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複数の言語を理解し話すことができる。子供を「マルチリンガル」に育てる方法 : カラパイア

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 親が子供をいろいろな国の言葉を話せるように育てたいと願う理由はさまざまだろう。キャリアのチャンスを広げるためかもしれない。認知や知性にいい影響があるからかもしれない。

 単純に親が、自分がそうなりたかったからと願っていた思いを子に託したいのかもしれない。

 だがどうすればそのように我が子を育てられるだろうか?

 そうするために最適な教育法はどのようなものだろうか? そして”普通”と違う子供を育てる家族には付き物の困難にどのように立ち向かえばいいだろうか?
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主流となっている一人一言語の原則だが


 基本的に2ヶ国語を話せることをバイリンガル、3ヶ国語以上を話せることをマルチリンガルと言う。

 言語習得とマルチリンガリズムを専門とするドイツ・エアフルト大学のアニック・デ・ハウウェル教授は、”バイリンガル”を2ヶ国語以上が分かる人を指すために使う。

 バイリンガルの子供を育てたい家庭向けのほとんどの書籍や記事は、子供に言葉を教える最適な方法は一人一言語の原則(one-person, one-language/OPOL)だと主張する。

 これは親の片方が1つの言語(多数派言語であることが多い)を話し、もう片方が少数派言語を話すというものだ。

 だがいくつもの理由のために、これは理想的ではない。

 デ・ハウウェルがベルギー、フランドル地域で暮らすバイリンガルの子供の膨大なサンプルを分析したところ、両言語を話すようになった子供は一部のみであることが明らかとなった。

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家庭で使う言語と学校で使う言語が違うと効果的


 成功率が特に高かったのは、両親が家庭で話す言語と違う言語が学校で話されている場合だ。

 さらに両親が2ヶ国語以上話せたとしても、子供は家庭で親が主に使っている1つの言語しか習得しないことも分かった。

 子供に話しかける時間と言語の習得に相関関係があることを考えれば、頷ける話だ。しかし、そのために必要な具体的な時間は不明だ。

 一説によれば、子供が流暢に話せるようになるには、起きている間の3割以上の時間1つの言葉を聞く必要があるという。だがこれを裏付ける科学的な証拠はない。

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マルチリンガルが虐げられていた歴史


 20世紀前半、マルチリンガルは好しからぬ言葉だった。

 2つ以上の言語を話すことは知能や認知機能の低さと関連づけられた。この悪評は間違っているが、今でも広く浸透している。

 無数の家庭が子供に母国語を話さないよう要請されてきた。それは余計な言葉を話すことで子供が混乱するばかりか、移民である子供が馴染む妨げになると懸念されるからだ。

 こうした懸念は事実無根で、肌の色・文化・宗教といった差異に対する嫌悪感に根ざしたものだとデ・ハウウェルは言う。

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国家による言語差別


 言葉が持つ地位も多言語習得の成功に影響を与える。

 ヨーロッパでは、英語・ドイツ語・フランス語といった言語は権威があり認められてきたが、ロシア語やポーランド語といった東欧諸国の言語、あるいはアラビア語やトルコ語といった中東の言語は胡散臭く見られてきた。

 デ・ハウウェルは、こうした考えは子供が母国語を学習するモチベーションを損なう結果につながると警鐘を鳴らす。

 自分の話す言葉が受け入れられないと、子供は自分自身まで受け入れられていないと感じる恐れがある。さらに、言語に対する差別は児童の権利に関する条約の30条に違反する。親には子供を言葉と文化が尊重される学校に通学させる権利がある。


バイリンガル教育の流行


 カナダ、ヨーク大学のエレン・ビャリストクらの仕事のおかげで、バイリンガル教育は流行らしきものとなった。

 アメリカではバイリンガルスクールやイマージョンスクール(マイノリティがそれぞれの母国語を維持できるよう配慮されている)が、子供に多言語を話す力を授ける機会と捉えた白人中流家庭に人気だ。この動きは賞賛すべきものである一方、その学校が作られた目的である本来支援を受けるべき層が押し出される恐れもある。
 
 中流階級の家庭はまた米ペンシルバニア大学の社会学者アネット・ラローがいう「協調した育成(concerted cultivation)」なるものを行う可能性が高い。

