50年前、5機の無人月周回衛星は月の周りを飛び、月の表面の99%を60m以上の解像度で撮影した。それはアポロミッションのために絶好の着陸地点を見つけるためのものだった。ルナ・オービター計画である。
その写真は宇宙飛行士が何か大発見はないかと歩き回れるくらい大きかったのだが、使用後は、いく度か月面着陸が行われるまで、一般公開されることはなかった。
当時、そこからアメリカのスパイ衛星カメラの優れた技術がバレることを恐れたからだ。主に懸念されたのは、ソ連が着陸地点に関する貴重な情報を手にすることだった。
1971年には画像の多くが公開されたが、主に学者向けで、それが本来持っている画質にも程遠い低解像度のものであった。
2008年以降、本来の画像が初めて公開されることになる。
それはとても鮮明な画像だったのだ。
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マックムーン:閉店したマクドナルドで月の画像をデジタル化
上は1966年に公開された地球の出の写真。下はテープから直接復元されたもの。下の画像は撮影されてから42年後の2008年に初めて公開された。
image credit:NASA / LOIRP
NASAのルナ・オービター1〜5号は1966〜67年にかけて月に送られた。そしてポスト・アポロ時代となる60年代後半、アナログテープに記録されたデータはメリーランドで保管された。
1966年8月24日、ルナ・オビーター1によって撮影された月の地平線上から見える地球の出
image credit:Credit NASA / LOIRP。
80年代半ばには、NASA惑星探査データシステム(PDS)の共同設立者ナンシー・エバンズの管理の下、ジェット推進研究所に移された。
テープはそれからもあちこちに移され、やがてナンシーはデニス・ウィンゴとキース・カウイングに出会った。彼らは将来世代のためにデジタル化が必要だと考え、NASAエイムズ研究センターにテープを持ち込んだ。
彼らには閉店したマクドナルドが作業場として提供された。
それが”マックムーン(McMoon)”だ。
目的はテープを読む技術が失われたり、テープ自体がダメになってしまう前に、データをデジタル化することである。
元マクドナルドを改装した通称”マックムーン"。トレードマークのドクロの旗は、ハッカーの技法が使用されていることを示唆したもの
image credit:MIT Technology Review
気の遠くなるような膨大な作業
ルナ・オービターが画像を携えて地球に帰還することはなかった。代わりにオービターは70ミリのフィルムに焼き付け、そのネガを5ミクロンの点でラスター走査(解像度200ライン/mm)し、ロスレスアナログ圧縮で地球へ送信した。
地上ではマドリード、オーストラリア、カリフォルニアにある3ヶ所の基地が信号を受診し、磁気テープに記録する。テープはアンペックスFR-900という、冷蔵庫ほどもあり、60年代当時30万ドルもしたテープドライブで読み込まれる。
画像復元に用いられたFR-900。新旧の機器を組み合わせてデータ復旧が試みられた。
image credit:MIT Technology Review
FR-900の背面。ナンシー・エバンズら、プロジェクト発案者のサインがある。
image credit:MIT Technology
データの復元にはそのFR-900の修復が必要であることが分かり、元マクドナルドの流しで洗うことが作業の始まりとなった。
さらに画像を引き出すカスタムメイドの復調器、アナログ・デジタル変換器、動作を確認するためのモニター接続が必要だった。テープのラベル様式が忘れられてしまったうえに、その付随資料もすぐには手に入らなかったので、テープの座標を解読する必要もあった。
月の画像が記録されたテープのほんの一部。ラベルの座標を調べるために、手作業で確認された。
image credit:MIT Technology
他のFR-900や似たような設計の機器から大量のパーツを抜き取る必要もあった。これらのスペアパーツは記録し続けるために常に必要なもので、フォーマットが長く使われなかったことにはそれ相応の理由があったわけである。
テープを読み込むには、FR-900のヘッドでテープに磁場を与え、電流を生じさせる。この電流を測定し、復調器を通過させる。これによって画像信号が引き出され、それをアナログ・デジタル変換器に通す。
それから彼らが特別に作ったシステムによって、データをコンピューターで処理。さらにフォトショップを利用したソフトウェアで画像をつなぎ合わせる。
オービターは画像を数回に分けて送信しており、それぞれが全体の一部を構成する。特製のソフトウェアはそれらを可能な限り最大の解像度でシームレスにつなぎ合わせるためのものだ。
画像の中でも最も素晴らしいものは、1メートル未満の解像度で月の表面を映しており、これまでに利用されてきたほかの月周回衛星が撮影した写真よりもはるかにクオリティが高い。
旧マクドナルドの厨房内には画像が保存されている膨大な量のテープが。そこに寝泊まりして作業する人の寝袋も。
image credit:thelivingmoon.com
今の基準でも巨大なファイル
それは今日の基準で言っても、巨大なファイルだ。その一つは最新のPC上で2GBもの大きさになる。デジタル一眼レフカメラの最高解像度の写真でさえ60MBであることからも、いかに大きなファイルであるかが分かるだろう。
あるエンジニアによれば、画質を劣化させずに屋外広告板用サイズにまで引き伸ばせるという。当時のNASAのエンジニアが画像を印刷したときは、あまりの大きさに教会に吊り下げなければならなかった。
下の写真から、その大きさがなんとなく想像できるだろう。各画像の大きさは1.58 × 0.4メートルだ。
アポロの着陸地点を決めるために床に敷き詰められた月の画像
image credit:NASA.
