読んでるから続きはよ

潤滑油の母「とはいえあんたみたいなダメ油、雇ってくれるとこなんてあるかしらねえ」

潤滑油「大丈夫、なんたって俺は天下の潤滑油だぜ？」

潤滑油「きっとどこの会社だって欲しがってる。引く手あまたさ」

潤滑油「すぐに一流企業に就職してやるよ」

潤滑油の母「そううまくいけばいいんだけどねえ……」

一流企業の採用面接――

面接官「それでは集団面接を行います」

就活生A「はいっ！」

就活生B「はいっ！」

就活生C「はいっ！」

潤滑油「はいっ！」ﾇﾒｯ

潤滑油（人間どもに混じって就職活動……ま、楽勝だろ！）

潤滑油（なんたって俺は潤滑油！　存在そのものが個性の塊だからな！）

面接官「では、自己PRをお願いします」

就活生A「私は潤滑油のような人間です」

就活生B「物にたとえると、私は潤滑油といえます」

就活生C「お前がサークルの潤滑油だ、と褒められたことがあります」

潤滑油（……え！？）

これには潤滑油も苦笑い

おー

全員不採用

面接官「潤滑油さん、自己PRをどうぞ」

潤滑油「は……はい」

潤滑油「あの、私は潤滑油で……」

面接官「他の三人と同じことをいうとは。お話になりませんな。もう結構です」

潤滑油「そ、そんな……！」

潤滑油（俺は正真正銘、本物の潤滑油なのにィ！）

面接官「弊社に入ったら、どのような仕事をしたいですか？」

就活生A「御社の潤滑油となりたいです」

就活生B「顧客との関係を円滑にする潤滑油のような業務に携わりたいです」

就活生C「潤滑油の、潤滑油による、潤滑油のための仕事」

潤滑油（なんだこいつら……！）

潤滑油（人間のくせに潤滑油潤滑油連呼しやがって！）

潤滑油（俺の影が薄くなっちゃうじゃんかよぉ！）

……

潤滑油（やっぱりダメだった……お祈りメールが来た）

潤滑油（いや、運が悪かっただけだ！）

潤滑油（あんな連中と集団面接になったら、自己PRなんてできっこないもん！）

潤滑油（次の会社こそ、きっと……！）

しかし、その後も――

就活生D「御社の潤滑油となれるよう努めます」

就活生E「スーツを着た潤滑油と呼ばれるようになりたいです」

就活生F「潤滑油のためなら死ねる」



潤滑油（なんだこいつら……どんだけ潤滑油が好きなんだよぉ……）

潤滑油「ダメだぁ……50社以上受けて、全滅……」ﾇﾒｪ…

オリーブオイル「ヤッホー」ﾄﾛｯ

潤滑油「オ、オリーブ！」

オリーブオイル「おばさんに聞いたけど就活してるんだって？　調子はどう？」

潤滑油「全然ダメだよ……」

潤滑油「潤滑油であることをアピールしても、なんの個性にもならないんだもの」

オリーブオイル「そりゃそうよ」

潤滑油「え？」

オリーブオイルw

オリーブオイル「今、就活生の間では自分を潤滑油にたとえるのがブームらしいの」

潤滑油「なんだってぇ！？」

オリーブオイル「だから、潤滑油のあんたが人間と競って就職活動したら、埋もれちゃうだけよ」

潤滑油「潤滑油ブーム……そういうことだったのか」

潤滑油「仕方ない……だったら純粋に“道具としての潤滑油”として、就活するしかないか」

オリーブオイル「ファイト！　応援してる！」

潤滑油「ありがとう」ﾇﾒｯ

工場――

工場長「ほぉ～、潤滑油ねえ」

潤滑油「はい、どんなものでも潤滑してみせます！」

工場長「ちょうど機械のあちこちにガタがきてたとこだったんだ」

