁場と書いていく。 高橋さんの運転で丁場へと向かう。
丁場までの道は住宅街の中の軽自動車が1台ギリギリ通れるくらいの道を山に向かって走る。石を運び出す時には別のもっと広い道を通るそうだ。
丁場に向かう道の途中には石の祠がある。
この祠には山の神様が祭られていて、しきたりで1月、5月、9月の9日は山での作業はしないらしい。
車で5分ほど走ると丁場に到着。
土と石ばかりの場所に出た。しかし、もっと岩ばかりの場所を想像していたので、土が多いことには驚いた。石を実際に採っているのはこの写真の上のほうだ。
さらに傾斜45度くらいありそうな坂を上る。
傾斜が急なので登るのは中々しんどい。それに足元の土が崩れるので気分はアリ地獄に落ちたアリンコだ。崩れなさそうな場所を見極めて慎重に登る。
そんな中高橋さんはスイスイ進む。 石の切り出しさて、なんとか石を切り出す場所に到着した。重機と切り出された石が置いてある。
薄いピンクの岩肌を想像していたけどベージュに近い。
全然ピンクじゃなかった。
それもそのはず、万成石の表面は茶色で、内側がピンクなのだ。
石の表面と内側でこんなに色が違うのは驚きだ。
切り出した石。V字の溝は発破の跡。割りたい向きにVを作る。
そして同じように見える石にも、実は割りやすい向きがあるそうだ。
この万成石の場合は水平が一番割りやすく、次に南北、三番目に東西となるらしい。つまり木に木目がある様に石にも目があるのだ。そんな事考えた事も無かった。 しかし木目と違って石材の目は一度山から切り出してしまうとプロでも見分けるのが難しくなるので、赤い目印を付けているらしい。 そういえば僕もどこかで赤い目印が付いた石材を見たことがある気がする。そういう事だったのか。 石材の形を整えるそして切り出した石はおおまかに形が整えられる。
説明してくれる高橋さん。石は押す力にはめっぽう強いが、引っ張る力には弱いらしい。
だからくさびを打ち込むと引っ張られて割れる。なるほど。
角のギザギザはくさびを打ち込んだ跡。
すでに四角っぽい形になっている。
この様にポコッと出っ張っているのはまっすぐ割れなかったところ。
工場で仕上げへ概ね形を整えた石材はさきほどの住宅地の中にある工場に運ばれる。
工場の中には巨大な機械が並ぶ。
大きな機械が所狭しと並んでいるので、僕にはどこからどこまでが1つの機械なのか分からなかった。全部が一つの大きな機械に見える。そんな中で巨大なカッターがものすごい存在感を放つ。
ちょうどカッターが石を切っていた。
石を切る時は人の声が聞こえなくなるくらい大きな音がするのかと思っていたが、想像していたより静かだった。
しかし回転しているカッターは超怖い。カッターだけではなく、その周辺5メートルくらいの空間が怖い。かつて空間が怖いなんて感じたことがあっただろうか。存在感があり過ぎる。 そしてここで仕上げの研磨を行う場所だそう。残念ながらこの日は動いていなかった。
そして完成した墓石たち。
かつては銀座和光や新宿伊勢丹のように建材としての需要が多かった万成石だが、現在は墓石用としての需要が多いのだとか。
ツルッツルしていてもはや、最初の岩石の面影はない。外の光が鏡の様に反射している。 ここまで来るのは山の岩から2割くらいなのだとか。大半がはざいとなってしまう。なんとも贅沢な使い方だ。 芸術作品の材料になっていたりもする。どうやって作るのか想像も出来ない。
奥にあるのは靖国神社にあるのと同じ砂利。
この様にして、切り出された薄ピンクの石は日本各地に散っていき、静かに風景に溶け込んでいくのだ。
帰ろうとしていると、僕が普段良く通る道からも先ほどの丁場が見えていた。
全く採石のイメージがないと思っていたが実は僕が気づいていないだけだった。知らないだけで意外と身の回りに面白い世界が広がっていたのだ。僕が散漫なだけなのかも知れないが。 武田石材さんは見学を積極的に受け入れているそうなので興味があれば是非。 武田石材
|
|
▲デイリーポータルZトップへ | バックナンバーいちらんへ |