印刷した画像を組み立てるNASAの技術者
image credit:NASA
マックムーンの画像をもとにアポロ11号の着地点が定められる
ルナ・オービター4号は、月正面の1枚の大きな画像を作るために送られた。1967年5月11日から25日にかけて、月の北極から南極や東端から西端までにわたる画像が撮影された。
それらの画像を1枚につなぎ合わせたものは12.19 × 13.71メートルにもなった。それは床に敷かれ、宇宙飛行士ら見物人が靴を脱ぎ、その上を這い回った。
それほど広げても画像は素晴らしく、ルーペで拡大してみようとした者がいたほどだ。これはルナ・オービター5号がさらに高解像度の写真を撮影する場所を特定するための一次資料とされた。そして5号が撮影した画像を元に、アポロ11号の着陸地点が定められた。
画像で目を引くものは、月の裏側にあるツィオルコフスキー・クレーター。1967年2月12日、オービター3号が撮影
image credit:NASA/LOIRP
500本のアナログテープから2000枚の画像が復元
2007年以降、ルナ・オービター画像復元計画では1500本のアナログテープから2000枚もの画像が復元された。その最初の画像は”地球の出”の姿だ。キース・カウイングはこのように述べている。
「1966年に百万マイルの4分の1の距離から画像が撮影されたまさにその時、ビートルズはシェイ・スタジアムを熱狂させていた」
References:McMoon: How the Earliest Images of the Moon Were so Much Better than we Realised – World of Indie
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コメント
1. 匿名処理班
当時の本当のこの解像度でこれなら、今の本当の解像度はとんでもないほど高精細なのだろうな...
2. 匿名処理班
ここで最も驚くべき事は70ミリフィルムの情報量。おそらくオリジナルのフィルムにはまだ情報が埋もれてるはず。
3. 匿名処理班
スゴイ!(小並感)
4. 匿名処理班
ジョンのキリスト発言辺りで「メンドクセェ事になったな」という時期でもありますね。
5. 匿名処理班
元記事リンクをたどったらNASAの公開HPまでたどり着けた
Lunar Orbiter Image Recovery Project (LOIRP) Overview
画像でかくて見ごたえがある
パルモたん、良記事ありがとう
6. 匿名処理班
記事になんの説明もなくラベルと書かれていますが、このラベルと言うのは磁気テープの情報記録の物理的な位置の事です
このラベルを基準に何インチまでは何の情報、それから何インチは何の情報というように磁気テープの物理的な長さと情報の位置を示す指標となるものです
一般的なラベルとは、違うんですよね
7. 匿名処理班
「1966年に百万マイルの4分の1の距離から画像が撮影されたまさにその時、ビートルズはシェイ・スタジアムを熱狂させていた」
アメリカ人のこう言う言い回しの意味がわからん???
8. 匿名処理班
※1
フィルムってのはちょっとしたオーバーテクノロジーで、70ミリフィルムの解像度なら8Kとも勝負出来るんですよ。