工場長「とりあえずテストとして、このでかい工作機械を潤滑してもらおうか？」

潤滑油「お安いご用です！」

潤滑油「よぉし……」ﾇﾒﾇﾒ

ｷﾞｼｷﾞｼ…

潤滑油「あれ？」ﾇﾒﾇﾒ

ｷﾞｼｷﾞｼｷﾞｼ…

潤滑油（おかしいな……全然潤滑できない！）

工場長「なんでえ、ダメじゃねえか！」

潤滑油「こんなはずじゃ……」ﾇﾒﾇﾒ

工場長「悪いが、兄ちゃんを採用するわけにはいかねえなァ。よそ行ってくれや」

潤滑油「は、はい……」


潤滑油の母『人間が働かなきゃダメになるように、油も働かなきゃダメになるのよ！』


潤滑油（そうか、長年のニート生活ですっかり俺はダメになってたのか……）

潤滑油（だとしたらもうこの俺に、行く場所なんかないじゃねえか……！）

潤滑油（潤滑すらできない潤滑油なんて……！）

ありゃりゃ

……

オリーブオイル「こんにちは、おばさん！」ﾄﾛｯ

潤滑油の母「オリーブちゃん……」

オリーブオイル「潤滑油はどうしてます？」

潤滑油の油「それが、就職活動ですっかり自信を失って、引きこもっちゃって……」

オリーブオイル「え……？」

潤滑油の油「あまりに痛々しいから、話しかけることもできないのよ……」

オリーブオイル「……」

オリーブオイル「おばさん……潤滑油に会わせて下さい！」

オリーブオイル「潤滑油！」ﾄﾛｯ

潤滑油「オリーブか……なんだよ？」ﾇﾒｪ…

オリーブオイル「私がテレビの料理番組に出ることになったって話は知ってるでしょ？」

潤滑油「ああ」

オリーブオイル「その時、調理に使う機械を潤滑して欲しいんだけど……あんたに頼めない？」

潤滑油「……」

潤滑油（今の俺に、どうせ潤滑なんてできっこない）

潤滑油（ここで大失敗して、自分に見切りをつけるのもいいかもな……）

潤滑油「やるよ……やらせてくれ」

オリーブオイル「引き受けてくれてありがと！」

はよ

いい子や…

テレビ局――

スタッフ「では、番組が始まるまでこちらでお待ち下さい」

オリーブオイル「はい！」

潤滑油「分かりました……」

潤滑油「ふぅ……」

オリーブオイル（大丈夫……今日使う機械はそこまで複雑じゃないから、今の潤滑油でも潤滑できるはず！）

料理人「やぁ！」

オリーブオイル「おはようございます！」

潤滑油「……おはようございます」

料理人「君たちが今日ぼくの料理を手伝ってくれる油かい？　よろしく頼むよ」

オリーブオイル「はいっ！」

潤滑油「……」

潤滑油（なんかチャラチャラしてて、いけ好かない人間だな……）

料理人「ぼくのことはもちろん、知ってるよね？」

オリーブオイル「はい、若手ではナンバーワンといわれてる料理人だとか」

料理人「おっと、若手では……は余計だよ。全世代でナンバーワンなんだ、ぼくは」

オリーブオイル「すみませ～ん」

料理人「だけどいくら腕がよくても材料がダメだといい料理はできない。しっかり頼むよ！」

オリーブオイル「もちろんです！」

みてるよ

うん

料理人「ところで……」ｸﾝｸﾝ

オリーブオイル「？」

料理人「君、おいしそうな匂いしてるねえ」

オリーブオイル「え？」

料理人「ぼくの舌が……今すぐ君を舐めたいと暴れ出してるよ！」ﾍﾞﾛﾍﾞﾛﾍﾞﾛ

オリーブオイル「ひっ！」

料理人「いいだろ？　ちょっとぐらい」ｶﾞﾊﾞｯ

オリーブオイル「やめて下さい！　ちゃんと料理の時に使って下さい！」

料理人「油のくせに、料理人に逆らうのか！？」

