【昭和の怪奇事件】お弁当の盗み食いから「バリケード封鎖」へ？高校生篭城事件！

2018年09月01日：22:00

8月15日、漫画家・エッセイストのさくらももこさんが亡くなった。53歳だった。
さくらさんと言えば、自身の幼少期を描いた『ちびまる子ちゃん』にて、昭和時代の活発な小学生の姿を多く描き残したが、実は昭和時代には、まるで漫画のような学生による珍事件が発生しているのだ……。

事件は無人の教室ではじまった…

これは1974年10月６日の毎日新聞に掲載された記事である。
「弁当〝盗みぐい〟事件から　バリケード封鎖騒ぎ」という強烈な見出しとともに机や椅子が廊下に高く積み上がっている。
これは東京都某区の某高校にて在校生によるデモでバリケード封鎖が発生。その瞬間を抑えた写真であるという。気になるのは見出しにある「弁当盗みぐい事件」だが、いったい学生たちに何があったのだろうか……。

記事によると、1974年（昭和49年）9月30日、昼休み前、４時間目の授業の際、3年生のA君が授業を抜け出し、化学の実験で無人だった隣のクラスへ侵入しB君の弁当を無断で食べてしまった。A君は昼休み前に教室から逃げ出したが、B君の弁当を盗み食いしたことは、別の生徒が目撃しており、これを聞いたB君の親友であるC君が激怒。A君を殴りつける事件が発生した。

A君もC君を殴り返すなど応戦したが、途中通りかかった教諭が仲裁に入り、二人を引き離した。
A君は「B君の弁当を食べて悪かった」と反省し、C君も「こちらも殴って悪かった」と仲直りをし、彼らの主任教諭も反省する姿を見て、A君の盗み食いおよび彼らの喧嘩は「なかったこと」として見逃すことにした。
ところが、このやり取りから2日後の10月2日。「弁当盗み食い事件」は思わぬ展開を迎えることとなる……。

怒りのクラスメート

10月2日、毎月行われる職員会議でこの「弁当事件」が表面化。「校内での暴力行為など言語道断！」と議題に挙がり、会議の結果、A君を殴ったC君、そして弁当を盗み食いしたA君の両名はその場で10月3日から5日までの「自宅謹慎」と処すことにした。

しかし、この処分に納得できなかったのが、C君のクラスメイトや友人達。
彼らは「仲直りしているのになぜ処分したんだ！」「C君は自分の正義感で動いたんだ！処分を取り消して謝罪しろ！」と校長に面会を求めたのだ。
しかし、校長は彼らを面会謝絶にし無視したため、生徒達の怒りのボルテージはマックスに。彼らは夜の学校に立てこもり、処分を撤回するまで学校に籠城する作戦をとることにした。

籠城決行の日

暴徒と化した学生の動きは早かった。A君・C君の処分が決まった10月3日の深夜には７女学生を含む約60名の生徒が校庭に集結。そのまま学校へなだれ込み、職員室、教務室、研究室へまたがる廊下へ机や椅子を積み上げ、バリケード封鎖してしまった。

そして、朝になって全校生徒が集まってくる頃には誰も学校に入れなくなっており、正面入口には「学校側は両君の処分を撤回し自己批判せよ！！」という立て看板が立てられ、ガリ版によって印刷された「本日の授業はありません！すぐに校庭に集まりましょう！」なる内容のビラが配られる騒ぎとなった。

補足すると、事件が発生した1974年は日本赤軍や中核派をはじめとする過激派学生運動がだいぶ下火になったといえ、まだ全国で活動していた時期であり、その反骨精神は若い高校生にも波及しており、今回の騒動に繋がったのだと思われる。

事件の終幕

結果から言うと、このバリケード封鎖は10月4日～10月8日までの計5日間行われた。
その間、籠城した生徒と教師は徹底的な話し合いおよび睨み合いが続いていたが、そもそもA君C君の謹慎が3日という短期間であったうえ、学生側も徐々に体力が無くなってきたことから、教師側は封鎖中の生徒に対し「生徒総会で話し合おう」と持ちかけ、生徒側も要求を吞むことにした。これをもってバリケード封鎖は一時解除されることになり、翌日から授業は無事に再開された。

そして、10月12日には予定通り生徒総会が行われたものの、「どんな理由があろうと暴力行為はよくない」と封鎖した側の生徒の要求は否決されてしまい、最終的に学校側の処分が正しいと認められてしまった。
籠城作戦に参加した生徒はもちろん一定の処分が下されると思われたが、本事件が新聞で報じられた以上は教師側も責任を取る必要があるのではとの声もあり、本件に関してはこれ以上の責任を追求しないことで一応の終着となった。

ごく身近な「弁当盗み食い」から「バリケード封鎖」にまで発生した本事件。
文字だけみると、なんとも言えない可笑しみを感じる事件ではあるが、ひとりの学生の正義感が学校全体を動かした、と考えるとなかなかに感動かつ印象的な事件であった。

参照：毎日新聞縮刷版

文：穂積昭雪（昭和ロマンライター / 山口敏太郎タートルカンパニー / Atlas編集部）