 つまり子供が成功する可能性を最大限まで高めるために、親が子供のスキルや能力の育成を積極的に行うアプローチのことだ。

 しかしこうした家庭の子供たちは過密なスケジュールをこなさねばならず、疲れたり遊ぶ時間がなかったりといったことが起きる。

 ただの子供なのだ。だが今、マルチリンガルに育てることは教育熱心な親たちのトレンドの1つとなっている。

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マルチリンガル教育の弊害


 今日の親の中には、子供のマルチリンガル教育を栄養・躾・通学に対するアプローチと同じやり方で行う人たちもいる。

 唯一の成功の道は親のニーズ一切を犠牲に捧げるしかないゼロサムゲームだ。こうしたやり方は必要不可欠であるわけでもないし、有害にすらなりうる。

 研究からは、両親(特に母親)が詰め込み教育を信条としている場合、うつを発症する確率が高まることが示されている。

 さらに襲いかかってくるのが、「より多く、より早いほうがいい」という考えだ。デ・ハウウェルは、子供が外国語の学習を始める最適な年齢は12歳を過ぎた頃だと言っている。

 現在ヨーロッパ諸国で流行りとなっているそれよりも早い年齢で英語を教えるやり方は、良好な結果を出していないのだという。

 あまりに早い段階で言語教育を始めてしまうと、(特に自宅で親の片方から言語を学んでいる場合)子供が学習意欲を失ってしまう恐れがあるのだそうだ。
 

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言語より先に情操教育を


 子供のマルチリンガル教育に関して手に入る情報の多さは圧倒されるほどだ。結果、親は不安で神経質になり、自分たちや教育方針について自信を持てなくなってくる。

 多言語を操る子供を育てることは大変なことだが、肩の力を抜いてみよう。じつのところ、その目標はそれほど特殊なことですらないのだ。

 推計によると、世界人口の半数はおそらくすでに2ヶ国語以上を話している。さらにその多くが方言まで話すことができる。

 一方、言語学習という行為には心へのメリットがある。米サウスフロリダ大学の言語学者エイミー・トンプソン(Amy Thompson)が発見したその最大のメリットは、文化的能力(さまざまな振る舞いやコミュニケーション方法についての理解)と不明確さへの耐性(新しい状況にアプローチする方法)という2つの非常に重要なスキルを身につけられるために、人としての懐が深くなることだった。

 したがって多国語から学べる最大のレッスンは、その構造ではなく、その方法や、さらには理由といったことだ。

 これは構造を知ることよりもはるかに大きなことだ。

 子供をマルチリンガルに育てるとは、オープンマインド、寛容性、グローバルな視点を育てるということだ。そしてもしこれが正しいのならば、親は困難を克服しその道へ導くべきだ。

References:neatorama / theweek/ written by hiroching / edited by parumo
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コメント

1

1. 匿名処理班

  • 2018年08月18日 16:46
  • ID:TJdfsfjr0 #

その人の中に「母語」ができあがる前にバイリンガルにしようとすると明確な母語がなくどの言語も中途半端にしか使えないセミリンガルになる危険性が高まるって聞くよね。

2

2. 匿名処理班

  • 2018年08月18日 16:53
  • ID:HSYSQbu00 #

ヨーロッパで生み育てる

3

3. 匿名処理班

  • 2018年08月18日 17:15
  • ID:oWbRdIk.0 #

マルチリンガル化で母国語をリムーブするよ

二世まではバウリンガル、マルチリンガルである家庭が多いけど3世になるとその土地の言葉しか喋れなくてルーツのなる言語、言葉はちんぷんかんぷんらしいね

4

4. 匿名処理班

  • 2018年08月18日 17:34
  • ID:pPtwSxUo0 #

12歳以上が有効ってのは、小学生で英語を始めるのは無意味ってことかな。
これによると、日本人家庭でバイリンガルになりたいなら、インターナショナルスクールとかに通わせるってことしかなさそうだけど、そうなると日本語教育ができないから中途半端だよね。親が両方外国人で、日本の学校に通う場合はオッケーってことかな。

5

5. 匿名処理班

  • 2018年08月18日 17:37
  • ID:WCoUe.E.0 #

12歳からバイリンガルは無理やろ
日本語と韓国語とか、英語とドイツ語とか近い言語なら平気だろうけど

6

6. 匿名処理班

  • 2018年08月18日 17:39
  • ID:m6NDXxrI0 #

ヨーロッパ人で六ヶ国語を話す人間は何?

