「飛ばないテントウムシ」を開発

http://www3.nhk.or.jp/lnews/chiba/20180514/1080002226.html

誰でも知っている昆虫、テントウムシ。そのテントウムシを農家のために役立てようという取り組みが、
千葉県東金市の県立農業大学校で進められています。千葉局の金敷匡史記者が取材しました。

【農家を悩ます「アブラムシ」】
野菜の葉や茎にびっしりとついたアブラムシ。その様子を見て、鳥肌が立ったことはありませんか。
もちろん、農家にとってもかなりのやっかいものです。
たくさん発生すると、植物は汁を吸われて抵抗力が弱まり、病気になることがあります。
アブラムシの駆除は難しく、農薬が使われることも多くありました。

【テントウムシに食べてもらおう】
そこで登場するのが、アブラムシの天敵＝テントウムシです。
アブラムシを食べてもらおうと、平成２４年、成田西陵高校の地域生物研究部の生徒が研究を開始。
高校を卒業後、農業大学校に進学して開発に取り組みました。
その研究が農業大学校の後輩に引き継がれて今も続いています。

【課題は「飛んでしまう」こと】
ところがテントウムシは飛ぶ能力が高く、なかなか１か所にとどまってくれません。
せっかくアブラムシがいるところに放しても、食べる前に飛んでいったりします。
なんとかテントウムシを「飛ばさせない」ための工夫が必要です。
これまでにも飛ばないテントウムシの開発には、複数の機関が挑戦してきました。
飛ぶ能力の低い個体を選んで３０世代にわたって交配させたり、遺伝子操作で羽の成長を抑えたり。
しかし、こうした作業は簡単ではなく、コストがかかることなども課題だったといいます。

【樹脂で固めてしまおう】
これに対し、学生たちが考えついたのは、テントウムシの羽を樹脂で固定するという比較的、簡単な方法でした。
一方で、樹脂選びは大変でした。テントウムシの外側の羽はろうのような物質でコーティングされているため、
身近な接着剤では固定できませんでした。
いくつもの種類を試した結果、たどりついたのは手芸などで使われる樹脂でした。
温めると液状になり、テントウムシの背中に１滴垂らせば素早く固まります。
さらに学生たちがこだわったのは、テントウムシを再び自然に戻すことでした。
この樹脂は２か月ほどで劣化するため、やがて剥がれ落ち、テントウムシは自由に飛べるようになるのです。
一度、樹脂で固定したテントウムシを飼育すると、樹脂が剥がれたあと、
２年近く元気に生きているものがいました。
また、樹脂が着いたままの状態でも、繁殖能力に影響はありませんでした。

【果たして活躍してくれるのか】
さて、学生たちの「飛ばないテントウムシ」、果たして活躍してくれるのでしょうか。実験の開始です。
学生たちは、農業用ハウスの中に１平方メートルの区画を作り、苗に３０匹ずつアブラムシを放しました。
１か月後、アブラムシは１００倍以上の３４００匹に。すさまじい繁殖力です。
一方、同じような区画にアブラムシと２匹の飛ばないテントウムシを放したところ、
テントウムシはしっかりとその場にとどまり、僅か４日でアブラムシを食べ尽くしたのです。
「飛ばないテントウムシ」の高い駆除能力が確認できました。

【農家の期待】
学校ではことし１月から「飛ばないテントウムシ」１０匹入りの袋の販売も始めました。
これまでに２０件以上の注文があって、出足は好調です。特に喜んでくれたのは、地元のイチゴ農家です。
イチゴ農家では、受粉をミツバチに頼っているため、農薬を使えませんでした。
アブラムシの駆除に困っていたところ、学生たちの取り組みを知ったといいます。
私は、実際に２００匹のテントウムシを届けるところを取材しました。
「飛ばないテントウムシ」はハウスの中で決して飛び回ることなく、着実にイチゴの茎をのぼっていきました。
今も元気に活躍しているそうです。

【課題とこれからの研究】
今後、購入希望者が増えればテントウムシの確保が課題になります。
このため学生たちは、校内で繁殖させる研究を進めています。
どういう餌がよいのか、どんな環境なら順調に成長してくれるのか。
確認しなければならないことは少なくありません。
また、テントウムシに微生物を運ばせて、害虫のコナジラミを駆除するための研究も進めています。
コナジラミは駆除が大変なため、成功すれば大きな成果です。

「飛ばないテントウムシ」が、どこまで活躍の場を広げてくれるのか、私も期待しながら見守りたいと思います。

05/14 11:28