オリーブオイル「ううっ……」

料理人「ええい、かまわねえ！　今なめちまえ！」





潤滑油「やめろっ！！！」ﾇﾒﾘｯ

料理人「ううん？」

潤滑油「……オリーブに手を出すな！」ﾇﾒｯ

オリーブオイル「潤滑油……」

料理人「勇ましいことだが、料理の材料ですらない潤滑油に何ができる？」

潤滑油「滑らせてやる！」ﾇﾒﾇﾒｯ

料理人「おっとぉ！」ｻｯ

潤滑油「！」

料理人「こちとら油にゃ慣れてる！　お前みたいなギトギトした油なんかで滑らねえよ！」

料理人「そうだ……お前の目の前でオリーブオイルを舐めてやるよぉ！」ﾍﾞﾛﾍﾞﾛﾍﾞﾛ

オリーブオイル「いやぁぁぁぁぁっ！！！」



潤滑油「オリーブゥゥゥゥゥ！！！」

潤滑油「やめろおおおおおおおおおっ！！！」ﾇﾒﾘｯ

もこみち最低だな

潤滑油「オリーブからはなれろォ！」

料理人「だから、お前じゃ滑らねえって――」

潤滑油「うおおおおおおおおおっ！！！」ﾇﾒﾘｰﾝｯ

料理人「うおっ！？　なんて潤滑しやがる！　まるで摩擦がなくなったかのよう……！」ﾂﾙﾂﾙｯ

料理人「うわぁぁぁぁぁっ！」



ﾂﾙﾂﾙｯ　ｽｯﾃｰﾝｯ

潤滑油「大丈夫か？」

オリーブオイル「うん、ありがとう……すごい潤滑だったね。見直しちゃった」

潤滑油「ああ、だけど……あの料理人をやっつけちゃったな。どうしよう……」


プロデューサー「……」


オリーブオイル「あっ！　番組のプロデューサーだわ！」

潤滑油「す、すみません！　これにはわけが！」

プロデューサー「潤滑油君、今のとてもよかったよ！」

潤滑油「え？」

プロデューサー「熱くてよくヌメる潤滑油……これは絶対テレビ映えする！」

プロデューサー「よかったら私と組んで、タレントとして活動してみないか！」

プロデューサー「もちろん、オリーブオイルちゃんも一緒に！」

潤滑油「は、はい……」

オリーブオイル「でも、料理人さんの件は――」

プロデューサー「ああ、彼は女癖や調味料癖が悪くて、さまざまなイベントでトラブルを起こしてたからね」

プロデューサー「こっちとしても扱いに困ってたから、よくやってくれたよ」

オリーブオイル「それならいいですけど……」ﾎｯ

潤滑油「よぉし、オリーブ、一緒にテレビデビューしよう！」ﾇﾙｯ

オリーブオイル「うん！」ﾄﾛｯ

……

潤滑油（こうして俺はタレントとなり、瞬く間に売れっ子になった）

潤滑油（今日も番組に出演し、日本中を潤滑させている）



芸人「就職活動苦労したんやって？」

潤滑油「ええ、潤滑能力をすっかり失ってまして……」

オリーブオイル「大変だったんですよ、本当に」

潤滑油「潤滑できない潤滑油なんて、笑いの取れない芸人さんみたいなもんですよ」

芸人「ハハ、うまいこといいおる」

潤滑油「あ、いや、芸人さんはいつも滑ってて羨ましいです」

芸人「やかましいわ！」

どっ！！！

潤滑油「ふぅ、今日のスケジュールはこれで終わりか」ﾇﾙｯ

オリーブオイル「お疲れ様！」ﾄﾛｯ

オリーブオイル「今日も客席とお茶の間をいっぱい潤滑したね！」

潤滑油「ああ、だけど――」

オリーブオイル「？」

潤滑油「俺、そろそろ、お前のことも潤滑したいと思ってるんだ」

オリーブオイル「え、それってまさか……」

潤滑油「オリーブ、結婚しよう」

オリーブオイル「……喜んで！」





おわり

( ；∀；)ｲｲﾊﾅｼﾀﾞﾅｰ

おめでとう

乙
結婚式では二人で天ぷら揚げそう