7

7. 匿名処理班

  • 2018年08月18日 17:42
  • ID:mdfhMvns0 #

ドラえもんの翻訳コンニャクにあこがれた
純粋な子供たちは、大人になると自分の今までの
必死の努力や職業が機械に奪われる恐怖から
ドラえもんの秘密道具をボロカス否定するようになる。
自動運転と翻訳コンニャクは技術進歩のニュースに
マジギレするドラえもん愛読者が非常に多いアイテム。

8

8. 匿名処理班

  • 2018年08月18日 17:43
  • ID:pWenWRYU0 #

※3
バウリンガルは犬語翻訳機や

9

9. 匿名処理班

  • 2018年08月18日 17:47
  • ID:YAivOClu0 #

適切にやらないと人格がゆがむだけ

10

10. 匿名処理班

  • 2018年08月18日 17:48
  • ID:NRsnQw1n0 #

マルチリンガルはうまくいくケースが少ない
言語障害レベルのセミリンガルになってしまった人の話を聞くと、とてもじゃないが子供に強いていい事じゃないと思う

11

11. 匿名処理班

  • 2018年08月18日 17:51
  • ID:Pweltj.A0 #

二本だと意識高い人がマルチリンガルを作ろうとしてるけど、実際は食うのに精いっぱいな移民の人たちのお子さんがバイリンガルになってるよね。
英語の話せる人ってのもやはり思春期以降に海外に憧れが強くて勉強した人が多い。
幼少期に英語に触れたらLとRの違いやthの発音ができるようになるかもしれないけど

12

12. 匿名処理班

  • 2018年08月18日 18:05
  • ID:fPHJOI4c0 #

アグネス・チャンが中英日しゃべるようになったら、結局どれも中途半端になったと言ってたような

13

13. 匿名処理班

  • 2018年08月18日 18:15
  • ID:m0j4Epdj0 #

世界中に通訳が溢れかえって、通訳の失業者続出かも? てか、通訳という職業が無くなるかも?

14

14. 匿名処理班

  • 2018年08月18日 18:33
  • ID:2wZerW6k0 #

そうか、日本だとバイリンガルって
最初から帰国子女や英才教育みたいな
セレブ的なイメージで持て囃されていたけど、
低層移民の母国語教育って大事な論点だよなぁ…。

というか、日本でも、日本語の方言の差って
ヨーロッパなら別言語扱いになるぐらい異なる地域もあるのに、
固有言語として意識されないまま学校やテレビの標準語
若年層の都会への移住などで、
もう昔ほど豊富なバリエーションはだいぶ消えたよね。
うちの祖母は、普通に喋っていても
なんか半ば歌っているような独特なイントネーションだったが、
私らの世代が話す方言はもうそんな感じじゃない。

15

15. 匿名処理班

  • 2018年08月18日 18:45
  • ID:OroXhZ450 #

これ、数年間海外に住んでいたことがあるっていう家族と話したことがある。
子供は現地の子供と遊ぶ中で当たり前に外国語覚えるらしい。
でも日本に帰って1年もすると、すっかり忘れてるんだって。
実際俺らも幼稚園や小学校低学年のことなんて、まともに覚えてないよね。

16

16. 匿名処理班

  • 2018年08月18日 18:45
  • ID:m6NDXxrI0 #

※11
RとLの発音の違いなら分かる。12歳の時に英語の発音を習ったから。

17

17. 匿名処理班

  • 2018年08月18日 18:57
  • ID:sXUj.Ed50 #

自分はバイリンガルというとアンルイスを思い出す。
彼女は日英語をつかえるが、日本語の方が得意なんだそうだ。
あの変な日本語が一番得意な言語って泣けるじゃないか。
言語の習得は元々の才能=地頭が並み以上じゃないと
大量のアンルイスを作り出すだけだとおもってる。

