私たちには利用規約がある
集中したいときや現実逃避したいとき、たまに小難しい小説を読んで脳をスコーンとさせることがあるけれど、手元になくてもこれからは利用規約がある。
心しておきたい。(けどたぶん読まない)
心しておきたい。(けどたぶん読まない)
試練を乗り越え比較に成功。うれしさのあまりなかなか離れない友人
毎日チェックしているアメリカのブログBoingBoingで、Coryさんが紹介していた作品がとてもユニークだった。
オンラインサービスの利用規約を、異なるカラーの紙にプリントして可視化したインスタレーションだ。 展示写真は1日にして出回ったものの、どこの会場で作者が誰なのか不明だったのだが、記事公開の4時間後には判明。 イスラエルのデザイナーDima Yarovinskyさんの作品"I Agree(同意します)"だった。 縁のない国でこんなことが……! 日本の利用規約はどうなってるんだろう? やってみました。
土屋遊(つちや あそび)
イカとタコが大好きで、食べたり被ったり本まで出版しました。
でもサイコーに好きなのはアワビだったりします。世間に対する謙虚です。前の記事:「地上7mのフクロウが見守る、すげえ山奥の夜祭り」 人気記事:「今こそレモンパイ おすすめ喫茶10」 > 個人サイト Weekly Teinou 蜂 Woman 利用規約、はたして読まれることを前提としているのか?恥ずかしながら、そもそも私は利用規約を読んだことがない。漢字が多いし、長いし、わけがわからない。だいたい読まれることを前提としているのだろうか?
PCの場合、利用規約は冒頭の5行ていどが表示されていて、あとはスクロールで全文読めるようになっている。 すべてに目を通さなくても『同意します』ボタンをクリックできる仕様がほとんどだ。これはもう企業サイドとユーザーの暗黙の了解が成立していると言っていいのでは…? 「同意します ボタン」で画像検索した結果
筆者自身がまともに読んだことがないため、全文読む人なんていないっしょ……と思ったものの、これは個人の思い込みかもしれない。一般的にはどうなんだろう? と、Twitterでアンケートをとってみた。
(ご協力ありがとうございました) たまに読む人がこんなに……。意外にちゃんとしてる世の中なんだろうか……
「それなんですか?」はおいといて、熟読派もいるのは一驚した。
規約はもちろん、マニュアルなどにもぜんぶ目を通す活字マニアの友人がいるけれど、そういう類だろうか。それともなにかしら法に関わるお仕事とか…? いや、過去に痛い目にあって…と妄想を炸裂させてみたが、「世の中はちゃんとしてる」ことをそろそろ認めなければならない。 各サービスの利用規約を検索して文字数をチェック予想外の世の中に気を引き締めつつ作業に入ろう。
主要なネットサービスに絞って利用規約を検索して、あとはコピーする。 その後、いつも利用している文字数カウントにペーストしてカウント。文字数を一挙にたたき出す。 トップ10をグラフにしてみた。 ちなみに、教科書によく出てくる短編小説「蜘蛛の糸(芥川龍之介)」は3466文字。今回カウントした15企業のうち、もっとも少ない文字数にも満たないじゃないか。 フリマアプリのメルカリが19316文字でトップに君臨
メルカリの規約はここくらい。5分の1だ。 この規約を5回読めば、ほぼ一冊読めるという計算!
トップ10以降は……
11位 Twitter 8093文字 12位 pixiv 7791文字 13位 Google 6853文字 14位 LINE 6042文字 15位 ヤフオク 4363文字 画期的! 利用規約の要約もあるWikipedia2位に君臨したWikipediaの規約ページは画期的だった。
16919文字の利用規約の前に、その"要約"があるのだ。644文字にまとめた非常にわかりやすい構成になっている。26分の1だ。 そしてこちらの規約、書き出しはフレンドリーな呼びかけから始まる。 想像してみてください、人類の知の総和を誰もが自由に共有できる世界を。その世界が私たちの公約です。 イマジンのような呼びかけで油断させといて実は固い文言が並ぶ……という流れ。油断禁物である。 次に、いよいよ可視化である。各社ごとわけてテキストエディタからプリントした。 各利用規約をA4サイズにプリントして、それぞれ繋ぎ合わせる
あまりにも膨大な長さになることを恐れるあまり、余白は最短、文字は8ポイントに抑えた。
ビビりすぎである。 ぶら下げて比較してみよう友人宅の屋上を借りて撮影することにしたが、問題がひとつあった。
犬だ。これでも情けをかけて、1番温和そうな表情を選んだ
友人伊藤さん宅のアイドル狂暴犬アンジュ。片時も私から目を離さず、少しでも動けばがなり声をあげて恫喝してくる。人だったら恐喝で通報するところだ。
私は人間なので知恵がある。ひたすら対峙するわけにも負けるわけにもいかない。屋上にあがる階段のドアを閉めきることで勝利を得て、作業に取りかかった。 予想外な強風。頼もしい背中も、自然を前になす術がない。このままでは利用規約が破けて飛んでいってしまう
我々は白ふんどしを干しているわけではないのだ。
竿はあきらめて、風向が異なるベランダの柵を利用しよう。 紙を折り、慎重に洗濯バサミで留めつつ並べて柵に貼っていく
打ち勝った……(犬と風に……)
利用規約を(生まれて初めて)読むよし。
とりあえず、一目瞭然をカメラにおさめ、満足した私たちの次のミッションは「読む」ことである。 どちらかというと速読派なので、いくら長いとはいえ問題はないだろう。 ……。
ダメだった。
画数の多すぎる意味不明な漢字。風で揺れる文字。紙と風とがぶつかり合う音。家の中には狂暴犬。まったく集中できない! そして何よりも、ビビりすぎて文字を小さくしたために、老眼で読みづらいのである。動物にも自然にも勝った人間でも老化現象には負けるという、欲しくもない気付きを得てしまった。 あとでモニタで読もう……っと。 風も小さな文字も堪える。「ムリだねコレ」と、老化現象に降参した我々。歳に抗ってはいけない
いったい利用規約には何が書かれているのか?後日、読解しようと慎重に読み進め、最長のメルカリで26分かかった。いまだに完全把握しているかどうか自信がない。
目にとまったのは、クックパッドの利用規約内の「第三者が提供するサービスを利用する場合がある」という文言だった。 これは、"行動ターゲティング"で、顧客の行動履歴を元にユーザーの興味関心にターゲットを絞ってインターネット広告配信を行う手法のことだ。 ほとんどのサービスは利用していると思うが、ほか企業での記述は見当たらず、クックパッドだけが明文化していた。 文字が小さすぎて、もはや模様に見えてくる……
いいたいことはひとつだけなのかもしれないやっぱり規約、長い。
ミニマムな生き方が注目を浴びている昨今だけれど、こうして日々奮闘している企業にはエールを送りたい。 送りますけども、今後全文きちんと読むかどうかと訊かれれば、それはまた別の話である。 だって今回利用規約をしっかり向き合って感じたことは、どの企業も、ユーザーに伝えたいことはひとつだけのような気がしたからだ。 「当社は責任を負いません」 そう私は理解した。 もうこのひとことでいいんじゃないのかな〜? (ダメです) 私たちには利用規約がある
集中したいときや現実逃避したいとき、たまに小難しい小説を読んで脳をスコーンとさせることがあるけれど、手元になくてもこれからは利用規約がある。
心しておきたい。(けどたぶん読まない) 最後まで自宅警備に余念のない犬
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