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本に殺されるなんてことがあるのか?
どうやらあるかもしれない。
研究者らが南デンマーク大学の図書館で致死量のヒ素が塗られた書物を3冊発見したという。これらは16〜17世紀の写本で、研究者らが中世の写本の断片を調べようとしたところ、偶然に発見されたものだ。
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高濃度のヒ素が検出された中世の本
驚くべき発見があったのは、南デンマーク大学の研究者たちが、中世の手書き写本が綴じられた羊皮紙の断片を調べようとしていたときのこと
そこにはラテン語の原文が隠さているのだが、グリーンの塗料が塗られている。
そこで、同大の准教授、カール・ルンド・ラスムッセンらは、マイクロ蛍光X線を用い、塗料の化学性質を分析することに。
その結果、本についていたグリーンの色素に非常に高濃度のヒ素が含まれていることがわかったのだ。
本を綴じるのに使われていた中世の手書き写本の断片を研究していたところ、そこに砒素が塗られていたことが判明した。
image credit:Southern Denmark University
ヒ素が塗られていた羊皮紙は再利用されたもの
ラスムッセンによると、1536年のデンマークの宗教改革以後、多くのカトリックの書物が、燃やされたり、破壊されたりして破棄されたが、羊皮紙の一部は、1500〜1600年にかけて発行された書物を製本するのに再利用されたという。
これらの書物は、ポリドーロ・ヴァルギリウスの『イングランドの歴史』(1570)と、ヨハネス・デュブラヴィウスの『Historia boiemica』(1575年)で、後者はアエネアス・シルウィウスの『De Bohemorum et ex his imperatorum aliqvot origine ac gestis historia』(1575)の紙を使って綴じられていた。
3冊目は、1604年のゲオルグ・マヨーアによる『Vita Patrum Das ist: Das Leben der Altvater, Zu nutz Den Predigern Gottliches Worts" by Georg Maior』だという。
見つかった書物の一冊に綴じられていた本の中身。16世紀のもの。
image credit:Southern Denmark University
ヒ素入りの塗料はパリスグリーン
ヒ素入りの塗料は、パリスグリーン(花緑青)と呼ばれる人工顔料で、酢酸銅と亜ヒ酸銅(II)の複塩である。様々な緑色を出せることから、19世紀には絵の具や建築用塗料として利用されていたいたが、ヒ素に由来する強い毒性があることがわかり、殺鼠剤、殺虫剤、農薬としても盛んに用いられたという。
羊皮紙にパリスグリーンが使用されていたのは、書物を虫やネズミなどから守るためだったと思われる。
塗料、パリスグリーン image credit:wikipedia
ヒ素は生物に対する強い毒性があることで知られている。飲み込んだ際の急性症状は、消化管の刺激によって、吐き気、嘔吐、下痢、激しい腹痛などがみられ、場合によってショック状態から死に至る。
疾病管理センター(CDC)によると、ヒ素が水素と接触することでアルシンが発生するという。アルシンは無色の気体で極めて毒性が強く、血球を破裂させ、腎不全を引き起こして死に至らせる危険性があるという。
University Discovers Three Poisonous Books in Its Library
現在は安全な場所に保管
現在図書館では、この毒の書物を別々にダンボール箱に入れて、安全ラベルを貼って通気性のいいキャビネットに保管しているという。
今回はたまたま発見されたものの、古い書物や絵画には同様な危険性があることがわかる。
古い本を扱う司書や閲覧者には防護手袋をするよう呼びかけ、グリーンに塗られた部分がある古書は、乾燥した暗所に保管して、本のまわりの空気を吸い込まないよう警告すべきだろう。
ヒ素は適切な湿度と光の条件がそろえば、アルシン(砒化水素 AsH3)という猛毒の気体に変化する場合がある。空気を通して毒素が伝達される可能性は否定できない。また、ヒ素の毒性には発がん性があるからだ。
References:foxnews / popsci / theconversation/ written by konohazuku / edited by parumo
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コメント
1. 匿名処理班
薔薇の名前かっ!?
2. 匿名処理班
禁断の書のブービートラップかと思ったら本を守る為だったのか。
3. 匿名処理班
かっこいい(小並感)
4. 匿名処理班
薔薇の名前
5. 匿名処理班
ひそやかに存在する。
6. 匿名処理班
「つばつけてめくるヤツがいるからね まったく!」
7. 匿名処理班
ページの端っこにヒ素を塗って毒殺を図るのは「王妃マルゴ」だっけ?
8. 匿名処理班
ひゃー、映画「薔薇の名前」思い出しちゃった。
9. 匿名処理班
オレがベッドの下に隠してるお宝本にも警告文を書いとこうかな
10. 匿名処理班
前にこの塗料で染められたドレスとかも見た。多分このサイトで。
11. 匿名処理班
僕ちゃん悪い子ビシバシ
12. 匿名処理班
焚書対策なのかな…。
適切な扱い方を知っている人間以外が触ると、死に至らしめるとか。
13. 匿名処理班
キュリー夫人の研究ノートも死の書物だぞ♡
彼女の場合ほとんどの遺品がそうだけど
14. 匿名処理班
ネクロノミコンは読まなきゃ平気だけど
これは触っただけで
15. 匿名処理班
ヒ素は精神障害の原因にもなるんだっけ?
SAN値を物理的に削りに来る魔導書とは恐ろしい
16. 匿名処理班
どういう内容だったの?
毒殺してまで隠したい事が書いてあったの?
17. 匿名処理班
日野日出志のマンガにそんなのあったような…。
18. 匿名処理班
ある意味デスノート
19. 匿名処理班
図書館で借りた推理小説には毒がしみこんでいる感じがした
20. 匿名処理班
これぞホントの呪いの書。
しかし、本に綴じられていた中身を触ってるの、素手だよね? 大丈夫なのかな?
表紙全体にベッタリ塗られてるのかと思いきや、一部だけかいな。塗ってない箇所は齧られる心配ないのかな?
21. 匿名処理班
※19
カエルに触るなよ
22. 匿名処理班
保存用か。昔のヲタはレベルたけーな
23. 匿名処理班
デスバイブルか
24. 匿名処理班
※7
わたなべまさこの金瓶梅も追加で
25. 匿名処理班
通気性のいいキャビネットに入れて大丈夫なんだ…
26. 匿名処理班
わかってるうちはいいけど、忘れられた後だとトラップも同然だねこれ
27. 匿名処理班
※19
あと灰色のカエルもですね
28. 匿名処理班
健康を悪くする程度だろ?