18

18. 匿名処理班

  • 2018年08月18日 19:01
  • ID:V5zEgoyJ0 #

※3
バウリンガル懐かしいな〜

19

19. 匿名処理班

  • 2018年08月18日 19:24
  • ID:.H51BTHB0 #

ここの記事ってものすごい自分にとって、タイムリーなことが多いから心でも読まれてそうな気がする

20

20. 匿名処理班

  • 2018年08月18日 19:32
  • ID:S4.1r2VG0 #

セミリンガルという失敗はもっとクローズアップされるべき。
バイリンガルを目指してセミリンガルになることはけっこう多いらしいので。

21

21. 匿名処理班

  • 2018年08月18日 20:06
  • ID:dYDj9uYh0 #

手っ取り早くやろうとすれば国際結婚するか海外に移住かの二択になるわけか

22

22. 匿名処理班

  • 2018年08月18日 20:08
  • ID:1OUQAORn0 #

日本人なら先ずは日本語
言葉の意味深みを知ってからなら良いかな

23

23. 匿名処理班

  • 2018年08月18日 20:25
  • ID:dRhD84tF0 #

通訳してる人曰く、まず母国語を100%覚えさせる、だそうな。
でないとどっちも半端になるからだそうで、その人は遠い異国で毎日日本語だけ勉強させられたとのこと。

24

24. 匿名処理班

  • 2018年08月18日 20:29
  • ID:sHHL1PRc0 #

日本の場合、まずは英語の習得方法を変えないと
学校の勉強として成績を競うやり方は
言語の習得につながってないのは明らかなのに
いつまでも変えようとしないのは文部省の怠慢なのでは

25

25. 匿名処理班

  • 2018年08月18日 20:53
  • ID:aDH9onov0 #

これは日本国内でも言える
津軽弁を話せる人が、大阪弁や博多弁を話せるだろうか
もっとも東京弁ならたいてい分かる
さらには琉球、アイヌ、となってくると、頭痛くなる
でもテレビ見ている限り聞きかじり程度ならある程度できるようになるし、昔から漫画なら方言を使って面白く分かりやすい表現をしつつ、楽しませてくれる漫画も多かった

26

26. 匿名処理班

  • 2018年08月18日 20:59
  • ID:UPI.Dhw40 #

幼児教育に必死すぎるお母さんが、まだ日本語も片言の乳児に英会話の知育玩具を与えているのを見ると、あとでへんなことになりそうで不安。
僕らの世代で言うと、使い物にならない受験英語のS+V+O式の詰め込み教育で英語嫌いを大量生産したトラウマしかない。

27

27. 匿名処理班

  • 2018年08月18日 21:06
  • ID:8aW9HukW0 #

※1
それ真面目に深刻だと思う
「てにをは」を正確に使えない中学生が増えてるってニュースで聞いた
子供のうちにキチンと習得すべきなのはやっぱり母国語じゃないかと思う
基本が安定して使いこなせてこそ、色んな知識の吸収や論理的な思考の育成が可能なんじゃなかろうかと

28

28. 匿名処理班

  • 2018年08月18日 21:14
  • ID:M7dlP4VH0 #

ネイティブスピーカーでもないのに、日本人が英語で子供を育てたら、
子供は英語も日本語もうまく使えなくなったという話があったね。

子供が覚えるのは両親の母語と、その国で使われる言語だけ。
日本人の子供に英語を覚えさせたいなら、本人が興味を持って勉強し始めるのを待つしかない。

29

29. 匿名処理班

  • 2018年08月18日 21:23
  • ID:hjggR0860 #

将来海外で仕事とか生活する予定が無いなら、英語喋れる必要なしと林先生は言ってたな
その前に日本語しっかり勉強しろと

30

30.

  • 2018年08月18日 21:53
  • ID:yInQsNQo0 #
31

31. 匿名処理班

  • 2018年08月18日 22:38
  • ID:ePb61ivj0 #

複数の言語を操れるようになるかどうかはわからない、でも、ちょっと面白い視点を持った、魅力ある子供を育てる方法なら知ってる・・・。
テレビを捨てるんだよ。

32

32. 匿名処理班

  • 2018年08月18日 23:23
  • ID:Sa.btHrM0 #

セミリンガルというのは英語圏の専門家はまず使わない言葉で、日本でのみマルチリンガリズムを批判する際によく聞く言葉なので、これが入っていたらその話はまず眉にツバを付けて聞いたほうが良いです。

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