【昭和の怪奇事件】息子の復讐を果たした悲劇の父親！焼香の背後から一突き

2018年06月02日：22:00

今回、ご紹介する昭和の怪奇事件は、1974年（昭和49年）10月1日の朝日新聞に掲載された記事から参照させていただく。「輪禍悲し…加害者も遺族も」という見出しで紹介された記事は、世にも悲しい男の復讐劇を取り上げている。

9月30日の秋の夜、東京都江戸川区にある交番へ42歳の男性が付き添いに沿われ「人を殺した」と自首してきた。男の名前は衣料裁断工の中田三郎（仮名）といい、彼は自宅で同区に住む鉄工所の工員、田宮勉さん（仮名）をナイフで刺し殺したという。

中田さんは服がボロボロになっており、体のふしぶしから血が流れ出ていたという。
中田さんをよく知る人によると、彼は近隣住民から常に慕われる人徳者でとても殺人を犯すような人ではなかったという。では、一体なぜ中田さんは人を殺してしまったのだろうか。

息子を失った父親

話は事件から半年前。3月下旬にさかのぼる。中田さんには17歳になる息子の雅之くん（仮名）がいた。雅之くんは小さい頃から役員や生徒会長などを歴任するいわゆる優等生で、将来は父の跡を継ぎ、父のいる衣料の職業に就くことを夢見ていたという。

父である中田三郎さんも、雅之くんを自分の跡取りとして考えており、雅之くんが高校を卒業する来春には自分の後継者として育てるつもりだった。

しかし、その夢はある日、脆くも崩れ去った。

雅之くんは3月25日、学校からの帰宅途中、自動車事故に巻き込まれ帰らぬ人になってしまったのだ。原因は車を運転していた田宮勉さんの信号無視で、雅之くんは内蔵破裂の即死だった。

最愛の息子、そして跡取りを失った中田さんの悲しみは大きく、勤めていた工場を休みがちになってしまった。

雅之くんを死なせてしまった田宮さんは責任を感じ、時折、中田家を訪れ線香などをあげるなどしたほか、また支払う示談金に関しても田宮さんは中田さんに対し「自分の土地を売ってでも支払いたい」と泣きながら訴えたという。

中田さんは田宮さんを到底許すことはできなかったが、息子の亡骸の前に涙を流していた田宮さんをこれ以上、責めることはできなかった。

しかし半年後、二人の関係にヒビが入るような出来事が発生した。

田宮さんの不審な行動

９月の頭、中田家に雅之くんの事故を担当していた弁護士から連絡が入った。その内容は耳を疑うものだった。なんと田宮さんは示談金の値下げを弁護士要求してきたのだという。

田宮さんは35歳の中堅工員であり、今回の事故の影響で収入面で苦労していた。

「土地を売り払っても…と言っていたのに…！！」

ふと、中田さんは田宮さんの行動に不審な点があったのを思い出した。　
8月頭に裁判で対面した時の田宮さんは自分に対し素っ気ない態度だったという。

その日から中田さんの心には田宮さんへの不信感が芽生えはじめ、いつしかその想いは「殺意」へと変わっていった。

そして9月30日。田宮さんは中田さんの自宅を訪れた。月の終わりということもあり、中田さんが田宮さんを呼び出したのだ。中田さんは田宮さんを招き入れると、田宮さんは一礼し、雅之くんの仏壇の前で線香に火を点け、目をつむった。

その瞬間、中田さんは仕事道具の裁断用のナイフを手に取り、田宮さんの首をブスリと刺した。

田宮さんは正座したま気を失い、中田さんは続けて背中へナイフを突き刺した。ナイフは田宮さんの心臓を貫き、田宮さんは無言のまま即死した。

「ついにやってしまった…」

中田さんは自分がいつか田宮さんを殺してしまうことに薄々気付いていた。
しかし、頭でわかっていても、自分のなかに芽生えた殺意はついぞ押し殺すことができなかったのだ。

中田さんは自殺を決意し、自宅の西側の屋根のひさしからナイロン製のヒモをたらし、首吊り自殺を図った。しかし、ナイロン製のヒモは途中で切れ自殺に失敗。騒ぎを聞きつけた近隣住民が中田さんを説得し自首することにしたという。

なお、中田さんは自分がいつか田宮さんを殺して自分も死ぬことを考えており、後日雅之くんの仏壇から遺書および辞世の句が見つかっている。

最後に中田さんの残したという辞世の句をご紹介して本稿を終えたい

「吾子や　きし弥生の　空の　煙悲し　うつろ夜やなき子の面影はなれずに　吾子の墓　蝉の声あり　妻のさと」

参照：朝日新聞縮刷版

文：穂積昭雪（昭和ロマンライター / 山口敏太郎タートルカンパニー / Atlas編集部）